上 下
99 / 132
第六章 記 憶 《Memory-4》

99 パジャマパーティ―

しおりを挟む
 
 玲子がひょっこり顔を出したのは、遅々として進まない超能力のレベルアップに、のんびり屋の優花でもさすがに内心のあせりが隠せなくなってきた、引っ越しから二週間ほど後の週末のこと。

 その日の夜七時。
 いつものリビングスペースの応接セットのソファーに陣取り、ポチとアリスと一緒に夕食を待つ間の時間をたわいない会話に花を咲かせながらのんびりと過ごしていたところに、突然響いたのは玲子の声。

「ああっ。やっと会えたよ、優花ーーーっ!」

 玲子は、開口一番、そう叫ぶなり優花を抱きしめスリスリと頬ずり攻撃をしかけてきた。

「玲子ちゃん、来てくれたんだ」
「あたぼうよ! 本当はもっと早く会いに来たかったんだけど、『査察対象になった人間が揃って一カ所に集まってたら勘繰られるだろう?』って、あの野郎が融通が利かなくってねー。本当、自分ばっかりズルいんだから、御堂みどうめ!」

 少し遅れてリュウと一緒に室内に入ってきた晃一郎は、優花を抱き寄せたままの玲子に鋭い眼光で睨み付けられて、苦笑を浮かべて言う。

「連れてきたんだから、良いだろうが」
「連れてきてくれたのは、優しい大天使ミカエルさまです」
「あっそ」

 会うたびに「優花に合わせろ!」「あんただけ同棲なんてズルイ!」とさんざん玲子に迫られた晃一郎がリュウに頼み込んで実現した久々の親友との時間は、優花にとって得難い楽しいものになった。

 研究所にいたころよりも自由度が高い環境でも、限られた人間の中で過ごしていると、煮詰まった感情の持って行き場がなくなってしまう。どうしてもストレスがたまってしまうのだ。

 生物学的に女性は『おしゃべり』をすることでストレスを発散する特性がある。男の晃一郎やリュウでは相談に乗ったりアドバイスをしたりすることはできても、女性同士のようにストレスが発散できるような会話をすることは難しかった。

 確かに、アリスという紅一点は存在したが、学力はともかく見た目が子供のアリス相手では、どうしてもお姉さんぶってしまい、優花としては本音トークを炸裂させるわけにはいかない。

 そこで、満を持して親友玲子の登場となったわけだ。

「玲子さん、こんばんわ」
「アリスちゃんも、久しぶりーっ。二晩お泊りさせてもらうから、よろしくね。優花と三人でパジャマパーティーしようね!」
「はいっ!」
『ああーっ。ポチも、ポチも、ぱじゃまパーティ―するのーーっ!』

 キャッキャうふふと、一気ににぎやかになった女性陣プラス守護獣に、保護者枠の晃一郎とリュウは互いに顔を見合わせて、苦笑している。

 どうやら、玲子効果はてきめんだったようだ。

 本日の夕食のメニューは、お客様が増えたということで、ベランダでのバーベキューパーティーだった。

 少し秋めいてきた心地よい風の中、虫の声をBGMに、玲子を交えてのバーべキューは賑やかかつ楽しく幕を閉じた。

 ディナーの後は宣言通り、優花と玲子とアリス、それにポチの三人と一匹は、ゲストルームのひとつの和室で布団を三組並べてパジャマパーティーに突入した。

「ベッドも良いけど、お布団だとなんだか修学旅行みたいだよね」

 優花が話題を振れば、玲子とアリスは顔を見合わせて小首をかしげる。

「修学旅行って?」
 
――ああ、そうか。こっちの世界では、ないんだ修学旅行。

「ええっとね。学校でやる行事なんだけど……」

 楽しい会話はいつまでも尽きることなく、最初は満腹効果で『眠れ』という本能に逆らえないポチが寝てしまった。次に、やはりまだ幼いアリスが、すやすやと天使の寝顔で眠りの世界の住人となり、最後に残ったのは優花と玲子の二人きり。

 一人と一匹を起こさないように、自然と話し声はヒソヒソと小さくなる。内緒ばなしをするようで、それがまた楽しい。

 やがて時計の針が日付をこえるころ、ついに玲子が寝落ちした。残されたのは優花一人。あまり楽しすぎて気分が高揚して寝そびれてしまった。

 このまま眠ればいい夢が見られそうだが、目を閉じてみても眠れない。

――食堂で何か温かい飲み物でも貰おうかな……。

 そう思い、優花は皆を起こさないようにそっと布団を抜け出して、廊下に出た。

 スリッパの音が響かないように、抜き足差し足で歩いているとふと上げた視線の先に白い人影を捉えて、ドキリと鼓動が跳ね上がり、足が止まった。

 誰かが、晃一郎の部屋の前に立っていた。その人物は、優花の方においでおいでと手を振っている。

 非常灯の淡い灯りの下に浮かび上がる、白いワンピースを身にまとった美しい長い銀髪の女性は、言わずと知れた。

「ゆっ、優花さんっ!?」

 思念体であるこの世界の優花は、人差し指を口の所で立てて、イタズラを仕掛ける子どものような表情で「しぃーっ」とジェスチャーを送ってきた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『Happiness 幸福というもの』 

設樂理沙
ライト文芸
息子の恋人との顔会わせをする段になった時「あんな~~~な女なんて 絶対家になんて上げないわよ!どこか他所の場所で充分でしょ!!」と言い放つ鬼畜母。 そんな親を持ってしまった息子に幸せは訪れるでしょうか? 最後のほうでほんのちょこっとですが、わたしの好きな仔猫や小さな子が出て来ます。 2つの小さな幸せを描いています。❀.(*´◡`*)❀. 追記: 一生懸命生きてる二人の女性が寂しさや悲しみを 抱えながらも、運命の男性との出会いで幸せに なってゆく・・物語です。  人の振れ合いや暖かさみたいなものを 感じていただければ幸いです。 注意 年の差婚、再婚されてる方、不快に思われる台詞が    ありますのでご注意ください。(ごめんなさい)    ちな、私も、こんな非道な発言をするような姑は    嫌いどす。 ・(旧) Puzzleの加筆修正版になります。(2016年4月上旬~掲載) 『Happiness 幸福というもの』  ❦ イラストはAI生成有償画像 OBAKERON様 ◇再掲載は2021.10.14~2021.12.22

月は夜をかき抱く ―Alkaid―

深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。 アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。

青い死神に似合う服

fig
ライト文芸
テーラー・ヨネに縫えないものはない。 どんな洋服も思いのまま。 だから、いつか必ず縫ってみせる。 愛しい、青い死神に似合う服を。 寺田ヨネは洋館を改装し仕立て屋を営んでいた。テーラー・ヨネの仕立てる服は特別製。どんな願いも叶える力を持つ。 少女のような外見ながら、その腕前は老舗のテーラーと比べても遜色ない。 アシスタントのマチとチャコ、客を紹介してくれるパイロット・ノアの協力を得ながら、ヨネは日々忙しく働いていた。 ある日、ノアの紹介でやってきたのは、若くして命を落としたバレエ・ダンサーの萌衣だった。 彼女の望みは婚約者への復讐。それを叶えるためのロマンチック・チュチュがご所望だった。 依頼の真意がわからずにいたが、次第に彼女が受けた傷、悲しみ、愛を理解していく。 そしてヨネ自身も、過去の愛と向き合うことになる。 ヨネにもかつて、愛した人がいた。遠い遠い昔のことだ。 いつか、その人のために服を縫いたいと夢を見ていた。 まだ、その夢は捨ててはいない。

ユメ/うつつ

hana4
ライト文芸
例えばここからが本編だったとしたら、プロローグにも満たない俺らはきっと短く纏められて、誰かの些細な回想シーンの一部でしかないのかもしれない。 もし俺の人生が誰かの創作物だったなら、この記憶も全部、比喩表現なのだろう。 それかこれが夢であるのならば、いつまでも醒めないままでいたかった。

ファンタジーは突然に

皆木 亮
ライト文芸
飛び交う電波、萌え上がる劣情、 禁断のフェチ、そして日常の瓦解…… あなたも変人目指して、 この小説を読む事にチャレンジしてみませんか? 投稿小説「ファンタジーは突然に」、 ・・・・・・通称「ファン突」は、 妹に性欲をもてあます 『お兄ちゃん』や『お姉ちゃん』を募集中です☆ 該当する皆さんは、 どうか是非読んで行って下さいね☆ 内容としては、ロリ物の、健全(?)、電波系、恋愛/ラブコメ物になってます! 「怖くないよ~! みんな、おいで! おいで!」

泣けない、泣かない。

黒蝶
ライト文芸
毎日絶望に耐えている少女・詩音と、偶然教育実習生として彼女の高校に行くことになった恋人・優翔。 ある事情から不登校になった少女・久遠と、通信制高校に通う恋人・大翔。 兄である優翔に憧れる弟の大翔。 しかし、そんな兄は弟の言葉に何度も救われている。 これは、そんな4人から為る物語。 《主な登場人物》 如月 詩音(きらさぎ しおん):大人しめな少女。歌うことが大好きだが、人前ではなかなか歌わない。 小野 優翔(おの ゆうと):詩音の恋人。養護教諭になる為、教育実習に偶然詩音の学校にやってくる。 水無月 久遠(みなづき くおん):家からほとんど出ない少女。読書家で努力家。 小野 大翔(おの ひろと):久遠の恋人。優翔とは兄弟。天真爛漫な性格で、人に好かれやすい。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

処理中です...