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アッシュ・テイラー、お花見する②
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「綺麗ですねぇ」
「……まぁ、悪くない。私の世界の方が素敵だけど!」
そう言ったサクラとヴァーミラの声で、『サクラ』から意識を移す。
ヴァーミラの口調が気になったが、すぐにどうでもよくなった。
アルトとヴァーミラの発言のせいだ。
「ヴァーミラ様の世界も見てみたいものです。是非、私に姫の国を見せて頂けませんか?」
「うっ! なぜ今、そのようなことを申すのだ!! ……てっ、手紙で、お返事したでしょ……いいわって……」
ヴァーミラの声はどんどん小さくなっていき、それに合わせてうつむいていく。
最後の方はおそらく隣にいたサクラには聞こえていないだろう。
しかし、俺の耳もアルトの耳も、人よりかなりいいので、小さな声だろうがばっちり聞こえた。
その証拠に、アルトはにやける顔を即座に片手で覆って隠した。
俺にはアルトが何を考えているのか、すぐに分かる。
どうせ、にやにやとだらしない顔で、ヴァーミラ可愛い! から始まり、ヴァーミラ溺愛計画の手順とその後して欲しいあんなことやこんなことなど、魔王も尻尾巻いて逃げ出すレベルの良からぬことを考えているに違いない。
自分の世界から戻ってきたアルトは、道行く女が卒倒しそうなキラキラした笑顔でヴァーミラの手を取った。
「ふふ、すみません。姫の愛らしい声でお聞きしたくて。ねぇ、ヴァーミラ様?」
「な、なによっ! ……あうっ」
アルトの笑顔を見た、魔王は謎の奇声を発しながら顔を髪の毛と同じぐらい真っ赤にしながら身もだえた。
「ヴァーミラ様の世界の料理、食べさせていただけませんか?」
「ふぇ! た、食べさせるって! そ、そ、そんないやらしいっ」
「そんなことはありませんよ? 母も子に食べさせているでしょう? それと同じです」
「そ、そうなのか?」
おい、アルトー!!! どこが一緒なんだーーー!!!!!
ヴァーミラも信じそうになるんじゃない!!!
どんどん怪しくなる雰囲気に、俺はサクラと顔を見合わせ、適当に皿に盛った料理と何種類かの飲み物を持ってそっと席を立った。
2人の声が聞こえない所まで離れて『サクラ』木の下に座る。
サクラにはもちろん、俺のジャケットの上に座ってもらった。まぁ、遠慮されたが無理やり座らせた。
「「……」」
「……すまないな。俺の友人が」
「いえ、こちらこそ何だかすみません……」
「「……」」
くそ、何という気まずい空気!
本当にアイツらは!!
何か、話題を振らなければ、そう思った俺は持ってきた料理を見る。
「この握りめしの味は塩だろう? こっちの卵焼きの味は、食べたことがないものだ。何が入っているんだ?」
「この卵焼きは鰹出汁とお醤油が入っています。鰹は魚で、美味しい出汁が出るんです」
「なるほど、魚の匂いは、『カツオ』の出汁なのか。『オショウユ』はなんだ?」
「醤油はこの国の伝統的な調味料で、大豆や小麦といった穀物と塩を入れて発酵させて出た液体だと思います。確か、そんな感じの調味料だったはずです」
「そうなのか」
サクラは『カツオ』の説明に比べて『ショウユ』の説明が自信なさそうだ。
ㇵの字眉毛になっている。
確かに穀類特有の甘い香りと発酵した臭いがしたので、あながち外れてはいないのだろう。
他にも、『カラアゲ』やら『ポークソテー』やらを食べて、茶を飲む。
和やかに辺り触りのない会話を繰り返しながら俺は、今日の目標であったサクラとの距離を縮めることと、『あえ~る』で連絡を取り合わないかと誘うタイミングを計っていた。
食後に『アマザケ』を口にしては、ちらりと隣のサクラに目をやり、頭上の可憐な花をぼんやり見上げ、またサクラの様子を窺う。
サクラは嬉しそうに赤い三角形の果物を食べている。
機嫌もよさそうだし、今が仕掛けるチャンス!!!
「なぁ、サクラ」
「はい、なんでしょう?」
「うっ!」
こちらを向いて小首をかしげるサクラの可愛さに、不覚にも言葉に詰まる。
なんとか気を取り直して、本日1番の目的を切り出してみた。
「サクラは俺を苦手に感じているんだろう?」
「えっ! いや! あの、その、はい……イケメンが苦手で……」
俺の言葉にサクラは慌てふためくが、観念したようだ。
その様子が面白い。
「ふっ、取って食ったりしない。だが、俺はサクラともっと話がしたいんだ。友達になりたい。これから、俺と連絡を取り合ってくれないか?」
なんだか真剣みのある言葉になってしまった。
取って食ったりしない、友達になりたい。少なくとも今は、それでいい時期だ。
そう思い、サクラに微笑むと、彼女は下を向いて何事か呟き、意を決したように笑って言った。
「うっ、イケメン、まぶしい、ツラい…………でも、アッシュさん、悪い人じゃないですし、連絡くらいいいですよ。異世界のこと教えてください!」
こうして俺はサクラと連絡を取り合うという課題を達成することができたのだった。
その後は時間が来るまで、サクラのことを聞いた。
サクラの国には大学という専門性の高い高等教育機関があるようで、彼女はそこに通う学生だそうだ。
将来は『ホイクエン』という初等教育施設の先生になりたいらしい。
子どもと動物が大好きで、動物の美容師になるか『ホイクエン』の先生になるか悩んでいたらしいが、今の道を選んだ、と。
「動物が好きなら、俺の国はサクラにとっては天国のようなところかもしれないな。獣人で溢れているから」
「そうなんですね! すごく気になります。あ、でも、うちの国の動物たちもすっごく可愛いんですから! この間も、紬ちゃんちの境内で、グレーの綺麗な毛並みのわんちゃんがいて、すっごく可愛かったんです! あのもふもふした毛皮、触り心地が最高で、夢中でなでなでしちゃいました! 人懐っこくて、お腹だして、コロンってしてくれて!!」
「そ、そうか……」
何とかそう返したが、俺の口角は引き攣っているだろう。
記憶が飛ぶ程に、気持ちよく撫でられた過去を彼女から聞かされるなんて。
『かわいいわんちゃん』に成り果てた俺。
くっ、恥ずかしすぎる!!!
それは俺だと打ち明けられるのは、随分先の話になりそうだ。
少なくとも今は絶対無理!!!!
そこで話を逸らし、自己紹介から気になっていた『サドウ』についても聞いてみることにした。
サクラによるとどうやらお茶を入れる作法だそうだ。
うちの国でも、茶の入れ方には作法があるから、そういったものだろう。
「口で説明するのは難しいから、今度一緒にやりましょう」
図らずも、自然に次の約束が出来たこの状況に、内心ほくそ笑む。
完全に『わんちゃん』から話を逸らすこともできてよかった。
それからはツムギが迎えに来るまで、暫く穏やかな時間を過ごし、それぞれの世界に帰った。
「……まぁ、悪くない。私の世界の方が素敵だけど!」
そう言ったサクラとヴァーミラの声で、『サクラ』から意識を移す。
ヴァーミラの口調が気になったが、すぐにどうでもよくなった。
アルトとヴァーミラの発言のせいだ。
「ヴァーミラ様の世界も見てみたいものです。是非、私に姫の国を見せて頂けませんか?」
「うっ! なぜ今、そのようなことを申すのだ!! ……てっ、手紙で、お返事したでしょ……いいわって……」
ヴァーミラの声はどんどん小さくなっていき、それに合わせてうつむいていく。
最後の方はおそらく隣にいたサクラには聞こえていないだろう。
しかし、俺の耳もアルトの耳も、人よりかなりいいので、小さな声だろうがばっちり聞こえた。
その証拠に、アルトはにやける顔を即座に片手で覆って隠した。
俺にはアルトが何を考えているのか、すぐに分かる。
どうせ、にやにやとだらしない顔で、ヴァーミラ可愛い! から始まり、ヴァーミラ溺愛計画の手順とその後して欲しいあんなことやこんなことなど、魔王も尻尾巻いて逃げ出すレベルの良からぬことを考えているに違いない。
自分の世界から戻ってきたアルトは、道行く女が卒倒しそうなキラキラした笑顔でヴァーミラの手を取った。
「ふふ、すみません。姫の愛らしい声でお聞きしたくて。ねぇ、ヴァーミラ様?」
「な、なによっ! ……あうっ」
アルトの笑顔を見た、魔王は謎の奇声を発しながら顔を髪の毛と同じぐらい真っ赤にしながら身もだえた。
「ヴァーミラ様の世界の料理、食べさせていただけませんか?」
「ふぇ! た、食べさせるって! そ、そ、そんないやらしいっ」
「そんなことはありませんよ? 母も子に食べさせているでしょう? それと同じです」
「そ、そうなのか?」
おい、アルトー!!! どこが一緒なんだーーー!!!!!
ヴァーミラも信じそうになるんじゃない!!!
どんどん怪しくなる雰囲気に、俺はサクラと顔を見合わせ、適当に皿に盛った料理と何種類かの飲み物を持ってそっと席を立った。
2人の声が聞こえない所まで離れて『サクラ』木の下に座る。
サクラにはもちろん、俺のジャケットの上に座ってもらった。まぁ、遠慮されたが無理やり座らせた。
「「……」」
「……すまないな。俺の友人が」
「いえ、こちらこそ何だかすみません……」
「「……」」
くそ、何という気まずい空気!
本当にアイツらは!!
何か、話題を振らなければ、そう思った俺は持ってきた料理を見る。
「この握りめしの味は塩だろう? こっちの卵焼きの味は、食べたことがないものだ。何が入っているんだ?」
「この卵焼きは鰹出汁とお醤油が入っています。鰹は魚で、美味しい出汁が出るんです」
「なるほど、魚の匂いは、『カツオ』の出汁なのか。『オショウユ』はなんだ?」
「醤油はこの国の伝統的な調味料で、大豆や小麦といった穀物と塩を入れて発酵させて出た液体だと思います。確か、そんな感じの調味料だったはずです」
「そうなのか」
サクラは『カツオ』の説明に比べて『ショウユ』の説明が自信なさそうだ。
ㇵの字眉毛になっている。
確かに穀類特有の甘い香りと発酵した臭いがしたので、あながち外れてはいないのだろう。
他にも、『カラアゲ』やら『ポークソテー』やらを食べて、茶を飲む。
和やかに辺り触りのない会話を繰り返しながら俺は、今日の目標であったサクラとの距離を縮めることと、『あえ~る』で連絡を取り合わないかと誘うタイミングを計っていた。
食後に『アマザケ』を口にしては、ちらりと隣のサクラに目をやり、頭上の可憐な花をぼんやり見上げ、またサクラの様子を窺う。
サクラは嬉しそうに赤い三角形の果物を食べている。
機嫌もよさそうだし、今が仕掛けるチャンス!!!
「なぁ、サクラ」
「はい、なんでしょう?」
「うっ!」
こちらを向いて小首をかしげるサクラの可愛さに、不覚にも言葉に詰まる。
なんとか気を取り直して、本日1番の目的を切り出してみた。
「サクラは俺を苦手に感じているんだろう?」
「えっ! いや! あの、その、はい……イケメンが苦手で……」
俺の言葉にサクラは慌てふためくが、観念したようだ。
その様子が面白い。
「ふっ、取って食ったりしない。だが、俺はサクラともっと話がしたいんだ。友達になりたい。これから、俺と連絡を取り合ってくれないか?」
なんだか真剣みのある言葉になってしまった。
取って食ったりしない、友達になりたい。少なくとも今は、それでいい時期だ。
そう思い、サクラに微笑むと、彼女は下を向いて何事か呟き、意を決したように笑って言った。
「うっ、イケメン、まぶしい、ツラい…………でも、アッシュさん、悪い人じゃないですし、連絡くらいいいですよ。異世界のこと教えてください!」
こうして俺はサクラと連絡を取り合うという課題を達成することができたのだった。
その後は時間が来るまで、サクラのことを聞いた。
サクラの国には大学という専門性の高い高等教育機関があるようで、彼女はそこに通う学生だそうだ。
将来は『ホイクエン』という初等教育施設の先生になりたいらしい。
子どもと動物が大好きで、動物の美容師になるか『ホイクエン』の先生になるか悩んでいたらしいが、今の道を選んだ、と。
「動物が好きなら、俺の国はサクラにとっては天国のようなところかもしれないな。獣人で溢れているから」
「そうなんですね! すごく気になります。あ、でも、うちの国の動物たちもすっごく可愛いんですから! この間も、紬ちゃんちの境内で、グレーの綺麗な毛並みのわんちゃんがいて、すっごく可愛かったんです! あのもふもふした毛皮、触り心地が最高で、夢中でなでなでしちゃいました! 人懐っこくて、お腹だして、コロンってしてくれて!!」
「そ、そうか……」
何とかそう返したが、俺の口角は引き攣っているだろう。
記憶が飛ぶ程に、気持ちよく撫でられた過去を彼女から聞かされるなんて。
『かわいいわんちゃん』に成り果てた俺。
くっ、恥ずかしすぎる!!!
それは俺だと打ち明けられるのは、随分先の話になりそうだ。
少なくとも今は絶対無理!!!!
そこで話を逸らし、自己紹介から気になっていた『サドウ』についても聞いてみることにした。
サクラによるとどうやらお茶を入れる作法だそうだ。
うちの国でも、茶の入れ方には作法があるから、そういったものだろう。
「口で説明するのは難しいから、今度一緒にやりましょう」
図らずも、自然に次の約束が出来たこの状況に、内心ほくそ笑む。
完全に『わんちゃん』から話を逸らすこともできてよかった。
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