44 / 52
第十三話 【最愛】特上の笑顔を。
44
しおりを挟む従姉様をタバカッタ罪で、浩二の左頬にグーパンチをお見舞いしたあと、じんじんと痛む右手を撫で撫でしながら、
『それって、ごちゃごちゃ小難しいことをしないで、そのまま私に言えばそれで用は済んだんじゃないの?』と、私がそう言うと、浩二は涙目で左頬を押さえつつ、
「お前が、『はいそうですか。じゃあ、喜んで伊藤君にアタックします』なんて言うタマか? 意固地になって、絶対そんなことはしないっ! って言い張るだけだろう!?」と断言しくさった。
そんなことはない!
と、……きっぱり否定できない自分が、私は、少しばかり悲しい。
「それに……」
「なによ?」
まだ、何か隠しているんじゃないでしょうねっ!?
ジロリんと、睨み付けてたやったら、
「俺は、亜弓に、心から好きなヤツと幸せになって貰いたかったんだ。それは嘘じゃない……」
と、浩二はそっぽを向きながら、照れくさそうにボソボソと呟いた。
こいつめ。
泣かせることを、言うんじゃない!
と、不覚にも、少しばかり感激しちゃったことは、絶対に内緒だ。
私が、危篤の知らせを受けたとき。陽花は、一時心肺停止状態に陥り、本当に危険な状態だったそうだ。迅速で適切な処置と、陽花自身の『生きたい』と言う強い思いがもたらした『奇蹟みたいなもの』だったと、後から聞かされた。
あれから、三日後。陽花の様子はと言えば――。
「あーあ。わたしも見たかったな。あーちゃんの、彼氏さん」
ベッドに横たわるハルカは、さも残念そうに大きなため息をもらした。
さすがに、その細い腕には痛々しい点滴のチューブが繋がってはいるけど、それでも、つい三日前の危篤状態が嘘のように元気だ。
「ふふふ。もったいないから、隠しておくのよ。無闇に見せたら、減っちゃうでしょ?」
「えー、ずるい!」
からかいモード全開の私のセリフに、陽花は少女めいた仕草で、ぷうっと頬を膨らます。
私と直也が別れたことは、陽花には伏せてある。教えれば、陽花はきっと自分のせいだと、心を痛めるだろう。もともとあれは、浩二が独断でやったことなんだから、陽花が気に病むようなことじゃない。
それでも。陽花は、きっと心を痛めてしまう。
つい三日前に、生死の境を彷徨ったばかりの陽花に、そんな心の負担を掛けたくはない。だから、浩二にもバッチリ、口止め済みだ。
「ねぇねぇ、浩二君は見たんでしょ、あーちゃんの彼。どんな感じの人だった? カッコイイ? ハンサム? イケメン?」
「……別に。普通のサラリーマン」
興味津々の陽花の問いに、私がいる方とは反対のベッドサイドの椅子に座っていた浩二は、憮然とした表情でボソリと呟いた。
ジトっと私に向けてくるその目には、そこはかとなく漂う不満感。左頬は、私の愛の鉄槌の名残で、未だに心持ち腫れている。
「でも、正直驚いたわよー。浩二ったら、陽花と婚約したなんて一言も言わないんだから!」
そもそも、付き合っていることすら隠していました、このヤロウは。
チラリと、冷たい眼差しを送ってやったら、浩二は気まずげに視線をそらした。
さぞ、後ろめたいことだろう。なぜ隠していたのかを問いつめられたら、後ろ暗い所業が芋蔓式にでてきてしまうんだから。
う~んと、冷や汗をかくがいいんだわ。それが、因果応報っていうものよ。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる