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白うさぎ1
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神社の敷地の外、あぜ道から、夜に浮かぶ百石階段を見上げる者がいた。
手にはひび割れた鏡を持ち、紅い目でじっと石階段を見上げている。
石階段の先には紅い鳥居、その向うには暗い空が広がっている。
紅い目の傍で、低い声が言った。
「おや。一匹足りないな……、本来の主が来たというのに、迎えがたりんとは躾が甘いな」
紅い目が隣に立つ者を仰いだ。低い声は、旦那様。はと錦、忘八の楼主様、紅い目の物書きにとっての神様だ。
「……」
紅い目を細めて、白子の少女が笑った。
暗い夜に、ぼんやりと浮かぶほどの白い肌、背に編んだ三つ編みは絹糸の束のよう。紅い目を縁どる睫毛さえも、雪のように白い。
真白いその姿は、夏の夜に良く映える。
旦那様は、しつらえた白い振袖よりも、白く仄かに光るような少女へと頷いた。
「そうだな。躾も叱咤も後で成せばいい、傅く神獣がそろい、白い蛇を喰ったあとで」
旦那様が、蛇腹のような石階段へと仄暗い目を向け、歌うように囁く。
「白蛇を喰った白うさぎが神になる。真白いお前が、私の願いだけを叶い届ける、可愛い土地神になってから、ゆっくりと事を成していこう。さぁ、神殺しをやろう」
少女が鈴を転がす声で笑った。
旦那様に望まれることが全て嬉しく、高鳴る胸の音がそのまま喉へと通ったようだ。
無邪気で愛らしい笑い声。旦那様は、童遊びの鬼への合図を口へと出した。
「もう、いいよ」
「っ……」
少女が駆け出した。
白い三つ編みを背へと跳ねさせ、割れた鏡を持ち、社に隠れた神様を見つけ出し喰らうため。
そして、百石階段の新しい神様になるため。
旦那様の願いを叶えるため。
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