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124【計略⑬】

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――やっぱり、『これ』が来たか。敵さんの、切り札登場だ。

 私は、広がった写真の束を手に取り、トントンとテーブルの上で角を揃える。

 大丈夫、これも、想定内。
 落ち着け、私。

 手にした写真を一枚一枚めくり、テーブルに置きながら、確認していく。

『課長の歓迎会の夜』
『歓迎会の翌朝』
『高級ブティックでドレス購入』
 その他、エトセトラ。

 どれもこれも、私と課長が親密そうに寄り添い、あたかも恋人同士のように写された写真の数々。写真はどれも、以前、谷田部課長から見せてもらったものばかりで、目新しいものは含まれていなかった。

 中でも、真打ち。スクープ写真第一位は、やはり『某ホテルのエレベーター内写真』だ。

「……一枚一枚、写真を撮られた時の状況を、説明しますか?」

 笑いを消した至極まじめな表情で尋ねれば、彼は、私を観察するよう、じっと見つめた後。

「いや。これだけでいい」
 と、テーブルに置いた写真の中から、一枚を、長い指先ではじき出した。

もちろんそれは、スクープ写真第一位の『某ホテルのエレベーター内写真』だ。

 他の写真は、見ようによってはどうにでも取れる写真ばかりだけど、これだけは違う。見たまんま。事実じゃありません、と言っても誰も信じないだろう。

 間違いなく、『課長と私のキスシーン』が、ばっちり撮られているのだから。

 写ってしまったものを、どう否定しても始まらない。
 ここは事実は事実と認めた上で、突っぱねるしかない。

『大人の事情』という、理論武装で。

「これは、事故です」
「事故?」
「はい。酒の上での、出合頭であいがしらの衝突事故です。特に恋愛感情がどうのという問題じゃありません」
「出合頭……ね」

 彼は、喉の奥で愉快そうにククッと笑って、質問を投げ付けてきた。

「別に、東悟でなくとも、誰でもよかったと?」

――ううっ。
 なんて意地の悪い聞き方をするんだろう。

「接待の二次会で、二人とも、お客様にだいぶ飲まされてしまったので……、少し羽目を外しすぎました」

 飯島さんごめんなさい。
 この際、言いわけに使わせていただきます。

 この時の二次会の席で二人きりになった時に、奇特にも、私に愛の告白なるものをしてくれた飯島さんに、心で詫びて。

「この件は軽率だったと、私も充分に反省しています。ご不快な思いをさせてしまって、申し訳ありませんでした」

 頭を下げて、一秒、二秒、三秒。
 先に折れたのは、彼の方だった。

「いいから、頭をあげて。別に私は、この写真の件で君を責めるために、ここへ招待したのではないのでね」

――え? 違うの?

 てっきり、『課長の婚約の邪魔をするな』と、釘をさされるのだとばかり思っていたのに。

「ほら、顔を上げて」

 楽しくて仕方がない。
 そんな声の響きに顔を上げれば、私を見やる、鋭い眼差しに視線が捕まった。

 柔和そうに微笑んでいるのに、どうしても獲物を狙う蛇めいたこの目が、嫌だ。
 好きになれない。

 こんな所からは、さっさと、退散しよう。
 もう、精神エネルギーを無駄に消費するだけの作り笑いは、製造中止。

 目を見ると、睨まれたカエルみたいに固まってしまいそうだから、口元あたりに視線を固定して、ズバリと尋ねる。

「それでは、どんなご用件ですか?」


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