6 / 132
第一章 変 化《Change》
06 もう、何を考えてるのよ?
しおりを挟む晃一郎と二人。「行ってきまーす」と元気に玄関を出れば、そこにあるのは、いつもと変わらない朝の風景。
閑静な住宅街を抜けて、最寄りのバス停まで徒歩十五分。かっちりスーツの眼鏡のサラリーマン氏にぽっちゃりえくぼのOLさん、小型犬のマルチーズと散歩中のおじいさん。通り過ぎる、見慣れた町並みと見知った人たち。
違うのは、実に気分よさそうに鼻歌交じりで半歩前をのんびりと歩く、幼なじみだけ。チラリと盗み見たその横顔には、親戚で不幸があったばかりとは思えないほど明るい表情が浮かんでいる。
大分秋めいてきた淡いブルーの空を背景に、くっきり浮かび上がる金色の髪に、どうしても目が行ってしまう。
とうのご本人様はと言えば、すれ違う人たちが皆一様にギョッと目を見張り、『触らぬ神に祟りなし』とばかりに視線をすうっと外していることを意に介する風もない。
――晃ちゃんったら、これから待っているはずの、大難関をどうするつもりなんだろう?
通学路ではギョッとされるだけで済むけど、学校に入ったらそうはいかない。そもそも、学校に入れるか、とっても怪しい。
校門には、おそらく『仁王様』こと、生活指導の山崎先生が立っているはず。山崎先生は、バリバリの体育会系。剣道部の顧問もしていて、規則に厳しいので有名だ。
生徒の服装・頭髪チェックに生きがいを見出しているんじゃないかと思うほどの熱心さで、毎朝、校門に立っている。そう、仁王様よろしく、鋭い眼光を放って校門に立っているのだ。
入学当初、色素の薄い地毛でさえ『染めているのじゃないか』と、一度は注意を受けている晃一郎は、先生に顔を覚えられているはず。第一、このカラフルな髪が、見とがめられないはずがない。
そして、案の定。
「み、御堂……?」
晃一郎を視界に捕らえたその刹那、先生の顔は瞬間湯沸かし器のように上気し、ただでさえ怖い三白眼が血走って更に迫力を増している。
――う、うわぁ……。こ、怖すぎっ。
次に来るだろう嵐の予感に、優花が身をすくめたその時。
「御堂晃一郎っ! なんだ、その髪の色はぁっ!?」
校門前に漂うピリピリとした空気をつん裂いて、山崎先生の重低音の怒声が響き渡った。
予想通り、先生に捕まった晃一郎は、そのまま生徒指導室へ強制連行されてしまった。
上背のある晃一郎だが、さらに背が高い大柄でガッチリ体形な山崎先生に手を引かれるその姿は、なんだか吹けば飛びそうに見えて、まるで、市場へ引き出されるイタイケナ子牛のようなその姿が哀愁を誘う。
優花の脳内を、『ドナドナ』の、どこか物悲しいメロディーが流れていく。
「晃ちゃん……」
どうすることもできずにただオロオロと見ている優花に、一つきれいなウインクを残して手をひらひら振って。まるで、この危機的状況を楽しんですらいるふうに見える晃一郎の態度に、優花は眉根を寄せた。
――もう、何を考えてるのよ?
いつもと違う晃一郎の様子に、胸の奥に生まれたのは、漠然とした不安。
やはり、祖父の死が、影響しているのだろうか?
でも、それとは、何か違う気がする。
晃一郎の思考回路が全く理解できない優花は、その漠然とした不安を胸に一人、とぼとぼと教室に足を向けた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
心を切りとるは身を知る雨
水城ひさぎ
ライト文芸
未央(みお)にはかつて婚約者がいた。婚約者の裏切りにより、婚約を解消し、まったく縁のない土地に引っ越した未央は、切り絵作家として店を開く。
未央の作る作品はすべて、雨がテーマ。作品の雨は泣けない私の涙。そう語る未央の店に、中学教師の朝晴(ともはる)が訪ねてくる。朝晴は何かと未央におせっかいを焼く。傷ついた未央の心を癒すのは朝晴なのか、それとも……。
猫スタ募集中!(=^・・^=)
五十鈴りく
ライト文芸
僕には動物と話せるという特技がある。この特技をいかして、猫カフェをオープンすることにした。というわけで、一緒に働いてくれる猫スタッフを募集すると、噂を聞きつけた猫たちが僕のもとにやってくる。僕はそんな猫たちからここへ来た経緯を聞くのだけれど――
※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。
私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。(すみません、予定がのびてます)
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。
ファンタジーは突然に
皆木 亮
ライト文芸
飛び交う電波、萌え上がる劣情、
禁断のフェチ、そして日常の瓦解……
あなたも変人目指して、
この小説を読む事にチャレンジしてみませんか?
投稿小説「ファンタジーは突然に」、
・・・・・・通称「ファン突」は、
妹に性欲をもてあます
『お兄ちゃん』や『お姉ちゃん』を募集中です☆
該当する皆さんは、
どうか是非読んで行って下さいね☆
内容としては、ロリ物の、健全(?)、電波系、恋愛/ラブコメ物になってます!
「怖くないよ~! みんな、おいで! おいで!」
見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
10万字未満の中編予定です。投稿数は、最初、多めですが次第に勢いを失っていくことでしょう…。
泣けない、泣かない。
黒蝶
ライト文芸
毎日絶望に耐えている少女・詩音と、偶然教育実習生として彼女の高校に行くことになった恋人・優翔。
ある事情から不登校になった少女・久遠と、通信制高校に通う恋人・大翔。
兄である優翔に憧れる弟の大翔。
しかし、そんな兄は弟の言葉に何度も救われている。
これは、そんな4人から為る物語。
《主な登場人物》
如月 詩音(きらさぎ しおん):大人しめな少女。歌うことが大好きだが、人前ではなかなか歌わない。
小野 優翔(おの ゆうと):詩音の恋人。養護教諭になる為、教育実習に偶然詩音の学校にやってくる。
水無月 久遠(みなづき くおん):家からほとんど出ない少女。読書家で努力家。
小野 大翔(おの ひろと):久遠の恋人。優翔とは兄弟。天真爛漫な性格で、人に好かれやすい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる