引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第7章

第178話

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 俺と兄貴、そして姉であるパメラ姉さんと共に、親父を探して、王城内を駆けまわっていた。食堂のオバちゃんによると、先程までは、食堂で昼食をとっていた、との事だ。ならば、親父の事だから、演習場に向かって身体を動かすか、母さんたちの所に遊びにいったか。
 そう思い、三人で演習場、母さんたちの所に向かうも、親父の姿どころか、匂いすらも残っていない。母さんたちも、親父の行方は知らないと言っているし、本当にどこに行ったのやら。
 俺たちは、親父の匂いを辿り、最後にいたであろう場所にたどり着いた。匂いの濃さや、不自然に匂いが途切れている事から、この場所に間違いはないだろう。

「匂いも、ここで途切れている。本当に、父上は何処に行かれたのだろうか?」(アトル)
「まさかとは思うが、母さんたちに隠れて、女遊びにでも行ってるのかもな」(ザリス)
「いや、父上ならば、コソコソ隠れるよりも、むしろ堂々と母上たちに報告しないか?」(アトル)
「むしろ、母さんたちの方から、父さんの折檻せっかんを兼ねて、色々と情報を集めてから問い詰める姿が、目に浮かぶわね」(パメラ)
「「確かに」」(アトル・ザリス)

 親父が床に座らされ、周囲を母さんたちが囲み、家族会議が開催されている様子が、容易に想像できる。それでも、家族の絆が壊れた事は、一度もない。そこら辺は、母さんたちが、上手い事やってきたのだろう。
 軽い調子で、三人で話してみるものの、匂いの途切れ方や、目撃情報が全くない事から、異常事態としか考えられない。
 現在、王族派の軍を動員して、親父の行方を、王都内・王都外問わずに捜索している。ここまで証拠も情報も残さない手口を考えると、反王族派と手を組んでいる、第三勢力・同盟者の者たちの仕業が濃厚だ。

 匂いも途切れ、情報も全くない。今後の動きの方針も、これでは決める事が出来ない。三人で知恵を出し合って、今後の事を悩んでいると、数人の騎士に連れられて、一人の軍人が歩いてきた。
 スーザン・ウィンフリー。シュターデル獣王国・魔術師団総長補佐。獣王国内において、極めて有能な女性魔術師。魔術師としての技術・知識は一級品であり、弱冠じゃっかん二十一歳にして、魔術師団総長に認められた、鬼才である。

「スーザンか。何か進展があったのか?」(アトル)
「申し上げます。我々、魔術師団の総力をあげて、魔術的な情報収集を行った結果、極めて希少な、時空間属性の魔力の痕跡を発見いたしました」(スーザン)
「「「時空間属性」」」(アトル・ザリス・パメラ)
「敵勢力に、極めて有能な魔術師の存在が確認されている事、途切れる様に消える匂い、目撃情報の圧倒的少なさ、これらの事を繋げると、敵勢力の魔術師は、異空間を生み出す事が、可能なレベルの腕を持つ存在だと思われます」(スーザン)
「なる程。確かに、異空間を生み出す事が出来るのなら、忽然と消えた事も、匂いが途切れた事も、説明がつくわね」(パメラ)
「さらに、もう一つ問題があります」(スーザン)
「教えてくれ」(ザリス)
「今現在、独断で、王都外での獣王様捜索に動く騎士団が一つ、軍の中隊が一つ、存在します」(スーザン)

 スーザンの報告に、驚きを禁じ得ない。獣王不在時の、獣王国の代理統治者であり、命令権を持つ、兄貴の命令を無視しての行動だ。平時の命令ではなく、獣王がいない、という緊急時における命令だ。それを破るという事は、騎士・軍人個人や騎士団・軍全体に、厳罰どころか、騎士・軍人の身内や一族にまで、るいが及ぶ行動だ。

「一体、どこの馬鹿どもだ?」(ザリス)
「第五騎士団、イーバル山岳方面軍・第二中隊の二つです」(スーザン)
「「「何だと⁉」」」(アトル・ザリス・パメラ)

 どちらも、対魔物・魔獣戦闘、対人戦闘の経験が豊富な者たちが所属する、騎士団・部隊になる。特に第五騎士団は、少数精鋭の、選ばれた歴戦の騎士たちのみが、所属している騎士団。しかも、親父を支える、王族派の者たちであったはずだ。だとするならば、統治代理者であろうとも、兄貴の命令には従うはずだ。
 だがそうではなく、その命令を破り、何かを目的にして動いた。

「………裏切りか?」(アトル)
「まだ分からん。だが、それも想定に入れておいた方がいいな」(ザリス)
「そうね。私たちも、早急に動かなければ、さらに後手に回されるわよ」(パメラ)
「そうだな。……父上が狙われた事から、俺たちも狙われる可能性が極めて高い。三人で纏まって行動するとしようか」(アトル)
「「了解」」(ザリス・パメラ)

 その後の動きは迅速に行う。既に、敵は動いてしまっている。この段階でも、パメラ姉さんの言う様に、後手に回されている段階なのだ。こちらの対応が、遅れれば遅れる程、敵の動きがより速く、より大きくなっていく。
 親父の状況は分からない。だが、あの親父の事だ。そう簡単にはくたばる事はないだろう。この事に関しては、報告した母さんたちも、同じ気持ちの様だ。親父が早々に負ける事があるのならば、それは、この獣王国に住む全ての戦士が、その相手とは勝負にならないという事だ。

 母さんたちと協力して、王族派の者たちに、現状の様々な情報を伝え、共有していく。王家に忠誠を誓う、影の者たちを総動員し、王都の情報を収集していく。特に、反王族派の者たちを中心に、些細な情報すら見逃さずに、徹底的な監視を行わせている。
 状況は刻一刻と変わっていく。王城の会議室に、次々と影の者が集まっていく。集まった者たちは、反王族派の者たちを、監視している者たちから、つかわされた様だ。その者たちの語る内容は、奇しくも、ほぼ同じ内容だった。
 反王族派の貴族たちが、屋敷の警備を厳重にしている、と。

「どう思う?」(ザリス)
「王都で何かを起こす気なのだろう。それこそ、自分たちの命も、危なくなる様な。パメラ、案はあるか?」(アトル)
「王都の城門じょうもんに、第一・二・四騎士団を向かわせるわ。それ以外の王族派の騎士団で、王城の巡回・警護。軍にも協力を要請して、王都内の巡回をしてももらう。そんな感じかしら?」(パメラ)
「私は異存はない。ザリスは?」(アトル)
「母さんたちはどうするんだ?」(ザリス)

 俺の質問に、正室であり、兄貴の母親である、エスティ母さんが答える。親父と同じ獅子人族であり、親父と共に戦場を駆ける、歴戦の女傑だ。

「私たち王妃は、まだ幼い子供たちの守護に回ります。貴方たちならば、どのような事でも乗り越えられるでしょ?あの人獣王と私たちの血と因子、そして、魂を受け継いだ子供たちなのだから」(エスティ)

 エスティ母さんの言葉に、俺たちも真剣な表情で頷き返す。それを見て、エスティ母さんや他の母さんたちも微笑み、会議室から侍女たちを率いて去っていく。母さんたちが守護してくれるなら、妹たちの心配は無用と思ってもいいな。
 そこからは、パメラ姉さんの案を元に、急速に獣王国が動き出していく。王都内が騒がしくなっていく事に、住民も何事かと、不安や警戒感が現れているとの報告も来ている。
 そこに、新たな急報を告げる、影の者が現れた。

「至急、申し上げます。王都の城門に向けて、大量の魔物・魔獣が進行中。理性を失っている様で、魔除まよけのこうにも、魔道具にも、一切に反応する事なく、真っ直ぐに城門に向けて、こちらに接近してきます」(影の者)

 この報告から、長い間平和を保ってきた、獣王国の歴史が動き出した。後の歴史書の中で、未曾有みぞうの大事件として扱われる、内乱の始まりだった。
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