132 / 147
四者2
しおりを挟む旦那様は人姿の吽形と、神獣姿の阿形を見た。
「お前達も同じだ。直接手を加えなくとも、元は神の、祟りの大蛇だ。獅子と狛犬に神罰が下るかもしれない。そもそも、神なしの神社に阿吽の獅子と狛犬は不要、とその存在自体が消えるかもしれない。覚悟は一つではない、重ねておけ」
そう言われ吽形がきっぱりと返す。
「承知の上だ」
いまだ胸にもやが漂う阿形は、生意気な具合に首を逸らせてみせた。
「お前なんぞに言われなくともわかるわ」
旦那様は獅子と狛犬へとにっと笑い、続ける。合いの手は受けても、返しはしないようだ。
「こちらの駒は……神獣の牙と角を授けられた、人かどうかわからん娘。元来の気性の荒さにくわえ、得物も得たからな。神獣よりかは、荒場に向いている生き物だ」
カワセミは頷くと、自分の体を確かめるように肩を回し拳を作り、力の具合を確かめた。
「だいぶ人より強くなった、夜目も利くな。この体をどう動かすかは本番で習う。まぁ大丈夫だろう、私ならば出来る。それに、この守り符の御利益もあるしな」
拳を開き、着物の合わせへと手を置いた。『ただの人』だった時に、邪気と衝撃から守ってくれた守り符が、いまだ優しい気配でそこにある。
阿形がその仕草を見て、軽く尻尾を振って見せた。
「そう言えば、それいいな。カワセミを背に乗せていた時、わしもだいぶ御利益に預かった」
「……」
阿形に言われ、一寸カワセミが間を取った。そして首を傾げ二対を見る。
「阿吽の作りだろう、これ。獅子と狛犬の御利益じゃないのか?」
「「や、そこまでの効力はない」」
「……」
御利益の不正は許されない、とばかりに阿形と吽形がきっぱりと否定した。吽形が阿形に確認を取りながら、カワセミに言う。
「わしらのは、噛み付きによってわしらの気配を守り符に宿し、カワセミの心持ちに寄り添うもの。正しい意味での、気の持ちようってやつだ。それと、獅子狛でいえば……家内安全、無病息災だな」
獅子の阿形が頷き、あっと口を開け、ぱちんと閉じ同意を強く示した。
「邪気を祓って肉体を衝撃から守る、穢れさえも寄せ付けぬよう、気配一つで散らす。守り符一枚でそんな上等な御業を成すのは――神様ぐらいじゃ。カワセミ、なんぞ神仏と縁を結んだか? 四つ足贔屓のお前だ、馬頭観音を味方につけただとか、動物霊に慈愛を示したとか……心当たるものがあるだろう」
吽形がカワセミの顔を覗く。
「カワセミを強く守ろうとしている御柱だ。おそらくは、側にいるはずだ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
迦国あやかし後宮譚
シアノ
キャラ文芸
旧題 「茉莉花の蕾は後宮で花開く 〜妃に選ばれた理由なんて私が一番知りたい〜 」
第13回恋愛大賞編集部賞受賞作
タイトルを変更し、「迦国あやかし後宮譚」として現在3巻まで刊行しました。
コミカライズもアルファノルンコミックスより全3巻発売中です!
妾腹の生まれのため義母から疎まれ、厳しい生活を強いられている莉珠。なんとかこの状況から抜け出したいと考えた彼女は、後宮の宮女になろうと決意をし、家を出る。だが宮女試験の場で、謎の美丈夫から「見つけた」と詰め寄られたかと思ったら、そのまま宮女を飛び越して、皇帝の妃に選ばれてしまった! わけもわからぬままに煌びやかな後宮で暮らすことになった莉珠。しかも後宮には妖たちが驚くほどたくさんいて……!?
ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜
長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。
幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。
そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。
けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?!
元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。
他サイトにも投稿しています。
未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)
京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。
だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。
と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。
しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。
地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。
筆者より。
なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。
なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
メゾン・ド・エシクス
世万江生紬
キャラ文芸
ここはソートスキルと呼ばれる異能力を持つ住人たちが生活を共にするメゾン・ド・エシクス。メゾンの調査にやってきた探偵事務所社員の双葉と空は変わり者の住人たちの生活を調査していく。時に殺伐と、時にのんびりと暮らす彼らの名は__。
「倫理」に出てくる思想家たちの紹介物語。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
千切れた心臓は扉を開く
綾坂キョウ
キャラ文芸
「貴様を迎えに来た」――幼い頃「神隠し」にあった女子高生・美邑の前に突然現れたのは、鬼面の男だった。「君は鬼になる。もう、決まっていることなんだよ」切なくも愛しい、あやかし現代ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる