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第7章

第190話

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「何故笑う?自分の状況が分からんわけでもあるまい?もしや、気でも狂ったか?」(ウィン)

 ウィン騎士長がいぶかしむ様に、笑う私を見る。まあ、私が同じ立場だったのなら、相手をへんな目で見てしまうのは、間違いないだろう。
 ウィン騎士長の問いかけに答えず、深く息を吸い、深く息を吐く。自らの内側に意識を集中し、より高密度、より高純度、より高濃度の魔力の練り上げに集中する。
 相棒たる愛剣は、見事に戦い抜いて、修復不可能な状態に砕けて散った。確かに、ウィン騎士長の言う様に、無手での戦闘は、その道の達人たちに比べると、児戯じぎにも等しい程の練度だ。無手での鍛錬は、毎日欠かさずに続けているが、一朝一夕で達人には至れない様に、毎日欠かさずに続けているからといって、それで無手での戦闘が強くなるわけでもない。
 では、予備の武具を大量に持てるかというと、それは時空間魔術でもなければ、物理的にはほぼ不可能だ。それに、私には時空間魔術を扱える程の、魔術師としての突出とっしゅつした腕も、相性の良さもなかった。それでも、火や水などの、魔術の中でも基本属性の魔力・魔術や、高難度魔術である、雷属性の魔力・魔術などを扱う事の出来る、それなりに優秀で、腕の良い魔術師になれた事は幸運だった。
 そして、それなりに優秀で、腕の良い魔術師になれたからこそ、今この状況でも打てる手が存在する。

「お前も、シュリ王女と共に、この国の栄えある未来と繁栄のための、―――礎となれ‼」(ウィン)

 ウィン騎士長が処刑宣言と共に、縮地で駆けて接近し、ロングソードを振り下ろす。
 練り上げた魔力を、高速で循環させ、両の掌に集中させて、一気に圧縮させる。そして、左右の掌それぞれから、違う属性の魔力を使い、新たな武具を生み出す。
 迫りくる、命を断ちに来たロングソードの刃を、右手に持つ、雷属性の魔力を圧縮して形成した魔力剣、左手に持つ、氷属性の魔力を圧縮して形成した魔力剣、二つの魔力剣を斜めに重ねて、ロングソードの剣身を受け止めて防ぐ。

「な、――魔力剣だと⁉しかも、二種類の魔力を同時に⁉」(ウィン)
「――――――ハァッ‼」

 全身に力を籠めて、ロングソードを弾き飛ばす。その勢いのまま、二剣流でもって、息も吐かせぬ連撃を放っていく。雷属性の魔力剣で袈裟切りを放てば、氷属性の魔力剣で突きを放つ。氷属性の魔力剣で、横一線の右ぎを放てば、雷属性の魔力剣で、左脇腹から右肩にかけての切り上げを放つ。
 左右それぞれで、違う軌道の連撃を放つ事もあれば、左右同時に、同じ軌道で剣撃を放つ事もある。さらに、斜めや十字に剣撃を重ねて、威力を高めた一撃を放つ。
 ウィン騎士長は、最初は驚きと動揺のために防戦一方だったが、次第に冷静さを取り戻していき、高速で様々な軌道に切り替わる、変幻自在な剣筋に徐々に対応されていく。それでも、二剣流を相手にした経験が少ないのか、今までの余裕が消えて、全力で、必死になって私の攻撃を防御している。
 この二つの属性の魔力剣は、文字通りに魔力で構成されている武具なので、欠けようが、切断されようが、魔力を籠めれば元通りになる。剣身の長さや厚さ、さらには重さなども、魔力によって自由に変えられる。その代わりに、魔力剣を長きに亘って使い続けると、鋼などで作り出された武具などを持つと、自分の好みへと自由自在に、直ぐにでも変更出来ない事への、不自由さを感じるなどの弊害が生じると聞いた。
 軍の戦士たちや、魔術師団の魔術師たちが、魔術を魔術として放つのに対して、騎士たちは、身体強化や魔刃など、補助的な意味合いで使用する事が多い。私の場合は、姫様を守る傍仕えの護衛騎士の一人ではあるが、実家の方針もあって、魔術師としての考え方も出来る様にと、魔術師団の方々を講師としてお呼びし、鍛錬や座学を行っている。
 幼少期に徹底的に教え込まれたのは、魔力操作や使用する魔力量、術式の精確な構築や展開、発動に関しての事だった。そして、それを鍛えるために、身体強化・魔刃・魔力剣などの、魔力で生み出す武具などを、毎日ひたすら、構築しては採点・魔力に還元・構築・そして再び採点といった、作業ともいってもいい鍛錬を繰り返した。それと並行して、父や母、兄姉や祖父・祖母と、騎士としての鍛錬も欠かさずに続けてきた。そのおかげで、鋼などで作り出された武具だろうと、魔力剣などの魔術的な武具であろうとも、変わらずに扱う事も出来る様になった。

「魔力剣など、貧弱な魔術師が扱うもので、騎士が扱うものではない‼」(ウィン)
「姫様を守れるのならば、私は騎士でなくとも構わない。‟騎士”というものに拘るつもりもない」
「騎士であるという事に、誇りは無いのか‼」(ウィン)
「誇りだけでは人は救えない。だが、騎士でなくとも人は救える。それに、どの様な理由や思想があろうとも、――――国を裏切った反逆者のお前に、言われる道理もない」
「――――貴様ァ‼」(ウィン)

 ウィン騎士長の身体全体から、濃密な魔力と殺気が溢れ出す。昂った感情のままに、獣の因子の力を全力で使い、その身に風を纏い、荒々しい一陣の風となって駆ける。そのさまは、風と呼ぶには生易しく、暴風と表現した方がピッタリな程に、荒れ狂っている。同じ様に、ロングソードの剣身にも風が纏わり、風属性の魔刃と重ね掛けの様な状態になっており、大幅に強化されている。
 私は、質の高い魔力を練り上げつつ、迫りくるウィン騎士長に向かって、氷属性の魔力剣、雷属性の魔力剣を、間髪入れずに連続で投擲する。

「そのようなもので、私を――――⁉」(ウィン)

 ウィン騎士長は、先に迫ってきた氷属性の魔力剣を、安易にロングソードで切り裂く。しかし、その安易な行為は悪手。氷属性の魔力剣は、切り裂かれた瞬間に、ロングソードの剣身の切っ先から氷を纏わせて、包み込む様に氷結させていき、さらにはウィン騎士長の手、そして腕に向かって氷が伸びていく。
 その勢いは凄まじく、確実に腕から先、肩・首・胸元へ進むことが予想され、最終的に、身体全体を氷で包まれる事が、容易に予想できる。
 ウィン騎士長は、高純度の火属性の魔力を一気に練り上げて、精密な魔力制御によって、自身の身体に纏わりつく風と重ね合わせることで熱風を生みだし、身体とロングソードを氷結していく氷属性の魔力を中和し、氷を溶かしていく。
 そこに、時間差で放った雷属性の魔力剣が、ウィン騎士長に襲い掛かる。ウィン騎士長は、先程の氷属性の魔力剣を迎撃した際の事を踏まえ、雷属性の魔力剣に触れない様に、距離を取って避けようとする。

「≪追跡パシュート加速アセレラシオン≫・【煌めく稲妻エタンセル・エクレール】」

 避けられる事を想定して、雷属性の魔力剣に仕込んでいた、速度重視の魔術を発動する。すると、ショートソードの形をしていた魔力剣は、剣身と柄が伸びていき、槍に使い形に変化し、一条の稲妻となる。稲妻は、距離を取っていたウィン騎士長に向かって、方向を変えて急加速。
 稲妻に変化して、雷速で迫りくる一撃に対して、ウィン騎士長の動きは迅速だった。獣の因子の力を使って、正面に風を集中させながら、その場の空気の流れを掌握し、風の盾を生みだして、稲妻の軌道を逸らそうとする。その目論見の通りに、稲妻は風の盾に沿うように軌道を変えて、後ろに通り過ぎていく。

〈その程度では、この稲妻は止まりません〉
「ガァアアアアア――――⁉」(ウィン)

 感じるはずのない痛みを感じ、ウィン騎士長が声を上げる。疑問と痛みによって顔が歪んでいる。
 空間を駆ける稲妻は、逸らされた先で再び方向を変えて、急加速してウィン騎士長の背後から迫った。ウィン騎士長の優れた魔力感知も、反射神経のどちらも反応させる事なく、一瞬で距離を詰めて背中に突き刺さった。
 さらに、氷属性の魔力剣を溶かした際の水を、完全に蒸発させれておらず、その水に稲妻が感電し、その分威力も増していた。
 魔鋼や魔鉱石で作られているとはいえ、高電圧とそれに伴う熱によるダメージに耐えられず、プレートアーマーが熱せられ、溶かされる事で生身の身体にも火傷のダメージが入る。

「……………けるな。―――――――――フザケルナ‼」(ウィン)

 身体から白い煙を上げながら、ウィン騎士長が咆哮を上げる。それと同時に、ウィン騎士長から濃密な風属性の魔力が溢れ出し、その身体が変質していく。
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