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第二章 記 憶 《Memory-1》

26 頬ずり攻撃

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――そういえば、私の晃ちゃんも、理数系が得意だったりする。

 もしかしたら、将来、お医者様になったりするのだろうか?

『私の晃ちゃん』

 思わず『私の世界の晃ちゃん』を省略してしまい、そのフレーズでハッと脳裏に甦ったのは、ここの晃一郎の『俺の優花じゃない』という、苦しげな言葉。

 ここが自分が居た世界と良く似た世界なら、晃一郎とそっくりな金色頭のスーパー晃一郎がいるのなら、もしかして。

「あの、つかぬ事をお聞きしますが……」

『ここにも如月優花――さんは、居るんでしょうか?』

 と、もちろん、晃一郎にではなく博士に尋ねようとしたその時だった。ガラリ! と突然、何の前触れもなく病室のスライドアが勢いよく全開し、優花たち三人は、弾かれたように入口へと視線を走らせた。

 そしてすぐさま続いたのは、女性にしてはハスキーボイスの絶叫。

「やだ、本当に、優花ーーっ!?」

――え?

 スレンダーなボディーに、健康そうな小麦色の肌。

 好奇心に満ちた生気溢れる大きな瞳と、揺れる、少し癖のあるセミロングの栗色の髪。

 黒と栗色。髪の色が違うことを除けば、優花を視認するなりベッドサイドに怒涛のように駆け寄り、躊躇う様子もなく優花の首ったまに抱きついて頬ずりしてきた女の子は、村瀬玲子。

 間違いなく、優花の三年来の親友だった。

「優花だ、優花だ。このモチモチ、プニプニ、プルル~ン! この感触、間違いないっ。やっぱり優花なのねぇっ!」

――あわわわわっ!

「……博士ですか? こいつに、優花のことを教えたのは」

 ベッドに横たわったまま、ほとんど伸し掛かられ状態で更に熱烈な玲子の頬ずり攻撃にさらされ、言葉も上げられずに、ただただ目を白黒させていたら、晃一郎の唸るような低い声が降ってきた。

『こいつ』の、イントネーションに、何かただならぬ殺気を感じる。でも、博士はそんなことを気にする様子は微塵もなくニコニコと邪気のない笑顔で答える。

「ああ、私が連絡したんだよ。どちらにしろ、知らせずとも村瀬くんなら遠からず駆けつけただろう? ならば、最初から教えておいても問題はないと思うよ。それに、優花ちゃんのこれからにも村瀬くんの人脈とコネは有用だろう?」

 と、さらにニッコリと笑みを深めた。

 晃一郎は一言も反論できず、でも、明らかに不服そうな渋面を作った。

「ナァニ? 御堂、アタシに知らせないでバックれるつもりだったんだ? へぇー。さすがに特Aランク様は、やる事がエゲツなくていらっしゃる」

 優花の頬から自分の頬を引きはがし、でも首に回した手は離さないまま、玲子は、ギロリと鋭い眼差しと棘だらけの言葉を晃一郎に投げつける。

 そこかはとなく漂う不穏な空気を感じ取り、優花は首をかしげた。

――あれれ?

 もしかして、こっちの世界の晃ちゃんと玲子ちゃんって、犬猿の仲なの?

「違うわよ、恋敵だったの! こいつは、アタシの大事な親友を毒牙にかけた憎っくきオオカミ野郎なのよっ」

 まるで優花の気持ちを読んだかのように、玲子は、優花に大きすぎる声で耳打ちをする。

――それって、恋敵?

 というか、玲子ちゃんも心が読める人なの?


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