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第7章
第199話
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「オラオラオラオラ‼」(アッシュ)
風を切る音と共に、息も吐く間もなく縦横無尽に、八角棒が振られ続ける。しかしアッシュからすれば、これらの連撃ですら小手調べの攻撃。それに対応する相手の動きや、自分が攻撃する際に、どこを見ているかなどを、冷静に観察している。そして、縦横無尽に八角棒を振るいながらも、観察して得た情報を元に、徐々に攻め方や、八角棒を振るう軌道を、少しずつ変化させている。
「ウラァ‼」(アッシュ)
容易に避ける事の出来ないタイミングで、八角棒が振るわれる。その一撃は、先程までよりも、速度が一段階上げられている。それに伴って、威力の方も一段階上げられている。
その避けられぬ一撃を、両手に持つ、二振りの打刀で受け流す。アッシュは、その姿をジッと観察しながら、避けられないタイミングにおいて、同じ速度、同じ威力での一撃を、試す様に放ってくる。それらを全てを受け流し続けていると、アッシュの中で、俺の情報がある程度集まったのか、戦闘開始から続いていた猛攻が、ピタリと止まり、大きく後方に距離を取る。
「こいつは、――予想以上だな」(アッシュ)
アッシュが、ニヤリと笑う。好戦的で、喜びと興奮の混じった笑みだ。
魔力がさらに高まっていき、アッシュの身体全体から、膨大な熱が溢れ出してくる。小手調べ兼ウォーミングアップが終わった様で、本格的に魔術を使い始め、火属性の魔力での身体強化を発動する。さらに八角棒にも、高濃度・高密度の、火属性の魔力を籠めて強化する。すると、八角棒の持ち手の部分が、薄くではあるが、唐紅に染まっていく。
〈俺の思う以上に、八角棒の魔力伝導率や、属性魔力の変換効率が、高い可能性があるな。洗練された火属性の魔力を籠めた事でなのか、そもそもそういった能力が、八角棒そのものに備わっているのか。………もしかしたら、両方の可能性もあるか?〉
この世界で生み出された武具の中に、時として稀に、突出した性能や、特別な能力を備えた、特殊な武具が生まれ出る。それらの武具は、先天的に備わって生まれてくるものもあれば、長い年月を武具として生き残り、後天的に能力が備わるものもある。
そんな特殊な武具は、様々な歴史書の中に記されており、先輩方が手に入れ、使用していた伝説級の武具。武具としての性能が、平均や平均以下の武具でも、歴史書に記されるほどの、あらゆる意味で、尖った力を備えている武具。
人々を苦しめる、悪逆非道な行いをしていた、竜種などの高位存在を討ったという、強力な武具としての逸話もあれば、呪われた武具などの、強い力を授ける代わりに、使用者や着用者に、大きい代償を払わせるといった逸話もある。
八角棒に魔力を籠めた後の、アッシュの様子を観察するが、特に変わった様子はない。という事は、ただ性能の良い武具なのか、それとも、まだ能力を発動していないだけかもしれない。こうなると、アッシュのみならず、八角棒にも意識を割いて、より注意深く観察し、警戒しておかなければならない。
「相棒の事が気になるか?まあ、そうだろうな。俺も、相棒がこうなり始めた理由は知らん。相手を殺せるなら、どんな姿になっても変わらんしな。武器というものは、そういうものだろう?」(アッシュ)
そう言い放つアッシュの顔には、自らの放った言葉が真理であるという思いが、微塵も疑われずに現れている。それは長き時を生き、戦場に身を置き、敵と定めたものを殺し続けてきた事から得た、武器に対するアッシュの答えなのだろう。
誰かを守るために振るったり、使用したりするわけではなく、ただ、敵を殺すためだけに、使われてきた武器。確かにそれは、武器として正しい使い方である。だが、武器とはそういうものであっても、使い手すらも、殺すためだけの機械になれという訳ではない。使い手の意思でもって、殺すため以外の方法で、武器が使われる事があってもいいのだ。
それが、武具を生み出す、鍛冶に携わる一人の者としての、俺個人の率直な意見だ。
〈アッシュの物言いから考えて、外見の変化の理由は分からないが、能力については十全に理解している、という事か。向こうが力を解放したのなら、こちらも打刀を強化しないと、真面に打ち合ったら、直ぐに折れちまうぞ〉
「刀身武装・複合付与、《混沌なる刃》」
打刀の刀身を染めていた灰色が、より濃く、より深く染まっていく。三つの属性が、反発し合う事無く、不思議なほど綺麗に混ざり合い、一つの属性に変化し、混沌へと至る。
灰色の刃からは、溢れ出る高濃度の魔力も、威圧感もない。アッシュから見ると、ただ刀身が灰色に変わったくらいにしか、感じられないだろう。実際、アッシュは俺の打刀の変化を、不思議そうに観察している。
だが、俺にとっては違う。
刀身の芯ともいうべき心金から、凪ぐように静かで、他のあらゆる魔力を飲み込んでしまう程の、大海の如き膨大な魔力が、打刀から右手に、そして身体全体へと伝わってくる。その膨大な魔力は、心金だけに収まりきらず、心金から魔力が溢れ出て、刃金へと流れ込んでいく。打刀そのものが発する存在感が増し、刀としての格が、一段階引き上げられた様な気がする。
打刀の刀身に、三つの属性の魔力を、ここまで深く染み込ませたのは初めての事で、どの様な反応を示すかは、俺としても予測が出来なかった。魔力の暴発や刀身の破損など、マイナス面の予測もしていたが、運が良かったのか、相性が良かったのかは分からないが、何事も無く、八角棒と打ち合える程に、打刀が強化された。
「お前の剣、魔術を使って強化したみたいだが、その程度で相棒と打ち合えるのか?………まあ、いいか。試してみれば、――分かる事だからな‼」(アッシュ)
アッシュは八角棒を肩に担ぎながら、獰猛な笑みを浮かべ、その優れた身体能力を遺憾なく発揮し、音速を超える速度で地を駆け、一気に距離を詰めて来る。
正中線に沿うように、身体の中心で打刀を構える、正眼の構えで、アッシュを迎え撃つ体勢をとる。アッシュがこちらを観察していた様に、俺もアッシュの事を観察していた。距離を詰めて来るアッシュの、視線・僅かに動く筋肉・身体を流れる魔力の動き、それら全てを見ながら、あらゆる動きを予測する。
さらに、反撃を受けた際のアッシュの動きも予測し、詰めるべきか、距離をとるかも、同時に予測し、様々な状況を予測しておく。
「――――オラァ‼」(アッシュ)
「――――フッ‼」
頭部目掛けて、無造作に振られる八角棒。それに対して、八角棒をかち上げる様に、打刀を下から振り上げる。金属同士がぶつかった様な、キンッという澄んだ音を響かせて、八角棒と打刀、双方共に弾かれる。
「――――――‼」
「――――――‼」(アッシュ)
アッシュと俺、互いに一歩前に踏み込んで、弾かれた反動を上手く利用して、互いの得物をぶつけ合う。超至近距離で、超高速戦闘を繰り広げる。八角棒が腹部に振られば、それを避けて、お返しに胸部を狙って打刀を振るう。アッシュがそれを避けて、頭部に向けて突きを放つ。首を傾けて避け、アッシュの頭部に、カウンターで突きを放つ。
互いの一撃を、避けては避けられながら、息吐く間もなく、回避と攻撃を繰り返す。アッシュも俺も、戦闘の高揚と共に魔力が高まっていく。それに伴って、八角棒と打刀、どちらの得物も、攻撃速度・威力・衝撃が増していく。
「ハハハハハハ‼――――――ウラァ‼」(アッシュ)
「――――――ハァッ‼」
アッシュと俺、それぞれの攻撃が同時に繰り出される。八角棒が上段から振り下ろされ、それと同じく、打刀を上段から振り下ろす。
八角棒と打刀が、真正面からぶつかり合う。強力な衝撃波が周囲に吹き荒れ、足元の地面にクレータが作られる。高濃度・高密度の魔力がぶつかり、反発し合い、バチバチと放電している。
そして、魔力同士の反発が限界まで達すると、ぶつかり合った魔力が弾け、俺とアッシュの身体が、真後ろに向かって、それぞれ吹き飛ばされる。木々を薙ぎ倒して吹き飛び続けながら、体勢を整え直しながら、心技体を意識して、ゆっくり深く、深呼吸を一度繰り返す。
クルリと身体を回転させ、木の幹に着地し、膝を曲げて衝撃を和らげると同時に、両脚に力を溜めていく。そして、木の幹を足場代わりにしてトンッと蹴り、アッシュに向かって距離を詰めていく。
風を切る音と共に、息も吐く間もなく縦横無尽に、八角棒が振られ続ける。しかしアッシュからすれば、これらの連撃ですら小手調べの攻撃。それに対応する相手の動きや、自分が攻撃する際に、どこを見ているかなどを、冷静に観察している。そして、縦横無尽に八角棒を振るいながらも、観察して得た情報を元に、徐々に攻め方や、八角棒を振るう軌道を、少しずつ変化させている。
「ウラァ‼」(アッシュ)
容易に避ける事の出来ないタイミングで、八角棒が振るわれる。その一撃は、先程までよりも、速度が一段階上げられている。それに伴って、威力の方も一段階上げられている。
その避けられぬ一撃を、両手に持つ、二振りの打刀で受け流す。アッシュは、その姿をジッと観察しながら、避けられないタイミングにおいて、同じ速度、同じ威力での一撃を、試す様に放ってくる。それらを全てを受け流し続けていると、アッシュの中で、俺の情報がある程度集まったのか、戦闘開始から続いていた猛攻が、ピタリと止まり、大きく後方に距離を取る。
「こいつは、――予想以上だな」(アッシュ)
アッシュが、ニヤリと笑う。好戦的で、喜びと興奮の混じった笑みだ。
魔力がさらに高まっていき、アッシュの身体全体から、膨大な熱が溢れ出してくる。小手調べ兼ウォーミングアップが終わった様で、本格的に魔術を使い始め、火属性の魔力での身体強化を発動する。さらに八角棒にも、高濃度・高密度の、火属性の魔力を籠めて強化する。すると、八角棒の持ち手の部分が、薄くではあるが、唐紅に染まっていく。
〈俺の思う以上に、八角棒の魔力伝導率や、属性魔力の変換効率が、高い可能性があるな。洗練された火属性の魔力を籠めた事でなのか、そもそもそういった能力が、八角棒そのものに備わっているのか。………もしかしたら、両方の可能性もあるか?〉
この世界で生み出された武具の中に、時として稀に、突出した性能や、特別な能力を備えた、特殊な武具が生まれ出る。それらの武具は、先天的に備わって生まれてくるものもあれば、長い年月を武具として生き残り、後天的に能力が備わるものもある。
そんな特殊な武具は、様々な歴史書の中に記されており、先輩方が手に入れ、使用していた伝説級の武具。武具としての性能が、平均や平均以下の武具でも、歴史書に記されるほどの、あらゆる意味で、尖った力を備えている武具。
人々を苦しめる、悪逆非道な行いをしていた、竜種などの高位存在を討ったという、強力な武具としての逸話もあれば、呪われた武具などの、強い力を授ける代わりに、使用者や着用者に、大きい代償を払わせるといった逸話もある。
八角棒に魔力を籠めた後の、アッシュの様子を観察するが、特に変わった様子はない。という事は、ただ性能の良い武具なのか、それとも、まだ能力を発動していないだけかもしれない。こうなると、アッシュのみならず、八角棒にも意識を割いて、より注意深く観察し、警戒しておかなければならない。
「相棒の事が気になるか?まあ、そうだろうな。俺も、相棒がこうなり始めた理由は知らん。相手を殺せるなら、どんな姿になっても変わらんしな。武器というものは、そういうものだろう?」(アッシュ)
そう言い放つアッシュの顔には、自らの放った言葉が真理であるという思いが、微塵も疑われずに現れている。それは長き時を生き、戦場に身を置き、敵と定めたものを殺し続けてきた事から得た、武器に対するアッシュの答えなのだろう。
誰かを守るために振るったり、使用したりするわけではなく、ただ、敵を殺すためだけに、使われてきた武器。確かにそれは、武器として正しい使い方である。だが、武器とはそういうものであっても、使い手すらも、殺すためだけの機械になれという訳ではない。使い手の意思でもって、殺すため以外の方法で、武器が使われる事があってもいいのだ。
それが、武具を生み出す、鍛冶に携わる一人の者としての、俺個人の率直な意見だ。
〈アッシュの物言いから考えて、外見の変化の理由は分からないが、能力については十全に理解している、という事か。向こうが力を解放したのなら、こちらも打刀を強化しないと、真面に打ち合ったら、直ぐに折れちまうぞ〉
「刀身武装・複合付与、《混沌なる刃》」
打刀の刀身を染めていた灰色が、より濃く、より深く染まっていく。三つの属性が、反発し合う事無く、不思議なほど綺麗に混ざり合い、一つの属性に変化し、混沌へと至る。
灰色の刃からは、溢れ出る高濃度の魔力も、威圧感もない。アッシュから見ると、ただ刀身が灰色に変わったくらいにしか、感じられないだろう。実際、アッシュは俺の打刀の変化を、不思議そうに観察している。
だが、俺にとっては違う。
刀身の芯ともいうべき心金から、凪ぐように静かで、他のあらゆる魔力を飲み込んでしまう程の、大海の如き膨大な魔力が、打刀から右手に、そして身体全体へと伝わってくる。その膨大な魔力は、心金だけに収まりきらず、心金から魔力が溢れ出て、刃金へと流れ込んでいく。打刀そのものが発する存在感が増し、刀としての格が、一段階引き上げられた様な気がする。
打刀の刀身に、三つの属性の魔力を、ここまで深く染み込ませたのは初めての事で、どの様な反応を示すかは、俺としても予測が出来なかった。魔力の暴発や刀身の破損など、マイナス面の予測もしていたが、運が良かったのか、相性が良かったのかは分からないが、何事も無く、八角棒と打ち合える程に、打刀が強化された。
「お前の剣、魔術を使って強化したみたいだが、その程度で相棒と打ち合えるのか?………まあ、いいか。試してみれば、――分かる事だからな‼」(アッシュ)
アッシュは八角棒を肩に担ぎながら、獰猛な笑みを浮かべ、その優れた身体能力を遺憾なく発揮し、音速を超える速度で地を駆け、一気に距離を詰めて来る。
正中線に沿うように、身体の中心で打刀を構える、正眼の構えで、アッシュを迎え撃つ体勢をとる。アッシュがこちらを観察していた様に、俺もアッシュの事を観察していた。距離を詰めて来るアッシュの、視線・僅かに動く筋肉・身体を流れる魔力の動き、それら全てを見ながら、あらゆる動きを予測する。
さらに、反撃を受けた際のアッシュの動きも予測し、詰めるべきか、距離をとるかも、同時に予測し、様々な状況を予測しておく。
「――――オラァ‼」(アッシュ)
「――――フッ‼」
頭部目掛けて、無造作に振られる八角棒。それに対して、八角棒をかち上げる様に、打刀を下から振り上げる。金属同士がぶつかった様な、キンッという澄んだ音を響かせて、八角棒と打刀、双方共に弾かれる。
「――――――‼」
「――――――‼」(アッシュ)
アッシュと俺、互いに一歩前に踏み込んで、弾かれた反動を上手く利用して、互いの得物をぶつけ合う。超至近距離で、超高速戦闘を繰り広げる。八角棒が腹部に振られば、それを避けて、お返しに胸部を狙って打刀を振るう。アッシュがそれを避けて、頭部に向けて突きを放つ。首を傾けて避け、アッシュの頭部に、カウンターで突きを放つ。
互いの一撃を、避けては避けられながら、息吐く間もなく、回避と攻撃を繰り返す。アッシュも俺も、戦闘の高揚と共に魔力が高まっていく。それに伴って、八角棒と打刀、どちらの得物も、攻撃速度・威力・衝撃が増していく。
「ハハハハハハ‼――――――ウラァ‼」(アッシュ)
「――――――ハァッ‼」
アッシュと俺、それぞれの攻撃が同時に繰り出される。八角棒が上段から振り下ろされ、それと同じく、打刀を上段から振り下ろす。
八角棒と打刀が、真正面からぶつかり合う。強力な衝撃波が周囲に吹き荒れ、足元の地面にクレータが作られる。高濃度・高密度の魔力がぶつかり、反発し合い、バチバチと放電している。
そして、魔力同士の反発が限界まで達すると、ぶつかり合った魔力が弾け、俺とアッシュの身体が、真後ろに向かって、それぞれ吹き飛ばされる。木々を薙ぎ倒して吹き飛び続けながら、体勢を整え直しながら、心技体を意識して、ゆっくり深く、深呼吸を一度繰り返す。
クルリと身体を回転させ、木の幹に着地し、膝を曲げて衝撃を和らげると同時に、両脚に力を溜めていく。そして、木の幹を足場代わりにしてトンッと蹴り、アッシュに向かって距離を詰めていく。
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