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第7章

第168話

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ダンジョンの外に出ると、冒険者ギルドの出張所の辺りが騒がしく、また、剣呑な雰囲気が漂っていた。

出張所の周りには、プレートアーマーを身に纏った騎士の一団がいる。騎士団の上級騎士か騎士長だと思われる騎士数名が、冒険者ギルドの出張所の職員に対して、何かを要求している様だ。その様子を見ていたら、騎士団の騎士たちが俺たちの存在に気づき、冒険者ギルドの職員たちも、俺たちに気づいた。

上級騎士か騎士長らしき騎士が、冒険者ギルドの職員にもう用はないとばかりに、俺たちの方に向かって足を進める。周囲の騎士たちも、その騎士の動きに合わせて、こちらに近づき、俺たちを囲むように展開する。

「第三騎士団の連中ですね」(エルバ)
「その様ね。騎士長まで出張っているわね」(シュリ)

二人のその短い会話の中に、苦々しい思いが含まれているのを感じた。恐らくは、この第三騎士団の連中が、王城などでの騒ぎの中心なのかもしれない。騎士たちを見ていくが、演習場で見かけた、牛人族の騎士長はこの場にはいない様だ。この場の、第三騎士団の連中を率いているのは、犬人族の騎士長だ。

目の前の犬人族の騎士長や、周囲を囲んでいる騎士たちは、俺に対して、殺気を隠そうともいない。周囲の冒険者ギルドの職員や冒険者、出店を出している商人たちなどが、その周囲を顧みない無遠慮な殺気に驚き、警戒しながら俺たちから距離をとっていく。

「シュリ様。お迎えに上がりました。さあ、こちらに」(犬人族の騎士長)

シュリ第二王女に向かって、犬人族の騎士長が発言する。犬人族の騎士長は、シュリ第二王女とエルバさんに対して、さっさと従えという気持ちが強いのか、ほんの少しだけ、二人を下に見下したような雰囲気が、言葉に籠められていた。

「一体、誰の命令で此処に?」(シュリ)
「我々は、信頼できる筋からの情報を得て、シュリ様と騎士エルバが、護衛も少ないままダンジョンに向かったと。それに、見知らぬ、怪しげなエルフの男と共に向かったとも。何か起こっては遅いと、急遽駆け付けた次第です」(犬人族の騎士長)
「では、誰の命令でもなく、自発的に騎士団を動かして此処に来たと?」(シュリ)
「はい。その通りです。獣王様や王妃様方、ご兄弟の方々も心配しております。どうぞ、我々と共に王宮にご帰還ください」(犬人族の騎士長)

どこまでの事を知った上で言っているのか分からないが、平然とした様子で、努めて冷静に、犬人族の騎士長はそう語る。

「その必要はありません。それに、護衛は足りています。現に、今しがた、三人でダンジョンを攻略してきたばかりです。ギルドでの報告を終え次第、そのまま三人で王城に戻りますので、貴方たち第三騎士団は、即時、自分たちの持ち場に戻りなさい」(シュリ)

シュリ第二王女の言葉が、静かに、だが周囲にもハッキリと伝わるように広がっていく。周囲の人々は、シュリ第二王女の放つ、圧倒的な覇気によるカリスマによって、二人が王女とその側近の騎士だという事に気づいてしまう。

〈認識阻害が無効化されてるな。圧倒的な覇気とカリスマ性。今の彼女は、初めて獣王様と対峙した時と、雰囲気がそっくりだ。あの親にしてこの子あり、だな。まだ、本格的に目覚めてはいないようだが………〉

周囲がざわついていく中、犬人族の騎士長と第三騎士団の騎士たちは、シュリ第二王女の放つ覇気にも動じる事なく、沈黙を貫いていた。犬人族の騎士長は、シュリ第二王女の目をジッと見つめ、シュリ第二王女も、犬人族の騎士長の視線から逃げる事なく、しっかりと見つめ返している。

「…………分かりました。しかし、この件に関しては、私共の方でも、獣王様にご報告させていただきます。その者が、本当に信が置ける者なのかは、まだ分かりませんので」(犬人族の騎士長)
「ええ、構いません。私としても、問題は一切ありませんので」(シュリ)
「………では、失礼いたします」(犬人族の騎士長)

犬人族の騎士長が、俺たちを囲んでいた騎士団に合図を出す。その合図に従い、騎士団の騎士たちは、犬人族の騎士長の元に戻り、統一された綺麗な動きでもって、この場から去っていく。去っていく際には、犬人族の騎士長や第三騎士団の騎士たちからは、憎々にくにくしげに見られ、周囲の人々からは、同情などの様々な感情の視線が俺に集中していた。

第三騎士団の連中が、完全にこの場から去ると、ゆっくりとだが、いつもの喧騒がこの場に戻ってくる。俺たちは、ダンジョン内での事も報告しなくてはならないので、寄り道することなく、冒険者ギルドの出張所に向かって移動を始める。認識阻害を無効化されてしまったので、魔術をかけ直しても、周囲の人々の認識を逸らす事は難しい。結局、冒険者ギルドの出張所にたどり着くまでに、ジロジロと見られながらの移動となってしまった。

シュリ第二王女もエルバさんも、見られる事には慣れている様で、気にする事なく進んでいく。たどり着いた冒険者ギルド出張所で、ダンジョンを攻略した事と、ダンジョンボスであるオーガロードの素材を見せる。冒険者ギルド出張所には、鑑定魔術を扱う事の出来る職員が常駐しており、少し時間をかけて鑑定をした結果、無事に攻略した事が認められた。

「申し訳ありませんが、所長を呼んでいただけますか?冒険者としても、王女としても、報告しておかなければいけない事がありまして………」(シュリ)
「少々、お待ちください」(ギルド職員)

第二王女という身分がバレてしまっているので、シュリ第二王女は、王族としての権力を使い、状況を速やかに進めていく。

『この出張所の所長は、ギルドマスターの信任の厚い者です。今回の騒動についても、細かい所まで情報を共有している者の一人でもあります』(シュリ)

シュリ第二王女が念話で説明をしてくれる。なるほど。あのギルドマスターが認めた者ならば、こちらとしても、まだ信用出来る部類の人物だろう。数分して現れたのは、羊人族の女性だ。仕事の出来るキャリアウーマン、女社長などの雰囲気を感じさせる。所長さんは、シュリ第二王女とエルバさんを見るやいなや、表情や雰囲気を真剣なものに変える。こちらが何か言う前に、職員の人に幾つかの事を通達すると、俺たちを出張所の奥に附いてくるように伝える。所長さんの後に続き、出張所の奥に向かい、魔術が幾重にも重ね掛けされている一室に案内された。

〈諜報対策に魔術・物理の両方に対応した魔術術式か。この部屋が、出張所の中で一番重要度の高い部屋の様だな〉

その部屋で一息吐いた後に、二人が本題を所長さんに語っていく。俺も、所々を補完していく様に、所長さんに語っていく。所長さんも、事の重大性を理解しているので、一つ一つの話に相槌あいづちを打つだけに留めてくれる。その後は、今回の襲撃の際の、魔物や魔獣の素材や死体を引き渡し、ギルドマスターにも伝えてもらう様に手配して、出張所を後にした。

獣王様に、今回の襲撃の詳細を報告するために、王城に戻る事にする。その際に、もう一度認識阻害をかけ直して、安全に王城までの道を進み、戻ってくる事が出来た。王城の門では、ペルケさんとワトルさんが待っており、俺たちの無事の帰還に、笑顔で迎えてくれた。

会話をしつつも、念話を用いてある程度の情報を共有しておく。今回は、ペルケさんも大袈裟な演技をせず、努めて平静な様子で、二人が戻って来た事を喜ぶ様子を周囲に見せ、門番としての職務をこなしてくれた。

最初に、この王城を訪れた時と同じ様に、庭園に向かって寄り道せずに進む。今回もまた、獣王様を筆頭に、王族の方々が集まっているそうだ。ダンジョン攻略についての報告と、最終階層に現れた黒のフードの人物に関してなど、相手側の動きも活発になってきている事も含めて、色々と共有しておく事が多い。手の内を見せた事で、相手側もさらに動きを増やしてくるかもな。
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