引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第7章

第192話

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 戦闘が始まってから、どちらからも声をかける事も、何かを問いかける事もないままに、互いの思いの籠った一撃が、何度もぶつかり合う。
 アステロが私に思うところがある様に、私にもアステロに思うところがある。だがそれも、今この段階に至ると、何を言ってもしょうがないという気持ちになる。口で何かを伝えた所で、今更止まる様な状況でもないのだ。ならばせめて、真正面からぶつかり合って、自分の意思を押し通すしかない。
 アステロは、父親であり、師でもあるクレータに、よく似た戦い方をする。それは、私も同様であり、幼い頃から参考にして見て学び、動き方から拳の放ち方まで、自然と似通にかよって来てしまう。
 互いが、互いの戦い方を知っているがゆえに、どの様な攻撃を放ち、どの様に避けるのか、ある程度は分かってしまう。だからこそ、放つ攻撃は受け流されるか避けられ、放たれる攻撃を受け流し、避けることが出来る。

「――――――――フッ‼」
「―――‼――――――ハッ‼」(アステロ)

 火属性の魔力を圧縮して、強化した右拳を顔面に向けて放つ。それを、左腕で持つカイトシールドで受け止め、威力を殺して受け流される。そして、右手に持つ片手半剣ハンド・アンド・ハーフソードで、攻撃を放った後の状態の私に向けて、切りかかってくる。腹部を狙い振るわれた、右薙ぎの一振りを、バク転しながら後方に跳んで避ける。空中にいる僅かな時間で、高密度・高純度の魔力を練り上げて、循環させ、両脚に圧縮して強化。着地すると同時に、地面を踏み砕いて、アステロに向かって跳び跳ねる。
 上空に跳び上がり、右脚にさらに火属性の魔力を籠めて、炎を纏わせる。落下しながらクルリと縦に一回転し、アステロに踵落としを放つ。

「――――――ハァッ‼」
「――――――‼」(アステロ)

  放った踵落としの速度と、それに伴う威力が、カイトシールドで受け止める事も、受け流す事も出来ないと判断したアステロは、直ぐにその場から距離を取り、踵落としを避けられる。避けられた踵落としは地面に振り下ろされ、周囲一帯の地面に亀裂が入り、粉砕され、地響きと共に崩れる。崩れた地面の中に隠れていた、土や岩などが周囲に飛び散っていき、アステロが距離を取った方向にも、大小様々な岩石などが、高速で飛来していく。
 アステロは、高速で迫りくる岩石群などを、カイトシールドと片手半剣でひたすら受け流し続けながら、魔力を練り上げて、循環させ、身体全体に圧縮させて、徐々に前に出て接近してくる。
 私は、再び上空に跳び上がる。そして、跳躍の頂点に達すると、背中側に魔力障壁を展開し、それを足場にして力を溜めて、魔力障壁を蹴り破り、アステロに向かって両脚を前に突き出し、空気を切り裂きながら斜めに急降下。音を置き去りにした速度でもって、アステロの構えたカイトシールドに、両脚での蹴りを叩き込む。

「―――――‼」
「ウォオオオ―――‼」(アステロ)

 アステロは、踏ん張る両脚で地面を削りながら、雄叫びを上げて自分に喝を入れ、私の両脚での一撃を耐え抜く。身体全体に力を籠めて、防御に一点集中している状態のアステロを見て、膝を曲げて、両脚にさらに力を籠めて、カイトシールドを蹴りつける、ふりをして、両脚から力を抜いて脱力し、カイトシールドを、トンッと蹴ってフワリとその場に浮かぶ。急に蹴りの圧力がフッと消え、耐えるために力んでいたアステロは体勢を僅かに崩す。そこに間髪入れずに、嵐の様に激しく、両脚での高速連撃を放つ。
 しかし、そこは若いとはいえ、一つの騎士団を騎士団長として率いる実力者。直ぐに体勢を立て直し、カイトシールドに土属性の魔力を纏わせ強化し、さらに、魔力障壁をカイトシールドの前方に展開し、防御に厚みを持たせる。アステロは行動の軸を、攻撃を全て受け流す事から、真正面から受け止める事に変更した様だ。

「ラァアアアア――――――‼」

 カイトシールドから、鈍く重い音が、途切れる事なく響き渡り続けている。前方に展開していた魔力障壁は、二十発以上の蹴りを受け、バラバラに割れて砕け、純粋な魔力に戻っていった。魔力障壁を構成する魔力の質・量共に、カイトシールドに纏わせた魔力に比べて、一段階劣るものだった。恐らくは、蹴りの一撃一撃の威力を、正確に計るために、あえてそうしたのだろう。魔力障壁で耐えている間に、魔力の質・量を調整し、カイトシールドが壊れない、耐えられると判断した状態まで、引き上げたのだ。現に、カイトシールドに細かい傷はあるものの、その形を歪ませる事も、亀裂を入れる事もなく、見事に受けきり続けている。
 蹴りを受け始めた時は、足で地面を削りながら受けていたが、徐々に、後ろに下がる事がなくなり、その場から動く事なく、ほぼ完全に威力を殺され始めた。私は、全身に魔力を循環させて、両拳にも魔力を圧縮し、拳撃も追加し、身体全体を使って拳と蹴りを放ち続ける。
 拳撃を追加されようとも、アステロはただ黙って受け続けながら、反撃の隙を伺い続ける。そして、ついにその時が来る。

「…………【大地の砦ソル・フォート】」(アステロ)

 拳撃や蹴りの反動を利用して、その場に浮かび続けている私の直下の地面から、分厚い土の壁が盛り上がってきた。土属性魔術の中でも、攻撃系統の魔術ではなく、むしろ、範囲防御系統の魔術だ。盛り上がってきた分厚い土の壁は、私の高さにまで縦に伸びてくる。それによって、拳撃と蹴りの高速連打が放てなくなり、私の攻撃の手が止まる。分厚い土の壁を、トンッと軽く蹴り、後方に向かって跳んで距離を取る。

「―――――ォオオオオ‼―――【黒牛の破撃コリーダ・エンベスティダ】‼」(アステロ)

 高密度・高濃度・高純度の、土属性の魔力を感知したと同時に、分厚い土の壁の中心に亀裂が入り、次の瞬間には、土の壁をバラバラに砕き、雄叫びを上げながらアステロが駆けてきた。
 左腕を縮めて、カイトシールドをピタリと身体の傍で構え、片手半剣を、まるで槍を持っているかの様に、右腕を引いて、胸の位置で突きの構えをしている。
 一歩踏み込む事に地面を砕き、土埃を上げながら、一直線に、真っ直ぐに向かってくる。私の全く知らない、見た事もない、アステロの技の一つ。その構えから、そのまま突撃してくるのか、カイトシールドで、相手の攻撃を受けてからの、高速のカウンターを放つのか、迫りくる姿からは、その程度の事しか想定できない。それでも、どちらの攻撃方法でも対応出来る様に、身体全体に火属性の魔力を纏い、身体の急所に魔力を圧縮して、防御力を高める。

「真の姿となりて、―――――《穿て》‼」(アステロ)

 アステロの、覇気の籠った一言が放たれると、アステロの周囲、背後の地面から黒き魔鋼が現れ、意思を持ったかの様に動き出し、吸い込まれる様に片手半剣の剣身に向かい、急速に集まり、繋がり合い、ランスのシャフト(柄)の様な、長く鋭い三角錐の形に変化する。そして手元には、拳を保護するための、かさ状のヴァンプレイト(鍔)が形作られる。その見た目は、牛人族の象徴でもある、立派な角の様であり、どの様な障害が立ちはだかろうとも、鋭き穂先で貫き破壊し、必ず標的を仕留めるといった、威力の高さ、貫通力の高さがうかがえる。

〈つまり、カウンター狙いではなく、一撃必殺狙いの突進技という事か‼〉

 その確信を得たと同時に、アステロが両脚の裏に魔力を溜めて、それを破裂させる事でさらに加速し、その姿を掻き消す。
 その突撃速度は、私の反応速度を大きく超え、心臓に迫りくる穂先を、僅かに身体を動かして避ける事で精一杯だった。
 アステロの一突きは、いとも簡単に、何の抵抗もなく、纏っていた魔力を穿ち、防御力高いバトルドレスを穿ち、左胸の上部を穿ち、私の身体を突き抜けた。
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