引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第9章

第281話

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 リアンノンさんの後に続いて足を進める事十分程で、滞在中に貸してもらえる家の前に到着した。目の前に見えているのは木造二階建ての家で、家の中心には一本の巨木があり、家と巨木が一体となる様に建てられている。本来ならば、家の中心に巨木があれば色々と問題が出てくるだろうが、そこら辺は妖精族独自の技術や魔術によって解決済みなのだろう。

「ここが、滞在中レイアたちに使ってもらう家になる。セインに連絡をもらってから、改めて手入れや食料の準備をしておいたが、何か不足していたり問題があれば、セインを通じて私に連絡してくれ。直ぐにこちらの方で対応する」(リアンノン)
「了解した。セイン、何かあった時は頼んだ」(レイア)
「任せて」(セイン)
「それでは家の中を案内していく」(リアンノン)
「頼む」(レイア)

 全員で貸してもらえる家の中に入ると、外から見た家との違いに嫌でも気付く。明らかに、家の中の広さが外から見た時の大きさに合っていない。魔力を僅かに感じる事から、時空間属性の魔術による空間拡張をしてるのは間違いないし、広さから考えるに貴族のお屋敷かそれ以上の建物に相当するな。それから空間拡張以外にも様々な魔術がかけられており、快適に過ごせる様な工夫や考えが随所ずいしょに見える。中でも凄いのは、そういった随所に施された工夫や考えを実現する為の魔術だ。一つ一つの目的に特化させており、一つ一つの術式に一切の無駄がないのが分かる。さらに術式を組み上げた者が一つ一つ違い、分かるだけでも十人以上がこの家にかけた魔術に関わっている。
 一般的に考えた時、こういった空間拡張した家や建物に別の魔術をかける場合には、一貫して同じ魔術師が魔術をかけていった方がいい。それには色々な理由があるが、一番最初に問題として挙げられるのが、一つの場所に複数の魔術師が魔術をかけた時に起こる魔力同士の反発だ。この魔力同士の反発が起こると、最悪の場合今までかけていた全ての魔術を巻き込んでいき、術式の解除していってしまうのだ。そうなると、全ての魔術を一からかけ直さなければいけなくなり、相当な時間と労力がかかる事になる。そういった事から、一つの場所で複数の魔術師が魔術をかけるという効率を求めるよりも、初めから最後まで一貫して一人の魔術師が魔術をかけた方が、全体的に安全であるし術式も安定するのだ。

〈だがこの家には魔力の反発の兆候ちょうこうは一切なく、見事なまでに異なる魔力同士の調和がとれていて、全ての魔術術式が安定して発動している。本当に凄いな〉
「魔力同士が反発する事なく、ここまで術式が安定しているとはな」(レイア)
「妖精族の最大の強みは魔術だ。これくらい、私たちにとっては朝飯前みたいなものだよ」(リアンノン)
「里を出るまでは、これが世界の当たり前だと思ってた」(セイン)
「これが当たり前の技術だったら、今頃世界はもっと発展してるわよ」(リナ)

 そんな魔術的な部分についての会話をしながら、家の中を巡って一通りの説明を受けていった。キッチンやお風呂など、家の中の様々な場所が魔術の恩恵によって便利になっており、まるで前世の絵本やアニメなどに出てくる魔法使いの様な生活だと思った。自分は一切その場から動かず、魔法によって料理や洗濯などの家事をやってくれる、物臭ものぐさの人がもの凄く羨む生活。故郷の里に引きこもっていた頃、自分の家を同じ様に魔術で快適にして過ごしていたが、この家に快適さに比べると一段質が落ちるな。
 そして、この快適過ぎる程の生活には、高い質を求める姉さんたちも上機嫌の様子だ。ウルカーシュ帝国内やメリオスの兄さんの屋敷では、周囲で暮らす人々の目などもあって、安易に時空間属性の魔術による空間拡張など出来ない。もし空間拡張している事がバレでもしたら、最悪の場合、メリオスどころかウルカーシュ帝国から去らなければいけない。そうなったら、シゲさんやオバちゃんたちと世間話をする事も出来ないし、リムリットさんやエマさんたちと楽しい談笑をする事も出来ない。それから、クトリちゃんたち孤児院の子供たちや、ミストラルたちと話す事も遊ぶ事も出来なくなるので、流石の姉さんたちもこの件に関しては我儘わがままを言う事はない。

「それじゃあ、今日の夜にでもレイアたちの歓迎会をやるから、それまで楽しみに待っていてくれ」(リアンノン)
「了解した。楽しみさせてもらう」(レイア)
「ははは、期待していてくれ。セイン、後の事は頼んだぞ。実家に顔を出すのなら、なるべく早めにな」(リアンノン)
「分かってる。できるだけ早く顔を出す。皆によろしく言っておいて」(セイン)
「ああ、元気そうだったと伝えておくよ。それじゃあ皆、レイアたちの邪魔をしちゃダメだから帰るよ」(リアンノン)
『は~い』

 リアンノンさんは、セインさんに微笑みながらそう言って家を出て、妖精たちと一緒に里の奥の方へと向かって行った。妖精たちは最後まで俺たちに手を振っていて、その可愛らしさに微笑みながら手を振り返してあげた。今日の夜の歓迎会でまた会う事になるだろうから、新しい友人となる妖精たちの為に、夜までにお菓子やスイーツなんかを用意してあげよう。見た感じ子供っぽい妖精が多かったから、クトリちゃんたちの好みを参考にして色々と作っていこう。そんな事を考えていたら、姉さんたちがピクリと反応を示した。
 ここ最近姉さんたちは、天星祭で食べに行ったカフェなどに毎日の様に通い、美味しいお菓子やスイーツを食べていた。俺としても、ちょっとした料理が出来るレベルの男が作るお菓子やスイーツよりも、一流の職人さんがいるお店などで食べてもらった方がいいと思っていたから、外でお菓子やスイーツを楽しんでくれている事に安堵していた。そんな姉さんたちが、俺の思考を読み取ったかの様に反応したという事は、半端な腕である俺が作ったお菓子やスイーツを食べるつもりなのだ。だが、普段から味や質にめちゃくちゃこだわる姉さんたちが、今更俺の作ったお菓子やスイーツに満足するのだろうか?

〈姉さんたち用のお菓子やスイーツは、妖精たち用とは別で、良い食材を使って用意しておこう〉

 甘いものに対する期待から、わくわくそわそわとしている姉さんたちを一旦放置して、今日から暫くの間過ごさせてもらう家のキッチンへと向かう。まず最初に妖精たちに作ろうと思ったのは、同じ妖精であるエロディさんが大層喜んでくれた、魔力が豊富に含まれている果物で作ったフルーツケーキだ。エロディさんは恭しく献上したフルーツケーキを、とろける様な笑顔を浮かべて、美味しい美味しいと言いながら食べていた。食事中は一切フォークとナイフの動きは止まらず、笑顔なのに目の端にキラリと光るものが零れたりと、色々と大丈夫かと心配になった程だ。エロディさんがあれ程までに喜んでくれたのなら、他の妖精たちも喜んでくれるだろう。
 俺たちのお気に入りであるメリオスの高級果物店で、美味しい果物を色々と買い込んであるので、フルーツケーキの他にも沢山のお菓子やスイーツを作れる。キッチンに付与された魔術を上手く使って、果物一つ丸々使ったスイーツや、砂糖不使用の果物百パーセントのジャムを使ったお菓子などを、手際よく丁寧に一つ一つ作っていく。最後にキッチンの傍に張り付いていた姉さんたちに、完成したお菓子やスイーツの味を確認してもらい、全て合格点をもらう事が出来たのでホッと一安心。後は、妖精たちが気に入ってくれるのを願うばかりだ。
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