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191【エピローグ①】

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 未来のお姑さん、谷田部志保子さんはとても素敵なおば様だった。
 世界に羽ばたく大企業グループの社長夫人。漠然と抱いていた大輪の深紅の薔薇のような気高く近寄りがたいイメージは、いい意味で大きく裏切られた。

 あれは、大輪は大輪でも、大きな向日葵だ。それも特大のサンフラワー。笑顔が朗らかな、美人ではあるけれど気取ったところがない気さくな女性ひとで、水族館の一度の邂逅で、私たちはすっかり意気投合した。

 しゃんと背筋を伸ばして、まっすぐに目を見て人と話をするところが、東悟が言った通りなんとなく田舎の母に似ている気がして、よりいっそう親近感がわいてしまった。

 東悟からの事前情報によると、元々いい所のお嬢様だけど普通に銀行員をしていた人で、銀行に客として来ていた若かりし頃の総次郎さんと出会い、恋愛結婚したのだとか。

 実は、水族館へ行った一週間後。志保子さんに東京の自宅でのディナーに招待された私は、東悟とともに緊張の極致で谷田部邸を訪れた。

 東悟のお義父さん、谷田部総次郎氏との初めての顔合わせ。
 どんな強面の人だろうかと身構えていたら、課長にそっくりなステキなロマンスグレーのおじ様が現れて、驚くやらドギマギするやら。

 その上、まず第一声「先日は、不肖の甥がご迷惑をおかけして、大変申し訳なかった」といって頭を下げられてしまい、恐縮するばかり。

 誰だ、谷田部総次郎さんが、頑固で怖い人って言ったのは?

 それこそ私の勝手な思い込みで、総次郎さんは孫の真理ちゃんにはでろ甘の、とってもやさしいおじいちゃんだった。

 私たちの結婚についても「好きあう者同士が一緒になるのが一番だ」といって、少しだけさみし気な笑みを浮かべた。もしかしたら、あのとき総次郎さんは、亡き愛娘・真里香さんのことを思い出していたのかもしれない、とふと思う。

 それにしても。
 何事も、案ずるより産むが易し、とはよく言ったもので。

 何事もやらないうちからあれこれいらない心配をしまくり、地面に穴を掘りかねない性分の私にとって、貴重な人生経験となった。

 そして時は巡り、季節は夏から秋、冬を経て春に変わり、あっという間に過ぎたこの一年。

 人生初の『チームリーダー』なるものをやり遂げ仕事面でも充実した年だったけど、なんと言っても私生活で、つい先日『華燭の典』なるものを挙げたことが、私の人生でいちばんのビックニュースだ。

 めでたく長期療養から復帰した木村課長が課長職に戻り、谷田部課長は当初の約束通り任期を終えて、元の古巣へと帰ることになった。

 ついでに、といっては何だけど、私、高橋改め谷田部梓も、この日を最後に職場を去ることになった。今まで住んでいたアパートもすでに引き払い、この足で東京の谷田部邸へとお引越しだ。


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