引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第7章

第170話

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今後の事に対して、様々な事を考えながらも歩みを進め、冒険者ギルドにたどり着く。ギルド内は、冒険者や依頼者の人たちで、少しばかり混雑していた。顔見知りでもある、ミンさんの担当する受付は人気で、男女問わずで行列が出来ていた。

俺は、活気のある風景を見ながら、比較的空いている受付に並び、大人しく順番を待つ。獣王国の中心、王都コンヤの冒険者ギルドだけあり、各業務に就く職員たちの、色々な面においての能力も高く、対して待つことなく、各受付に並ぶ人たちが次々とけていく。俺の並んだ受付も、前の人たちが順調に捌けていき、直ぐに俺の順番が回ってきた。

俺が並んだ受付さんは、象人族のおじさんだった。象人族は、象の耳と尻尾だけが獣の因子によって発現しており、その他の部分は、普通の人間族と変わらない様に見える獣人だ。ほとんどの象人族は温厚であり、余程の事でなければ怒る事がないというほどだ。だが、一度怒りに達した際には、獣王様や王妃様方ほどの力量がなければ、獅子人族だろうが、狼人族だろうが、何人束になっても敵わない程の力を秘めているという。なので、余程のおバカな奴か、自分の力に自信のある者でなければ、象人族に面と向かって何かをする奴はいないと聞いている。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。今日はどの様なご用件でしょうか?」(象人族の受付)
「ギルドマスターからの要請で、ダンジョンで得た魔物や魔獣の素材を、譲渡しに来ました。こちらを……」

庭園を出る前に、獣王様からギルドマスターての、直筆の書状を受け取っていたので、それを象人族の受付さんに渡す。象人族の受付さんは、その書状を受け取り、その書状に押されている王家の紋章に目を見開き、じっくりと時間をかけて読み込んでいた。象人族の受付さんは、読み終えた後に、丁寧に丁寧に書状を元に戻していく。

「少々お待ちください。ギルドマスターのお時間の方を確認してきますので」(象人族の受付)
「はい、分かりました」

象人族の受付さんは、席を立ち、受付担当者が使用する奥の部屋に向かう。それから待つ事少し。象人族の受付さんが戻ってきた。

「お持ちいただいた書状は、ギルドマスターにお渡ししました。この後、お時間は大丈夫でしょうか?ギルドマスターが、お会いになりたいそうです。素材の譲渡についても、立ち会いたいと仰られています」(象人族の受付)
「大丈夫です。素材の譲渡の立ち合いについても、問題はありません」
「では、ギルドマスターの執務室まで向かってください。その後の事は、ギルドマスターの方から説明がありますので」(象人族の受付)
「了解です。ありがとうございました」

俺は、象人族の受付さんに一礼をしてから、そのまま二階にあるギルドマスターの執務室に向かう。最初に訪れた時と同じ様に、執務室の扉をノックする。すると最初の時とは違い、渋い声での返事はなく、代わりに、執務室の扉が開かれた。開かれた扉の所には、相変わらずの、子供と出会ったら泣かれてしまいそうな、厳つい顔をしたギルドマスターが立っていた。

「……カイル、来たか。入れ。引取りの前に、少し話がしたい」(コンヤギルドマスター)
「はい、分かりました」

恐らくは、ダンジョン内での襲撃と、活動の拠点とさせてもらっている、王城内部の様子を知りたいのだろう。俺としても、ギルドマスターには知っておいてもらいたい事が多いので、質問された事に関して、詳細に答えていく。その中で俺も、ギルドマスターから、反王族派の騎士たちの態度に関しては、俺がコンヤに来る前からの態度と、左程さほど変わらないという事を教えてもらった。

ギルドマスターの雰囲気が、より真剣なものに変わったのは、ダンジョン内のでの襲撃と、それを実行した黒いローブの人物についてだった。出張所の所長から、情報を得ているだろうが、俺の方からも、獣王様たちにした報告と同じものを情報提供していく。実体験している俺からの、より細かい現場の状況の報告に、ギルドマスターもより状況が細かく把握出来た様だ。

そして、ダンジョンを出た後の状況についても話していく。第三騎士団が現場に現れてから、その場を離れるまでの会話の内容や、第三騎士団の騎士たちや犬人族の騎士長のキナ臭い動き方など、様々な事を話していく。

「俺としても、グース様の考えというか、直感が正しいと思う。ここのギルドマスターになって長い事経つが、そこまでの腕を持った冒険者がいたなら、グース様に紹介の一つでもしている。だがここ数年では、そんな事はほとんどしていない。俺個人の経験上、自分の実力を隠す奴は、面倒事を嫌う奴か、後ろ暗い事をしている奴位だ。今回は、外部の力と考えれば、後者の連中と手を組んだって事だろうな」(コンヤギルドマスター)
「恐らくは、そういう事で間違いはないと思います。個人なのか、組織なのかは分かりませんが、相当腕の立つ存在と手を組んだのだと思いますね」
「まあ、階層の低いダンジョンとはいえ、個人の力で魔物や魔獣の召喚が出来るほどだからな。こちらでも、信頼の出来る高位の冒険者に警戒する様に伝えておく。今の所は、それくらいしか動けん」(コンヤギルドマスター)
「いえ、十分です。それだけでも助かります」

ここで互いに一息吐く。一旦休憩を挟んで、もう一つの目的についての事を話し合う事にした。

「それじゃあ、素材の譲渡についての話をするか。完全な譲渡と聞いているが、カイルとしてはそれでいいのか?」(コンヤギルドマスター)
「構いません。それよりも、今回の素材に関してですが、狂乱状態にあった魔物や魔獣なので、使い道の少ないものや、食用に向かない状態になっているものもありますけど、大丈夫ですか?」
「問題ない。それならそれで、使い道はある。その辺は心配するな。カイルが納得しているならそれでいい。こちらとしてはありがたいが、無理強いしてまで、素材が得たいわけじゃない。無論、買取したのならば、適正な金額を払うがな」(コンヤギルドマスター)
「分かってますよ。今回は、本当にタダでの譲渡で構いません。これでも、長生きしていますし、蓄え位はありますので、大丈夫ですよ」
「そうか。それならこちらとしても助かる。最後に、これがグース様からの指名依頼書だ。この依頼は既に受理済みになっている。いいな?」(コンヤギルドマスター)
「はい、分かってます。自分のすべき事を全力でするだけです」
「それじゃあ、解体担当の所に向かうか。奴らも、今日の為に、首を長くして待っているらしいからな。あまりに遅いと、ここに怒鳴り込みに来るかもしれん」(コンヤギルドマスター)

俺は苦笑しながら依頼書をポーチの中に仕舞いこみ、ギルドマスターに続いて執務室を出て、冒険者ギルドの建物に併設されている、解体専門の建物に向かう。そこには、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの男たちが、獲物を待ち構える肉食獣の様に、高揚した様子で俺たちの到着を待っていた。

「すまんが、小出しにせずに、この場に一気に出す事は可能か?」(コンヤギルドマスター)
「可能です。じゃあ、一種類ずつ出していきますね」
「頼む」(コンヤギルドマスター)

下位の魔物や魔獣の中でも、解体しやすいだろうものから、順々に鞄から魔物や魔獣を取り出していく。解体担当の男たちは、取り出された魔物の質は低いものの、相当な量に俄然がぜんやる気を出し、一斉に動き出し、丁寧で迅速に、解体作業を始めていった。俺とギルドマスターも、時間の許す限り解体作業を手伝い、黙々と手を動かして作業を進めていった。

だが結局、この日一日では全ての解体が終わりそうになかったので、冒険者ギルドにある空間拡張された鞄などに、残っている魔物や魔獣の素材や死体を渡していく。総数は多く、冒険者ギルドにある、ほぼ全ての鞄に収める事になり、その引き渡しだけで、その日一日が終わってしまうほどだった。

俺は、感謝するギルドマスターと、興奮しながらも、同じくお礼をいう解体担当の男たちに見送られながら冒険者ギルドを後にし、王城に戻ってオバちゃんの美味しい食事をお腹に収めて、ふかふかのベットに寝そべり目を閉じた。
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