上 下
71 / 132
第四章 記 憶 《Memory-2》

71 ESPカウンセラー

しおりを挟む


 エレベーターが完全に閉まり降りていくのを確認してから、晃一郎は優花に尋ねた。

「何をしてたんだ?」
「あ、うん。『よろしくね』って、握手されただけ――」
「握手したのか、お前!?」
「う、うん」

 優花の言葉をひったくるように言う、晃一郎の語気の強さに、びくっと身をすくませる。

――な、なに?
  
 たかが握手しただけで、なんで、そんなに驚いてるの?

 確かに、変な感じはしたけど……。

 苛立ったように、自分の前髪をわしゃわしゃとかき回した後、晃一郎は、ため息交じりの声で言う。

「無闇に、他人に身体を触らせるなよ」

 なんだか、自分から触ってもらいに行ったような晃一郎の口ぶりが、優花は、かちんと癇に障った。

「え、だって、触らせるなって、手を差し出されたから、握手しただけだよ?」
「握手でも、ハグでも、何でもいっしょだ。触ることで心を読む能力もあるんだからな」
「あっ……!」

 そうか。そういうこともあるんだ……。

 まってよ?
 ということは、不用意に晃ちゃんに触ると、全部バレる可能性があるってこと?

 き、気をつけよう。

 優花と、晃一郎と、玲子。 突然の珍客来訪に、少し驚いたように目を見張ったあと、リュウは、いつものように優しい笑顔で優花を迎えてくれた。

 初対面のときからそうだったが、この人の笑顔は、本当に天使のようだと優花は思う。見ていると、守られているようで、ほっとするのだ。

 同じ碧い瞳なのに、さっき出会った黒田女史のガラス球めいた冷たい目とはまるで違う、すべてを包み込むような、深い海を思わせるディープ・ブルーの瞳は、どこまでも優しい光をたたえている。

 彼が、晃一郎とは違う意味で、女性に人気があるのも分かる気がした。

「おやおや。今日は、珍しい人たちが随員だね、優花ちゃん」
「うるせー。誰が、随員だ誰が。それが久しぶりに会う親友に対する言葉か? ESPカウンセラーとも思えない配慮のない応対だな、タキモト先生」
「ボクの患者は、優花ちゃんだけだからね。君に配慮する必要は感じないな、御堂先生」
「随員その二の、村瀬でーす。久しぶりに、大天使様のご尊顔を拝しに参りました」

 ヤッホーと右手を上げて、自己アピールをする玲子に、リュウはニコニコと笑みを深める。

「お久しぶりです、玲子さん。あなたなら、いつでも大歓迎ですよ」
「俺に対する態度とは、エライ違いなんだが?」
「それは、むさ苦しい野郎と、麗しの美女では態度が変わるのは、自明の理というものですよ、御堂先生」

 笑みをたやさないまま、リュウは、かなり辛辣なことをサラリと言ってのける。一方晃一郎は、隣でほくそ笑む玲子に、チラリと冷たい視線を投げつけて、わざとらしく眉根を寄せた。

「だれが麗しの美女だよ。『こうるさい』の間違い――って、人の足を踏むな、村瀬っ!」

 白いスニーカーに包まれた晃一郎の足をヒールの踵でぐりぐりと踏みつけて、玲子は、ニッコリと笑みを浮かべる。

「あら、ありがとう。タキモトくん」
「どういたしまして」

 ニッと笑いあう笑顔は、どちらもまるで少年少女のように無邪気で、楽しそうではある。が、正直、優花は、それどころじゃなかった。

 友人同士の心温まる交流の蚊帳の外で、優花は一人、このピンチをどう切り抜けていいのかわからず、途方にくれていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

揺れる波紋

しらかわからし
ライト文芸
この小説は、高坂翔太が主人公で彼はバブル崩壊直後の1991年にレストランを開業し、20年の努力の末、ついに成功を手に入れます。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故によって、経済環境が一変し、レストランの業績が悪化。2014年、創業から23年の55歳で法人解散を決断します。 店内がかつての賑わいを失い、従業員を一人ずつ減らす中、翔太は自身の夢と情熱が色褪せていくのを感じます。経営者としての苦悩が続き、最終的には建物と土地を手放す決断を下すまで追い込まれます。 さらに、同居の妻の母親の認知症での介護が重なり、心身共に限界に達した時、近所の若い弁護士夫婦との出会いが、レストランの終焉を迎えるきっかけとなります。翔太は自分の決断が正しかったのか悩みながらも、恩人であるホテルの社長の言葉に救われ、心の重荷が少しずつ軽くなります。 本作は、主人公の長年の夢と努力が崩壊する中でも、新たな道を模索し、問題山積な中を少しずつ幸福への道を歩んでいきたいという願望を元にほぼ自分史の物語です。

大杉緑とは俺様だ(完結)

有住葉月
ライト文芸
大正時代を圧巻した男とは俺のこと。社会も女もみんなが振り返る。ハハハ。世の中を変えてやる! 時代を変えようとした大杉を描きます。

ホームセンター

高橋松園
ライト文芸
特殊検査研究所で検査員として働いている安倍 昇は多忙な日常を過していた。徹夜明けの仕事帰りに腕時計が止まっていることに気が付く。基本的に無駄なものを持つことが嫌いな安倍は、腕時計を1本しか持っていない。夕方には職場に戻らないといけない状態だが、時計の電池交換をしてから家に帰ろうと、街で有名な「ホーム センター ホーリー・ホーリー」というホームセンターで、時計の電池交換をしてから家に帰ろうと、何かに引き付けられるようにホームセンターへ向かった。仕事帰りに立ち寄ったホームセンターで、生きるとは何か、について考えさせられる。ミドル・クライシスの話。 ※この話は、2018年に書かれ 、2019年3月に某出版社のコンテストに応募した作品です。ネット上や他での公開はなく、今回、ホームセンターの名称のみ変更し投稿させて頂きました。話の内容は、全てフィクションです。登場人物、団体、地名等の名称は架空であり、実在するものとはいっさい関係ありません。 第三回ライト文芸大賞に初参加です。

冷たい海

いっき
ライト文芸
 満月は遥か彼方、その水平線に沈みゆく。海面に光り輝く永遠の旋律を伸ばしながら。眠りから醒めんとする魂に最大の光を与えながら。  透明となった自らは、月と海と、贈る調べと一体となる。自らの魂を込めたこの箏奏は最愛の、その魂を呼び覚ます。  呼び覚まされし魂は、眩い月を揺らすほどに透明な歌声を響かせる。その歌声は贈る調べと調和して、果てなく広がる海を永遠に青白く輝かせる。  月は海は、この調べは、彼女に永遠の生を与えるであろう。たとえ、自らの生が消えてなくなる日が来たとしても。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

泣けない、泣かない。

黒蝶
ライト文芸
毎日絶望に耐えている少女・詩音と、偶然教育実習生として彼女の高校に行くことになった恋人・優翔。 ある事情から不登校になった少女・久遠と、通信制高校に通う恋人・大翔。 兄である優翔に憧れる弟の大翔。 しかし、そんな兄は弟の言葉に何度も救われている。 これは、そんな4人から為る物語。 《主な登場人物》 如月 詩音(きらさぎ しおん):大人しめな少女。歌うことが大好きだが、人前ではなかなか歌わない。 小野 優翔(おの ゆうと):詩音の恋人。養護教諭になる為、教育実習に偶然詩音の学校にやってくる。 水無月 久遠(みなづき くおん):家からほとんど出ない少女。読書家で努力家。 小野 大翔(おの ひろと):久遠の恋人。優翔とは兄弟。天真爛漫な性格で、人に好かれやすい。

【3】Not equal romance【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
大学生の桂咲(かつら えみ)には異性の友人が一人だけいる。駿河総一郎(するが そういちろう)だ。同じ年齢、同じ学科、同じ趣味、そしてマンションの隣人ということもあり、いつも一緒にいる。ずっと友達だと思っていた咲は駿河とともに季節を重ねていくたび、感情の変化を感じるようになり……。 「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ三作目(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。 ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」にも掲載)

ファンタジーは突然に

皆木 亮
ライト文芸
飛び交う電波、萌え上がる劣情、 禁断のフェチ、そして日常の瓦解…… あなたも変人目指して、 この小説を読む事にチャレンジしてみませんか? 投稿小説「ファンタジーは突然に」、 ・・・・・・通称「ファン突」は、 妹に性欲をもてあます 『お兄ちゃん』や『お姉ちゃん』を募集中です☆ 該当する皆さんは、 どうか是非読んで行って下さいね☆ 内容としては、ロリ物の、健全(?)、電波系、恋愛/ラブコメ物になってます! 「怖くないよ~! みんな、おいで! おいで!」

処理中です...