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第二章 記 憶 《Memory-1》
22 心を読むのがテレパシー
しおりを挟む「悪い。本当は勝手に他人の心を読むのは、マナー違反なんだ。でもお前の思考って無防備っつうか、ダダもれ……」
ゴニュョゴニョと語尾を濁しつつ、困ったように鼻の頭をポリポリかく晃一郎の顔を、穴があくほど見つめる。
――ま、まさか。
夢うつつの中で感じた晃ちゃんの手の温もりと、頭に直接響いてくる不思議な声。苦しさが見せた幻なんだと思っていたけど、本当に心が読めるなんてこと……。
「あるんだな、これが。正真正銘、俺は心が読める。ついでに言うとESP――、超能力全般の特A級の能力者なんだ」
「……」
「その顔は、信じてないな?」
信じろって言われても。
十五年培ってきた一般常識が、『そりゃあ嘘でっせ』と邪魔をする。
「あははは……」
と、全てを冗談にしたいと切に願いつつ、乾いた笑いを浮かべていたら、突然体がフワリと浮いて全身見事に固まった。
ベッド上、三十センチ。
フワリ、フワフワ。重力なんて何のその。
私は、空飛ぶ妖精さん?
と、危ないほうに思考が逃げかけて必死に気を取り直し、晃一郎の方にキッと鋭い視線を投げる。
でも晃一郎は動じるそぶりもなく、むしろ楽しげに、ベッド脇のパイプイスに鎮座したまま両腕を組んでうんうん頷きながら、なんと超能力の講釈を始めた。
「念じるだけで勿体に物理的効果を与える現象をPK又はサイコキネシスというんだ。今、俺が使っているのがこのPKだ」
ニッコリ、満面の笑顔を向けられて、優花の頬は盛大にひきつる。
「で、心を読むのがテレパシー、精神感応で、他にも予知とか透視とか、エトセトラエトセトラ……」
「こっ、晃ちゃんっ! なんでも良いから早く降ろしてっ!」
浮遊感に堪え切れずそう叫んだ瞬間、今度は体がすうっと横にスライディングして、ぎゃっ! っと情けない悲鳴を上げてしまった。
なに? なんなの? この位置関係!
晃一郎の膝上、五十センチ。
真上に浮かんだまま、優花は涙目になりながら晃一郎を見下ろした。
「信じた?」
こくこくこく。
必死に頷き、早く降ろしてと目で訴える。
「それは良かった」
「ひゃっ!?」
フッと浮遊感が消えた次の瞬間、今度は真下に自由落下で、声がひっくり返った。落ち行く先は、両手を広げて待ち構える策士様の、膝の上。ナイスキャッチでお姫様抱っこに収まり、にっこり満面の笑みを浮かべる整った顔をまじかで見て、優花は悟った。
この人は晃ちゃんだけど、私の幼なじみの晃ちゃんではない、と。
そして、信じざるを得ないこの事実。
どうやら、優花はパラレルワールドに、迷い込んでしまったらしい――。
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