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176【最愛⑮】

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 課長ご所望の熱くて渋ーい緑茶を、マグカップに二人分。入れてコタツテーブルに戻り、ホッと一息ついたところで、課長が話しを切り出した。

「それで、『大事な話』の件なんだけど」

――き、きたっ。
 崩していた足をきちんと正座の形に戻し、背筋をしゃきーんと伸ばしてゆっくりと頷く。

「はい」

『いつでもどうぞ』
『一言もらさず、しっかりと伺います』
 という気持ちで、固唾をのんで課長の言葉を神妙に待った。そんな私の様子に、課長は少し苦笑気味に口の端を上げる。

「いや、そんなに、かしこまらないでもいいんだ。その……、仕事のことだから」
「……へ?」

――仕事?
 って、会社の仕事のこと!?

 己の自意識過剰さかげんに、羞恥心が振り切れ、一気に顔に血が上る。

 大事な話って言ったら、そりゃあ『お仕事のこと』でしょうが。
 恥ずかしすぎるぞ、私。

 昨夜のことで、頭に、花が咲いてしまったんじゃないの?

 それも、めでたい、サンフラワー。
 特大の、ヒマワリだ。

「家で休んでいる時まで、仕事の話ですまないが……」
「あ、いいえ。気にしないでください。大丈夫です。もう、ぜんぜん問題ありません、伺います!」

 再び、しゃきーんと背筋を伸ばし、課長の言葉を神妙に待つ。課長は、ゴホンと一つ咳払いをして、本題に入った。

「実は、清栄建設が元受の、県内最大のショッピングモール建設の、うちの受注が決まったんだ」
「県内最大ですか?」
「そう、県内最大。ついでに言えば、関東最大。つまりは、日本最大級ってことだな」
「日本、最大級……」

 あまりのスケールの大きさに、思わず息を飲む。

「衣食住、各種有名専門店を名を連ね、最上階には映画館を、というスタンダードな総合ショッピングモールなんだが、今回の工事は、規模が桁違いに大きくなるらしい」

 日本最大級のショッピングモール。
 その骨組みである鉄骨部分の製造建設を、我が太陽工業が受注した。

 清栄建設は、日本で五指に入る大手ゼネコン。県内で、清栄建設が元受の鉄骨工事は、我が太陽工業が請け負うことが多いけど、仮にも、『日本一』と名がつく大規模な工事が回ってくるのは、私が知る限り初めてだ。

――うわぁ。
 柱詳細図、何枚、必要なんだろう?
 スリーブ管も、半端なくありそう。

「すごい……ですね」

 スケールが大きすぎる仕事内容に、それしか言葉が出てこない。

「かなり、大量の詳細図面を書くことになるから、今回は、個人で担当を受け持つのではなく、チームを組むことになったんだ」
「チーム、ですか?」

「そう、(仮称)ショッピングモール新築工事。だから、Sチーム。――と言っても、皆、各々担当工事があるわけだから、あくまでチームリーダーが、工事担当者ということには変わりがないんだが」

「チームリーダーが、通常の工事担当者として、ゼネコンとの窓口になりつつ、大量に書かなければならない加工図面の、振り分けをする、ということですね」

「まあ、そういうことだな」

――うわぁ、大変そう。

 でも、チームを組んで一つの工事を纏めていくのは、なんだか、楽しそうだ。

「図面の書きがいがありそうですね」

 フツフツと、図面描き魂に火が付いてしまった。大変で面倒くさい仕事ほど、『描きあげてやろうじゃないの』と思えて来る。

 私って、とことん、仕事人間よねぇ。

 そんな私を、ニッコリと意味深な笑顔で見やり、課長は、さらりと爆弾発言を投下した。

「そこで、そのチームリーダーに、君を推薦しておいたから、よろしく」
「はい、そうですか。それはすごいで……」

 危うく相槌を打ちそうになって、その意味の重大さに、ハタと気付く。

「はい?」

 おそるおそる自分を指さし、小首を傾げる。

「私……ですか?」
「そう、君」

――って、ええっ!?

「どうしてですか、課長が居るのに、課長を差し置いて私がリーダーなんて――」

 思わずまくし立てれば、課長は少し苦笑気味に、口の端を上げた。


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