ワケあり上司の愛し方～運命の恋をもう一度～【完結】番外編更新中

１７７【最愛⑯】

「実質、俺は、工務課じゃ一番のペーペーだし、君に補佐をしてもらっている身分だ。今までの実績を鑑みて、君以外に適任者はいないと思うが、工務課の古株としては、どう思う？」

　うん？　と、伺うように見つめられて、続く言葉が見つからない。

　たぶん、私が課長の立場でも、同じ判断をするだろう。

　でもでも。冷静な判断と感情は、また別物だ。

「私、昔っから、リーダーとか長とか名前に付く役職は大の苦手で……」
「うん。知ってる」

　満面の笑顔で頷かれて、うっと、断りの言葉が喉の奥に引っ込んでしまう。

「私に、できますか？」
「できないと思ったら、推薦したりしないよ」

　本当に、できるだろうか？
　自分だけで図面を書くのなら、その量がどんなに多くても、やり通す自信はある。

　でも今回は、チームリーダーとして、メンバーに仕事を割り振り、纏めあげなくちゃならない。
　各々の図面を書くスピード、能力、そして、性格。
　そういうものを考慮して、総合的に、仕事を進めていく。

　そしてその仕事には締め切り、つまり、遅れることは許されない納期限がある。それを守れなければ、会社の、大きな信用問題になってしまう。

　リーダーとして、チームを纏める。
　そんな事が、本当に、私にできるの？

『やります』『やらせて下さい』と、きっぱり言える性格なら、苦労はしない。

「考えさせて下さい……って、言ってもいいですか？」

　ダメもとでお伺いを立てれば、ニッコリ、満面の笑顔で脱力する答えが返された。

「言うだけならいいけど？」

　って、実質、ダメってことじゃないですかーー。

「課長ーー」
「サブは、佐藤さんにやって貰おうかと思っているんだが、どう思う？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　私がチームリーダー確定前提で、話しを進めている課長の言いぐさが、少しばかり気に食わない。

――ずるい。
　私が断れないって、鼻っから分かって言ってるよ、この上司。

『うん？』と視線で返事を促されて、溜息を一つ吐き出し半ばやけ気味に口を開く。

「いっそ、美加ちゃんに――」

　チームリーダーやって貰うっていうのは、どうでしょう？　と、口に出す前に、私の無駄なあがきは課長の先制攻撃に、ピシャリと封じ込められてしまう。

「まさか、可愛い部下に面倒くさいこと全部押し付けて逃げようなんて、酷い考え持ったりしてないよな？」

――ううっ。
　そのセリフ、そっくりそのまま、返してやりたい。

　美加ちゃんは後輩だけど、私の部下じゃないですもん。

　ただの同僚。
　平の工務課社員って立場は、一緒ですから。
　なんてへ理屈は、さすがに口には出せない。

　分かってる。
　私だって、本気で美加ちゃんに責任を押し付けようなんて思っていない。

　ただ、課長があんまり確信を持って言い切っているから、少しばかり抵抗を試みてみたかっただけ。

　いい年して、反抗期です、はい。
　そして敵いません、ぜんぶお見通しの、課長には。

　私は、若干ふてくされ気味に、ぼそぼそと答えを口にする。

「……適任だと思います。サブは、美加ちゃんで」

　この一言で、私の、(仮称)ショッピングモール新築工事、通称Ｓチーム、リーダー就任が確定した。

「そう言ってくれると思ってたよ。ありがとう」

『してやったり』と、課長が、本日一番のビジネス・スマイルを浮かべたのは、言うまでもない。