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第8章

第271話

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「よし!!楽しむぞ!!」(レイア)
『お~!!』

 魔道具を色々と見させてもらい始めてから数十分後、姉さんたちの人生の教訓話が終わり、遂に射的を楽しむ時間となった。姉さんたちは、当然の様に全員が木製の弓を選び、魔道具や魔術書を狙いにいっている。
 そして俺はいうと、姉さんたちとは違い金属製の弓を選んだ。理由としては、小物類のデザインが良かったからだ。俺は女性向けの可愛らしいデザインなどには非常に疎いので、魔道具などを作る時に、自然と武骨なデザインやシンプルなデザインの二択になってしまう事が多い。
 だが先程まで見させてもらっていたお守りなどの小物類は、大人の女性が持っていても違和感のないデザインのものが多く、孤児院の子供たち用で作る魔道具やお守りなどのデザインの参考になるのだ。孤児院の子供たちや、リムリットさんやエマさんたち大人の女性陣に贈るのなら、せめて可愛らしいデザインのものを持っていてもらいたいからな。

〈それに武骨だったりシンプルなデザインだったりすると、勘の良い奴には魔道具やお守りの類いだと見抜かれるからな。だけど可愛らしいデザインなら、そういった奴らの目も誤魔化す事が出来る可能性が高い。特に子供たちを狙う様な連中に対しては、もの凄く効果を発揮するのは間違いないだろう〉

 子供たちの持つ防犯ブザーとして作った魔道具と、魔力障壁や防衛魔術を発動・展開する小物類を模した魔道具を作り、それらを魔術的に連結させる事で、愚か者たちから子供たちを守る事が出来る。そして、そこにミストラルたちが加われば、万全の体勢へとまた一歩近づける。
 魔術競技大会前に、戦神系統の宗派の司祭であるウィクトルさんから聞いた、子供たちを狙った犯罪はまだ起きている。例の邪教徒たちによるものだと思われる事件は減ったが、奴ら以外の裏の組織などによる犯罪は、まだまだウルカーシュ全土で起こっている。
 フォルセさんたち各都市の領主や、各都市にある行政府や各ギルド、それからミシェルさんやグレイスさんたち帝国上層部が連携しているが、全体の何割かの事件は蜥蜴の尻尾切りなどをされてしまい、巧みに逃げ切られてしまっているのが現状らしい。そして巧みに逃げ切られてしまっているのは、結構大きな組織力と影響力を持つ裏の組織だそうで、中には例の邪教徒たちの様な宗教絡みの組織も存在するそうだ。
 子供たちに持たせる小物類を模した魔道具などには、そういった腕利きの連中から身を守れるレベルの魔術を付与して、色々な状況に対応出来る様にしておかなければいけない。

「まずは、リーダーである私からやらせてもらう」(レイア)
『…………』
「何故黙る?……まさかお前たち、私に最初を譲る事で様子見をするつもりだな!!」(レイア)
「何を言ってるのよ。そんな事ある訳ないじゃない」(リナ)
「そうだぞ。それは考え過ぎだ」(モイラ)
「私たちはそこまで卑怯じゃないわよ」(ユリア)
「レイアの思い込み」(セイン)
「おい、お前らこっちを向け。左右に顔を逸らしながら言っても、全然説得力ないぞ」(レイア)
『………………』
〈何で皆して露骨な逸らし方するんだよ。そんなの直ぐにバレるだろ〉

 姉さんたちはギャアギャアと騒ぎながら、誰を一番最初に実験台にするのかを決め始める。それは、公平にしてシンプルな決め方。互いに拳を前に出し、その拳の形によって勝敗を決する勝負。そう、ジャンケンだ。
 しかし、この世界のジャンケンは前世のジャンケンと比べて、運の要素がかなり低い。何故なら、生まれ持った高い身体能力に、魔力による強化という手段があるからだ。ジャンケンの最中に、優れた動体視力によって相手の手の形を捉え、瞬時に勝てる手の形へと変えるという事が出来るのだ。
 全体的な勝率としては、生まれながらに高い身体能力と優れた動体視力を持つ種族が上位にいる。ジャンケンの猛者になると、たった数秒の間の攻防がもの凄くなる。猛者たちは、数秒間の間に互いに相手の手の形を捉えては変えていき、手を前に出すその時まで駆け引きを続けるのだ。その熱量は凄まじく、ジャンケンをしている本人たちのみならず、見学している周囲の人たちも固唾を飲んで見守る程だ。

「誰と誰からいく?それとも、全員でやって一気に決めていくか?」(レイア)
「全員でやって一気に決めていきましょう。方式は勝ち抜き戦。一番多く勝った者が一番最後で、一番多く負けた者が実験台になるでいいわね」(リナ)
「異議なし」(モイラ)
「同じく」(ユリア)
「私も同じく」(セイン)
「カイルはどうする?」(レイア)
「……え?俺も参加するの?」
「まさか、お前も姉を実験台にして様子見するつもりなのか?」(レイア)
「いや、そうじゃないけどさ。俺はゆっくりのんびりやりたいんだけど。それに俺は金属製の弓で挑戦するし、姉さんたちとは難易度が違うから、実験台も何もないと思うけど」
「レスリー、その辺はどうなんだ?」(レイア)
「カイルの言う通り、金属製と木製とでは難易度が違う。もしカイルが一番最初に挑戦する事になったとしても、レイアたちの参考にはならない可能性が高いな」(レスリー)
「そう言う事なら仕方ないな」(レイア)
『…………チッ!!』
「巻き込めないからって、皆舌打ちしないでくださいよ」

 リナさんたちは俺の抗議をガン無視し、気持ちを切り替えてジャンケンへと意識を集中させていく。全員が勝負の前からの読み合いを始め、誰がどの形で手を前に出すのかを予想している。その顔は、正に勝負師の顔である。そして、張り詰めた空気の中で遂にジャンケンが始まった。

「最初はグー、……ジャンケン―――」(レイア)
『ジャンケン――――』

 そこから始まるのは、数秒間という短い時間の中で行われる、猛者同士の目にも止まらぬ速さの攻防だ。全員が自分以外の四人の手の形を捉えながら、次々と勝利出来る手の形へと切り替えていく。時にはフェイントを混ぜたり、一瞬で形を変えたと思ったら直ぐさま違う形に変えたりなど、ありとあらゆる手段を用いて勝利を得ようとする。
 手が前に出される数秒間の間の出来事なのにも関わらず、スローモーションの様に世界の流れが遅くなり、もう既に数十秒経っている様な感覚になっている。そんなスローモーションの世界の中で、手を前に出す最後の最後に、姉さんたちはさらにスパートをかける。姉さんたちは魔力を練り上げ、循環させて、両目と右手に魔力を圧縮して魔力強化した。

〈なる程。最初から魔力強化するんじゃなくて、最後のスパート用に温存してたわけか。だが、皆考えは同じだった。後は、誰が読み合いを制するのかだな〉
「――――ポン!!」(レイア)
『ポン!!』

 姉さんが前に出した手の形は、紙であるパーを切り裂けるが、石であるグーは切り裂けないチョキだった。そしてリナさんたち四人全員が、ハサミであるチョキに切り裂かれてしまう、紙であるパーだった。第一戦は、見事なまでの姉さんの一人勝ちとなった。
 一人勝ちとなった姉さんは、高らかに拳をかざして静かに勝利を喜んだ。対する負けてしまったリナさんたちは、地面に膝から崩れ落ち、静かに負けた事を悔しがっている。だが直ぐに気持ちを切り替えたのか、リナさんたち四人は立ち上がり、第二戦目を始めた。四人共、今度は初めから魔力強化を使用している。
 その後の勝負も白熱し、数秒間の戦いにも関わらず、手に汗握る戦いが繰り広げられた。そして最終的な勝負の結果としては、一番最後に挑戦するのは全員を一戦で下した姉さんで、一番最初の実験台となる事が決まったのは、今回のジャンケン勝負で最弱に選ばれたリナさんとなった。
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