引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

文字の大きさ
上 下
211 / 252
第8章

第252話

しおりを挟む
 何と俺たちに男湯の案内をしてくれるのは、天空島で暮らす四柱の神々の内の一柱である、サリエル様その人であった。驚く俺と兄さんを余所に、アメリアさんが姉さんたちを女湯の案内を始めてしまった。

「驚かせてしまって、申し訳ありません」(サリエル)
「い、いえ。それよりも、何故サリエル様が?」
「基本的にあの場所で一日の生活を送っているんですが、こうして偶に温泉に浸かりながら、天族の者たちと交流しているんです。今日は私も温泉に浸かりたい気分だったので、どうせならと案内役を引き受けました」(サリエル)
「そうでしたか。サリエル様直々に案内してもらえるとは、とてもありがたいです」
「いえいえ。私としても、そこまで手間ではありませんから。それでは、男湯の方に向かいましょうか」(サリエル)

 サリエル様に先導してもらいながら、男湯の案内をしてもらう。似せているのは温泉旅館の外観だけかと思えば、内装や脱衣所で使うかごまで、日本の温泉旅館でよく見る光景とそっくりだった。サリエル様は、アメリアさんと同じ様に一つ一つ丁寧に説明してくれて、非常に分かりやすかった。
 一通り脱衣所の案内を終え、次は本命となる温泉へ。水回りの魔道具の使い方を教わり、良い匂いのする石鹸を使って身体を綺麗にしてから、温泉の中へと身体を沈めていく。

「あ~~~~」

 生まれ変わっても、温泉に浸かった時にこの声が出てしまう。そんな俺の様子を見て、兄さんは苦笑しているし、サリエル様は微笑ましいといった様子だ。今リラックスしている俺は、周りからどう見られていようとも、何も感じる事はない。ないったらないのだ。

「それでは改めまして、天空島ロクス・アモエヌスを守護している一柱、サリエルと申します」(サリエル)
「私はカイルの兄で、レスリーと申します」(レスリー)
「貴方の事は、あの方々から聞いていますよ。レスリー殿もまた、あの方々や、ヘクトルやルイスから認められた者であると」(サリエル)
「いえ、私はまだまだです。魔術師として、里の師匠たちの足元にも及びませんから」(レスリー)
「貴方もまた、カイル殿同様日々弛まぬ研鑽に励む者なのですね」(サリエル)
「私はカイルに比べたら、怠け者もいい所です。最近は大学の方も忙しくて、最低限の鍛錬しか出来ていませんから」(レスリー)
「それでも、毎日の鍛錬を欠かしていないのは大変に素晴らしい事です」(サリエル)
「お褒めいただき、ありがとうございます」(レスリー)

 兄さんはそう言って、サリエル様に頭を下げる。サリエル様は、何時もの優しい微笑みを浮かべて兄さんを見ている。何はともあれ、兄さんの事を気に入ってくれている様で何よりだ。

「カイル殿とレスリー殿は、この後どうなさるんですか?」(サリエル)
「私の方はレイアたち、女性陣と共に温泉巡りですかね」(レスリー)
「カイル殿も、レスリー殿たちとご一緒なされるんですか?」(サリエル)
「いえ、私の方は少しやりたい事がありまして…………。それで、突然で申し訳ないんですが、サリエル様に相談させていただきたいんです」
「私にですか?」(サリエル)
「はい、そうです」
「分かりました。カイル殿の相談を聞かせてください」(サリエル)
「先日、ある話をアメリアさんから聞いて考えたんですが………………」

 サリエル様に、アメリアさんと共に貸していただける屋敷を巡った際の一場面、湖が話題に上った時の事を教える。その時に、天族の子供たちが海を知らないという事を知って、この二日間子供たちに何か出来ないかを考え、ある物を生み出した事を説明する。
 俺が生み出した物の説明をしていくと、サリエル様はその物の性能などに驚きながらも、子供たちの為にありがとうと微笑んでお礼を言ってくれた。サリエル様たちも、その辺に関してはどうにかしようと思ってはいたものの、海という領域には海の神々がいる。その他にも様々な要因が重なり、サリエル様やルシフェル様たちも天族の子供たちの為とはいえ、容易に動く事が出来なかったそうだ。

「それで、自分たちでも安全性を確認してはあるんですが、サリエル様たちにも安全かどうかを確認してもらいたいと思いまして」
「そう言う事ですか。ええ、お任せください」(サリエル)
「何か気付いた事があれば、遠慮なく言ってください。今日中に、絶対子供たちにお披露目したいとは、安全である事が確保されない限りは、俺も精霊様方も考えてません」
「ご配慮感謝します。それでは、湯から上がったら早速見てみましょうか」(サリエル)
「お時間の方は大丈夫ですか?」
「問題ありませんよ。特別何かやる事もありませんしね。ルシフェルたちには、私の方から連絡しておきますね」(サリエル)
「お願いします」

 サリエル様は、そのまま黙り込む。念話を使って、ルシフェル様たちに連絡してくれている。そして、念話を数分程度で終わらせたサリエル様は、微笑んで頷いてくれる。

「ルシフェルたちも協力してくれるとの事です。私たち四柱の神々が、問題なしと判断できれば……」(サリエル)
「今日中に、子供たちにお披露目する事は可能です」
「子供たちの喜ぶ顔が目に見えます」(サリエル)

 天族の子供たちの喜ぶ姿を想像したのか、サリエル様はニコニコの笑顔を浮かべている。笑顔を浮かべるサリエル様の姿に、俺の中の神々のイメージが少し変わる。子供たちの事を思って笑顔を浮かべるサリエル様を見ると、優しい神官のお兄さんという感じにしか見えないな。
 その後は温泉を堪能しながら、サリエル様と世間話をしていく。故郷の里や森に関する話であったり、地上のウルカーシュ帝国での生活の話だったりと、色々な話題について語り合った。

「では最後に、湯から上がった後の事を説明していきますね」(サリエル)
「「お願いします」」(レスリー)

 三人で一緒に温泉から出て、身体に残る水滴を拭き取ってから脱衣所に戻ってきた。そしてそのまま、浴室の入り口近くに設置されている魔術術式の上に立つように促される。

「この術式は、暖かな空気で身体を包み込み、濡れた身体や髪を乾かすためのものです」(サリエル)
「なる程。発動するには、魔力を流すだけで?」(レスリー)
「ええ、それだけで大丈夫です。完全に乾き切るまでは魔術が発動し続けますので、そのままジッとしていてください」(サリエル)
「分かりました」

 俺と兄さんは術式の上に乗り、魔力を流し込んでいく。魔力が流し込まれた術式が発動し、サリエル様の説明の通りに、暖かい空気が身体を包み込んでいく。そして、まだ身体に残っていた水滴や、濡れていた髪が乾かされていく。遅すぎず、早すぎず、自然に乾くより少しだけ早いといった絶妙な時間で、身体も髪も完全に乾き切る。
 恐らくだが、この術式は初めて温泉施設を利用するお客様や、天族の子供たちの為に用意された魔術術式だ。特に子供の場合は、身体や髪が濡れていようとも気にする事なく動き回り、湯冷めして風を引いてしまう可能性が高い事から、この魔術が設置されたのだろう。
 そして身体と髪が完全に乾き切った後は、自分たちが使用した脱衣籠を綺麗にする事や、同じく使用した手拭てぬぐいの片付け方などを、実践しながら丁寧に分かりやすく説明してくれた。俺と兄さんは、サリエル様の説明通りに脱衣籠を綺麗にし、手拭いを指定された位置に片付ける。

「ここまでしていただければ、特に問題はありません。そして、天空島の他の温泉施設でも、やっていただく事は変わりません。それから、脱衣所の基本的な構造も変わりませんので、手拭いを片付ける位置も同じだと思ってください」(サリエル)
「分かりました。色々と丁寧に説明していただき、ありがとうございました」(レスリー)
「いえいえ、これくらい何ともありませんよ。それでは、最後の楽しみといきましょうか」(サリエル)
「最後の楽しみ、ですか?」(レスリー)
「ええ、そうです。温泉に入った後はこれだと、私たちも天族の者たちもやる事があります。カイル殿もレスリー殿も、とても気に入ると思いますよ」(サリエル)

 サリエル様が、俺にだけ分かる様にサインを出してくれる。メリオスの温泉施設にはなかったが、もしかしてここには存在するのか!!温泉上がりの定番の一つ、フルーツ牛乳という飲み物が!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。