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第六章 記 憶 《Memory-4》
99 パジャマパーティ―
しおりを挟む玲子がひょっこり顔を出したのは、遅々として進まない超能力のレベルアップに、のんびり屋の優花でもさすがに内心のあせりが隠せなくなってきた、引っ越しから二週間ほど後の週末のこと。
その日の夜七時。
いつものリビングスペースの応接セットのソファーに陣取り、ポチとアリスと一緒に夕食を待つ間の時間をたわいない会話に花を咲かせながらのんびりと過ごしていたところに、突然響いたのは玲子の声。
「ああっ。やっと会えたよ、優花ーーーっ!」
玲子は、開口一番、そう叫ぶなり優花を抱きしめスリスリと頬ずり攻撃をしかけてきた。
「玲子ちゃん、来てくれたんだ」
「あたぼうよ! 本当はもっと早く会いに来たかったんだけど、『査察対象になった人間が揃って一カ所に集まってたら勘繰られるだろう?』って、あの野郎が融通が利かなくってねー。本当、自分ばっかりズルいんだから、御堂め!」
少し遅れてリュウと一緒に室内に入ってきた晃一郎は、優花を抱き寄せたままの玲子に鋭い眼光で睨み付けられて、苦笑を浮かべて言う。
「連れてきたんだから、良いだろうが」
「連れてきてくれたのは、優しい大天使さまです」
「あっそ」
会うたびに「優花に合わせろ!」「あんただけ同棲なんてズルイ!」とさんざん玲子に迫られた晃一郎がリュウに頼み込んで実現した久々の親友との時間は、優花にとって得難い楽しいものになった。
研究所にいたころよりも自由度が高い環境でも、限られた人間の中で過ごしていると、煮詰まった感情の持って行き場がなくなってしまう。どうしてもストレスがたまってしまうのだ。
生物学的に女性は『おしゃべり』をすることでストレスを発散する特性がある。男の晃一郎やリュウでは相談に乗ったりアドバイスをしたりすることはできても、女性同士のようにストレスが発散できるような会話をすることは難しかった。
確かに、アリスという紅一点は存在したが、学力はともかく見た目が子供のアリス相手では、どうしてもお姉さんぶってしまい、優花としては本音トークを炸裂させるわけにはいかない。
そこで、満を持して親友玲子の登場となったわけだ。
「玲子さん、こんばんわ」
「アリスちゃんも、久しぶりーっ。二晩お泊りさせてもらうから、よろしくね。優花と三人でパジャマパーティーしようね!」
「はいっ!」
『ああーっ。ポチも、ポチも、ぱじゃまパーティ―するのーーっ!』
キャッキャうふふと、一気ににぎやかになった女性陣プラス守護獣に、保護者枠の晃一郎とリュウは互いに顔を見合わせて、苦笑している。
どうやら、玲子効果はてきめんだったようだ。
本日の夕食のメニューは、お客様が増えたということで、ベランダでのバーベキューパーティーだった。
少し秋めいてきた心地よい風の中、虫の声をBGMに、玲子を交えてのバーべキューは賑やかかつ楽しく幕を閉じた。
ディナーの後は宣言通り、優花と玲子とアリス、それにポチの三人と一匹は、ゲストルームのひとつの和室で布団を三組並べてパジャマパーティーに突入した。
「ベッドも良いけど、お布団だとなんだか修学旅行みたいだよね」
優花が話題を振れば、玲子とアリスは顔を見合わせて小首をかしげる。
「修学旅行って?」
――ああ、そうか。こっちの世界では、ないんだ修学旅行。
「ええっとね。学校でやる行事なんだけど……」
楽しい会話はいつまでも尽きることなく、最初は満腹効果で『眠れ』という本能に逆らえないポチが寝てしまった。次に、やはりまだ幼いアリスが、すやすやと天使の寝顔で眠りの世界の住人となり、最後に残ったのは優花と玲子の二人きり。
一人と一匹を起こさないように、自然と話し声はヒソヒソと小さくなる。内緒ばなしをするようで、それがまた楽しい。
やがて時計の針が日付をこえるころ、ついに玲子が寝落ちした。残されたのは優花一人。あまり楽しすぎて気分が高揚して寝そびれてしまった。
このまま眠ればいい夢が見られそうだが、目を閉じてみても眠れない。
――食堂で何か温かい飲み物でも貰おうかな……。
そう思い、優花は皆を起こさないようにそっと布団を抜け出して、廊下に出た。
スリッパの音が響かないように、抜き足差し足で歩いているとふと上げた視線の先に白い人影を捉えて、ドキリと鼓動が跳ね上がり、足が止まった。
誰かが、晃一郎の部屋の前に立っていた。その人物は、優花の方においでおいでと手を振っている。
非常灯の淡い灯りの下に浮かび上がる、白いワンピースを身にまとった美しい長い銀髪の女性は、言わずと知れた。
「ゆっ、優花さんっ!?」
思念体であるこの世界の優花は、人差し指を口の所で立てて、イタズラを仕掛ける子どものような表情で「しぃーっ」とジェスチャーを送ってきた。
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