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第三章 異 変 《Accident》
44 大事なのはインスピレーション
しおりを挟むリュウのことを嫌いなわけじゃないから、ムゲにも断れない。
ワケの分からない夢の連続に、白昼夢。プラス、晃一郎の、挙動不審。続く、階段転げ落ち事件。追い討ちの、リュウの告白。
いったい、今日はなんという日なのだろう。
天中殺ってやつだろうか?
正直、優花の心のキャパシティーは、いっぱいいっぱいで、もう飽和状態。
「はぁーーーーーっ……」
魂が抜け出そうなくらいの、何度目かの大きなため息を吐き出し、優花はガックリとうなだれた。
「まあ、そんなに深刻にならなくてもいいんじゃない? 『わー、初めて告られちゃったー、てへっ』くらいな気持ちでいればさ」
さすがに不憫になったのか、玲子がよしよしと肩をたたきながらフォローを入れてくれるが、優花の沈みきったテンションはそう簡単には回復しない。
「タキモトって、そんなに悪いやつじゃないと思うけど?」
愉快げに目じりを下げる玲子の言葉に、優花は、不本意そうに唇を尖らせる。
「リュウくんは、いい人だよ。優しいし、面白いし。良い友達になれるなぁとは思うけど、それ以上は考えられないよ」
少なくとも、今は。
「それで、いいんじゃない?」
「え?」
「『ああ、馬が合いそう』っていう第一印象って、意外と大事だと思うよ、男と女に限らずね。アタシと優花だって、そうだったじゃない?」
数年前。中学で初めて玲子と出会ったときのことを、思い出してみる。
確かに、目があって、ニッコリ笑顔を返されて『よろしくね』って手を差し出されたその時に、『ああ、この人とは長い付き合いになる』って、確信めいたものが過ぎったけど。
その通り、今もこうして気の置けない一番の友達だけど。何事も、例外と言う物があるわけで。
そもそも、女同士の友情と、恋愛をいっしょくたにしてもいいものか。経験値の少ない優花には、皆目、見当もつかない。
「まあ、うん。そうだったけど……」
「うーーん。これ教えちゃうと、返って優花の負担になるかもだけど。タキモトが本気なら本人が言うだろうし、じゃなくても、そのうち外野が気付くだろうし、黙ってても耳に入るだろうから、言っちゃうね」
「へ……?」
「タキモトの言った『留学の目的の一つが花嫁探し』って、まるっきりの嘘でもないみたいなんだな、これが」
「は……?」
玲子が、濃紺のブレザーのポケットから最新のスマートフォンを取り出し、何事か操作して『ほらこれ』と、出した画面を優花に見せる。その画面に視線を走らせた優花は、僅かに眉をひそめた。
映し出されているのは、インターネットの社会欄のニュース画面だ。
そこに、見覚えのある、エンジェル・スマイルをたたえて紳士然とスタイリッシュなスーツを着こなした、赤毛・碧眼の美青年の姿が映し出されていた。
その青年は、なにやら、SPらしき黒ずくめの軍団に囲まれた偉そうな政治家風の恰幅の良い男性と、にこやかに握手をかわしている。
「これって、リュウくん……だよね?」
どうして、一介の留学生が、ニュース記事になっているのだろう? それも、社会欄の。
純粋に不思議に思いながら書かれている記事を追っていた優花の目が、驚きに見開かれる。
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