引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第9章

第284話

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 俺たちは全員で家の庭先へと移動し、姉さんたちのいうぶっ飛んでいる魔術である、武装付与を発動して自身の身体を変質させる。今回発動させるのは、リアンノンさんたちが森や木々に囲まれて共生している事を考慮して、火属性や雷属性の魔術ではなく水属性の魔術を選択した。

「【武装付与・鏡花水月きょうかすいげつ】」

 両腕が肘まで薄っすらと天色あまいろに染まっていき、全身から澄んだ水の気配を溢れさせる。武装付与によって存在そのものが急激に変質した俺を、リアンノンさんは大きな驚きと共に、目をスーッと少し細めて見ている。澄んだ水の気配と膨大な魔力が、里中へと浸透する様に広がっていく。リアンノンさんは静かに俺を観察し続け、武装付与というぶっ飛んでいる魔術について深く知ろうとしている。その姿は、この魔術を始めて見た精霊様方と同じものであり、魔術師らしい知識欲の高さを感じさせる。

「……凄まじいな。確かにこれは、レイアたちがぶっ飛んでいると表現してもおかしくない魔術だ。全身どころか存在そのものを変質させ、魔術もしくは各属性の魔力へと置換ちかんしているのか。非常に興味深い。しかし、これを魔術と呼んでよいものか非常に迷う代物だな」(リアンノン)
「それはそうだ。ここまで非常識な魔術を生み出したのは、私たちの知る限りカイル一人だ」(緑の精霊)

 リアンノンさんの隣に、緑の精霊様が異空間から現れる。その後に続く様に、赤・青・黄の精霊様方も異空間から姿を見せていく。突然現れた精霊様方に驚くかと思ったが、リアンノンさんは精霊様方を見ても変わらず平然としている。そしてこちらが驚くべき事に、リアンノンさんは懐かしそうに微笑みを浮かべながら、緑の精霊様と再会を喜ぶかの様に互いに抱き合う。本当に親し気なその様子から、精霊様方とリアンノンさんとの付き合いの古さや深さが窺える。リアンノンさんはそのまま赤・青・黄の精霊様方と、再会を喜ぶ様に順番に抱き合っていった。

「精霊様方は、リアンノンさんとは古い付き合いなんですか?」
「ヘクトルよりも長い付き合い」(黄の精霊)
「こいつがまだ赤ん坊の頃からのな」(赤の精霊)
「リアンノンは、昔のヘクトルよりもやんちゃでね。この里の先代・先々代の長たちも手を焼いてたわ」(青の精霊)
「何時の間にか外の世界に飛び出していって、本当に長い間様々な場所を放浪していた。戻ってきた時も突然で、余りにもあっけらかんとしていたから、この里の妖精族総出でお説教していたな」(緑の精霊)
「いや~、懐かしいわね。遠い昔にそんな事もあったわね」(リアンノン)

 そう言ってリアンノンさんは、過去の自分の事を思い返して、恥ずかしそうにはっはっはと笑う。その笑い方はまるで小さな子供の様で、リアンノンさんと精霊様方の関係が親子の様であり、また親戚の叔父さん叔母さんといった様な関係である事が分かる。セインさんは、そんな小さな子供の様に笑うリアンノンさんを見て、家族や親族の知らない一面を初めて見たといった感じでいる。セインさんにとって、リアンノンさんは生まれた時から今のリアンノンさんであり、こんな風に子供みたいな姿を見た事は今まで一度もなかったのだろう。
 精霊様方は俺の武装付与について、胸を張って得意げな様子で、リアンノンさんに色々と説明していく。武装付与を思いついてから完成するまでの苦労から始まり、この魔術の本質や使用する際の危険度、さらには最大深度に至った時の状態などを語っていく。リアンノンさんがその説明の中で強い興味を持ったのは、自身の存在をより上位の存在へと一時的に昇華させ、さらなる上の領域へと足を踏み入れる魔術である、概念武装付与や連結術式についての内容だ。
 連結術式に関しては、精霊様方の知識の中にも存在したため、そこまでの驚きはなかった。だが概念武装付与については、精霊様方にとっても常識外の発想だった様で、通常の武装付与の時よりも驚きが大きく強かった。武装付与の時よりもかなりの時間をかけ、周囲や俺自身の安全をもの凄く考慮して鍛錬を重ね、概念武装付与を安定して展開・発動出来る様になった。リアンノンさんは、未知なる魔術に対して知識欲を再び強く刺激された様で、精霊様方に概念武装付与に関して矢継ぎ早に質問し続けた。

「それで今は、リアンノンやヘクトルが習得した、魔力を完全に遮断する技術を練習中だ」(緑の精霊)
「おお、そうなのか。これを習得すると、魔術師や戦士に対して非常に有利となるからな。一流の魔術師や戦士になればなるほど、戦闘中の相手の呼吸や魔力の動きを読むのが当たり前となり、少しでも相手から情報を得ようとする。しかし、その当たり前の情報の一つである魔力の動きが読めなくなると、それだけで何時もの動きが出来なくなる者もいる程だ」(リアンノン)
「そうですね。特にヘクトル爺を相手にする時には、何時現れては消えたのかも、何時仕掛けてきたのかも全く分かりません」
「ヘクトルはこの技術に加えて、磨き抜かれた隠形おんぎょうの技術もある。相手に魔力を一切感知させず、気配に関しても同じく読み取る事を出来なくさせ、自身の動きや考えを相手に全く悟らせない。それがヘクトルの強みであり、あのルイスにすら一切その動きを感知させる事はない、歴戦の強者をも一撃で葬る事が可能となった戦闘方法だ」(リアンノン)

 それに関しては現在進行形で、この身で嫌という程痛感し続けている。幻想で作り上げられた過去のヘクトル爺との対戦結果は、今の所全戦全敗のままであり、細かい傷を付けられるようにはなったものの、致命傷となる様な大きな傷を与えられたのは僅か数回のみだ。俺が放つ技や魔術をヘクトル爺は見切って避けるが、ヘクトル爺の放つ技や魔術を見切れずに心臓や頭を槍で貫かれたり、魔術によって手足を吹っ飛ばされたり全身を焼かれたりしている。少しずつヘクトル爺の変幻自在の動きに慣れてきてはいるが、それでも圧倒的な技量と経験によって即座に対応され、本気の隠形をされて瞬殺されてしまう。少なくとも、スタートラインである魔力を完全に遮断する技術を習得しない限り、ヘクトル爺の本気には対応出来ないだろう。

「カイルは現状で、どの位遮断出来る様になってるんだ?」(リアンノン)
「まだ二・三割程ですかね」
「鍛錬を始めたのは大体何時頃からだ?」(リアンノン)
「まだ半年も経っていないな」(緑の精霊)
「半年も経っていないのに、二・三割も遮断出来る様になっているのか。それは、……凄まじいまでの習得速度だな。通常二・三割程魔力を遮断出来る様になるには、最低でも数十年単位は想定しておかなければならない。それを経ったの半年とはな。持って生まれた才のみに頼る事なく、恐ろしいまでの鍛錬を積んでいるんだろうな」(リアンノン)
「カイルは、俺たちが作り出した若い頃のヘクトルと、一対一で日々殺し合っているわ。この短い期間で既に四桁以上戦い、殺されながら技術を習得しようとしているのよ。他にも色々と工夫しながら、一日も早く習得しようと鍛錬を積んでいるわね」(青の精霊)

 青の精霊様の言葉に、リアンノンさんは信じられないといった様子で俺を見てくる。予想していた通り、若い頃のヘクトル爺の事を、リアンノンさんもよく知っている様だ。若い頃のヘクトル爺の事を知っているのならば、リアンノンさんの反応が大げさでない事はよく分かるし、そういった反応を示してしまうのも理解する。

「ははは、それは凄まじいな。若い頃のヘクトルといえばあれだろう?血気盛んで、強い相手と戦う事を楽しんでいた頃。そんな時代のヘクトルとそこまで戦うなんてな。カイルもまた、ヘクトルと同類であるという事だな」(リアンノン)
「俺とあのヘクトル爺を一緒にしないでくださいよ」
「面白い、面白いな。……カイル。この里にいる間、私がカイルの師となって、魔力を完全に遮断する技術について色々と教えよう」(リアンノン)
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