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62【逢瀬⑮】
しおりを挟む課長親子と別れた後、飯島さんに誘われるまま二人で遊園地の隣りにある動物園をめぐり、再び遊園地に足を向けたころには抜けるような青空は茜色に染まっていた。
遠くに見える山影は既に、夜の帳に包まれている。
ほどほどに込み合っていた園内も、だいぶ人がまばらになって閑散としていた。
あと三十分ほどで、この遊園地も閉園時間になる。
今、言わなければ。
楽しかった今日のお礼と、昨日の告白への答えを、今。
「梓さん?」
逃げたら、だめ。
今、言わなければ、きっと言えなくなってしまう。
そんな気がする。
たとえ嫌われてしまっても、嘘で欺くよりはずっとマシだ。
俯きそうになる顔をグイッと上げて、足を止めた私を不思議そうに振り返る飯島さんの瞳を、真っ直ぐ見据える。
「あの、今日は、ありがとうございました。ここに連れてきてもらったおかげで、元気になりました。それに……」
飯島さんは応えることはなく、ただ静かな眼差しを向けて、私の言葉を待っている。
「それに、本当に、楽しかった……」
「俺も、楽しかったですよ。とってもね」
穏やかな声が、夕闇の中へしみ込むように溶けていく。
大きく息を吸い込み、息を止めて。
いよいよ、肝心の言葉を言おうと口を開きかけた時。私が言葉を発するよりもわずかに早く、飯島さんの声が耳に届いた。
「最後に、乗りませんか、あれに」
彼のガッチリとした骨太の指先が指示したのは、キラキラと色とりどりのイルミネーションを纏った、この遊園地のメインスポットでもある大観覧車。
「せっかくここに来たんだから、記念に。ね?」
私たちのすぐ横を、賑やかな家族連れが通りすぎる。
「……はい」
その方が良いのかもしれない。
二人きりになれる場所で、ちゃんと伝えよう。
そう思った。
ゆっくりとでも確実に、地上は遠のき星の瞬き始めた夜空が視界を埋めていく。
四人掛けの観覧者に飯島さんと向かい合って座った私は、窓の向こうに見えるどこか物悲しく感じる夜の闇に包まれた景色から目の前に座る人に視線を移し、静かに口を開いた。
「飯島さん。実は私、ずっと、好きな人がいるんです」
伝えたいことはただ一つ。
今更、どんな綺麗な言葉を並べ立てても、それは変えようがない。だから、私はズバリと核心のみを伝えた。
真剣な眼差しで私の言葉に耳を傾けていた飯島さんは、フッと苦笑を浮かべ淡々と言葉を紡いだ。
「そんなこと、始めから知っていましたよ。俺がいったい何年、あなたを見てきたと思うんですか?」
何年って、初めて現場で顔を合わせたのは、確か三年前――。
「三年前ではないですよ?」
「……え? だって」
「確かに、俺が清栄建設に入社してあなたと初めて仕事をしたのは、三年前です。でも、俺があなたを初めて見たのは、六年前。藤堂ビル建築工事の時なんですよ」
『たぶん、あなたは覚えていないと思いますけどね』
そう前置きして、飯島さんは、私に初めて会った時のことを淡々と語ってくれた。
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