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第8章

第251話

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 サリエル様たちに報告へ向かうために、天空島ロクス・アモエヌスという名の、未知なる島へと招かれた日から二日が経った。今日は二つの目的を持って、再び天空島へとお邪魔する事にした。当然の事だが、ミシェルさんやグレイスさん、アメリアさんに事前に許可を貰っている。そして今回の訪問では、姉さんたち五人と兄さんを含めた、合計七名で天空島へとお邪魔している。
 天空島の存在について情報開示する事は、精霊様方を通じて、サリエル様たちから許可が下りている。天空島から帰還して早々、タイミングよく自分の屋敷に帰ってきていた兄さんがいたので、まず兄さんにその事を話した。兄さんももの凄く驚いていたが、ミシェルさんグレイスさんが皇帝陛下や近衛隊隊長である事から、世界にとって重要な存在なのではと予想していたそうだ。
 対する姉さんたちは、兄さん経由で顔見知りではあるものの、兄さん程仲が良い訳ではないので当然の様に驚いていた。まあここで暮らしている全員が、何かしらの秘密を抱えている生まれであるからな。そして西側最大国家であるウルカーシュ帝国のトップと最側近が、自分たちと同じ様に秘密を抱えて生きている事に、強く親近感を覚えた様だ。
 そんな姉さんたちの今日の目的は、天空島の街中にある温泉施設巡りだ。姉さんたちはこの二日間、冒険者ギルドで緊急に依頼を受けさせられた関係で、ダンジョンに潜りっぱなしだった。帰ってきて直ぐに、大量に用意した晩御飯をお腹一杯になるまでたいらげて、全員で長時間お風呂を満喫してから早々に眠りについた。リナさんがお酒を飲む事もなく、セインさんが食後のデザートを頼まないなんて、内心での怒りは相当なものだったのではないだろうか。今日の温泉施設巡りで、その溜まってしまった怒りなどを色々と洗い流してもらい、心身共にサッパリしてもらいたいと思う。
 俺は兄さんの屋敷から転移門を開き、アメリアさんに貸していただいている屋敷へと移動し、書斎の扉を開ける。すると、書斎の扉の先にアメリアさんが立っていた。

「カイルさん、皆様も、お待ちしておりました。今回も、私が天空島をご案内させてもらいますね」(アメリア)
「アメリアさん、ありがとうございます。今回は女性陣もいるので、同性であるアメリアさんが温泉施設巡りを案内してくれて、とても助かります」
「いえいえ。これくらいの事は、私としては何ともありませんから。それに、天空島の温泉施設をお客様に紹介出来るなんて、中々ない機会ですから。私としても気合が入るものです」(アメリア)
「でも、高位存在や超高位存在の方々も、この天空島に来ているのでは?」
「大抵のお客様は竜種の方々になりますので、竜種の方々専用の温泉施設にご案内するんですよ。それ以外の方々に関しても、種族的な問題などで、私たちと同じ温泉に浸かる事が出来ない場合もあります」(アメリア)
「なる程。俺たちは天族の皆さんと共に温泉に入る事が出来て、尚且つ自慢の温泉施設を紹介出来る、貴重な相手という事になる訳ですか」
「そう言う事です」(アメリア)

 アメリアさんはニコリと笑ってそう言う。余程、自分たちの自慢の温泉施設を紹介したい様だ。まあ今の説明からも分かる通り、中々一緒の温泉に入れるお客様がいなかったみたいだから、テンションが上がってしまっても仕方ないだろう。
 そんな少し興奮状態のアメリアさんに、温泉施設を楽しみにしている姉さんたち女性陣と、久々の休暇を温泉に浸かって心身を癒そうと考えている兄さんを、それぞれ順番に紹介していく。姉さんたちや兄さんの事については、ミシェルさんやグレイスさんからある程度聞いている事は知っているので、簡単に名前だけの紹介で終わらせる。
 簡単な紹介が終わると、姉さんたちは早速とばかりに質問を始めようとする。俺は慌ててそれを止める。姉さんたちにギロリと鋭い眼光で睨まれるが、まだ書斎から出ただけで、屋敷の外にすら出ていない。その事をやんわりと告げると、それもそうだったなと、納得の姿勢を見せてくれた。

「ではアメリアさん、温泉施設の案内の方、よろしくお願いします」
「はい、お任せください。それから、レイアさんたちの質問には道中でお答えしますので、気兼ねなく質問してください」(アメリア)
「助かります」
「では早速、温泉の…………」(レイア)

 アメリアさんの言質をとったとばかりに、姉さんたちがもの凄い勢いで質問を繰り出していく。温泉施設の基本的な構造から、どの様な効能があるのかなど、一つ一つの事を細かく聞いていっている。その矢継ぎ早の質問に対して、アメリアさんが一つ一つ分かりやすく詳細に答えていくと、姉さんたちのテンションがざわめきと共に上がっていく。どうやら、姉さんたちの何かしらの琴線に触れるものが、アメリアさんの答えの中に含まれていた様だ。
 兄さんの方はと言えば、姉さんたちとアメリアさんの会話を軽く流して聞いていたが、心身を癒すのに高い効能がある温泉施設の話になった途端、興味深そうに姉さんたちとアメリアさんの会話に混じっていった。
 そんな中で俺はと言えば、とある事について思考を巡らせていた。この二日間の間に、青の精霊様に色々と相談しながら、天族の子供たちに喜んでもらえるものを生み出してみた。それに関して精霊様方は勿論の事、姉さんたちや兄さんからも表に出す事を禁じられてしまったが、元より天族の子供たちの為に生み出したものだ。なので、表に出すつもりもなければ、知らない人の前で使うつもりもない。
 色々と考え事をしていたら、どうやら最初の温泉施設に到着したみたいだ。温泉施設の外観は、言ってしまえば完全に日本の老舗和風高級温泉旅館だ。地上のメリオスにある温泉施設の外観は、欧州などの屋敷系のものだっただけに、驚きと共に懐かしさが込み上げてくる。
 そんな懐かしさを感じている俺を余所に、和風温泉旅館の前で、アメリアさんが姉さんたちにどんな効能があるのかを教えている。どうやら、貸していただいた屋敷から一番近い温泉施設であるここは、冷え性などに効く温泉の様だ。
 今回、天空島へとお邪魔している俺を含めた七人の中には、冷え性などに悩まされている者はいない。だがアメリアさんは、それを抜きにしたとしても、天空島にある全ての温泉そのものの質を保証すると言い切った。

「それじゃあ、行きましょうか」(アメリア)

 アメリアさんの後に続いて、俺たちは温泉旅館へと足を踏み入れる。施設の中に入ると、早速メリオスの温泉施設との違いが目に入る。地上にあるメリオスの温泉施設では、施設を利用をするのは有料であるし、当然受付にも人がいる。だがこの温泉施設は、そもそもお金を払って利用するという考えそのものがなく、その為受付はあれど当然人などいるわけもない。つまり天空島の住民である天族の者たちは、毎日好きな時間にここを訪れ、時間を忘れて好きなだけ温泉に浸かっている事が出来るという事だ。何とも、大変、非常に羨ましいものである。

「カイルさんとレスリーさんは、少々お待ちいただけますか?流石に、女性である私が男湯を案内するのは……」(アメリア)
「ええ、分かっています」(レスリー)
「それは仕方ないかと思いますので、アメリアさんは気にしないでください」
「ありがとうございます。それでは、先にレイアさんたちに説明を終わらせてきますので、こちらの方で待っていて…………」(アメリア)
「アメリア、お待たせしました。カイル殿、レスリー殿、お二方は私が案内させていただきます」(サリエル)
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