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第二章 記 憶 《Memory-1》
20 残酷な沈黙
しおりを挟むそして再び、少しばかり長い眠りから目覚めた時、優花は、自分の視力が回復していることを知った。
重いまぶたをゆっくりと数回瞬かせ、視界いっぱいに見えている白いものが、部屋の天上なのだとぼんやりと理解し始めたその時。
「よう、目が覚めたか、寝坊助!」
という聞き覚えのあるやたらと明るい声と共に、不意に視野を埋め尽くした珍妙なモノに、一瞬、ギョッと目を見張った。それこそ、目も覚めるような蛍光金色に、まださめやらぬ脳細胞が一気に叩き起こされる。
御堂晃一郎。
優花の、親愛なる幼なじみ殿に間違いはない。
でも大きく変わった、というか物凄くヘンテコな個所が一つあった。だから思わず第一声。
「……何、その派手な髪の毛?」と、つぶやいてしまった。
ベッドを覗き込むようにしていた晃一郎の表情が、心配げな真面目くさったモノから、なんとも言えない脱力したモノに変化して、ついには、こらえきれないように笑いだした。
「え、何? 私、何か変なこと言った?」
「いや。やっぱり、優花なんだと思って。目覚めて最初にそこに関心がいくなんてさすがに優花だ」
語尾が微かに笑っている。
――だって、金色頭って、明らかに変でしょうが?
バカにされている気がして、思わず頬がぷうっと膨らんでしまう。そんな優花に向けられる晃一郎の眼差しは優しい。
「元気になって良かったな」
意外に優しい声音が降ってきて、おまけにポンポンと頭を叩かれ、ついでにほっぺをムギュッとつかまれて、何だか妙に照れくさくなってしまう。
「う、うん、ありがとう」
――なんだか、髪の色だけじゃなくて、いつもの晃ちゃんと違う気がする。
こう何というか、いつもより、フレンドリー?
それにしても、なぜ晃ちゃんがここに居るのだろう?
たぶんここは病院だと思うけど、普通こういう時は家族が最初に面会に来るものじゃ――。
そこまで考えを巡らせて、肝心なことを聞き忘れていたことに気付いて、ドキリとした。
聞くのが怖い。
でも、聞かない訳にはいかない、大切なこと。
晃一郎の手を借りてベッドの上に上体を起こした優花は、ギュッと唇をかみしめ、意を決して言葉を絞り出した。
「晃ちゃん……」
「うん?」
逸らしたくなるのを必死にこらえて、真っ直ぐ晃一郎の瞳を見据える。
「……お父さんと、お母さんは?」
何かをためらうように、微かに揺れる晃一郎の瞳。
答えの代わりに、残酷な沈黙が落ちた。
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