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第四章 記 憶 《Memory-2》
71 ESPカウンセラー
しおりを挟むエレベーターが完全に閉まり降りていくのを確認してから、晃一郎は優花に尋ねた。
「何をしてたんだ?」
「あ、うん。『よろしくね』って、握手されただけ――」
「握手したのか、お前!?」
「う、うん」
優花の言葉をひったくるように言う、晃一郎の語気の強さに、びくっと身をすくませる。
――な、なに?
たかが握手しただけで、なんで、そんなに驚いてるの?
確かに、変な感じはしたけど……。
苛立ったように、自分の前髪をわしゃわしゃとかき回した後、晃一郎は、ため息交じりの声で言う。
「無闇に、他人に身体を触らせるなよ」
なんだか、自分から触ってもらいに行ったような晃一郎の口ぶりが、優花は、かちんと癇に障った。
「え、だって、触らせるなって、手を差し出されたから、握手しただけだよ?」
「握手でも、ハグでも、何でもいっしょだ。触ることで心を読む能力もあるんだからな」
「あっ……!」
そうか。そういうこともあるんだ……。
まってよ?
ということは、不用意に晃ちゃんに触ると、全部バレる可能性があるってこと?
き、気をつけよう。
優花と、晃一郎と、玲子。 突然の珍客来訪に、少し驚いたように目を見張ったあと、リュウは、いつものように優しい笑顔で優花を迎えてくれた。
初対面のときからそうだったが、この人の笑顔は、本当に天使のようだと優花は思う。見ていると、守られているようで、ほっとするのだ。
同じ碧い瞳なのに、さっき出会った黒田女史のガラス球めいた冷たい目とはまるで違う、すべてを包み込むような、深い海を思わせるディープ・ブルーの瞳は、どこまでも優しい光をたたえている。
彼が、晃一郎とは違う意味で、女性に人気があるのも分かる気がした。
「おやおや。今日は、珍しい人たちが随員だね、優花ちゃん」
「うるせー。誰が、随員だ誰が。それが久しぶりに会う親友に対する言葉か? ESPカウンセラーとも思えない配慮のない応対だな、タキモト先生」
「ボクの患者は、優花ちゃんだけだからね。君に配慮する必要は感じないな、御堂先生」
「随員その二の、村瀬でーす。久しぶりに、大天使様のご尊顔を拝しに参りました」
ヤッホーと右手を上げて、自己アピールをする玲子に、リュウはニコニコと笑みを深める。
「お久しぶりです、玲子さん。あなたなら、いつでも大歓迎ですよ」
「俺に対する態度とは、エライ違いなんだが?」
「それは、むさ苦しい野郎と、麗しの美女では態度が変わるのは、自明の理というものですよ、御堂先生」
笑みをたやさないまま、リュウは、かなり辛辣なことをサラリと言ってのける。一方晃一郎は、隣でほくそ笑む玲子に、チラリと冷たい視線を投げつけて、わざとらしく眉根を寄せた。
「だれが麗しの美女だよ。『こうるさい』の間違い――って、人の足を踏むな、村瀬っ!」
白いスニーカーに包まれた晃一郎の足をヒールの踵でぐりぐりと踏みつけて、玲子は、ニッコリと笑みを浮かべる。
「あら、ありがとう。タキモトくん」
「どういたしまして」
ニッと笑いあう笑顔は、どちらもまるで少年少女のように無邪気で、楽しそうではある。が、正直、優花は、それどころじゃなかった。
友人同士の心温まる交流の蚊帳の外で、優花は一人、このピンチをどう切り抜けていいのかわからず、途方にくれていた。
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