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第七話 【逢瀬】残酷な夢でも。
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しおりを挟むこの、鳩尾の底からふつふつと湧き上がる感情。この怒りを、どうしてくれようか。
――あんのヤロウ。
この従姉様を、どこまでタバカれば気がすむんだっ!
こんなことをして。裏でこそこそと画策されて。私が、喜ぶとでも思っているのか、あのバカはっ!?
伊藤君から見えないところまで来て、バッグから携帯電話を取り出して、浩二の携帯へ電話をかける。
でも電源が切ってあるのか、虚しいアナウンスが流れるばかり。すぐさま、浩二の家、おじさんちにコールする。
『はい、佐々木です』
「あ、おばちゃん! 浩二いるっ!?」
『あれ、亜弓ちゃん。浩二なら、今日は朝から出かけているけど?』
「どこに行ったか分かる!?」
『さあ……。友達の所へ行くとかいってたけども、詳しくは聞いてないねぇ』
「……そっか、分かった。じゃあ、またね!」
逃げられた……。
やっぱりこれは、何らかの思惑があっての、計画的な犯行ってこと?
はあっと、我知らず大きなため息が漏れる。
捕まえて、とっちめてやろうと思ったのに。一気に膨らんだ怒りのエネルギーのぶつけ先が、無くなってしまった。
全身の力が、へなへなーと抜けていく。
ジリジリと、焼け付くような太陽の強い日差しに照りつけられて、一瞬、クラリと、軽い目眩に襲われる。
なんだか気持ち悪くなってきて、私はその場にしゃがみ込んでしまった。自分の膝に額を付けて、今の状況を考えてみる。
その一。
浩二は、私が伊藤君に片思いをしているのを知っている。
その二。
浩二が、伊藤君に私を誘うように頼んだ。
そのココロは?
確かに、私は元気がなかったかも知れない。でも、そこにでっかい拍車を掛けたのは、浩二自身だ。それなのに。落ち込ませた張本人が『ものすごく落ち込んでいるみたい』だって、伊藤くんに私の気晴らしを頼んだ?
なに、この矛盾。
いったい、浩二は何がしたいの?
浩二の、目的は何?
その行動が、導き出すだろう結果はどんなこと?
頭の隅に、何かが引っかかった。
待てよ。
例えば、私と伊藤君が、まかり間違って、くっついたとする。その結果、何が残る?
私と伊藤君、浩二、そして残るのは――
まさか。
私は、一つの可能性に思い当たった。
まさか……。
まさかでしょ?
いくら浩二でも、そんな短絡的なことするか?
いくら、おちゃらけていたって、あれでも成人している二十五歳にもなる、大人なんだよ?
今時、小学生でもそんな分かりやすいこと、しないぞ?
「佐々木?」
う~、気持ち悪い。
脳みそを使いすぎて、なんだか、朝の偏頭痛まで復活してきた。
早く戻らないと、伊藤君に心配かけちゃうな。
そう思うけど、立ち上がれない。
「佐々木、大丈夫か?」
「え?」
ようやく、自分が呼ばれていることに気付いて膝に伏せていた顔を上げた私は、すぐ目の前に、本当、目と鼻の先に伊藤君のどアップがあって、全身ピキンと固まった。
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