上 下
20 / 132
第二章 記 憶 《Memory-1》

20 残酷な沈黙

しおりを挟む


 そして再び、少しばかり長い眠りから目覚めた時、優花は、自分の視力が回復していることを知った。

 重いまぶたをゆっくりと数回瞬かせ、視界いっぱいに見えている白いものが、部屋の天上なのだとぼんやりと理解し始めたその時。

「よう、目が覚めたか、寝坊助!」

 という聞き覚えのあるやたらと明るい声と共に、不意に視野を埋め尽くした珍妙なモノに、一瞬、ギョッと目を見張った。それこそ、目も覚めるような蛍光金色に、まださめやらぬ脳細胞が一気に叩き起こされる。

 御堂晃一郎。

 優花の、親愛なる幼なじみ殿に間違いはない。

 でも大きく変わった、というか物凄くな個所が一つあった。だから思わず第一声。

「……何、その派手な髪の毛?」と、つぶやいてしまった。

 ベッドを覗き込むようにしていた晃一郎の表情が、心配げな真面目くさったモノから、なんとも言えない脱力したモノに変化して、ついには、こらえきれないように笑いだした。

「え、何? 私、何か変なこと言った?」

「いや。やっぱり、優花なんだと思って。目覚めて最初にそこに関心がいくなんてさすがに優花だ」

 語尾が微かに笑っている。

――だって、金色頭って、明らかに変でしょうが?

 バカにされている気がして、思わず頬がぷうっと膨らんでしまう。そんな優花に向けられる晃一郎の眼差しは優しい。

「元気になって良かったな」

 意外に優しい声音が降ってきて、おまけにポンポンと頭を叩かれ、ついでにほっぺをムギュッとつかまれて、何だか妙に照れくさくなってしまう。

「う、うん、ありがとう」

――なんだか、髪の色だけじゃなくて、いつもの晃ちゃんと違う気がする。

 こう何というか、いつもより、フレンドリー?

 それにしても、なぜ晃ちゃんがここに居るのだろう?

 たぶんここは病院だと思うけど、普通こういう時は家族が最初に面会に来るものじゃ――。

 そこまで考えを巡らせて、肝心なことを聞き忘れていたことに気付いて、ドキリとした。

 聞くのが怖い。
 でも、聞かない訳にはいかない、大切なこと。

 晃一郎の手を借りてベッドの上に上体を起こした優花は、ギュッと唇をかみしめ、意を決して言葉を絞り出した。

「晃ちゃん……」
「うん?」

 逸らしたくなるのを必死にこらえて、真っ直ぐ晃一郎の瞳を見据える。

「……お父さんと、お母さんは?」

 何かをためらうように、微かに揺れる晃一郎の瞳。

 答えの代わりに、残酷な沈黙が落ちた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

月は夜をかき抱く ―Alkaid―

深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。 アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

【完結】君とひなたを歩くまで

みやこ嬢
ライト文芸
【2023年5月13日 完結、全55話】 身体的な理由から高校卒業後に進学や就職をせず親のスネをかじる主人公、アダ名は『プーさん』。ダラダラと無駄に時間を消費するだけのプーさんの元に女子高生ミノリが遊びに来るようになった。 一緒にいるうちに懐かれたか。 はたまた好意を持たれたか。 彼女にはプーさんの家に入り浸る理由があった。その悩みを聞いて、なんとか助けてあげたいと思うように。 友人との関係。 働けない理由。 彼女の悩み。 身体的な問題。 親との確執。 色んな問題を抱えながら見て見ぬフリをしてきた青年は、少女との出会いをきっかけに少しずつ前を向き始める。 *** 「小説家になろう」にて【ワケあり無職ニートの俺んちに地味めの女子高生が週三で入り浸ってるんだけど、彼女は別に俺が好きなワケではないらしい。】というタイトルで公開している作品を改題、リメイクしたものです。

颯(はやて)

おりたかほ
ライト文芸
小さな女子校の小さな出来事。 美術部部長と引きこもり顧問の話。 感染症対策に明け暮れた青春の記録。 当時図らずも染みた漱石「こころ」へのオマージュ作品です。

大杉緑とは俺様だ(完結)

有住葉月
ライト文芸
大正時代を圧巻した男とは俺のこと。社会も女もみんなが振り返る。ハハハ。世の中を変えてやる! 時代を変えようとした大杉を描きます。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

妹は欲しがりさん!

よもぎ
ライト文芸
なんでも欲しがる妹は誰からでもなんでも欲しがって、しまいにはとうとう姉の婚約者さえも欲しがって横取りしてしまいましたとさ。から始まる姉目線でのお話。

処理中です...