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四者2

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 旦那様は人姿の吽形と、神獣姿の阿形を見た。

「お前達も同じだ。直接手を加えなくとも、元は神の、祟りの大蛇だ。獅子と狛犬に神罰が下るかもしれない。そもそも、神なしの神社に阿吽あうんの獅子と狛犬は不要、とその存在自体が消えるかもしれない。覚悟は一つではない、重ねておけ」

 そう言われ吽形がきっぱりと返す。

「承知の上だ」

 いまだ胸にもやが漂う阿形は、生意気な具合に首を逸らせてみせた。

「お前なんぞに言われなくともわかるわ」

 旦那様は獅子と狛犬へとにっと笑い、続ける。合いの手は受けても、返しはしないようだ。

「こちらの駒は……神獣の牙と角を授けられた、人かどうかわからん娘。元来の気性の荒さにくわえ、得物も得たからな。神獣よりかは、荒場に向いている生き物だ」

 カワセミは頷くと、自分の体を確かめるように肩を回し拳を作り、力の具合を確かめた。

「だいぶ人より強くなった、夜目も利くな。この体をどう動かすかは本番で習う。まぁ大丈夫だろう、私ならば出来る。それに、この守り符の御利益もあるしな」

 拳を開き、着物の合わせへと手を置いた。『ただの人』だった時に、邪気と衝撃から守ってくれた守り符が、いまだ優しい気配でそこにある。
 阿形がその仕草を見て、軽く尻尾を振って見せた。

「そう言えば、それいいな。カワセミを背に乗せていた時、わしもだいぶ御利益ごりやくに預かった」

「……」

 阿形に言われ、一寸カワセミが間を取った。そして首を傾げ二対を見る。

「阿吽の作りだろう、これ。獅子と狛犬の御利益じゃないのか?」

「「や、そこまでの効力はない」」

「……」

 御利益の不正は許されない、とばかりに阿形と吽形がきっぱりと否定した。吽形が阿形に確認を取りながら、カワセミに言う。

「わしらのは、噛み付きによってわしらの気配を守り符に宿し、カワセミの心持ちに寄り添うもの。正しい意味での、気の持ちようってやつだ。それと、獅子狛でいえば……家内安全、無病息災だな」

 獅子の阿形が頷き、あっと口を開け、ぱちんと閉じ同意を強く示した。

「邪気を祓って肉体を衝撃から守る、穢れさえも寄せ付けぬよう、気配一つで散らす。守り符一枚でそんな上等な御業を成すのは――神様ぐらいじゃ。カワセミ、なんぞ神仏と縁を結んだか? あし贔屓びいきのお前だ、馬頭観音ばとうかんのんを味方につけただとか、動物霊に慈愛を示したとか……心当たるものがあるだろう」

 吽形がカワセミの顔を覗く。

「カワセミを強く守ろうとしている御柱だ。おそらくは、側にいるはずだ」
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