引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

文字の大きさ
上 下
226 / 252
第8章

第267話

しおりを挟む
 教会へと訪れた患者さんたちの治療を終えた俺や姉さんたちは、エマさんやリムリットさんたち、子供たちやミストラルたちと一緒に夕食を楽しんでいる。食事については、孤児院に行く前にお土産として買い込んでいた、色々な料理も提供させてもらっている。
 エマさんやリムリットさんたち大人組は、俺たちが提供した料理の中にメリオスの有名店の料理が混じっている事に気付き、興奮に喜び、それから驚きが混じった様子で料理を食べている。対する子供たちの方は、有名店の料理だとか関係なく、食卓に沢山の美味しそうな料理が並べられている事に大喜びして、皆笑顔を浮かべて美味しい美味しいと食べている。
 子供たちやミストラルたちは美味しい料理を食べながら、天星祭一日目の出来事を俺や姉さんたちに語ってくれた。男の子たちは、射的や輪投げなどで色々な出店で遊び、色々な景品を手に入れた事を俺に語ってくれた。そして女の子たちは、出店で買った綺麗で可愛いデザインの小物類を見せたり、洋服店に飾られていた、天星祭に合わせて作られたドレスなどについて姉さんたちに語っていた。

「何にせよ、一日目は何事もなかった様で良かったよ」
『住民の皆さんのは、私たちにも良くしてくださいました』(ミストラル)
『美味しい物を、食べさせたり飲ませてくれたんだ~』(フェデルタ)
『ただ残念な事に、私たちや子供たちに悪意を向けてくる者たちもいました。ですが、それはごく一部の者たちでしたし、特に何かをしてくる事もありませんでした』(リベルタ)
「そうか。明日も出掛けると思うけど、そういった奴らが何かしない様に、子供たちの事を注意して見て上げてくれ」
『はい、任せてください』(ミストラル)
『子供たちは私たちが守ります』(リベルタ)
『子供たちを苛める奴は、僕らが許さないよ』(フェデルタ)

 ミストラルたちの存在自体は、かなり前からメリオスの住人たちも知っているからな。そして、メリオスの住人にも色々な人がいる。陽の当たる道を真っ当に生きてきた者もいれば、陰に潜んですねに傷を持つ生き方をしてきた者もいる。恐らくだが、悪意を向けてきたごく一部の者たちは後者なのだろう。
 そして問題は、その悪意はどこに向けられたのかという事だ。子供たちなのか、ミストラルたちなのか、もしくはその両方の可能性すらもある。ミストラルたちが護衛として十分な性能を有しているとはいえ、想定外の事態というのは誰にでも起こりうる。防犯ブザーの魔道具だけでなく、子供たちが直接的に身を守れるような魔道具も必要かもしれない。また時間のある時にでも、サリエル様たちと相談してみよう。
 その後は楽しく食事を続けていたが、お腹一杯になった子供たちはお眠の時間となったので、ミストラルたちと一緒に部屋に戻っていった。残った大人組は美味しい料理を楽しみながら、今日の治療についての事を話し始めた。

「皆さん、今日はお手伝いいただきありがとうございました」(エマ)
「レイアたちのお蔭で、私たちの負担がかなり減ったし、多くの人たちを癒すことが出来たよ。助かったよ」(リムリット)
『ありとうございました』(シスター・司祭)
「いや、気にしなくていい。私たちも普段お世話になっているしな。それに友人が忙しそうにしているのに、自分たちだけ天星祭を楽しむなんて薄情な事はしない」(レイア)
「そうですよ。それに、メリオスの人たちの為にと頑張っている皆さんをお手伝いするくらい、私たちにとっては苦じゃありませんよ。これでも私たち、高位冒険者ですからね」(リナ)

 姉さんやリナさんの言葉に、リムリットさんやエマさんたちが深々と頭を下げて一礼する。各宗派のシスターや司祭たちは、それぞれ異なる神や宗教を信仰し、各々の教義に従って日々の生活を送っている。そんな宗派の異なる者たちではあるが、どんな宗派であろうとも共通している教義がある。それが、癒しの力でもって迷える者たちを救いなさいというものだ。
 戦神などの戦いを司る神々だろうが、農耕などの生産を司る神々だろうが関係なく、善神側に属する全ての神々は、太古の時代から信徒しんとにそれを求めた。そのため各宗派の教会や神殿に属する者たちは、幼少の頃から回復魔術を学び、教会や神殿を訪れる患者さんを癒していく。
 クトリちゃんたちの様な孤児の子たちも、成人年齢となる十五歳までは教会で色々な事を学びながら、エマさんたちと同じ様に多くの者たちを癒していくのだろう。リムリットさんに以前聞いた所によると、孤児の子たちが十五歳になった時に、自分たちと同じ道に進むのか、それとも自分の決めた道に進むのかを聞くのだそうだ。その時に、シスターや司祭の道を選ぶ子もいれば、冒険者や商人などの道を選ぶ子もいる。
 そしてリムリットさんたちは、孤児の子たちがどの道を選んでも生きていける様にと、自分たちの知識や経験を孤児の子たちに惜しみなく授けている。そのお蔭なのかせいなのか分からないが、年齢にしては大人びている子が多く、女の子はエマさんに似てきており、男の子はリムリットさんに似てきている。女の子たちの方は、将来器量良しの子たちになるだろう想像出来るが、男の子たちの方の将来はとても心配だ。
 そんな事を考えていると、俺の助手として力を貸してくれていたシスターが、傍に近寄ってきていた。彼女はもの凄く楽しみで、期待する様子を見せている。

「カイルさん、施術の方は何時頃お願い出来ますか?」(シスター)
「食事の方はもう大丈夫なんですか?」
「はい。しっかりといただきましたから」(シスター)
「それじゃあ、今から始めましょうか」
「何だ?何かやるのか?」(レイア)
「整体だよ。シスターも疲れが溜まってるからね。皆さんもどうです?」
「いいのかい?」(リムリット)
「ええ、問題ありませんよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて受けさせてもらおうかね」(リムリット)

 俺とシスターは席を立ち、食堂の直ぐ傍の中庭へと移動する。そして、中庭に即席の診察台を無属性の魔力で作り出し、シスターに横になってもらう。シスターやリムリットさんたちに行う施術は、ラトスさんの様に整体による本格的な治療の施術ではなく、身体に溜まっている疲労などを癒すマッサージにする予定だ。
 今から行う施術は、疲労を癒す事を主目的としたマッサージ。CTスキャンの魔術は使わず、二日酔い醒ましの術式を応用した回復魔術のみで、マッサージを始めていく。シスターは今日一日殆ど立ち仕事だったようなので、腰から下を重点的にマッサージしていく。
 全体的に筋肉が凝り固まっているが、特に腰・お尻・太もも・ふくらはぎなどに疲労が集中しているのが分かる。まずは腰から筋肉をほぐしていき、順番に下に向かって筋肉をほぐしていく。そして各部の血流を促進して緩め、凝り固まった筋肉をほぐした後に、もう一度回復魔術をかけて筋肉そのものも癒していく。

「見ていた時も凄かったですが、実際に体験するとその凄さが一段と分かります。あんなに重かった腰や脚が、羽が生えていた様に軽くなっています。今ならラトスさんがあれだけ感謝していた理由が分かります」(シスター)
「そう言っていただけると嬉しいです」

 シスターは笑顔を浮かべながら、その場でぴょんぴょんと跳び跳ねて身体の調子を確かめる。その様子を興味津々に見ていたリムリットさんたちは、軽やかな動きをするシスターの姿に驚いている。

「カイルさん、ありがとうございました」(シスター)
「いえいえ」

 疲れが取れたシスターは俺に一礼し、ニコニコと笑顔を浮かべながら自室へと歩いていく。それを見送り、さて次は誰かなと食堂の方を振り返ったら、真っ直ぐな綺麗な縦の線になって並ぶ人の列があった。

「…………皆さん、立って待っていると疲れますから、これに座って談笑でもして待っていてください」

 俺はカフェで順番待ちをしていた時に生み出した、性質を変化させた水で作った柔らかい椅子を人数分用意し、待ち時間を談笑でもして過ごしてもらう様にうながす。
 だがリムリットさんやエマさんたちは、最初は座るのを躊躇ためらっていた。どうやら、マッサージをタダでやってくれるというのに、その上自分たちだけがくつろいでいるのはどうかと思ったみたいだ。だがそんな遠慮は、姉さんたちの無遠慮によってぶち壊される。
 姉さんたちは、この場の誰よりも先に水の椅子へと座って寛ぎ始めたのだ。それを見たリムリットさんが、姉さんたちに続いて水の椅子に座った事で、エマさんたちも水の椅子に座ってくれた。さらに姉さんたちが積極的に話題を振って、リムリットさんたちとの談笑を始めてくれた。
 こういった時には、姉さんたちは本当に頼りになる。自然と人の輪を作り出し、にぎやかで笑みがこぼれる空間にしてくれるんだからな。俺は心の中で姉さんたちに感謝しながら、次の患者さんである司祭のマッサージを始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。