ワケあり上司の愛し方～運命の恋をもう一度～【完結】番外編更新中

１７５【最愛⑭】

　想いが通じ合った二人にとっての、大事な話。
　って言ったら、なんだろう？

「はい、次」
「あ、はい」
　
　差し出されたお皿を受け取ろうと無意識に出した手が、課長の手に重なり、ドキリとひっこめる。

「おっと」

　落ちかけたお皿を無事キャッチした課長は、「選手交代」と言って、私が持っていた布巾を取り上げ立ち位置を入れ替え、慣れた手つきで水滴を拭き取っていく。

　選手交代と言っても、食器はあらかた洗い終わっていて、シンクに残っているのは皿とお箸だけ。

　これじゃ、どっちがお客様だか分からない。

――おちつけ、私。
　何を今更、手が触れただけで挙動不審になる必要があるの。

　スポンジを、ワシワシと泡立てながら、私は、自分に言い聞かせる。

　でも、こうしてキッチンに並んでお皿を洗うという、日ごろにはないシチュエーション。その近すぎる距離感が、私の羞恥心を悪戯に駆り立てる。

　何か、話題。
　話題を振らなければ。

　話題を振って、この胸のドキドキを、なんとかなだめすかそうと、私は口を開いた。

「あの、昨夜、私が眠っている間に、母と何か話してませんでした？」

　質問と共にチラリと視線を投げ上げれば、課長は、少し考えるようなそぶりを見せた。

「……別に。少し、世間話をしたと思うけど。お母さん、何か言ってた？」
「特には何も。でも、あの通りの人なので、何か失礼なことでも言ってないかなぁって」

　娘としては、そこがとても心配です。

「この母にして、この娘あり」
「え？」
「いや、この娘にして、この母あり、かな」

　そう言って課長は、ご飯茶わんを拭きながら、クスクスと楽しそうに口の端を上げる。

「えー。それ、どういう意味ですか？」

　なんだか、嬉しくないです、その発言。そんな気持ちで口を尖らせれば、課長は、更に笑みを深める。

「いや、どちらも魅力的な女性だ、と言うことで」
「母が聞いたら、喜びます」

――ただでさえ、『イケメンだーイケメンだー』
『お父さんの若いころに似てるー』
とか言って、既に課長ファンになっているみたいだったから、後で、電話して教えてあげよう。

「これで、最後です」
「了解、ボス」

　最後に洗った二組のお箸を手渡せば、洗いものは終了。
　拭き終わった食器を、食器棚に入れて、後片付けもすべて終了。
　いつもは夕食は会社で店屋物だから、こうして家で食べるのは週末のみ。それも、私一人分だから、お皿の数は限られている。

　今日は倍以上洗う量が増えているのに、食事の後片付けがこんなに楽しく感じるなんて、不思議。

　むしろ、もっともっと、この時間が続けばいいのに、なんて思っている。

　課長効果は絶大だ。