引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第8章

第232話

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 最初の戦闘が終わってから、その後も幾度となく挑んだものの結果は全敗。自分の持てる力の全てを出していったが、それでもヘクトル爺には届かなかった。それに最初の戦闘の最後の仕掛けの様に、俺が魔力感知に頼った索敵をした事を逆手に取られる事が何度もあった。これらが原因で仕留められた時もあったので、今回の戦闘全てを一つ一つしっかりと反省して、修正していかなければいけない。
 そして、一つ問題もある。それは、警戒時の索敵や戦闘時において、魔力感知が非常に優秀すぎるという点だ。魔力感知は色々な場面で活用出来るため、ヘクトル爺やルイス姉さんたち師匠たちからは、時間がある時は鍛えておけとまで言われていた程の能力だ。しかし魔力感知はどの様な魔力であっても感知してしまうので、最初の戦闘の時の様な方法で仕掛けられてしまうと、俺の様に容易に騙されてしまうのだ。

「いや、あれはヘクトルの奴が一枚上手だっただけだ」(緑の精霊)
「ですが、索敵や警戒を魔力感知に頼り過ぎているのも事実です」
「そうは言うが、この世界において魔力という存在は普遍ふへん的なものだ。例え上位存在であったとしても、戦闘に置いては魔力を必ず使用すると言ってもいい。この先魔人種たちと戦っていくのなら、魔力感知は必須となるのは間違いない」(緑の精霊)
「しかし、ヘクトル爺はその魔力感知を欺いてきました。未だ戦士として未熟である俺には出来ない芸当で、その様な事が出来る相手との戦いに、魔力感知が機能するとは思えません」
「ハッキリ言うけど、ヘクトルは怪物たちの中でも指折りの怪物よ。身体から僅かに発せられるはずの魔力を完全に遮断して、魔力感知に一切感知されないなんて芸当が出来るのは、永い時を生きてきた私たち四人でも数人しか知らないわ」(青の精霊)
「カイルは、ヘクトルやルイスたちから熱心に鍛えられた影響が大き過ぎるな。ヘクトルやルイスが出来る事が、上位存在でも出来ると思っているだろ?」(赤の精霊)
「そんな事はありませんが、ヘクトル爺やルイス姉さんが出来るのなら、他の誰かも出来る可能性があると思っているだけです。この世界だろうと異世界だろうと、世の中には‟絶対”はないでしょう?」
「確かに世の中に‟絶対”はない。カイルの言い分も正しい」(黄の精霊)
「…………そうだな。常に備えておく事は大切か。その備えが、生死を分かつ可能性もあるしな」(緑の精霊)

 俺の考えに対して、精霊様方も一応の納得をしてくれた様だ。しかし、ヘクトル爺のあの技術が脅威であることには変わりない。何とかして、魔力を完全に遮断している状態のヘクトル爺を感知する方法を見つけて、真面にやり合える様にならなければいけない。そのためにも、魔力を完全に遮断するという事がどういったものなのかを、自分が理解しなくてはならない。

「精霊様方は、魔力を完全に遮断するやり方を知ってますか?」
「ああ、知っている。だが今からそれを習得するには、本人の才能と膨大な時間が必要だ」(緑の精霊)
「精霊様方から見て、俺はその条件を満たしていますか?」
「確実に満たしているだろうな。しかし条件を満たしている事と、短時間で魔力の遮断を習得出来るのかは別の問題だ」(赤の精霊)
「つまり時間の問題さえ解決出来るのなら、短期間での習得も可能と考えてもいいですか?」
「何か考えがあるの?」(青の精霊)
「ええ、一つだけですが」
「時間の問題を解決出来るのなら、カイルなら確実に習得出来る。それは保証する」(黄の精霊)

 黄の精霊様がハッキリと断言してくれる。そして、他の精霊様方がその断言に対して反論をしない事から、他の精霊様方も同じだと思っていいだろう。そして、習得出来るかどうかは俺の頑張り次第。後は、精霊様方に教わるやり方の難易度によって、どれだけの時間で習得出来るのかが変わるな。

「それでは、魔力を遮断するやり方を教えてください」
「その前に、時間の問題を解決する方法を教えてくれ。やり方を教えるのは、それを聞いてからとする」(緑の精霊)
「分かりました。それでは説明させていただきます」

 精霊様方に説明していった解決法とは、時間を加速させた異空間を作り出し、そこで集中して修行をするというものだ。時間を加速させれば、某漫画の様に一日で一年分の修行が出来たり、異空間の外の世界の一分が六時間相当となる。その時間を加速させた異空間の中で、膨大な時間を費やして鍛錬を積んだとしても、異空間の外に出れば一日経っているだけとなる。
 俺がした説明を、精霊様方は驚きつつも興味深そうに聞いている。一通りの説明をし終わると、精霊様方は俺の解決方法に対しての議論を始めた。そのまま暫く精霊様方の議論は続いた後に、何かしらの結論が出た様で議論が終わる。

「カイル、その方法でやってみるか」(緑の精霊)
「それじゃあ、教えてもらえるんですね?」
「ああ、教えてやる」(赤の精霊)
「ありがとうございます」
「それじゃあ説明していくわね。魔力を遮断する方法っていうのは、簡単に言うと木人を使った鍛錬の応用みたいなものよ。あの時の訓練では、無意識の状態で自然に扱っている魔力を引き出す方法を習得したけど、今回はその逆の事を習得してもらうわ。それが、魔力を遮断する方法なのよ」(青の精霊)
「そして魔力を完全に遮断するというのは、無意識の状態で自然に扱う魔力すらも完全に制御する事で、自身の魔力を身体の内側へと抑え込んで、身体から一切の魔力を発しない状態へと至るというもの」(黄の精霊)
「なる程、確かに木人の訓練に応用ですね」
「習得に際する問題点としては、無意識の状態で自然に扱う魔力を引き出すよりも、完全に制御して身体の内側へと抑え込む方が遥かに難しいという事だ。あのヘクトルでさえも、これを完全に習得するまでに百年以上の時間がかかった程だ」(緑の精霊)
「ヘクトル爺が魔力を遮断するという技術を習得したのは、あの幻想の頃の年齢よりも前ってことですよね?」
「ああ、そうだ。ヘクトルは、二百歳代前半の頃に魔力を遮断する技術を習得した。私たちが幻想で作り出したヘクトルは大体三百歳代前半の頃で、この時には既に魔力を完全に遮断出来る様になっていたな」(赤の精霊)

 ヘクトル爺であっても、完全に習得するまでに百年以上の時間がかかる技術か。寿命の長い種族であるエルフに生まれ変わったとしても、生前の感覚が未だに残っている俺からしてみると、百年という年月は非常に長い。しかも習得に百年以上の時間がかかる技術を完全にものにするのに、習得からさらに百年ほどかかるとなると、その難易度は想像よりも遥かに高い。
 だが魔力を遮断するという技術を習得する事が出来れば、戦士として一段階上の領域へと上がる為の力になってくれる事は間違いない。この魔力を遮断する技術と、自分の持つ様々な技術を色々と混ぜ合わせていけば、戦法の幅が大きく広がっていくだろう。

〈ヘクトル爺がルイス姉さんにすらも感知される事なく、神出鬼没に消えたり現れたりする事が出来たのは、この技術の力があったからか。魔力を一切身体から発しないならば、いかにルイス姉さんといえども感知する事は不可能か。改めて考えてみても、あのルイス姉さんの感知の網から抜け出せていること自体、この技術の有用性を表しているな〉
 
 幻想のヘクトル爺に一勝するためにも、まずは魔力を遮断する技術の習得を進めるのを優先しよう。そして技術を習得出来たら、魔力を完全に遮断出来る事を目指しつつ、幻想のヘクトル爺との実戦という鍛錬を繰り返していくとしよう。
 アッシュとの戦闘で色々と現実を突きつけられて沈んでいた心が、目指すべき男の強さの一端を改めて知った事で、再び熱く燃え上がってきた。
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