引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第8章

第237話

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 エマさんや他の宗派の方たちのお願いの内容に少し驚きつつも、いつかその様な内容の話がくるのではと思ってはいた。魔術競技大会前に孤児院を訪れた際にリムリットさんが言っていた様に、近所のお爺さんやお婆ちゃんたちから、子供たち同様ミストラルたちも可愛がられているからな。
 普段はそんなお爺ちゃんやお婆ちゃんたちとの触れ合いが多いが、もしかしたら教会に訪れた子供や大人たちの中から、ミストラルたちと触れ合いたいという人たちが現れたのかもしれないな。
 近所のお爺ちゃんやお婆ちゃんたちなら、昔からの見知った相手という事もあって、ミストラルたちを気軽に合わせる事が出来るのだろう。だがあまり親交の無い人たちに気軽に会わせるには、色々と不安や心配がある事から、安易にミストラルたちのと触れ合う事はさせていないという事も聞いている。

「子供たちは全員一緒にお出掛けするんですか?それとも、何人かに分かれて順番にお出掛けするんですか?」
「今の所は、全員一緒にお出掛けしてもらおうと考えています。それからミストラルたちだけじゃなくて、何人かの司祭様やシスターたちが、子供たちを引率する事になっています」(エマ)
「天星祭のお祭り騒ぎにかこつけて、何か良からぬ事を企む奴も現れるでしょう。子供たちはそんな奴らにしてみたら、いい標的になる事は間違いないですしね。そんな子供たちの傍にミストラルたちが護衛としているなら、俺としても安心です」
「それじゃあ…………」(エマ)
「はい、護衛に関しては俺も賛成ですので許可します。それにミストラルたちも、子供たちを守るために護衛として孤児院の外へ出る事に関しては、快く引き受けてくれるでしょう。ただ…………」
「やっぱり、他の人との触れ合いについては反対ですか?」(エマ)

 エマさんが少し不安げな表情をしながら、俺の顔色をうかがう様にして問いかけてくる。
 確かに最初の頃は、リベルタやフェデルタたちが孤児院の外に出る事に対して、消極的反対の立場ではあった。だが俺も外の世界で暮らしていく内に、色々と考えが変わっていった。そんな考えの変わった今の俺としては、ミストラルたちが本心から嫌がっていないのならば、護衛として孤児院の外に出ようとも、教会に訪れた見知らぬ人と触れ合う事をしてもいいとは思っている。
 ただ触れ合いに関しては、懸念する問題が色々と存在する。最初にリベルタやフェデルタの存在に関して問題が起きた時は、商人とその仲間たちが相手だった。しかし、ミストラルたちと触れ合う機会や相手を増やすのならば、自然とその中に貴族やその関係者が増えてくる事は間違いないだろう。
 それら貴族や貴族関係の者たちと、もしも何かしらのトラブルになった時に、どの様に対処するのかだけは確認しておかなければならない。

「いえ、ミストラルたちが嫌がっていないなら、特に反対する事はないんですけど…………」
「やはり何か心配事が?」(エマ)
「あの実力行使をしてきた商人たちなら、フォルセさんたち領主側の力でも対処が出来ると予想しています。しかし、同じ爵位の貴族やフォルセんさんよりも格上の貴族相手となると、どこまでミストラルたちを守り切れるのかなと。エマさんたちも高位貴族相手となると、流石に強く出れないですよね?」
「なる程、その事に関してですか。でしたら大丈夫です」(エマ)

 俺の少し失礼な物言いを気にする事もなく、エマさんは笑顔で大丈夫だと言ってくれる。しかし、何故そうもハッキリと大丈夫だと断言出来るのだろうか?俺が知らないだけで、各宗派の教会にその国の貴族が手を出す事が禁じられているなどの、国としての対策がされているのか?

「実は魔術競技大会が終わった少し後の頃に、皇帝陛下直々のサインが書かれた文書が中に入っている、皇室の印章いんしょうが押された封書ふうしょが関係各所に送られてきました」(エマ)
「ミシェ……皇帝陛下からの封書が?それに関係各所と言うのは一体?」
「そうですね。順を追って説明します」(エマ)

 エマさんは、ミシェルさんの名前が出て少し混乱している俺にも分かりやすい様にと、細かく丁寧に当時の状況の変化や、封書に書かれていた内容についてを教えてくれる。
 どうやら皇帝陛下ことミシェルさんと、ウルカーシュ帝国皇室近衛隊隊長であるグレイスさんは、魔術競技大会が終了した後に、孤児院の視察の件をフォルセさんに問い合わせた様だ。その過程でミストラルたちスライムアニマルの存在について知り、その希少性や今後の魔術の発展の為にもという大義名分を立てる事で、強欲な商人たちや考え無しの馬鹿な貴族たちの干渉を禁ずる方向で動いてくれたみたいだ。
 それから普通の感性や真っ当な人格者である貴族たちや、同じく真面で普通の感性をしている商人たちに対しても、皇帝陛下の名において一種の警告に近い通達を出してくれた様だ。
 そしてウルカーシュ帝国を西側最大国家にまで繁栄させ、強大な国家へと成長させた皇室の影響力は凄まじく、ミシェルさん直々に書かれた文書にサイン、それと皇室の印章が押された封書が各貴族家や商家へと送られると、各教会へときていたミストラルたちに関する問い合わせが一斉になくなったそうだ。

「……そんな事があったんですか。そう言う事なら、俺としても安心ですね」
「でしたら……」(エマ)
「まあ後は、先程も言った様にミストラルたちの気持ち次第ですかね。本人たちが見知らぬ人たちに触れられるのをよしとするのなら、俺としては何も言うつもりはありません」
「ありがとうございます。ミストラルたちへの説明は、私たちの方からしても?」(エマ)
「ええ、大丈夫ですよ。説明するのは何時にしますか?」
「カイルさんにお時間の余裕があるのなら、この後直ぐにでもお願いできますか?」(エマ)
「分かりました」

 俺とエマさんは、子供たちと遊んでいるミストラルたちに近づいていく。そして、ミストラルたちや子供たちに分かりやすい様に、エマさんが色々と説明をしていく。  
 その説明を受けて、フェデルタなどの人と触れ合うのが比較的好きな子たちは、エマさんのお願いを嬉々として受け入れた。それに対して、一歩引いて冷静に状況を見れるミストラルやリベルタといった子たちからは、エマさんのお願いに対して様々な質問をぶつけてきた。
 それらの質問一つ一つに、丁寧で分かりやすい答えを返していく。別に俺としては、ミストラルたち全員が触れ合いに参加する必要はないと思っている。ミストラルたちには、俺たちと同じ様に自我もあれば知性もある。そして、それぞれ好きな事もあれば嫌いな事もある。
 だから、見知らぬ相手との触れ合いが嫌いな子たちがいるのなら、その子たちは別に参加しなくてもいいという事も伝えた。これは強制ではないし、断ったからと言って何かがある訳でもないしな。

「ただエマさんたちは、ミストラルたちに広い世界を見せてあげたいと考えているだけだよ。このまま孤児院と言う狭い世界でクトリちゃんたちと生きていくよりも、メリオスという都市へと飛び出して、クトリちゃんたちと色々な経験を積んでほしいと願っているだけなんだ」
『主様は?主様はどう思ってるんですか?』(リベルタ)
「俺かい?まあ実を言うと、俺も皆と同じ道を歩いている途中さ。自分の生まれた場所から遠く離れたここで暮らして、色々と経験を積んでいる最中だよ。勿論、良い人との出会いもあれば、悪い人との出会いもあった。外に出るっていうのは、そういった人たちとの付き合い方を学ぶ事が出来る場でもあるんだ。たださっきも言ったけど、これは主として強制するわけじゃないから、自分たちでしっかり考えてから決めなさい」
『…………分かりました、色々と考えてみます』(ミストラル)
『少し時間をください、主様』(リベルタ)
「ああ、大丈夫だよ」

 天星祭までにはまだまだ時間がある。ミストラルたちにはじっくりと考えてもらって、自分の答えというものを出してもらいたい。これから先、自分たちがどういう風に生きていくのかを考えるのも、ミストラルたちの成長の繋がる事だろう。
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