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第8章

第234話

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 暫くの間風呂を堪能してから、風属性の魔力と火属性の魔力を掛け合わせて温風を生みだし、濡れた身体と頭を乾かしていく。この方法を使うと、全身が均等に渇いていくので非常に便利だ。この乾かし方はこの世界でも古くから使われていて、これを母さんが小さい頃に俺に使ってくれた時に、どんな世界であっても手軽に済む事を求めていくのは同じだと思ったものだ。
 しっかりと全身が渇いた事を確認してから、脱いだ服に浄化を発動する。発動した浄化によって綺麗になった服を着込んでいき、気持ちを切り替えて食卓へと向かう。

〈朝食はどうしようか。子供たちはまだ寝ている子もいるだろうし、少し時間をかけて作っても十分間に合うかな〉

 朝の鍛錬が終わり、朝風呂をのんびりゆっくりと堪能してきたとはいえ、空は明るくなってきたばかりだ。孤児院の子供たちどころか、姉さんたちですらもお眠の時間帯だ。今から孤児院を訪ねたとしても、誰も起きていないだろう。それにこんな時間から訪ねても、エマさんやリムリットさんの迷惑になるしな。

「話には聞いていましたが、カイルさんは本当に早起きなんですね」(エロディ)
「エロディさんこそ、こんな時間に起きて家事をしているなんて凄いと思いますよ」
「いえいえ、シルキーとしては当然です。それに私たち妖精には、睡眠というのはあまり必要ありませんしね。眠るとしても、数十分から一時間程度の睡眠で事足りてしまいますから」(エロディ)
「へ~、いいですね。俺たちは眠るという行為を行わなければ、力を十全に発揮出来ませんから」
「ですがその代わりに、私たちには分からない、眠るという行為の良さを知っています。カイルさんが私たちのそういった部分を羨むと同時に、私たちもカイルさんのそういった部分を羨んでもいます。私たちはお互いに、隣の芝生は青く見えるという事ですね」(エロディ)
「確かにそうですね」

 エロディさんの言う通り、エロディさんたち妖精種や精霊様方の中にも、眠るという行為を羨んでいる者たちがいてもおかしくはないのか。確かに、数十分から一時間程度の睡眠で事足りてしまのなら、睡眠の良さをいうものを感じる事は出来ないのかもな。種族の違いについて色々な事を考えながら、手際よく朝食の準備を進めていく。
 今日の朝食は少し豪勢にしてみよう。以前孤児院の子供たちに振舞った熟成肉のシャトーブリアンのステーキを焼き、そこに葉物はもの野菜をステーキに添える。さらに厚焼き玉子を焼いてもう一品おかずを加え、最後に大盛りの白米を用意する。そして飲み物は、メリオスにあるお茶屋さんで購入したお高い紅茶となる。

「…………カイルさん、そのお肉は何処のお肉屋さんで買ったものですか?」(エロディ)

 そう俺に問いかけてくるエロディさんの顔は、高品質な食材を見つけた一流の料理人の顔であり、魅力的な商品を見つけた商人の様でもある。そしてその視線は、シャトーブリアンのステーキの方を向いている。

「ええっと、このお肉は俺が一手間加えて改良したお肉ですね。メリオスのお肉屋さんには売っていないでしょうし、ウルカーシュ帝国全土や他国で探しても、このお肉は売っていないんじゃないかと思います」
「つまりこのお肉は、カイルさんしか持っていないお肉という事ですか?」(エロディ)
「現状ではそうなります」
「そうなのですか」

 俺の答えに対して、エロディさんが少しガッカリした様に肩を落としてしまう。その落ち込み様は凄まじく、見ているこちらの胸が痛んでしまう程だ。俺としては、エロディさんをそこまで落ち込ませるつもりはなかったので、直ぐに情報を追加していく。

「安心してください、エロディさん。エロディさんには、ちゃんとやり方をお教えしますから。『熟成の事、教えても大丈夫ですよね?』」
『ああ、エロディたち妖精種にならば問題はない。ただ…………』(緑の精霊)
『はい、分かってます。容易に他者へ情報を伝えない様にと、しっかりと念押ししておきます』
『それならいい』(緑の精霊)
「ほ、本当ですか!?」(エロディ)
「はい、エロディさんにも分かりやすく説明しますから。やり方さえ分かれば、今後は自分で作る事が可能になりますから」
「ありがとうございます!!カイルさん!!」(エロディ)

 エロディさんは俺の両手を掴み、ブンブンと上下に振る。その姿から、エロディさんがどれだけ喜んでいるのかが伝わってくる。先程の胸が痛むほどの落ち込み様に比べたら、満面の笑みを浮かべて喜んでくれている方が何倍もマシだ。例えそのために、熟成と言う考え方を教える事になってもだ。
 それに俺が不在の間、エロディさんは姉さんたち食いしん坊の相手を一手に引き受けてくれていたんだ。熟成と言う考え方を教える事で、大分苦労させたであろうエロディさんに少しでも報いる事が出来る。寧ろ、これでも足りないのではと思っているくらいだ。

「食事中にも関わらず、大変失礼致しました」(エロディ)
「いえ、それ程喜んで頂けたならばこちらとしても嬉しいですから」
「……ありがとうございます」(エロディ)
「それと、今直ぐに教えるという訳にはいきません。勿論、やり方をお教えする事は約束します。少々待ってもらう事になりますが、それでもいいですか?」
「はい、勿論です。カイルさんのお時間を奪ってまで、無理に教わろうとは思っておりません。お教えしてくれる事を約束してくれただけでも、私としては充分ですから。その様にお気遣い頂き感謝致します」(エロディ)
「いえいえ、エロディさんはもう俺たちの大事な仲間ですから」
「本当に、ありがとうございます」(エロディ)

 エロディさんは深々と一礼をしてから、もう一度ニッコリと笑顔を浮かべてくれた。その眩しいくらいに輝いている笑顔も相まって、美人なエロディさんの魅力が全身から溢れ出てきている。俺としても、眩しいくらいに輝く様な笑顔を浮かべてくれる程喜んでもらえたなら、とても嬉しい限りである。
 その後は料理談議に花を咲かせながら、俺はのんびりゆっくりと朝食を食べていき、エロディさんはこれから起きてくる姉さんたちの為にと、朝食の準備を手際よく進めていく。昨日の夕食の時にも見ていたが、一つ一つの作業が丁寧でいながら素早く、尚且なおかつ食材を一切無駄にする事がないのは凄いと思う。
 のんびりゆっくりと朝食をとっている間にどんどんと調理が進んでいき、次々と流れる様に料理が出来上がっていく。それらの料理の数々は、肉を好む姉さんたちの事を考えつつも、ちゃんと野菜を混ぜているバランスの良い料理となっている。色りの料理が食卓へと並べられていくが、どれもこれも美味しそうな料理だ。見た目の色鮮やかさもさる事ながら、食卓に漂う食欲を刺激する良い匂いなど、並べられた一品一品が間違いなく美味しい事を確信させてくれる。
 そんな食卓から漂う食欲を刺激する良い匂いを、姉さんたちの食に関する異常なまでの嗅覚が捉えたのか、続々と姉さんたちが目を覚ましていくのを魔力の動きで感知していく。食欲を刺激する良い匂いで起きてくるなんて、改めて姉さんたち食いしん坊の食い気に対して呆れてしまう。

〈さて、朝食も食べ終えた事だし、食後の休憩をとってから孤児院に向かうとしようか。エマさんやリムリットさん、孤児院の子供たちやスライムアニマルたちは、皆元気に過ごしていただろうか。皆に合うのが楽しみだな〉

 そんな事を思いながら、使った食器類を綺麗に洗っていく。洗い終わった食器類へ最後に浄化をかけてから、ポーチの中に仕舞いこんでいく。そして庭先にテントを展開して中に入り、故郷の里で育てた果実を使ったジュースを冷蔵庫から取り出して、それを読書のおともとして暫しの間趣味の時間を楽しんだ。
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