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第7章

第158話

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王女様に連れられて、俺はオシャレなカフェにいる。王女様は、お菓子に紅茶にと、ニコニコの笑顔で楽しんでいる。エルバさんは、そんな王女様を微笑ましそうに見ながら、同じくお菓子などを楽しんでいる。

俺は、小腹が空いていたので、軽い食事のセットを頼んで、それを美味しくいただいている。このカフェは、王女様のお気に入りのお店の様で、よくお忍びで通っているそうだ。お気に入りになる理由も分かる。俺が頼んだ食事も、王女様やエルバさんが頼んだお菓子のレベルも、相当にレベルが高い。さらに、値段がお手頃となると、このカフェが繁盛しているのも納得だ。

全員が食べ終わり、食後の一息を吐きながら、ゆっくりする。俺は、のんびりしている王女様に、どういった訳で、こうなっているのかを聞く。

「それで?何故俺は、ここに連れてこられたんですか?」

俺の質問に、そうでした、といった様子で、王女様は答えてくれる。

「のんびりし過ぎて、本題を忘れておりました。カイルさんに、お礼をするためです。あの時は断られてしまいましたが、やはり、恩に礼を返さなくてはと思いまして」(第二王女)
「いや、本当にいいんです。偶然だっただけですから」
「………それが、カイルさん。姫様のみならず、王家の方々も、お礼を言いたいと仰っておりまして。今日、この後にも、ご予定がないのならば、ご一緒に王宮までお越しくだされば幸いなのですが…」(エルバ)
「……それって、断れます?」
「……断るんですか?」(第二王女)

俺の質問に、悲しそうな顔をして、王女様が聞き返してくる。エルバさんの方も、断るのはちょっと、といった顔をしている。まあ、この国のトップの王族からの招待を断るのは、普通は考えないだろうな。俺としては、このままズルズルといくと、厄介事に、両足突っ込んでしまうような気がしてならない。

だが、このまま放っておいても、王女様の危険がなくなるわけではないか。俺は、自分から厄介事に突っ込んだんだと、自らに言い聞かせる。今度からは、同じ様な事があったら、変装してから、助ける事にしよう。

「……分かりました。王宮の方まで伺いたいと思います。ただ、宿などが決まってからにしたいので、明日の朝方でもよろしいですか?」

俺がそう言うと、二人は顔を近付けて、コソコソと内緒話を始めた。数分間の間、二人は何かを話し合い、その何かについて結論が出たようで、こちらに向き直る。

「よろしければ、王宮に泊まりませんか?食事に関しても、こちらで用意させていただきます。どうですか?」(第二王女)
「姫様や、我々を救っていただいたカイルさんには、この国に滞在中は、不自由なく過ごしていただきたいと、思っています。受けてくださいますでしょうか?」(エルバ)
「え~と、そういった大事な事を、お二人で決めてしまっていいんですか?」
「元々この案は、姫様以外の、王族の皆様から出たものでもあります。カイルさんが、何時王都にいらっしゃるのか分からなかったので、本格的に、決定はされていませんでした。なので、姫様の方から、王族の方々にお伝えしてもらえれば、直ぐにでも準備が出来ると思います」(エルバ)
「………ご厚意に感謝します。お願いしてもよろしいですか?」
「お任せください!!では、早速向かいましょう!!」(第二王女)

王女様は、興奮した様子で立ち上がり、早く早くと、俺の腕を引っ張る。その間に、エルバさんがお会計を済ませようとしていた。俺はエルバさんを引き留めて、机の上や、食器類を浄化でコッソリと綺麗にしてから、三人分のお会計を済ませて、カフェの外に出る。

王女様とエルバさんに、お金を出した事に感謝をされた。だがこれくらいは、年長者としても、自由に出来るお金を持っている冒険者としても、率先して、お金を出すべきだと思っている。

カフェの外に出ると、隠れて王女様の周囲を警護している影の者たちが、一斉に動き出す。王女様が、ギルドを出た俺と接触した時は、一瞬ざわついていた。そんな影の者たちが、何故かは知らないが、ソワソワした様子で附いてきていた。

影の者たちに警護されながら、シュターデル獣王国の王都の中心にある、白い王城に向かって歩き始める。 近付くと、所々が新しく補修されているのが分かる。正しく、長い時代を獣人と共に生きてきた城だ。この王城は、この国に住む者たちにとっては、この国を象徴するものとして誇りに感じていると、王女様やエルバさんが教えてくれる。

俺たちは王城にたどり着き、巨大な門の前に立つ。

「シュリ様、エルバ様、お帰りなさいませ。……そちらのエルフの方は?」(鹿人族の門番)
「こちらが例の方です。我々のお願いを、受け入れていただけました。武器の持ち込みに関しては、私が責任を持ちます。通行の許可を」(第二王女)
「少々お待ち下さい。………あれを持ってきてくれ」(鹿人族の門番)
「了解です」(猫人族の門番)

先輩であろう、鹿人族の門番さんに指示されて、後輩であろう猫人族の門番さんが、何かを取りに、門番の詰所に向かう。一・二分後に戻ってくると、猫人族の門番さんの手には、一枚の書類とペンのセットがある。その書類とペンのセットを、先輩の鹿人族の門番さんに手渡し、鹿人族の門番さんは、その書類に何かを書き込んでいく。

そして、何かを書き込み終えると、書類とペンのセットを王女様に渡す。手渡された王女様も、その書類に何かを書き込んでいく。王女様が書き終わると、次はエルバさんに手渡して、同じ様にエルバさんも書き込んでいく。

最後に、エルバさんが書類とペンのセットを、俺に手渡す。

「カイルさん、この書類は、緊急時など以外の場合では、城内での魔術の使用をしないという事に、同意をしていただくものになります」(エルバ)
「……なるほど。これは誓約になりますか?」
「それに近しい魔術的拘束になります。このペンを使って、魔文字で署名してもらうと、王城に組み込まれている術式に、魔力が登録されます」(第二王女)
「緊急時など以外で、魔術を使用した場合、その術式の効果によって、対象者の魔力を封じます。王城と認識する場所の、外に出ない限り、封じられた魔力は元に戻りませんので、ご注意下さいね」(エルバ)
「了解です。では…………、これでいいですか?」
「はい、大丈夫です。その書類は、同意を得る書類と同時に、カイルさんの、王城内での身分証代わりになります。なので、そのままお持ちください」(第二王女)
「王城から外に出て、再び王城内に戻る際にも、提示していただく必要がありますので、失くさない様にご注意下さい」(鹿人族の門番)
「分かりました。気を付けます」
「では、行きましょう」(第二王女)

門番さんたちが、門の両扉のそれぞれに手をついて、同時に魔力を流す。その両扉には、大きな術式が半分ずつ刻まれており、流し込まれた魔力は、門に刻まれた術式を沿う様に、それぞれ流れていく。最後に、門の両扉が合わさった部分の、術式の中心に流れ込み、両扉に刻まれた大きな術式が完成する。

魔力によって、術式が薄く発光し、ゆっくりと両扉が開いていく。

〈こちらも、同じ様に魔力を登録し、登録された魔力を同時に流さなければ、起動しない術式か。よく考えられているな〉

この方式ならば、簡単には王城内に侵入する事は出来ない。壁を越えて侵入しようとも、王城には、まだまだ色んな術式が組み込まれているだろうから、侵入出来れば、後は自由に動けると考えるには、楽観視しすぎだろう。

これらを気にせずに襲撃を仕掛けるには、魔術的拘束を誤魔化せるほどの、魔術の腕を持つ魔術師か、ありとあらゆるものを、気にも止めずに、自分の思うままに出来る力を持つ者くらいだろう。

そんな事を考えている内に、両扉が完全に開ききっている。門番さん二人は、両脇に並び、直立不動で立っている。王女様とエルバさんが、門の内側に入り、真剣な表情で俺を見る。

「「ようこそ、シュターデル城へ。歓迎します、我らが恩人よ」」(第二王女・エルバ)
「はい、お邪魔します。暫くの間、よろしくお願いします」
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