引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第7章

第171話

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今日もスッキリとした目覚めから、オバちゃんの美味しい朝食を食べた後に、演習場に向かって歩みを進める。

シュリ第二王女は、獣王様やシュテル王妃との鍛錬を行い、自分に足りないものを感じ、自らの執務を終わらた後に、今日も今日もとて、鍛錬に励んでいる。今までの鍛錬では、シュリ第二王女のみだったが、獣王様たちとの鍛錬では、エルバさんも参加した様で、今日からの鍛錬は、エルバさんも積極的に参加していくそうだ。

演習場にたどり着いて、いつものポジションに向かい、座りながら見学を始める。シュリ第二王女もエルバさんも、ダンジョンに潜って戦闘していた時よりも、格段に動きなどが良くなっている。獣王様もシュテル王妃も、戦士としても超一流だが、育成者・指導者としても、超一流の様だ。お二人とも、長所を伸ばしていく育て方をする様で、シュリ第二王女とエルバさんの良い所が、さらに洗練されていっている様に見える。正直、一日程度の鍛錬で、ここまで良くなるとは予想外だった。

それは、王族派の騎士たちや、いつも苦々しく見ている反王族派の騎士たちも感じた様で、驚き・喜び・不満・疑惑などなどの、様々な感情が演習場の中に渦巻いている。当然、喜びなどの感情は、王族派の騎士たちであり、不満などの感情は、反王族派の騎士たちだ。

「なんで、あいつが‼」(反王族派の猫人族の騎士)
「出来損ないの姫のくせに‼」(反王族派の狸人族の騎士)

反王族派の騎士たちの、苛立いらだちの籠った小さな呟きを、広範囲にも渡って音を拾う、エルフの耳が捉える。どうやら、自分たちもよりも下に見ていたシュリ第二王女が、自分たちよりも実力がある事を目の前で示された事で、余裕が崩された様だ。この場にいる、王族派・反王族派問わず、騎士たちの力量は相当に高い。だが俺からしてみれば、ポテンシャルを含めても、獣王様やシュテル王妃から、手ほどきを受ける前の状態のシュリ第二王女の力量は、騎士たちを大きく超えているのは目に見えていた。

シュリ第二王女が、ここまでなめられているのは、反王族派というのもあるが、根底には、兄である第一王子や第二王子、姉である第一王女の存在があるのだろう。兄や姉である、王子や王女の力量は、見ただけでもある程度は分かるくらいには高い水準にあった。それに比べてしまうと、シュリ第二王女の力量が、劣った様に見えてしまうのは、仕方のない事なのかもしれない。

しかし、俺の様な第三者から言わせてもらえば、シュリ第二王女の力量も高水準の域に達している。体術・魔力操作・戦闘時における立ち回り方など、高位の冒険者と比べて見ても、遜色はない程だ。それに、自らの身体に宿る獣の因子の力も、存分に扱えている。

それらの事を、客観的に捉える事が出来ないのは、恐らくではあるが、悪態を吐く騎士たちが、獣王国の外の事をあまり知らないからだろう。良くも悪くも、獣王国も閉鎖的な面がある。外の他国に向かった事のある経験のある者は、アトル第一王子やザリス第二王子の、お付きの騎士などの限られた者になるだろう。

〈だからといって、それが他者を貶める事の、正当性のある理由にはならんけどな〉

そんな事を思いながら、シュリ第二王女とエルバさんを眺めていると、二人は休憩に入るタイミングになった様で、俺の方に近づいてくる。二人とも、獣王様やシュテル王妃に学んだ事が活かせた事が嬉しかった様で、生き生きとした様子で俺の方に向かってくる。そんな二人の様子に、反王族派の騎士たちは、さらに負の感情を濃くしていく。それは、最早隠す気もないかの様な程のものであり、ここまでくると二人とも気づいているし、周囲の派閥問わずの騎士たちも気づいてしまっている。

同じくそれに気づいた、反王族派の上級騎士が少し慌てた様子で、感情を剥き出しにしてしまっている騎士たちを回収していき、演習場から連れ出していった。シュリ第二王女もエルバさんも、回収されていく騎士たちを一瞥することなく、気にも留めていない様子を見せながら、俺の座る休憩所まで歩いてきた。

「おはようございます、カイルさん。冒険者ギルドでの素材の件、ご苦労様でした」(シュリ)
「いえいえ。俺としても、コンヤの冒険者ギルドに一つ貢献が出来たと思えば、安いものですよ。それにしても、お二人は本当に素材の売却金はいらなかったんですか?」
「ええ、問題はありません。私も姫様も、こういう言い方はあれですが、お金には困ってはいませんので。どんな事でも、何かしらの事で必要な方が、それを引き取ってくれるならば、それで良いのです」(エルバ)
「そうですか。それなら、これ以上何かを言うつもりはありません」
「お気遣いありがとうございます」(エルバ)
「………話は変わるのですが、今日はカイルさんも、私たちと一緒に鍛錬をしませんか?」(シュリ)

俺は唐突な鍛錬のお誘いに、数秒程固まってしまったが、直ぐに表情を崩して答える。

「全然問題ないですよ。お二人の休憩が終わったら、三人で鍛錬の続きをしましょうか」
「「はい」」(シュリ・エルバ)

そのまま、二人の休憩の談笑に付き合う事にした。二人の話は様々な話題に事欠かず、女性としての話から、戦士としての話、王族と側近の騎士としての話など、色々な事を話していく。俺も、途中途中で相槌を入れたり、意見を求められたりしたので、それに答える形で返事をしていく。

「それにしても、お二人とも動きも含めた全てが、格段に良くなっていましたね。獣王様とシュテル王妃は、師としても一流な様で驚いてます」

俺がこの話題を振ると、待ってましたと言わんばかりに、シュリ第二王女とエルバさんは、輝かんばかりの笑顔で、昨日の鍛錬の様子を語っていく。

王族派の騎士たちも、鍛錬に付き合ってはくれるものの、やはり王族であるという事から、一定の力加減をされてしまい、本当の意味での、全力を出し切る鍛錬を毎回出来るわけではないとの事だ。しかし、獣王様とシュテル王妃に関しては別だ。自身も王族・王配おうはいであり、また厳しい実力主義の世界で生きてきた戦士でもある。その為、シュリ第二王女をアドバイスを交えながら、一切の容赦なく叩きのめし、全力でシュリ第二王女の為に鍛錬を行ったそうだ。

エルバさんも同様で、シュリ第二王女の側近の騎士にして、同性の護衛でもあるエルバさんは、女性騎士の中でもトップクラスの力量を持つ存在。同じくトップクラスの力量を持つ騎士たちも、それぞれの仕事があり忙しく、常に鍛錬を共に出来る時間が合うわけではない。なので、シュリ第二王女と同じく、全力での鍛錬が出来る事の方が少ないとの事。シュリ第二王女と同じ様に、久々に全力で鍛錬を行い、徹底的に叩きのめされながらも、獣王様とシュテル王妃から何かを一つでも多く学ぼうと、何度も何度も二人に挑んだそうだ。

嬉しそうな二人の会話を聞いていると、俺も鍛錬の日々を思い出す。ヘクトル爺にルイス姉さん、各分野における師匠たち。時に厳しく、時に優しく、今思うと、飴と鞭を上手く使われただけなのだが、今の俺がこうして生き延びていられるのも、師匠たちの厳しい鍛錬のお蔭だ。そう思えば、常に全力を出せる相手がいたという事も、俺が恵まれていた事の一つなのだろう。

「そろそろ、身体も休まりましたし、鍛錬を再開したいと思いますが、改めて、お相手してもらってもよろしいですか?」(シュリ)
「ええ、もちろん」
「よろしくお願いします」(エルバ)

シュリ第二王女とエルバさんが、鍛錬をしていた位置に戻る。俺もそれに附いていき、ゆったりと自分の身体の調子を確認する。二人は、俺と鍛錬が出来る事に、ワクワクした気持ちが抑えきれないのか、口の端がニヤついてしまっている。

「さて、どちらからでも構いません。始めましょうか」
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