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第一章 春の真ん中、運命の再会
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しおりを挟むあれから、早、九年あまり。
俺も、それなりに女性と付き合いはしたが、なぜか長続きしなかった。
たぶん思うに、いつも心の奥底に、消せない想いがあったから。
なんてセンチメンタルなこと、二十五歳にもなるいい年の大人の男が言っても笑われるだけだが。特に、あいつ、いとこの亜弓なんかには、特に。
思わず、自室で一人寂しく缶ビール片手に思い出にひたってしまったが、伊藤のリクエストもあったことだし、亜弓と三池に連絡をとるとするか。
伊藤のプロサッカー初試合は、ゴールデンウィーク真っただ中。亜弓のやつは毎年、仲がいい会社の先輩と旅行に行くと言っていたが、今年はどうだろう?
スマホの時計表示を確認すればもう夜の八時を回っている。この時間なら、さすがにもうアパートに戻っているだろう。
とりあえず、かけてみるか。
缶に残っていたビールを飲みほし、ぐしゃりと潰して木製の片袖デスクのわきに置いてあるゴミ箱に投げ込めば、ナイスゴール。
なんとなくいい予感がして、口の端を上げる。
床からベッドに座り直してスマホに登録してある携帯番号にコールすると、たっぷり十コール待たされた後、亜弓は寝ぼけた声で電話口に出やがった。
「何よー浩二、こんな時間にぃ?」
「なんだよ、もう寝てたのか?」
いつもよりもやや低い声音は、ご機嫌が斜めのようだ。
「寝てた。風邪っぴきでだるくて薬飲んでうとうとし始めたとこだったのにー」
「そりゃあ、悪かったな」
「ほんとだよ」
お前でも風邪をひくんだな、なんとかは風邪をひかないのに。と言いそうになり口をつぐむ。
いつものケンカをしてる場合じゃなかった。
「お前さ、ゴールデンウィーク、予定入ってるのか?」
「うん、びっちり入ってる」
即答だ。それも沈んでいた声が明るくなった。これは、いつもの旅行だな。
「うひひひ。聞いて驚け! 今年はなんと海外旅行デビューじゃー! ハワイよハワイ。ハワイのビーチで日焼け三昧するのさっ!」
「お前、風邪でだるかったんじゃないのか? なんだそのハイテンションは」
「楽しいことの前には、風邪なんて……クシュンッ!」
「ちなみに、その旅行の相手は、彼氏か?」
「え? 今回は違うよ。会社の仲が良い先輩。あ、もちろん女性ね」
今回はってことは、いつもの旅行の同伴者は彼氏ってことだな。
「あ、そう。なら、別にいいんだ」
「ふーん?」
旅行の相手が誰にしろ、楽しい予定があるなら、わざわざ伊藤のことを知らせて水をさすこともないだろう。伊藤のプロサッカー入りのことは、次のお盆の帰省の時にでも教えてやればいい。
亜弓に彼氏がいるなら、なおさら、その方がいいだろう。こいつは変に生真面目で思い込みが激しいところがあるから、よけいな雑音は耳に入れないほうが賢明だ。
「早く風邪なおして、元気で行ってこい」
「え? うん。そうする」
「じゃあ、また、盆の親族会のときにでもな」
「うん、またねー」
用件を煙に巻いてしまった。亜弓は、若干腑に落ちない様子だったが、いつものように、和気あいあいと電話を切る。
まあ、亜弓は欠席ということでOK。さて、次はいよいよ、本命・三池の所だ! と気合を入れたところで、はたと気づいた。
「あ……。亜弓に三池の連絡先聞くの、忘れた」
亜弓のことだから、電話を切った瞬間、速攻で眠りにかかっているに違いない。あいつは、寝つきがすこぶるいい。そしてその分、寝起きは機嫌がかなり悪い。つまり、寝ぎたないわけだが、かけなおしたりしたら、又、機嫌が斜め上に向きかねない。
それに、「なんであんたが陽花に連絡を取る必要があるの?」と突っ込まれること、間違いなしだ。
「うーん。三池のスマホの番号、変わってないといいが……」
半分、祈るような気持ちで、スマホに登録してある三池の電話番号をタップする。
プルル、プルルとコール音がなるたびに、鼓動が大きくなる気がした。
――そういえば、三池に電話するの初めてだな、俺。
電話番号交換はしたものの、かける用事もチャンスもついになかったのだ。
そんなことを考えていたら、ぷちり、と電話が繋がって、俺はドキッと固まった。
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