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180【最愛⑲】
しおりを挟む「君も、強情な人だな」
「そんなこと、課長が一番、よく知ってるじゃないですか」
「それもそうだ」
「それよりも、大事な話しの続きを聞かせてください。足がしびれちゃいますから」
「ああ、もう、可愛くないことを言うのは、この口か」
「……!?」
不意に唇を課長のそれで塞がれて、ぎょっと身を引く。
でも、引ききらないうちに、すかさず、すっぽりと抱き込まれてしまった。
降り注ぐ、甘い、甘すぎるキスの雨に、心も体も溶けだしそう。
そんな、溶けるような幸福感に、私は満たされていく。
それなのに。
こんなに近くにいるのに、どうしてこんなに胸の奥が苦しくなるのか、泣きたいくらいの切なさがあふれ出すのか、よく分からない。
近づけば近づくほど、身の内の想いは更に募って行くばかりで、際限がない。
もっと、近づきたい。
もっと、知りたい。
もっと、もっと、と。
――ああ、私って、なんて、欲が深いんだろう。
ひとしきり私の唇を味わった後、課長は私の額に自分の額を『こつん』とくっつけて、クスリと笑った。
「梓の唇は、いつも甘いな」
落とされた囁きに、私もクスクスと笑って、囁き返す。
「課長の唇だって、甘いですよ」
「甘いか?」
「甘ーいです」
だから、きっと、やみつきになるんだ――。
付けられていた額が離れて、課長の瞳が視界に入る。
熱を孕んだ、少し鋭さを感じさせるその瞳が、優しげに細められ、
「こら、また、そんな顔をする」
耳朶を叩いたのは、言葉とは裏腹な、この上もなく甘やかな声。
長くて繊細な指先が、私の両頬に伸びて来る。そしてその指先は、私の頬の稜線を優しくなぞる――ことなく、ムギュッと左右に引き伸ばした。頬をぷにっと引き伸ばされた痛みに、半分夢の世界をたゆたっていた、ぽーっとした頭が、強引に現実へと引き戻される。
「……はちょう~~」
また、この人は、こういうガキ大将みたいな真似を。
「そんなって、どんな顔ですか?」
解放された両頬を、わざとナデナデしつつ尋ねれば、
「もっと、キスして欲しそうな顔」
と、ニッコリ、満面の笑顔を浮かべる。
「っ……」
そんなこと、ぜんぜん、考えていません!
とは、言いきれないところが、けっこう恥ずかしい。
いつもいつも、人をからかっては、楽しんでいる。
この、いじめっ子!
羞恥心が蓋をして、言いたいことが頭の中をぐるぐると回る。そんな私を楽しげに見やり課長はさらりと、とんでもないことを口にした。
「――結婚、しないか?」
「……え?」
っと、間抜けな声が、思わず漏れてしまう。
『ケッコン、シナイカ』
放たれた言葉の意味を、呆然とそしゃくする。
――ケッコンっていうと、男女が夫婦になる、あの華燭の典。
神様や神父様の前で永遠の愛を誓っちゃったりする、ブライダルの、結婚……よね?
信じられない思いで課長の顔を見つめれば、課長は、困ったようにもう一度、少しだけニュアンスを変えて言い直した。
「俺と、結婚してくれないか?」
冗談で言ってるんじゃないよ……ね?
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