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アッシュ・テイラー、手紙に想う
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飲み会から数日経つと、悪友2人によって俺の現状は兵団内部で周知の事実となり、誤解は解けていった。
暫くは団員たちからはからかわれ、「紛らわしいんだよー!」と腹やみぞおちに拳を入れられる。
団長と副団長には休暇を取った間のことを報告し、礼を言ったところ、励ましの言葉をもらった。
俺は人や環境に恵まれていると思う。
サクラを落とすためのアピールに打ち込める、そんな大切な時期だが、俺とサクラの予定は暫く合わせられそうにない。
その間に俺は、この国でのサクラへの誠実を示すことに決めていた。
つまり、女性関係の清算である。
当然のことだが、サクラと出会ってから女性と関係を持ったことはない。連絡も取ってない。
だが、清算したというよりは、放置したようなもので、連絡する方法なんかはまだ残っていた。
俺は遊んでいた相手に連絡を取り、全員に謝ってまわり全ての関係を断った。
中にはかなり食い下がってくる子がいて、話を付けるのにかなり時間を要したが。
暫くの間は毎日のように訓練前に頬に紅葉型を付けている俺を、同僚たちは優しい顔で放置してくれる。
だが兵団のマドンナ、プラム・マーチだけは俺の頬を見て、嫌悪を表すように冷たい目で見てくるのだ。
「ねぇ、アッシュ。何かしたの?」
アルトにそう問われ、俺は首をかしげる。
「いや、心当たりはないが……まぁ女性からしたら気分のいいことじゃないだろうな」
「まあそうだろうね。ん? マーク、どうしたの?」
アルトはマークがマーチの去った方を見ていることに疑問を持ったようだ。
「……自業自得だな」
「誰が?」
「いや、何でもない」
マークはそう言って視線を外す。
俺とアルトはそこから特に言及しなかった。
サクラと会えない日が続くと、彼女の書いてくれた手紙たちが俺の支えだった。
俺は朝と夜に手紙を取り出し読み返すことが日課となっていた。
【 アッシュさんへ
いつも楽しいお手紙ありがとうございます。
今はアッシュさんが来ていた時よりも暑い季節になりました。
公園には夏のお花が咲いていて、木々が青々と輝いていますよ。
きっと植物園も以前一緒に行った時と、様変わりしていると思います。】
ニホンは季節によって気温が大きく変動する国らしい。
アーニメルタも多少の変動はあるが、地区ごとに気候が違うことの方が大きな地域差を生んでいる。
この手紙の返事で俺は、また植物園に一緒に行こうと誘ったのだ。
ほかの手紙を取り出す。
【 アッシュさんへ
今日はピアノの試験でしたよ!
アッシュさんも応援してくださったおかげで、実力を発揮できた気がします。
アッシュさんとまた植物園に行ける日を楽しみにしています。】
この手紙が届いたときは、嬉しくて夜にもかかわらず吠えてしまい隣の部屋の同僚が怒鳴り込んできたのだった。
好きな女性が会うことを楽しみにしてくれているなんて、お世辞でも嬉しいに決まっているだろう!
反省はしているが後悔はしていない。
そして今日届いた手紙を開く。
【 アッシュさんへ
今日は茶道のお稽古の日でした。
茶道は季節感を大事にするので、道具とかいろんなものが以前と変わっています。
今日はガラスの器で抹茶を立てたのですが、涼し気でとても美しかったです。
いつもより浅い茶碗なので、こぼさないかハラハラしましたが何とか上手に立てられましたよ。】
以前サクラは月2回、『サドウ』に通っていると言っていた。
精神が落ち着き、無になれる瞬間があるのだそうで、稽古の時間が好きらしい。
幼い頃からしているそうで、サクラの精神や凛とした雰囲気、佇まいにもそういった『サドウ』の癖が出ているのだそうだ。
とても彼女に似合った習い事だと、『キモノ』姿のサクラを瞼の裏に見てそう思った。
俺はサクラに似合う男になりたい、そのためにも女性関係の清算は絶対に必要だった。
俺はサクラへの返信を書くためペンを取る。
【 サクラへ
『サドウ』では季節によって、そんなにも道具が違うのか。
茶を立てながらハラハラしている君を見たかった。
きっとかわいいのだろうな。
サクラがよければ、また稽古に参加させてくれないか?
来週会えるのが今から楽しみで仕方ない。】
そこまで書いてペンを止める。
会いたい、好きだ、そう書いてもいいのだろうか? 重くないだろうか?
だが会えない分、手紙でしっかり好意も伝えたいと思ってしまう。
ペンを離してしばらく悩み、結局好きだとは書かなかった。会いたいは書いたが、好きは会ったときに直接伝えたい。
俺は書き終わった紙鳥を飛ばして床に就いた。
翌日届いたサクラからの手紙は、また茶会に招待するという旨と、来週の予定が短時間のランチであることを謝る内容だった。
全く、サクラは律儀というか真面目な子だ。気にしなくてもよいのに。
俺は短時間でも会って、傍にいられればそれだけで幸せなのに。
サクラの丁寧でどこか柔らかい文字をそっと指でなぞった。
文字からわかるサクラの面影に、どうしようもなく頬が緩む。
まだ来週にもかかわらず、何を話すか彼女と会う日を指折り数えて待っている俺がいた。
暫くは団員たちからはからかわれ、「紛らわしいんだよー!」と腹やみぞおちに拳を入れられる。
団長と副団長には休暇を取った間のことを報告し、礼を言ったところ、励ましの言葉をもらった。
俺は人や環境に恵まれていると思う。
サクラを落とすためのアピールに打ち込める、そんな大切な時期だが、俺とサクラの予定は暫く合わせられそうにない。
その間に俺は、この国でのサクラへの誠実を示すことに決めていた。
つまり、女性関係の清算である。
当然のことだが、サクラと出会ってから女性と関係を持ったことはない。連絡も取ってない。
だが、清算したというよりは、放置したようなもので、連絡する方法なんかはまだ残っていた。
俺は遊んでいた相手に連絡を取り、全員に謝ってまわり全ての関係を断った。
中にはかなり食い下がってくる子がいて、話を付けるのにかなり時間を要したが。
暫くの間は毎日のように訓練前に頬に紅葉型を付けている俺を、同僚たちは優しい顔で放置してくれる。
だが兵団のマドンナ、プラム・マーチだけは俺の頬を見て、嫌悪を表すように冷たい目で見てくるのだ。
「ねぇ、アッシュ。何かしたの?」
アルトにそう問われ、俺は首をかしげる。
「いや、心当たりはないが……まぁ女性からしたら気分のいいことじゃないだろうな」
「まあそうだろうね。ん? マーク、どうしたの?」
アルトはマークがマーチの去った方を見ていることに疑問を持ったようだ。
「……自業自得だな」
「誰が?」
「いや、何でもない」
マークはそう言って視線を外す。
俺とアルトはそこから特に言及しなかった。
サクラと会えない日が続くと、彼女の書いてくれた手紙たちが俺の支えだった。
俺は朝と夜に手紙を取り出し読み返すことが日課となっていた。
【 アッシュさんへ
いつも楽しいお手紙ありがとうございます。
今はアッシュさんが来ていた時よりも暑い季節になりました。
公園には夏のお花が咲いていて、木々が青々と輝いていますよ。
きっと植物園も以前一緒に行った時と、様変わりしていると思います。】
ニホンは季節によって気温が大きく変動する国らしい。
アーニメルタも多少の変動はあるが、地区ごとに気候が違うことの方が大きな地域差を生んでいる。
この手紙の返事で俺は、また植物園に一緒に行こうと誘ったのだ。
ほかの手紙を取り出す。
【 アッシュさんへ
今日はピアノの試験でしたよ!
アッシュさんも応援してくださったおかげで、実力を発揮できた気がします。
アッシュさんとまた植物園に行ける日を楽しみにしています。】
この手紙が届いたときは、嬉しくて夜にもかかわらず吠えてしまい隣の部屋の同僚が怒鳴り込んできたのだった。
好きな女性が会うことを楽しみにしてくれているなんて、お世辞でも嬉しいに決まっているだろう!
反省はしているが後悔はしていない。
そして今日届いた手紙を開く。
【 アッシュさんへ
今日は茶道のお稽古の日でした。
茶道は季節感を大事にするので、道具とかいろんなものが以前と変わっています。
今日はガラスの器で抹茶を立てたのですが、涼し気でとても美しかったです。
いつもより浅い茶碗なので、こぼさないかハラハラしましたが何とか上手に立てられましたよ。】
以前サクラは月2回、『サドウ』に通っていると言っていた。
精神が落ち着き、無になれる瞬間があるのだそうで、稽古の時間が好きらしい。
幼い頃からしているそうで、サクラの精神や凛とした雰囲気、佇まいにもそういった『サドウ』の癖が出ているのだそうだ。
とても彼女に似合った習い事だと、『キモノ』姿のサクラを瞼の裏に見てそう思った。
俺はサクラに似合う男になりたい、そのためにも女性関係の清算は絶対に必要だった。
俺はサクラへの返信を書くためペンを取る。
【 サクラへ
『サドウ』では季節によって、そんなにも道具が違うのか。
茶を立てながらハラハラしている君を見たかった。
きっとかわいいのだろうな。
サクラがよければ、また稽古に参加させてくれないか?
来週会えるのが今から楽しみで仕方ない。】
そこまで書いてペンを止める。
会いたい、好きだ、そう書いてもいいのだろうか? 重くないだろうか?
だが会えない分、手紙でしっかり好意も伝えたいと思ってしまう。
ペンを離してしばらく悩み、結局好きだとは書かなかった。会いたいは書いたが、好きは会ったときに直接伝えたい。
俺は書き終わった紙鳥を飛ばして床に就いた。
翌日届いたサクラからの手紙は、また茶会に招待するという旨と、来週の予定が短時間のランチであることを謝る内容だった。
全く、サクラは律儀というか真面目な子だ。気にしなくてもよいのに。
俺は短時間でも会って、傍にいられればそれだけで幸せなのに。
サクラの丁寧でどこか柔らかい文字をそっと指でなぞった。
文字からわかるサクラの面影に、どうしようもなく頬が緩む。
まだ来週にもかかわらず、何を話すか彼女と会う日を指折り数えて待っている俺がいた。
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