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第二章 記 憶 《Memory-1》

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『診察』と言いっても、聴診器を胸に当てたりする訳ではなく、ベッド自体に診察機器が組み込まれているらしく、優花は、ただ横になっているだけで済んでしまった。

 これで診察ができてしまうというのは、自分が居た世界よりもかなり医療技術が進んでいる証拠で、おそらく、そのおかげで命拾いをしたのだろうと、優花は思った。

 あっと言う間の診察の後。

「うん。体じたいは、ほぼ完治しているね」

 との、鈴木博士のお墨付きを貰うことができた。

 ただ、三週間の間寝たきりだったため体力と筋力が落ちていて、しばらく休養とリハビリが必要だとも言われた。

――三週間も眠っていたなんて、全然、実感がわかないや。

「それで、手が思うように動かなかったんだ……」

 思わず、へなへなと肩の力が抜けてしまう。もしもこのまま、体が元に戻らなかったらどうしようかと思った。

「まあ、せいぜい地道にリハビリを頑張るんだな、優花」

――って、偉そうにあんたが言うな、ヒヨコ頭!

 と晃一郎を睨みつけていたら、博士がやっぱり邪気の欠片もない微笑みをたたえて、凶悪この上ないことを言い放った。

「そうだね。リハビリに関しては、御堂君がついているから大丈夫だろう。彼はこう見えても、腕の良いドクターだからね」
「は……い?」

――誰が、なんですって?

 ニコニコと穏やかな笑顔で言葉を続ける博士は、けっして冗談を言っているふうではない。

「ああ、まだ君は知らなかったんだね。御堂君には私の研究の助手をして貰っているんだが、彼は、優秀な研究者でもあり、第一線で活躍する新進気鋭の医師でもあるんだよ」

「は……?」

「特にリハビリ関係には強いから、安心して任せると良いよ」

「はい!?」

――な、なんで中学生が、研究助手でお医者様っ!?

 瀕死の錦鯉のように、口をあんぐりと開けたまま固まっている優花に、優しい博士が説明してくれた。

 基本的に同じような世界のパラレルワールドでも、まったく同じわけではなく、少しずつ違いがあり、この世界は優花の居た世界よりも医療技術とESPの開発が進んだ世界のようだ。

 ESPイーエスピーと言うのは、超能力のことで、ESPを使う人をESPERエスパーと呼ぶ。

『少しずつ違う』部分には、人の年齢も含まれていて、なんとこの世界の晃一郎は今十八歳だという。

――道理で、若干、視線の位置が上だと思った。

 ここの世界では十歳で、優花の居た世界の大学程度までの義務教育が終わり、その後、本人の希望及び適性に合わせて職業に就くのだそうだ。

 晃一郎は、十二歳で医師免許を取得後、免許取得の際に書いた論文が認められ、是非にと乞われてこの国営の研究所にやってきた有望株。

 おまけに、この世界で五人しかいない貴重なESP特Aというランクの能力者なので、『SA特別国家公務員』と言うかなり凄い肩書を持っているのだとか。

 つまり、国きってのエスパーで若手のホープ、期待の星!

 それが、ここの御堂晃一郎。

――じ、冗談でしょ?
 なんなの、このスーパーマンぶりはっ!?――

 もう、呆然とするしかない。

「ああ、俺の事は、御堂先生って呼んでくれていいから、如月優花さん」

 ニンマリと、悪魔がほくそ笑んでいる。

 これを悪夢と言わず、何と言うのか。


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