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第7章

第153話

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俺は、北の辺境都市ハリアンを出て、北の森とは反対の方向、大陸の中央側に向かって、北東に脚を進めている。ベレタートやテミロスの、さらに北部にある獣人たちの国、シュターデル獣王国。

冒険者ギルド・メリオス支部からの依頼で、獣王国の首都であるコンヤの、冒険者ギルドの獣王国本部に、帝都アルバの冒険者ギルドのギルマスの手紙を、獣王国本部のギルマスに手渡す依頼だ。

ナバーロさんの護衛依頼を、往復分で達成した事で、メリオスのギルマス権限で、Dランクまで、冒険者のランクが上がった。さらにナバーロさんが、ユノックギルドマスターから、俺に対するランク上昇の推薦状を受け取っていた事もあり、Cランクに上げやすくなった、と言っていた。

〈北の森とは違って、魔力の濃度が段違いに低い。場所が違うだけで、ここまで差が出るものか?あの森には、何かあるのかもしれないな〉
『どうした、カイル?』(緑の精霊)
『いえ、北の森と比べると、こちら側は平和すぎると思いまして』
『その事か。あの森には、かつての古き時代の人々の遺跡があってな。その遺跡の影響もあって、自然に魔力が溜まりやすい状態に、変質した土地の一つだ』(緑の精霊)
『ああいった土地は、この星に幾つも存在するんだよ。あの土地の様に、陰の方向に進む土地もあれば、カイルたちの里の様に、陽の方向に進む事もある』(赤の精霊)
『魔力溜まりは、土だけではなくて、海の中にも存在するわ。海の中にある、魔力溜まりの周辺から生まれる魔物は、どれもこれも、サイズが大きくてね。だけど、一体魔物が生まれると、魔力がほとんどなくなるから、それだけが救いね。でも、強さはそこらの魔物よりも、比べ物にならないくらいだから、遭遇したら気を付けなさい』(青の精霊)

精霊様方に、魔力溜まりについての説明を受けていると、周囲を魔物が囲もうとしているのを感知した。俺は、腰に差していた数打ちの打刀に、左手を添える。

こちらの様子を伺っているのは、ファンタジーでお馴染みの、緑の醜悪な怪物、ゴブリンだ。しかも、単純に腰に布を巻いただけの、下位のゴブリンだけではなく、簡単な革鎧や鉄製の武具を持った、中位のホブゴブリンも混じっている。

ゴブリンたちは、猪突猛進に襲いかかってくるのではなく、確実に殺せる時を、息を潜めて待っている。これだけの行動で、このゴブリンたちが、この街道を通る一人旅の者を、襲い慣れている事がよく分かる。身に纏っている革鎧も、鉄製の武具も、そういった者たちから奪ったのだろう。

止まったままだと、向こうから襲いかかってこないと判断し、俺は無防備を装って、自分とゴブリンたちの位置を、確認しながら移動を再会する。暫く歩くと、リーダーのホブゴブリンが、指示を出した様で、ようやく襲いかかってきた。

「…………フッ!!」

最初に襲いかかってきたゴブリンを、抜刀術で右斜め上に向けて、袈裟斬りの   一太刀を浴びせる。ゴブリンは、手に持った鉄の盾で防ごうとしたが、俺の刃は止まる事なく、ゴブリンを、盾もろとも斬り裂く。

〈……次!!〉

ゴブリンたちが波の様に、多方向から、時間差で距離を詰めてくる。しかも、一人ずつではなく、二人一組・三人一組と、作戦と思わしき戦術を組み込んでだ。

一人が盾を使って俺の視界を塞ぎ、その隙に、もう一人が死角から剣を振り下ろそうとしている。俺は、まず盾持ちのゴブリンを、一突きで盾を突き破り、喉元に刃を突き立てる。そこから高速で引き抜き、迫り来るゴブリンの刃を、半身をずらして避け、水平に一振して首を落とす。

「ギャギャ!!……ギャ!!」(ホブゴブリンリーダー)

リーダーのホブゴブリンが、部下たちに叫んで、指示を出している。すると今度は、前衛と後衛に分かれる様に、隊列を組み始めた。

前衛にはオーソドックスな、盾に剣をもつゴブリンに、双剣だったり槍だったり、短刀一本だけをもっているゴブリン、さらには、一際体格の大きい、拳を構えるホブゴブリンもいる。

後衛には、弓を構えて、木の上に陣取っているゴブリンがいる。さらには、魔術師が補助用に使う、杖を持っているホブゴブリンもいることから、魔力が豊富な、シャーマン系統に進化した、魔術師もいるようだ。

そこからは、二人一組や三人一組の時とは違い、統率された軍隊の様に、さらに密な連携が俺に迫る。

「ギャ!!……ギャギャ!!……ギャ!!」(ホブゴブリンリーダー)

ホブゴブリンリーダーの指示が、短くも的確なのかは分からないが、部下のホブゴブリンやゴブリンたちに、飛び交っていく。その指示を受けた、ホブゴブリンやゴブリンたちの動きが、先程よりも無駄が削ぎ落とされて、効率的に獲物や相手を、殺す為の動きに最適化されていく。

前衛が、俺との距離を詰めようと動くと同時に、後衛の弓兵のゴブリンたちが矢を放つ。さらに、魔術師のゴブリンたちは、魔力を練り上げて、術式を構築し始める。

俺は、迫り来るホブゴブリンやゴブリンたちを前にして、打刀をゆっくりと納刀する。右半身を少しだけ前に出し、左手を鞘と鍔に添えて、全身を脱力させてリラックスさせ、自らの身体を自然体な状態にする。

最初に仕掛けてきたのは、短剣持ちのゴブリンたちだ。予想の通りに、アサシン系統に進化したゴブリンの様で、素早い動きと、気配を消した動きで俺に迫る。

「……ギ!!」(アサシンゴブリンA)
「……ギャ!!」(アサシンゴブリンB)
「………グギャ!!」(アサシンゴブリンC)

襲いかかってきたアサシンゴブリンの、毒が滴っている刃を全て避けながら、一体一体の首を、高速の抜刀術の一太刀を放っていき、斬り落としていく。それと同時に、空から矢の雨が振ってくる。

その矢の雨が降り注ぐ中を、猛スピードで、槍持ちのゴブリンたちが突撃してくる。槍持ちのゴブリンたちは、この動きを何度も行った事がある様で、降り注ぐ矢の雨に対して、何も感じていないかの様に、ただ俺に向かって駆ける。

「………ギャ!?」(ランサーゴブリン)
〈ならば、俺も前に出るまで!!〉

降り注ぐ矢の雨を、俺も同じ様に突っ走っていく。何本か、俺に向かって落ちてきた矢を掴み取り、ランサーゴブリンたちや、その奥にいるホブゴブリンやゴブリンたちにも、投げ放っていく。

ホブゴブリンたちは、ギリギリながらも避ける事に成功する。ランサーゴブリンや弓持ちのゴブリンである、アーチャーゴブリン。そして魔術師である、シャーマンゴブリンの何体かは、高速で迫る矢に、反応する事も出来ずに、脳天に矢を受けて絶命する。

返り討ちにされた仲間たちを見たアーチャーゴブリンたちは、動きを変える。通常の弓を放り投げ、潜んでいた草むらから、クロスボウを取り出してきた。矢の方も、先程のものに比べると、太く威力のでるものに変わっている。

〈クロスボウまで所持していて、さらにそれを扱えるなんて、この辺のゴブリンは知能が高いのか?〉
「………ギャギャ!!」(ホブゴブリンリーダー)
「ギャ!!……ギ!!」(アーチャーゴブリン)

ホブゴブリンリーダーの指示が、アーチャーゴブリン部隊に飛ぶ。それに従って、アーチャーゴブリンたちが地面に降り、横一直線に整列し始める。

ランサーゴブリンの突きを避け、薙ぎ払いを避け、穂先を斬り落としてただの棒に変えて、首を一太刀・一突きで命を奪っていく。息を潜めて、生き残っているアサシンゴブリンも、ランサーゴブリンと息を合わせて仕掛けてくる。

時に、ランサーゴブリンの持つ槍を奪い取り、アサシンゴブリンの胸を突き。時に、アサシンゴブリンの持つ毒の染み込んだ短剣を奪い取り、ランサーゴブリンに投げつけて毒で殺す。

俺の側には、ゴブリンの死体で溢れている。アサシンゴブリンと、ランサーゴブリンの部隊は全滅。そこに間髪入れずに、アーチャーゴブリンたちによる、クロスボウの一斉掃射が襲いかかる。

「…………フッ!!」

打刀を抜刀し、迫るクロスボウの矢を全て斬り払っていく。俺の感知に、アーチャーゴブリンたちの隊列の奥から、高密度・高濃度の魔力を感知する。赤・青・黄などの、様々な色の術式が、シャーマンゴブリンたちの前に展開されている。

〈こういう時は……〉

俺は、シャーマンゴブリンたちの前に展開されている術式を、瞬時に読み解き、自身の魔力によって干渉し、術式の制御を奪う。シャーマンゴブリンたちも、瞬時にそれに気付くが、もう遅い。奪った術式から魔術を放つ。

「…ギャ!!」(アーチャーゴブリンA)
「ギャギャ!!」(アーチャーゴブリンB)
「……ギ………ギャ」(アーチャーゴブリンC)

放たれた魔術は、横一列に整列していた、アーチャーゴブリンたちに襲いかかった。これによって、アーチャーゴブリンたちの部隊は、ほぼ全滅。生きているアーチャーゴブリンも、ほぼ虫の息だ。

俺は、大量の魔糸を左手から放つ。放たれた魔糸は、自分たちの魔術を奪われた事と、アーチャーゴブリンたちを自分たちの魔術によって殺された事に、動揺しているシャーマンゴブリンたちの首に巻き付いて、円の形で固定される。

左手を握り、一気に後ろに引く。それで、シャーマンゴブリンたちの首が、ポンッと飛んで、血の雨が吹き零れる。

これで、アーチャーゴブリンとシャーマンゴブリンの部隊も壊滅させた。残るは上位種であるホブゴブリンたちの中でも、一握りの強者のみ。
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