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第9章

第286話

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 リアンノンさんを師として始めた鍛錬は、的確で分かりやすいアドバイスのお蔭で、魔力を完全に遮断する技術の習得への段階が劇的に進んだ。始める前は二・三割程遮断出来ていたものが、リアンノンさんの的確で分かりやすいアドバイスによって、たったの数日で四割から五割程まで遮断出来る様になった。

「ここまで魔力を遮断出来る様になれば、一部の高ランクの魔物や魔獣相手であれば、魔力を感知させる事が出来なくなるだろう」(リアンノン)
「四・五割程度では、高ランクの魔物や魔獣全てには通用しませんか」
「そうだな。高ランクの魔物や魔獣の中でも、能力が低い個体ならば通用するだろうが、能力の高い個体相手には現段階では通用しないな。能力の高い個体にも通用する様になるのは、七・八割程遮断出来る様になってからだな」(リアンノン)
「ヘクトル爺たち超一流の魔術師や戦士たち、竜種などの高位存在たちの魔力感知に引っかからない為には、やはり完全に魔力を遮断する技術を習得するしかありませんか」
「そうだな。ただ、特殊な能力や異能を有している者たちの中には、通常の魔力感知とは異なる感知能力を有している者がいる。その者たちが有している感知能力の前では、この技術が完全に通用する保証はない。それだけはしっかりと覚えておくんだ」(リアンノン)
「了解です」
「カイル。他の奴らは知らんが、私らは魔力を遮断していても全員感知出来るぞ」(赤の精霊)
「私たちは、―――――だからな。例え完全に遮断されていようとも、息を吸う様に魔力の存在を感知し、身体の一部の様に自然と扱う事が出来る」(緑の精霊)
「どれだけ完璧に魔力を遮断しようとも、どれだけ完全に魔力を操ろうとも、私たちの前では意味を為さない」(黄の精霊)
「この星に存在するありとあらゆる魔力は、私たちの友であり、子であり、家族だからね」(青の精霊)

 やはり星と共にある存在であり、―――――である精霊様方には、魔力を完全に遮断したとしても通用する事はないか。超上位存在の中でも頂点に位置する存在であり、他の精霊たちと存在そのものが一線を画す存在、それが俺と契約している精霊様方だ。未だに力や能力の底を見せてもらった事はないので、実際の所精霊様方の本気の本気がどれ程のものなのか、俺には想像する事も出来ない。あのテミロス聖国との戦争の時に黄の精霊が使った力は、黄の精霊様からすればほんの一端に過ぎず、本人にとってもちょっと頑張ってみたというくらいだ。あれでちょっと頑張ってみたというレベルなのだから、精霊様方が本気で全力を出した時、一体どの様な事がどこまで出来て、周囲や世界にどの様な影響が及ぼすのだろうか。

「さて、もう一度魔力を遮断してみようか」(リアンノン)
「分かりました」
「何度も言うが、魔力を完全に遮断しようとする際にカイルが意識する事は、身体から漏れ出てしまう魔力を内側に無理やり抑え込む事ではない。自分の身体を深く大きな器として考え、魔力が一切外に零れる事がないのを意識していくんだ。そうすれば、次第に遮断出来る魔力の割合が増えていき、最終的に自然に無意識の魔力をも制御している領域まで至れる。そしてその領域に足を踏み入れる事が出来れば、身体の内側に無意識の魔力も抑え込めている状態、つまり魔力を完全に遮断出来る様になっている」(リアンノン)
「はい」
「この状態に慣れてくれば、魔力を練り上げて身体全体に循環させようとも、魔力が身体から漏れ出る事はない。そしてそれは、魔力量が増えたとして変わらない。魔力量が増えた分だけ、想像する器の大きさと深さを変える事で対応出来る。ただ問題としては、カイル自身がどれだけの大きさと深さを持つ器を想像する事が出来るかだ。魔力量に対して器が小さいと、当然だが魔力が再び身体から漏れ出てしまうからな」(リアンノン)
「はい」

 現段階では魔力制限術式をかけた状態でいるので、ある程度のレベルの器のイメージで対応出来る。だが少しずつ制限術式を解除して階梯を上げていけば、扱える魔力量も多くなっていくので、イメージする器の大きさや深さを変えなければいけない。しかし、俺には前世の記憶や知識がある。その記憶の中にある大容量の何か、例えばプールやコンテナなどをイメージすれば、膨大な魔力も漏れ出る事はないだろう。
 俺は自身の身体を一つの器であるとイメージし、自身の身体を循環している魔力を操作する事なく、器としてイメージした身体の内側の中に留まる様に意識する。しかしイメージした器がまだまだ不完全であった様で、器に穴が開いてしまって魔力の一部が流れ出し、身体から魔力が漏れ出てしまう。これでは、また四・五割程しか魔力を遮断出来ていない。一旦生み出したイメージを消し、深呼吸を一度繰り返して気持ちを落ち着かせ、今度は強固でハッキリとした器をイメージする。単純な器というだけでなく、強固な材質である事や魔力との相性の良さなどを追加し、器そのものをより優れたものとなる様にイメージを強化する。
 強化したイメージで再び魔力を遮断してみると、漠然と器をイメージした時よりも空いた穴は小さく、流れ出てしまう魔力の量は少なく済んだ。その結果、先程よりもさらに漏れ出る魔力が薄くなり、遮断出来た魔力の割合が多くなった。それでもよくて六割程度であり、完全に魔力を遮断するのには程遠く、高位存在たちの感知能力を上回る事は出来ない。だが、しっかりとしたイメージというものがどういうものであるのかは、色々と掴めてきた実感がある。それと同時に、この技術の習得にヘクトル爺が苦労したのが良く分かる。

「おお、先程よりも良い器を想像する事が出来た様だな」(リアンノン)
「はい。さっきは漠然としたものでしたが、今のはしっかりとした想像をしてみました。その結果、ほんの少しですが改善されました」
「それでいい。それを何度も繰り返していき、一つ前よりも強固な器を想像をし続けていけば、魔力が一切漏れ出る事がない器となる。ただし、それは制限術式がかけられている状態の魔力に耐えられる器だ。これから先について考えるのなら、制限術式を解除した状態の魔力を想定した器を想像しておく必要がある。寧ろカイルの場合、最初からそちらで進めていった方がいいかもな」(リアンノン)
「やっぱりそうですか。……精霊様方、いいですか?」
「…………いいだろう。正し全階梯を解除するのは、私たちが展開した異空間の中でだ。リアンノンもそれでいいな?」(緑の精霊)
「そこまでなのか?」(リアンノン)
「ああ、そこまでだ。私たちも万全を期したい」(緑の精霊)
「……分かった」(リアンノン)

 精霊様方は真剣な雰囲気や表情となり、全員で協力して特殊な異空間をこの場に展開する。精霊様方によって展開された異空間は、完全に妖精族の里の異空間と切り離されているので、ここで何が起きようとも外側に影響が及ぶ事はない。

「カイル、いいぞ」(緑の精霊)
「分かりました。魔力制限術式、――全階梯解除」
「こ、これはまた…………想像以上だな」(リアンノン)

 魔力制限術式の全ての階梯を解除した瞬間、俺の身体から魔術によって抑え込まれていた膨大な魔力が一気に溢れ出す。超濃密な魔力によって空間が震え、さらには悲鳴を上げるかの様に強く軋んでいく。そして、この異空間の全てを埋め尽くす様に、魔力の波が全方位へと広がっていく。空間がさらに強く軋んでいくが、流石は精霊様方が協力して展開した異空間、耐久性は他とは比べ物にならないくらい高い。次第に軋みが弱くなっていき、空間そのものが安定していく。

「まさかこの歳になって、子供の様に魔力に酔う事になろうとはな。とても新鮮な体験だ。…………この魔力全てを身体の外側に漏れ出さない様にするには、それこそ器を一つの星だと想像しなくては無理だぞ」(リアンノン)
「一つの星、ですか……」

 リアンノンさんが言った、イメージする器が一つの星という言葉に、ある事が脳裏に閃いた。この閃きが上手くいけば、魔力制限術式を全階梯解除していたとしても、絶対に魔力が身体の外側に漏れ出る事はない。色々と問題は出てくるだろうが、それらを調整・修正していけば、魔力を完全に遮断する技術を習得する事が出来る。俺は意識を身体の内側に集中させ、魔力を留める為の器として、周りの空間が歪んでいる小さな黒い球体をイメージした。
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