上 下
208 / 252
第8章

第249話

しおりを挟む
 天空島ロクス・アモエヌスにおける屋敷巡りは、精神的にもの凄く疲れる事となった。アメリアさんによって拠点に相応しいと選ばれた屋敷の数々は、どれもこれもが、最初に連れていかれた武家屋敷と同レベルの質のものばかりだった。
 アメリアさんも俺たちが少人数である事を考慮して、最初の武家屋敷に匹敵する程広大な屋敷を選ぶ事がなくなったのは、心の底からホッした。その代わりに、一軒紹介していく事に、内装などのレベルが僅かずつではあるが上がっていった。屋敷の中にある家具やお風呂場など、どこの大貴族や王族が使うんだよといったレベルのものなどもあった。

「ここもダメとなってしまうと、ご紹介出来る屋敷も残り僅かと…………」(アメリア)
「あの、……アメリアさん」
「はい、何でしょうか?」(アメリア)
「屋敷の規模を小さくしてくれるのは大変ありがたいんですが、どんどん内装が豪華になっていっていませんか?」
「そうですね。私たちにも、質と同時に見た目にも凝る時期がありまして……。直近でご紹介してきた屋敷は、丁度その時期に建てられたものになります。なので、内装も豪華に見える家具などが取り揃えられているんです」(アメリア)
「なる程」

 俺たちの里にも、職人たちの間で流行が変わる事が何度かあった。そして、その流行していた時期に色々と作り、そのまま里の中で使われる事なく倉庫に眠る事が多い。天族の者たちは、それらの有効活用法を自分たちで考え付いた。それが、屋敷の家具として使う事だったのだろう。
 故郷の里には、外部のお客様が訪れる事はまずない。あったとしても、年に数回もあれば多いと言える程だ。なので、故郷の里にはお客様が滞在する用の家は数軒しかない。そして大抵里を訪れる客は、長老衆や長、もしくはヘクトル爺の友人である事が多い。なので、誰かの家に泊めるのがいつもの流れなのだ。
 だが天族の者たちの場合は、基本的にサリエル様やルシフェル様たち関係のお客様が中心となるため、宿泊専用の色々な屋敷が建てられたのだろう。

「……やはり俺たちの拠点となる屋敷は、アメリアさんたち天族の皆さんが暮らしている様な、普通の屋敷でいいんです」

 外観や内装が凄かったり豪華すぎると、前世や今世通して根っからの庶民である俺としては、内心ビクビクしてしまって使いづらい。兄さんが宿代わりに使わせてくれている屋敷でさえも、俺にとっては豪邸に分類される様な立派な家なのだ。

「…………分かりました。カイルさんのご希望に沿う屋敷の幾つかを、今からご紹介しています。気に入った屋敷があったら、私の声を掛けてくださいね」(アメリア)
「はい、お願いします」

 そこから再び始まった屋敷巡りで紹介された屋敷の数々は、外観も内装も落ち着きがあり、家具なども見た目はシンプルなものだった。しかし見た目はシンプルではあるが、当然質の方は最高級品である。
 外観や内装が普通の屋敷と言っても、お客様が宿泊する時に使用する屋敷だからな。どれもこれもが超一流の職人たちの手で作られ、もの凄く丁寧に仕上げられている。一見すると同じ職人さんの作品に見えるが、一つ一つの作品の所々に、各職人たちのこだわりが見え隠れしている。
 その屋敷巡りの中で特に気に入った屋敷は、二つの屋敷に絞られた。一つは、自然豊かな森に近い位置に建てられ、近くに自然に流れる川や小さな湖などもある屋敷。もう一つは、天族の者たちが多く暮らしている地域に近く、天空島に住む天族の者たちと交流しやすい場所に建てられた屋敷。
 天族の者たちが長い歴史の中で作り上げた街には、様々なお店が多く立ち並んでおり、生活必需品から食べ物に至るまで色々と揃っている。街に近い場所に建てられている屋敷に関してはそれだけでなく、サリエル様たちが暮らしている巨大な館のある場所から、そう遠くない場所に屋敷があるという点だ。それから女性陣にとって欠かせない、天然の温泉に入れる入浴施設があるという所も、姉さんたちが気に入るだろうと思っている。
 天然の温泉に関しては、天空島ロクス・アモエヌスを作り出す時に、サリエル様たちがそれとなく細工をした事で、普通に温泉が湧く様になっているそうだ。天族の者たちも天然の温泉はお気に入りの様で、街中には温泉施設が幾つか建てられており、街で暮らしている天族の者たちの中には、毎日の様に通っている者もいるそうだ。

〈自然豊かな森に近い位置に建てられた屋敷の方は、俺たち兄姉や、リナさんたちが暮らしてきた環境に近いという事で気に入ったんだが……。まあ少なくとも姉さんたちに関しては、温泉がある街に近い方の屋敷を選ぶだろうな〉
「ここまで紹介してきましたが、気になられた屋敷はありましたか?」(アメリア)
「ええ、二つ程ありました。ですが、改めてその二つの屋敷を客観的に考えてみて、どちらにするか決まりました」
「ちなみに、どちらとどちらで悩まれたんですか?」(アメリア)
「あの森に近い屋敷と、最後に紹介してくださった街に近い屋敷ですね。色々と悩みましたが、街に近い方の屋敷に決めました。姉さんたちも温泉、風呂に入って清潔を保つ事を気にしているので、温泉施設に近い方を選ばせてもらいました」
「なる程。……それならば、街中に建てられていて、温泉施設にも近い屋敷があります。そちらの方をお使いになりますか?」(アメリア)
「え?……いいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。その屋敷は私の一族が所有している屋敷で、普段は使っていない屋敷の一つですから。ああ、使っていないと言っても、維持管理はしっかりとしてありますので、そこはご安心ください」(アメリア)
「一度見させてもらってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。それでは、後に付いてきてくださいね」(アメリア)
「はい、お願いします」

 貸していただける屋敷を見させてもらうために、アメリアさんと共に街の中へと足を進めていく。やはり天空島にお客様がくる事自体珍しいからか、街に暮らしている天族の者たちに興味深そうに見られている。
 天族の者たちから注目を集めているが、俺は足を止める事なく気にせず歩き続ける。皆、どんなお客様なんだろうという好奇心から興味深そうに見てくるだけであって、負の感情でもって敵視してきた訳ではないからな。
 そんな天族の者たちの中には、当然ながら老人から子供まで、様々な年代の者たちがいる。特に幼い子供たちは、俺というお客様を瞳をキラキラさせながら見ている。そんな子供たちに向かって軽く手を振ってあげると、ニコニコと純真な笑顔を浮かべながら手を振り返してくれた。

「ここ最近は竜種のお客様が多かったので、子供たちはカイルさんに興味津々の様です。何かご気分を害したりは……」(アメリア)
「ないです、ないです。寧ろ、微笑ましいなと思って見ていましたよ」
「それなら良かったです。屋敷には、もうまもなくで到着しますので」(アメリア)
「はい、分かりました」

 そのまま天族の者たちにジーッと見られ続けながらも歩く事五分程、一つの屋敷の前でアメリアさんの足が止まった。どうやらここが、アメリアさんの一族が所有している屋敷なのだろう。
 二階建ての横に広い屋敷で、俺や姉さんたち全員で使う事になったとしても、物置専用の部屋を作る事も出来る位には、部屋数にも余裕がありそうに見える。屋敷の外壁は、とても綺麗なあま色一色で統一されている。広い庭も付いており、姉さんたちと鍛錬も出来るくらいには余裕がありそうだ。
 外観に関しても、俺や姉さんたちが避ける様な豪華な装飾などが一切ない、シンプルでいながらも洗練されたデザインだ。個人的にも好ましい屋敷であるし、姉さんたちも気に入る事は間違いない。これに温泉施設が近いとなれば、確実にこの屋敷で決まるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。