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第6章
第151話
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ネストールさんたち親子と、幻想のロナスさんとの戦闘から、二週間が経った。その間に、カナロア王国とメルジーナ国との、盟約を結び終え、満足げなお偉いさんが帰るのを、シーラさんたちは見送ったそうだ。
イーサルさんたち、領主側の人たちも、お偉いさんが帰るまで、忙しく、慌ただしく動き回っていた。イーサルさんもダリさんも、暫くは疲れきっていたが、二・三日後には、切り替えて政務に励んでいた。
その後はイーサルさんも、ナバーロさんたちの話し合いに参加し、領主の目線からの指摘を行い、少しずつ、第三者目線で修正をかけていく。さらには、ユノックの内情を、隅々まで知っているダリさんも参加し、内容をさらに詳細に決めていったそうで、ようやく契約内容などが纏まり、メリオスに帰ることになった。
ここ数日は、ユノックの海の幸を、大量に仕入れるために、様々な所を回っている。ユノックの人々も、今回の襲撃の件もあり、何時もより、何割か安く売ってくれているらしい。ガレンさんたちも、海の幸以外にも、今回のタイラントクラブの素材を含めた、海の魔物の素材を格安で売ってくれたそうだ。
「本当は、ガレンさんたちが、譲ると言ったんですよ。ですけど、ナバーロさんが断りまして。商人として、価値あるものを、タダでモノを受けとる訳にはいかないと。ガレンさんたちも、最終的には折れましたけど、本当に安い値段で、ナバーロさんに買い取ってもらおうとしてましたよ」
「あの商人も、中々に誠実な者のようだな。五十年前に出会った、地上の商人は、それはもう、いろんな所に細かくケチをつけてきてな。最終的には、この国に、こちらの許可なく、入国出来ない様にしてやったがな」(シーラ)
『あれは酷かったな。シーラも、商人たちも。シーラはシーラで、最初から強気でいくし、商人は商人で、最初から買い叩く気で仕掛けてくるしでな。結局、まともな商談など、数える程しかなかったな』(ヨートス)
「ふん。価値が分からんのならまだしも、価値が分かっていて、自分が得するためだけ、得られる利益のためだけに、行動する奴が多かっただけだ」(シーラ)
「今の時代でも、そういった商人は、結構いるらしいですよ。ナバーロさんの様な誠実な商人は、少ないのは変わってないですよ」
『そうか。残念ではあるが、人間族というのは、そういうものだ。我々の様な長命種とは、時間も価値観も異なる事も多い。遥かな昔の人間族ならまだしも、今の人間族は少し利己的が過ぎるようだしな』(ヨートス)
ヨートス殿は、今回のお偉いさんたちの様子を見て、少し認識を変えたようだ。温厚なヨートス殿も、流石に、今回の訪問の、最後まで変わらなかったお偉いさんたちを見て、人間族に対する認識を少しだけ変えた様だ。
そんな会話をしながらも、シーラさんはネストールさんたち親子を、鍛えている。俺とヨートス殿は、それを見ながらの談笑だった。既に二人には、シーラさんが、鍛え直す事に関する意味を教えている。
最初は、自分の生まれた国に対して、余りよくない事を言われた事に、不満そうにしていた。だが、王族やその関係者、他の都市からの、使者の態度を説明していくと、二人とも頭を抱えていた。シーラさんは、そのまま自分の考えを、二人に語っていく。メルジーナ国としての方針と、ユノックの未来を考えた二人は、直ぐに気持ちを切り替えた様だ。
なにやらジェレミア家には、ロナスさんの残した方針や言葉があり、その中には、王家や他の都市に対するものも、あったそうだ。それらを聞いたシーラさんたちは、アイツらしいと笑っていた。
「二人とも、大分良くなってきたな。ようやく自分の動きとして、馴染んできたな」(シーラ)
「はい。真似ではなく、自らの技術として取り込む事」(ネストール)
「他者の真似を完璧に出来ても、それはその者の技術であって、自らの技術ではない。それを自らに取り込む事で、初めて、自分の力となる」(ステイル)
シーラさんは、二人の回答に、満足げに頷いている。二人とも、シーラさんとヨートス殿の、座学と実習を受け続ける事で、その事に気付き、試行錯誤してたどり着いた。ヨートス殿の、魔力操作や魔術についての教えによって、格段に二人の魔力・魔術に関しての、知識や技術は上がった。
さらにシーラさんによる、実戦形式の鍛練によって、培った知識が磨かれていき、つい先日、それが自らの技術に昇華された。俺も、シーラさんの助手として、実戦形式の相手として、何度か相手を務めた。一回一回の対戦で、ドンドンと動きが変わっていく二人に、驚きと嬉しさがあった。
するとそこに、上位の水精霊様が現れた。彼女とも、精霊や妖精の隣人であるエルフとして、空いた時間に結構話をする事が多かった。なので彼女とは、友人として仲がいい。
「皆様、送別会の準備が出来ましたよ。皆様以外の方々は、既に会場に到着されています」(上位の精霊)
上位の水精霊様が、そう俺たちに告げながら、ネストールさんたち親子に向けて、回復魔術と浄化をかけていく。汗や汚れがなくなり、肉体の疲労がなくなった二人は、身体の調子を確かめる様に、しっかり、ゆっくりとストレッチをしていく。
全員で闘技場を出て、宮殿に向かって移動する。今回は、俺が最初に通された、宮殿内の謁見の間の様な場所ではなく、今回の送別会の様な、宴会を行う専用の、スペースのある広大な庭にたどり着いた。
そこには、ナバーロさんとガンダロフさんたち、イーサルさんと、その執事であるダリさんもいる。今回は、限られたメンバーでの、私的な送別会になる。ナバーロさんたちは、メルジーナ国に来るのは初めてだし、イーサルさんたちも二度目だ。なので、俺たちが入ってくる前も、入ってきた後も、緊張で固くなっている。
シーラさんもヨートス殿も、そんな皆を見て、仕方ないといった様子で、上座に立つ。今回は、それぞれが食べやすい様に、バイキング形式になっている。会場も、立食が出来る所と、座ってゆっくり出来る所と分けられており、配慮がされている。
「どれもこれも、手が込んでますね」
「当たり前だ。公的だろうが、私的なものだろうが、もてなす時は全力で、というのが我が国の信条の一つだ。食は、生きていく上で、必要なものの一つだ。これを疎かにすれば、健全な肉体は維持できん」(シーラ)
『まあ、そうだな。私も、美味しい食事を知って、食事の内容を改善してからというもの、日々の彩りが豊かになったな』(ヨートス)
シーラさんと、ヨートス殿の言葉の通りに、並べられている食事は、見た目が綺麗なのはもちろんだが、栄養バランスなどがしっかり考えられている。地上でも食べた事のある魔物食材の料理から、海底に生息している、地上で生きる者たちには、滅多に目にする事がない様な、魔物の食材を使った料理もある。
まずは全員で、その料理の数々を楽しんでいく。食べた事のある魔物食材の料理であっても、そもそもの味付けや、組み合わせた別の食材などによって、僅かに変わる味や風味に、驚きながら口に入れていく。
そして、見たこともない食材によって作られている料理を、恐る恐る食べてみる。一口含み、しっかりと噛んでから、喉を通す。その後は、全員がただただ無言で、食べ続けていく。
俺も初めて食べた時は、美味しさに唸りながら、静かに食べていた。精霊様方も、気に入った様で、美味しい美味しいと言いながら、物凄い数のおかわりをしていた。
一通り、料理を楽しんだ後に、メルジーナ国で作られている、ワインが現れる。今回出したワインの元であるブドウは、魔術によって品種改良した、海の中でも育つブドウなのだと、シーラさんが自慢気に語っていた。
裏話として聞いた話によると、香辛料なども、本当は自分たちで生産しているそうだ。ただ、今回の盟約を結ぶにあたって、対等を望んだために、地上というアドバンテージを持つユノックや、カナロア王国に配慮したようだ。
「おお、このワインは極上のものですな!!」(イーサル)
「ええ。地上で飲んだ、どのワインよりも美味しい」(ダリ)
イーサルさんとダリさんは、様々なワインと比べた感想を言う。どちらも最高の評価を、メルジーナ国産のワインにつけている。ネストールさんに、ステイルさんは、その表情から、感想を言わずとも分かるほどで、二人とも少し早いペースで、無言でワインを楽しんでいる。
違う場所では、ナバーロさんがただただ、心の底からワインを楽しんでいる。その周りでは、料理と一緒に、ワインをガブガブ飲んで、顔を赤らめているガンダロフさんを筆頭に、料理とワインを半々で楽しんでいる所もある。
それぞれが、それぞれで、自由に楽しみ出した所で、シーラさんたちから、話があると、別の場所に附いてくるように促された。俺は、楽しんでいる皆をこの場において、シーラさんたちに附いていく。迷いのない進み方から、シーラさんの部屋なのかもしれない。
「ここは私の執務室だ。さあ、入っておくれ」(シーラ)
「お邪魔します」
シーラさんの執務室に入る。今ここにいるメンバーは、俺以外には、シーラさん・ヨートス殿・上位の水精霊様になる。全員が部屋に入ると、ヨートス殿が、部屋の内と外に結界を展開する。その結界は、防音・防諜などの効果のある結界の様だ。
「早速本題から入らせてもらう。カイル、転移が使えるだろう?」(シーラ)
「……はい、使えます。それが一体?」
「こことカイルの拠点に、転移門を作製して、設置してほしい」(シーラ)
「転移門をですか?転移術式では、ダメなんですか?」
『転移術式の場合だと、移動に一瞬の間が出来る。転移門ならば、時間差なく移動できる。それに、よからぬ事を考えた者の力量が高い場合、利用されてしまう可能性がある』(ヨートス)
「転移門も、利用されてしまうと思うのですが……」
『カイルも分かっているだろう?転移術式も転移門同様に、相互に作用している。だが、解除した時に、術式が双方の場所に残る』(ヨートス)
「しかし、転移門の場合は違ってくる。転移門は、術式がその場に残らない。術式そのものが、門を形作り、半永久的に機能する。そして何より、転移門を解除した時には、術式そのものである門が消え去り、跡形もなく消滅する」(シーラ)
「転移門は、その門に登録された魔力の者にしか使えないと言う点も、我々が求めているものです。そういった点からも、転移門の設置を、お願いできませんか?」(上位の精霊)
俺はここで、何故転移門を必要としているのかを、確認する。
「根本的に、転移門が何故必要なんです?」
『今回の様な事に、備えるためだ。竜種である私が、動けなくなった時に、誰かの手を借りられる様に、と考えた。カイル、君の力は、単体で高位の竜種に匹敵する。そして、君は調停者だ。私と言う災害が、暴れる前に止めてくれ』(ヨートス)
「それが、どういった意味で言われているのか、分かっていますか?」
『分かっている。だが、この先の事を考えても、シーラと彼女は失えない。この国には、彼女たちがまだまだ必要なのだ』(ヨートス)
「お二人は、それでいいんですか?」
俺の問いに、二人は縦に頷いて答える。
「分かりました。もしもの時は、調停者として、俺が全ての責任を負います」
『ありがとう。世界樹と精霊に愛された、エルフの戦士よ』(ヨートス)
ヨートス殿たちが、俺に向けて頭を下げる。居心地の悪くなった俺は、なるべく明るくなる様に、話しかける。
「では、どこに転移門を設置しましょうか?」
再び移動するために執務室を出て、シーラさんたちの指示の元、ある場所に転移門を設置した。後の微調整は、帝国に、メリオスに戻ってからになるだろう。俺の傍で、料理やワインを楽しみながら、海の幸が、定期的に楽しめると騒いでいる。その場違いの様な感じに思わず笑みが浮かぶ。
その後、宴会場に戻り、ユノックでの最後の夜を、十分に楽しんだ。
イーサルさんたち、領主側の人たちも、お偉いさんが帰るまで、忙しく、慌ただしく動き回っていた。イーサルさんもダリさんも、暫くは疲れきっていたが、二・三日後には、切り替えて政務に励んでいた。
その後はイーサルさんも、ナバーロさんたちの話し合いに参加し、領主の目線からの指摘を行い、少しずつ、第三者目線で修正をかけていく。さらには、ユノックの内情を、隅々まで知っているダリさんも参加し、内容をさらに詳細に決めていったそうで、ようやく契約内容などが纏まり、メリオスに帰ることになった。
ここ数日は、ユノックの海の幸を、大量に仕入れるために、様々な所を回っている。ユノックの人々も、今回の襲撃の件もあり、何時もより、何割か安く売ってくれているらしい。ガレンさんたちも、海の幸以外にも、今回のタイラントクラブの素材を含めた、海の魔物の素材を格安で売ってくれたそうだ。
「本当は、ガレンさんたちが、譲ると言ったんですよ。ですけど、ナバーロさんが断りまして。商人として、価値あるものを、タダでモノを受けとる訳にはいかないと。ガレンさんたちも、最終的には折れましたけど、本当に安い値段で、ナバーロさんに買い取ってもらおうとしてましたよ」
「あの商人も、中々に誠実な者のようだな。五十年前に出会った、地上の商人は、それはもう、いろんな所に細かくケチをつけてきてな。最終的には、この国に、こちらの許可なく、入国出来ない様にしてやったがな」(シーラ)
『あれは酷かったな。シーラも、商人たちも。シーラはシーラで、最初から強気でいくし、商人は商人で、最初から買い叩く気で仕掛けてくるしでな。結局、まともな商談など、数える程しかなかったな』(ヨートス)
「ふん。価値が分からんのならまだしも、価値が分かっていて、自分が得するためだけ、得られる利益のためだけに、行動する奴が多かっただけだ」(シーラ)
「今の時代でも、そういった商人は、結構いるらしいですよ。ナバーロさんの様な誠実な商人は、少ないのは変わってないですよ」
『そうか。残念ではあるが、人間族というのは、そういうものだ。我々の様な長命種とは、時間も価値観も異なる事も多い。遥かな昔の人間族ならまだしも、今の人間族は少し利己的が過ぎるようだしな』(ヨートス)
ヨートス殿は、今回のお偉いさんたちの様子を見て、少し認識を変えたようだ。温厚なヨートス殿も、流石に、今回の訪問の、最後まで変わらなかったお偉いさんたちを見て、人間族に対する認識を少しだけ変えた様だ。
そんな会話をしながらも、シーラさんはネストールさんたち親子を、鍛えている。俺とヨートス殿は、それを見ながらの談笑だった。既に二人には、シーラさんが、鍛え直す事に関する意味を教えている。
最初は、自分の生まれた国に対して、余りよくない事を言われた事に、不満そうにしていた。だが、王族やその関係者、他の都市からの、使者の態度を説明していくと、二人とも頭を抱えていた。シーラさんは、そのまま自分の考えを、二人に語っていく。メルジーナ国としての方針と、ユノックの未来を考えた二人は、直ぐに気持ちを切り替えた様だ。
なにやらジェレミア家には、ロナスさんの残した方針や言葉があり、その中には、王家や他の都市に対するものも、あったそうだ。それらを聞いたシーラさんたちは、アイツらしいと笑っていた。
「二人とも、大分良くなってきたな。ようやく自分の動きとして、馴染んできたな」(シーラ)
「はい。真似ではなく、自らの技術として取り込む事」(ネストール)
「他者の真似を完璧に出来ても、それはその者の技術であって、自らの技術ではない。それを自らに取り込む事で、初めて、自分の力となる」(ステイル)
シーラさんは、二人の回答に、満足げに頷いている。二人とも、シーラさんとヨートス殿の、座学と実習を受け続ける事で、その事に気付き、試行錯誤してたどり着いた。ヨートス殿の、魔力操作や魔術についての教えによって、格段に二人の魔力・魔術に関しての、知識や技術は上がった。
さらにシーラさんによる、実戦形式の鍛練によって、培った知識が磨かれていき、つい先日、それが自らの技術に昇華された。俺も、シーラさんの助手として、実戦形式の相手として、何度か相手を務めた。一回一回の対戦で、ドンドンと動きが変わっていく二人に、驚きと嬉しさがあった。
するとそこに、上位の水精霊様が現れた。彼女とも、精霊や妖精の隣人であるエルフとして、空いた時間に結構話をする事が多かった。なので彼女とは、友人として仲がいい。
「皆様、送別会の準備が出来ましたよ。皆様以外の方々は、既に会場に到着されています」(上位の精霊)
上位の水精霊様が、そう俺たちに告げながら、ネストールさんたち親子に向けて、回復魔術と浄化をかけていく。汗や汚れがなくなり、肉体の疲労がなくなった二人は、身体の調子を確かめる様に、しっかり、ゆっくりとストレッチをしていく。
全員で闘技場を出て、宮殿に向かって移動する。今回は、俺が最初に通された、宮殿内の謁見の間の様な場所ではなく、今回の送別会の様な、宴会を行う専用の、スペースのある広大な庭にたどり着いた。
そこには、ナバーロさんとガンダロフさんたち、イーサルさんと、その執事であるダリさんもいる。今回は、限られたメンバーでの、私的な送別会になる。ナバーロさんたちは、メルジーナ国に来るのは初めてだし、イーサルさんたちも二度目だ。なので、俺たちが入ってくる前も、入ってきた後も、緊張で固くなっている。
シーラさんもヨートス殿も、そんな皆を見て、仕方ないといった様子で、上座に立つ。今回は、それぞれが食べやすい様に、バイキング形式になっている。会場も、立食が出来る所と、座ってゆっくり出来る所と分けられており、配慮がされている。
「どれもこれも、手が込んでますね」
「当たり前だ。公的だろうが、私的なものだろうが、もてなす時は全力で、というのが我が国の信条の一つだ。食は、生きていく上で、必要なものの一つだ。これを疎かにすれば、健全な肉体は維持できん」(シーラ)
『まあ、そうだな。私も、美味しい食事を知って、食事の内容を改善してからというもの、日々の彩りが豊かになったな』(ヨートス)
シーラさんと、ヨートス殿の言葉の通りに、並べられている食事は、見た目が綺麗なのはもちろんだが、栄養バランスなどがしっかり考えられている。地上でも食べた事のある魔物食材の料理から、海底に生息している、地上で生きる者たちには、滅多に目にする事がない様な、魔物の食材を使った料理もある。
まずは全員で、その料理の数々を楽しんでいく。食べた事のある魔物食材の料理であっても、そもそもの味付けや、組み合わせた別の食材などによって、僅かに変わる味や風味に、驚きながら口に入れていく。
そして、見たこともない食材によって作られている料理を、恐る恐る食べてみる。一口含み、しっかりと噛んでから、喉を通す。その後は、全員がただただ無言で、食べ続けていく。
俺も初めて食べた時は、美味しさに唸りながら、静かに食べていた。精霊様方も、気に入った様で、美味しい美味しいと言いながら、物凄い数のおかわりをしていた。
一通り、料理を楽しんだ後に、メルジーナ国で作られている、ワインが現れる。今回出したワインの元であるブドウは、魔術によって品種改良した、海の中でも育つブドウなのだと、シーラさんが自慢気に語っていた。
裏話として聞いた話によると、香辛料なども、本当は自分たちで生産しているそうだ。ただ、今回の盟約を結ぶにあたって、対等を望んだために、地上というアドバンテージを持つユノックや、カナロア王国に配慮したようだ。
「おお、このワインは極上のものですな!!」(イーサル)
「ええ。地上で飲んだ、どのワインよりも美味しい」(ダリ)
イーサルさんとダリさんは、様々なワインと比べた感想を言う。どちらも最高の評価を、メルジーナ国産のワインにつけている。ネストールさんに、ステイルさんは、その表情から、感想を言わずとも分かるほどで、二人とも少し早いペースで、無言でワインを楽しんでいる。
違う場所では、ナバーロさんがただただ、心の底からワインを楽しんでいる。その周りでは、料理と一緒に、ワインをガブガブ飲んで、顔を赤らめているガンダロフさんを筆頭に、料理とワインを半々で楽しんでいる所もある。
それぞれが、それぞれで、自由に楽しみ出した所で、シーラさんたちから、話があると、別の場所に附いてくるように促された。俺は、楽しんでいる皆をこの場において、シーラさんたちに附いていく。迷いのない進み方から、シーラさんの部屋なのかもしれない。
「ここは私の執務室だ。さあ、入っておくれ」(シーラ)
「お邪魔します」
シーラさんの執務室に入る。今ここにいるメンバーは、俺以外には、シーラさん・ヨートス殿・上位の水精霊様になる。全員が部屋に入ると、ヨートス殿が、部屋の内と外に結界を展開する。その結界は、防音・防諜などの効果のある結界の様だ。
「早速本題から入らせてもらう。カイル、転移が使えるだろう?」(シーラ)
「……はい、使えます。それが一体?」
「こことカイルの拠点に、転移門を作製して、設置してほしい」(シーラ)
「転移門をですか?転移術式では、ダメなんですか?」
『転移術式の場合だと、移動に一瞬の間が出来る。転移門ならば、時間差なく移動できる。それに、よからぬ事を考えた者の力量が高い場合、利用されてしまう可能性がある』(ヨートス)
「転移門も、利用されてしまうと思うのですが……」
『カイルも分かっているだろう?転移術式も転移門同様に、相互に作用している。だが、解除した時に、術式が双方の場所に残る』(ヨートス)
「しかし、転移門の場合は違ってくる。転移門は、術式がその場に残らない。術式そのものが、門を形作り、半永久的に機能する。そして何より、転移門を解除した時には、術式そのものである門が消え去り、跡形もなく消滅する」(シーラ)
「転移門は、その門に登録された魔力の者にしか使えないと言う点も、我々が求めているものです。そういった点からも、転移門の設置を、お願いできませんか?」(上位の精霊)
俺はここで、何故転移門を必要としているのかを、確認する。
「根本的に、転移門が何故必要なんです?」
『今回の様な事に、備えるためだ。竜種である私が、動けなくなった時に、誰かの手を借りられる様に、と考えた。カイル、君の力は、単体で高位の竜種に匹敵する。そして、君は調停者だ。私と言う災害が、暴れる前に止めてくれ』(ヨートス)
「それが、どういった意味で言われているのか、分かっていますか?」
『分かっている。だが、この先の事を考えても、シーラと彼女は失えない。この国には、彼女たちがまだまだ必要なのだ』(ヨートス)
「お二人は、それでいいんですか?」
俺の問いに、二人は縦に頷いて答える。
「分かりました。もしもの時は、調停者として、俺が全ての責任を負います」
『ありがとう。世界樹と精霊に愛された、エルフの戦士よ』(ヨートス)
ヨートス殿たちが、俺に向けて頭を下げる。居心地の悪くなった俺は、なるべく明るくなる様に、話しかける。
「では、どこに転移門を設置しましょうか?」
再び移動するために執務室を出て、シーラさんたちの指示の元、ある場所に転移門を設置した。後の微調整は、帝国に、メリオスに戻ってからになるだろう。俺の傍で、料理やワインを楽しみながら、海の幸が、定期的に楽しめると騒いでいる。その場違いの様な感じに思わず笑みが浮かぶ。
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