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42【告白⑰】

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 ニコリと微笑みを湛えたその表情からは、課長の心の中を伺い知ることはできない。

 ――今の話、聞かれてしまったの!?

 すうっと、首筋の当たりの血の気が一気に引いて、思わず背筋に震えが走った。

「飯島さん申し訳ないですが、時間も遅いことですし、もうそろそろお開きにしませんか?」

 やんわりと話の終了を提案する課長に、飯島さんは挑戦的にすら見える、真剣なまなざしを投げつける。

「谷田部さん、今の俺の話、聞いてましたよね?」

 私からは死角になっていて気付かなかったけど、飯島さんからは、課長が来るのが見えていたのだろう。

「ええ、まあ、『初めて会った時から』あたりからは、聞こえていましたが……」

 語尾を濁す課長に、飯島さんはあくまで食い下がる。

「谷田部さんは、どう思います? 俺と高橋さんが付き合うことを、反対されますか?」

 見事なまでに、直球で質問をぶつけてくる飯島さんに向けられる課長の眼差しはなぜか穏やかで、私の心の中にモヤモヤとしたものを増殖させていく。

「私は、部下のプライベートなことまでは関知しませんので、それはご当人どうしの問題でしょう。別段、私がどうこう言う筋合いのものではありませんよ」

 感情を排したような静かなトーンのその言葉が、一瞬にして、私の全身に冷水を浴びせかけた。

 課長の言っていることは、正論だ。ごく当たり前の一般論。でも、課長の口から発せられたということだけで、その破壊力たるや東京タワーをなぎ倒すゴジラ並だった。あまりのショックに、言葉が出ない。

「上司である谷田部さんもこう言ってますし、高橋さん、どうでしょう、一度試しにデートをしてみるっていうのは?」
「え、あの……」
「一度デートしたからって、恋人にしてくれなんて言いませんから。ほら、今日みたいに、友達と遊びに出掛けるような軽いノリでいいですから、ね?」

 ――そうだよね。
 うん、飯島さんとなら、きっと楽しいデートになりそうだよね。

 課長も、ああ言ってることだし、デートしてみるのもいいかなぁ。

 ダメージを受けている所に押しの一手で押しまくられて、なんだかもう自分で自分の気持ちが分からなくなってきてしまった。

 でも、やっぱり、即決はできない。
 だから、少しずるい答えを選んでしまった。

「少し、考えさせてもらえませんか?」と。

 飯島さんはいつもの陽気な笑い声を上げながら、「じゃあ、いい返事がもらえるのを楽しみに待ってます。いつでも良いから、電話してください。あ、メールじゃなくて声を聴かせてほしいかな」と言って、私にスマートフォンの電話番号を教えてくれた。礼儀として私の番号も教えて、めでたく電話番号交換が終了。

こうして私の心に大きなダメージを与えたまま、波乱含みのパーティの二次会は、お開きとなった。


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