引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第8章

第260話

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 今後の強化プランについて色々と考えを巡らせていると、スーッと目の前に新しいコーヒーが現れた。芳醇な匂いが再び漂ってきて、その匂いで少しずつ落ち着きを取り戻していく。どうやら自分が思っているよりも、兄さんやサリエル様からもたらされた情報に対して焦りが強くなっていた様だ。

「ありがとうございます」
「いえ、まずはしっかりと冷静になる事が大事です」(サリエル)
「はい」

 身体の力を抜いて、コーヒーを楽しむ事に集中していく。コーヒーを一口飲み、ゆっくりと息を吐く。サリエル様の入れてくれたコーヒーは本当に美味しい。

「色々な問題がありますが、焦ってしまうのはよくありません。焦って何かを決断すれば、取り返しのつかない事になってしまうかもしれませんからね」(サリエル)
「はい」
「そうですね」(レスリー)
「私たちの方でも色々と話し合ってみます。流石にこのままの状態だと、大戦が起こった時に非常に苦しいものになりますから。他の神々にも情報を共有し、対策を考えてみます」(サリエル)
「「おねがいします」」(レスリー)

 サリエル様たちも動いてくれるなら、心強いことこの上ない。だがサリエル様たちも地上に干渉する事は出来ないから、最高の対策を考えてくれたとしても、実際にそれを実行するのは自分たちとなる事を忘れてはいけない。そして現状を好転させる為には、ミシェルさんやグレイスさんたちとの綿密な連携が必要となるな。後日、こちらから念話で連絡しておこう。

「それから話は変わるんですが、今日は天空島に泊まっていきますか?それともメリオスにお帰りになりますか?」(サリエル)
「何かありましたか?」(レスリー)
「いえ、そういう訳ではありません。ただお泊りになるのでしたら、今日は夕食のほうもご馳走しようかと思いまして」(サリエル)
「いいんですか?」
「構いませんよ。私はコーヒーだけでなく、料理の方もそれなりに出来るんですよ。それでは、レイア殿たちの様に楽しんでいてくださいね」(サリエル)
「え?…………姉さん、何してんの」
「……レイアだけでなくリナたちまでもか。全く何をしてるんだあいつらは」(レスリー)
「戦闘をしている時はあんなに凛としているのにな~。なんで普段はこんななんだろうな~」

 サリエル様に言われた事で姉さんたちのいる方へ顔を向けると、そこには目を覆いたくなる様な光景が広がっていた。俺と兄さんは額に右手を当てて、上を向きながら大きなため息を一つ吐く。俺たちの近くのテーブル席に座った姉さんたちが、既に酒盛りを始めてしまっていたからだ。さらに姉さんたちと共にいるアメリアさんまでもが、ニコニコと笑みを浮かべながら一緒にお酒を楽しんでいる。
 どうやらアメリアさんも姉さんたちと同じくお酒好きの様で、グビグビ・ゴクゴクと、ジョッキを傾ける手が一切止まる様子が見られない。かなり酔いが深まっている様子から、カフェに入店してから直ぐに酒盛りを初めていたみたいだ。アメリアさんも姉さんたちも、空になったジョッキに次から次へとお酒を注いでいき、カフェにある色々なお酒に手を出していっている。

「この果実酒は凄く飲みやすくて美味しいな」(レイア)
「こっちは度数が低い。でも甘くて香りが良い」(セイン)
「こいつは、爽やかな酸味でスッキリしてるからいいな」(モイラ)
「これは甘さはあまり感じないけど、使われている果実を濃厚に感じるわ」(ユリア)
「どれもこれも一級品のお酒ばっかりね~!!出会えた事に感謝しながら、美味しくいただきましょう~!!」(リナ)
『賛成』
「ふふふ。まだまだありますから、皆さんゆっくり楽しみましょう~」(アメリア)

 ゆっくり楽しみましょうと言いつつも、ジョッキを傾ける勢いや速度は変わらない。しかし、カフェの中のお酒を全て飲みつくす勢いだが大丈夫なのだろうか?他のお客さんでもある天族の者たちの分は、別でしっかりと確保されているのだろうか?もしカフェにあるお酒の全てを飲み干してしまったとしたら、天族の者たちに申し訳ない。

「サリエル様。アメリアさんや姉さんたちがもの凄い速度でお酒飲んでますけど、このカフェにまだお酒の余裕はありますか?もし問題がありそうならば、こちらからも手持ちのお酒を出しますけれど……」
「いえ、問題ありませんよ。このカフェには、空間拡張の魔術がかけられてます。なので、倉庫なども通常の何倍もの広さに拡張されていて、お酒や食材なども大量に用意してあります。ですので、カイル殿もレスリー殿も心配しなくても大丈夫です。アメリアも、その辺は上手くやってくれると思いますから」(サリエル)
「そうなんですか。安心しました」
「はい、安心してください」(サリエル)
「後でお礼の品物を何か送っておかなければな。好意に甘えすぎるのはよくない。それが何年来の友人であったとしても、そういった事は忘れてはいけない」(レスリー)
「そうだね。酔いが醒めた後の姉さんたちにも伝えておくよ」
「そうしてくれ」(レスリー)

 賑やかにお酒を楽しむアメリアさんや姉さんたちの声を聞きながら、姉さんたちが遠慮なく飲んでいるお酒のお礼の品を考えていく。同じお酒ならば、精霊様方が美味しいと褒め、姉さんたちもお代わりをしきり欲しがった、あのワインをお礼の品とするのもいいかもな。
 あのワインの事を思い浮かべた瞬間、姉さんたちの動きがピクリと一瞬だけ止まるのを感じた。相変わらずの、心を読んだかのような勘の良さだな。俺は一切動揺することなく心の平静を保ち、姉さんたちからのピンポイントな無言の威圧を受け流す。威圧が少しずつ弱まるのをひたすら待った後に、ワイン以外のお礼の品についても考える。

〈他にお礼の品として渡せるとしたら、熟成させた食料くらいになっちゃうな。魔力を豊富に含んだ魔鉱石や木材なんかは、この天空島に余る程あるだろうしな。…………いや、それならそれでか?〉

 パッと頭に思い浮かんだのは、鍋・フライパン・包丁・まな板などの調理器具だ。ちょっとした魔道具なら天族の者たちが自前で作れるだろうから、生活用品などを魔鉱石などで作り出してプレゼントしてみたら、天族の者たちにも喜ばれるかもしれない。
 思い立ったが吉日とばかりに、頭の中で色々な属性での組み合わせを試していく。鍋に相性の良い魔鉱石や包丁に相性の良い魔鉱石など、一つ一つ順番に一つの属性から始めてみて、二つ・三つと増やした複合属性のパターンも考えていく。だが色々と組み合わせを試していく中で、悩ましい事が発生した。まだ理論的なものになるが、一つの生活用品に対して相性の良い魔鉱石の属性パターンが多くあり、どのパターンにするか非常に悩ましいのだ。
 どうするかを悩んでいると、カウンターの向こうから再び良い匂いが漂ってきた。とても食欲を刺激する匂いで、俺と兄さんのお腹が鳴いて反応する。サリエル様は、お腹の音を聞いてニコリと微笑む。

「まずは軽めの料理を作りました。この後も色々と料理を出していきますから、どうぞ召し上がってください」(サリエル)
「「ありがとうございます」」(レスリー)

 サリエル様が最初に作ってくれたのは、綺麗な焦げ目のついた、黄色に輝くフレンチトーストだ。兄さんと共にお礼を言って、切り分けられている一切れを手に取り食べる。口一杯に甘さが広がるが、決して胃もたれをする様なものではなく、美味しさによる幸せな甘さだ。フレンチトースト一つとってもこの美味しさとは。この後に出てくる料理が楽しみとなった。
 次々に出てくる美味しい料理と漂う良い匂いに、姉さんたちも流石にお酒を飲む手が止まり、お腹を鳴らしながら俺たちと同じものを食べたがった。サリエル様はそんな姉さんたちにも微笑み返して、アメリアさんや姉さんたちの分も作っていった。姉さんたちは美味しさに驚きつつも、手を止める事なくどんどんと胃袋に料理を収めていく。俺たちは美味しい料理に美味しいお酒をいただきながら、夜遅くまで食事会を楽しませてもらった。
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