引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第7章

第213話

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 王城内に入り、王妃様方や、シュリ第二王女の弟さんや妹さんのいるであろう場所に向かって、歩みを止める事なく進んでいく。王城内は、様々な立場の者たちが、自らの職務を全うするために、慌ただしく動き回っている。そんな者たちが、シュリ第二王女の姿を見てその動きを止め、驚きと安堵の表情に変わり、シュリ第二王女に近寄ってくる。

「姫様‼よくお戻りに‼王妃様方に、早くお顔を見せてあげてくださいませ‼」(羊人族のメイド)
「ええ、分かっていますよ。ですから貴方たちも、安心して職務に戻りなさい」(シュリ)
「――ハッ‼失礼いたしました‼…………生きて戻られた事に、神獣様に感謝を‼」(山羊人族の執事)
『神獣様に、感謝を‼』

 シュリ第二王女の周りに集まって来ていた者たちは、シュリ第二王女が王城に帰還出来た事に、神獣様へ感謝を告げてから、それぞれの職務、やるべき事に戻っていく。そんな彼らの表情は、俺たちが王城に現れる前と後では、大きく変化していた。  
 最初に彼らを見た時には、反乱が起きたという事への不安、自分たちの未来への不安、獣王様やザリス王子たちの安否、王妃様方や幼い王子様や王女様たちへの心配など、様々な感情や思いが入り混じったものが、各々おのおのの表情に現れていた。そんな強い負の感情が表情に現れ、姿勢も俯き加減でいた彼らは、シュリ第二王女が王城に帰還した事で、一気に強い負の感情が吹き飛んでいき、ビシッとした、背中に定規を入れられた様な、綺麗な姿勢に戻り、表情も晴れやかなものに変わったのだ。その姿は、王城に努めるメイドや執事として、相応しいものだった。
 そんな彼らを見送り、俺たちは再び歩みを進める。シュリ第二王女は、一切歩みを止める事なく進んでいる事から、王妃様方や、幼い王子や王女のいる場所に、おおよその見当が付いているのだろう。恐らく、こういった事態の際において、決められた避難場所があり、そこにいらっしゃるのだろう。
 王城内をスルスルと進んでいた、シュリ第二王女が足を止めたその場所には、大きな両開きの扉がある。その扉の両脇には、女性騎士が二人立っており、厳重に警戒している。近づく俺たちを見て、即座に戦闘体勢に入る。だが、近づいてきたのがシュリ第二王女だと分かると、直ぐに警戒を解き、扉の両脇に戻り、シュリ第二王女に敬礼をする。シュリ第二王女は、その場に一度立ち止まり、二人の女性騎士に答礼を返す。そして再び歩み出し、両開きの扉に近づいて、三回ノックをする。

「シュリです、エスティ母様、シュテルお母様、ただいま戻りました」(シュリ)

 シュリ第二王女がそう呼びかけると、息を殺すかの様に、静かだった両開きの扉の向こう側で、幼い子供たちの興奮した声が上がる。そして、その声を起点にして、部屋中からの感情が溢れ出したと思ったら、両開きの扉が、バンッと勢いよく開かれる。

「シュリ‼よく戻りました‼」(エスティ)
「お帰りなさい、シュリ」(シュテル)

 アトル第一王子の生みの親、獣王様の正室にして、王族という‟群れ”を纏め上げている獅子人族の女傑、エスティ王妃。そして、シュリ第二王女の産みの親、獣王様の側妃であり、兎人族の中でも頭一つ抜けている戦士でもある女傑、シュテル側妃。開かれた扉の所には、そんな二人の女傑が立っていた。
 エスティ王妃は、獰猛と言ってもいい、獣王様によく似た笑みを浮かべて昂ぶり、対するシュテル側妃は、朗らかな笑みを浮かべ、静かなる余裕を見せている。この目の前に立つ二人の女傑や、この部屋の中にいる女傑たちも、獣王様やアトル第一王子たち、そしてシュリ第二王女が、負ける事も、死ぬ事も、一ミリも考えていなかった事が、思いっきり伝わってくる。

「シュリ姉さま‼」(鹿人族の王女)
「シュリ姉ちゃん‼」(熊人族の王子)

 開かれた扉の向こう、部屋の奥から、幼い王子や王女たちが、喜色満面きしょくまんめんで走り出し、エスティ王妃とシュテル側妃の傍を駆け抜け、シュリ第二王女の元へ向かって行く。シュリ第二王女は、駆け寄って来る王子や王女たちの為に、膝を曲げて地面に付け、視線の高さを合わせて、王子や王女たちを迎え入れる。そんんなシュリ第二王女に向かって、駆け寄っていった王子や王女たちは、ピョンと跳び上がって、勢いよく抱き着いていく。
 そんな心温まる風景を見て、この場にいる全員が微笑ましい気持ちになり、自然と笑顔が浮かべている。抱き着いている王子や王女たちは、不安な状況から抜け出せた事で、保っていた心の緊張が解けて、ニコニコと笑う子もいれば、泣きだして止まらない子もいる。シュリ第二王女は、笑顔でいる子や泣いている子に、優しい笑顔を浮かべながら、全員の頭を両手で撫でていく。すると、泣いていた子たちも気持ちが落ち着いたのか、涙が引いていき、自然と笑顔に戻っていく。

「エルバ、貴女から詳しく話が聞きたいわ」(エスティ)
「そうね。私たちにも情報が入って来るけど、実際に外にいて、敵と戦った貴女たちとも、情報を共有しておきたいわ」(シュテル)
「はい、かしこまりました。まずは、反乱の始まりと思われる、ワイバーンの襲撃から、話を始めたいと思います。あれは、…………」(エルバ)

 エスティ王妃とシュテル側妃や、その他の側妃たちに、ワイバーンの襲撃から始まったであろう反乱について、詳細に語り始める。エルバさんの語る、俺たち三人でワイバーンを撃退する様子や、その際のシュリ第二王女に起きた変化など、王妃様方は真剣な表情で聞きに徹して、一言一句いちごんいっく聞き逃さない様にしている。
 そして、ワイバーンの襲撃について語り終えると、王妃様方は、それぞれが気になった事について、エルバさんに質問していく。エルバさんも、それらの質問に対して、一つ一つ丁寧に答えていく。そんな中、エスティ王妃が俺の方を向く。

「カイルさん、エルバが語った事に、補足する情報などはありますか?個人的に思った事でも構いません」(エスティ)

 エスティ王妃に問われた俺は、エルバさんが詳細に語った情報を、改めて自分の中で振り帰っていく。その中で感じた事を、王妃様方に伝えてみる事にする。

「恐らくですが、襲撃してきたワイバーンは、反乱の黒幕であった、悪神に仕えているであろう魔人種が、飼いらした個体だと思われます。主である魔人種の力量は、こちらの想定を大きく超えたものでした。その魔人種が飼いならしたであろうワイバーンも、通常のワイバーンとは異なり、知能が非常に高く、魔力や魔術の扱い方が緻密でした。飼い主である魔人種の、戦いを好む気質きしつから言って、あのワイバーンも、相当に鍛え抜かれたのだと思われます。」
「続けてください」(エスティ)
「この先、再び悪神が率いる勢力と戦う際には、ワイバーンを一体どころか、何十体と引き連れて来るでしょう。そして、その何十体のワイバーンは、悪神の陣営全体で飼い慣らしているのではなく、が飼い慣らしている可能性もあります」
「…………それ程までに、奴らは強いのか?」(エスティ)

 エスティ王妃が、自身の想定を遥かに超える発言をした俺に、ほんの少しだけ、懐疑的な様子で問いかけてくる。その問いに対して、アッシュという怪物と戦った実感から、ハッキリと断言する。

「俺が戦った相手に関しては、まず間違いなく、悪神たちの勢力の中でも、上位に位置する強者でしょう。さらに、少なくとももう一人、その者と同格の強者がいる事も、確認出来ました」
「悪神が率いる勢力に、強者がたった二人などという事は、あるはずがないか」(エスティ)
「はい。その二人以外の強者が、確実に存在すると思われます。それが、一桁の数ですむのか、それとも…………」
「二桁の数、もしくは三桁の数もいるならば、我が国など六日、いや、五日も持てばいい方だろう。……早急に、何か策を考えなければならんか」(エスティ)

 その場に、重苦しい沈黙が流れる。自分たちの想定よりも、強力すぎる悪神陣営の戦力に、エスティ王妃や側妃たちも、口を閉ざして黙り込んでしまう。そこに、沈黙を破るかの様な、シュリ第二王女と子供たちの笑い声が、こちらにまで聞こえてくる。そんな子供たちの笑顔を見て、エスティ王妃や側妃たちの顔がガラリと変わる。先程までの、少し暗さがあった表情が、家族を守り抜く、強き母の表情となった。

「弱気になっている場合ではないか。………エルバ、ワイバーンとの戦闘が終わってからの、続きの話を頼む」(エスティ)
「はい、畏まりました。それでは、イーバル山岳方面軍・第二中隊との戦いについて、報告いたします」(エルバ)
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