109 / 252
第6章
第150話
しおりを挟む
シーラさんのお誘いから、時間が過ぎて、月が顔を出した夜に、俺と、ネストールさん親子の姿が、メルジーナ国の闘技場にあった。周りには、他にも鍛練している人魚や魚人の戦士たちがおり、互いに切磋琢磨している。
「待たせたね。まずは、こんな時間に、御足労いただいて、感謝しているよ。ありがとう」(シーラ)
シーラさんが頭を軽く下げると、ネストールさん親子は慌てたように、頭を上げるように、お願いをしている。シーラさんが頭を上げると、二人とも、ホッと胸を撫で下ろしている。
「今回、二人に来てもらったのは、一種の鍛え直しのようなものさ。ネストールは、まだ伸び代があるし、ステイルもまだまだ第一線で活躍できる。だから、子供たちと同じ様に、私とヨートスで、鍛え直しだね」(シーラ)
「息子はまだしも、私はもう五十代です。今後も、徐々に身体が衰えていきます。とても、全線で戦っていけるような、戦士ではありません」(ステイル)
「それは、魔力の事も、魔術の事も、より深く学べていないからだ。それに、お前たちの家系は、ロナスに憧れすぎている」(シーラ)
シーラさんの言葉に、図星を突かれた様に、何も言えなくなってしまっている。確かに、タイラントクラブとの戦闘を見ていたが、使用していたのは、身体強化のみだった。
タイラントクラブ相手に、身体強化と、鍛えぬいた槍の技で事足りる、と言った様に、身体強化以外の魔力操作や、攻撃・防衛、どちらの魔術も使用してはいなかった。
その戦闘スタイルの根底にあるのが、ご先祖様への憧れだったのなら、納得がいく。少しだけ聞いた所によると、身体強化を極めた様な戦い方をする人だったらしい。
脳筋と称される様に、とにかく身体強化して突撃、が基本的な戦闘スタイルだった様だ。しかも、天性の戦闘センスの持ち主だった様で、魔術師相手にも、身体強化と大剣だけで、魔物も人も、蹂躙していたようだ。
「憧れるのはいいが、真似するのは止めておけ。特にロナスの場合は、桁違いに天然だったからな。勘で動いて勘で戦って、最終的に、全てが上手く行っている。そんなメチャクチャな奴だよ。真似なんて、同じくらいに、何かに愛された奴ではないと、絶対に無理だ。だが……」(シーラ)
「だが、何ですか?」(ネストール)
「何かロナス様に、近づける様な方法があるのですか?」(ステイル)
少しの沈黙の後に、シーラさんが口を開く。
「まあ、口でどうこう言うよりも、実際に体験した方が早いだろう。カイル、手伝ってくれ」(シーラ)
俺は未だに、何故呼ばれたのか、分かってはいないままに、シーラさんの傍に向かう。シーラさんは、態々念話で、これから行う事を説明してくれる。
『……と言う事だ。お前なら、この程度の事なら、簡単に出来るだろう?あの濃密な呪を、片手間で対処していたんだからな』(シーラ)
『やっぱり、見てたんですね』
『当然だ。もし、ヨートスに何かあれば、対処するのが私の役目だからだ。お前が、メルジーナを訪れてからの行動は、全て把握している。だから、この場にカイルも呼んだ。魔術の腕が良いのは、分かっていたからな』(シーラ)
『分かりました。お手伝いしますよ』
シーラさんは、俺の返事を待っていましたとばかりに、術式を構築し始める。俺は、物凄い早さで構築されて、組み上げられていく術式に、別のある術式を全体が崩れない様に、組み込んでいく。
ネストールさんたち親子は、ある程度の、魔術に関する知識はある様だが、ここまで高度で、複雑な術式になってしまうと、ついていけないようで、驚きながらも、黙って待っている。
「【泡沫の夢】」(シーラ)
術式を発動すると、術式から、一つの大きな泡が出現する。その泡は、意思を持った様に動き、ネストールさんたち親子の前で、フヨフヨ浮いている。
ネストールさんたち親子が、不思議そうに見ていると、その泡がパチンと弾ける。弾けた泡の中心地にあるのは、頭部以外の全身を、紺碧の鎧を身に纏った状態でいる、青髪青目の、百九十センチほどの男性だった。
ネストールさんたち親子は、その男性が身に纏う紺碧の鎧に、視線が釘付けになっている。
「今、二人の前に立っている男は、かつてロナスと呼ばれた男だ。私の魔術で、母なる海や、私やヨートスが持つ、ロナスに関する記憶・情報を元にして生み出した、幻想だ。簡単に口で真似するなと言っても、早々に納得など出来んだろう?だから、実際に体験してみるといい。その男の理不尽さを」(シーラ)
シーラさんの言葉が終わると同時に、微動だにしなかった、ロナスさんの様子が急激に変わっていく。急速に高まっていく魔力。雰囲気も、野生の獅子系や、狼系の様な、猛獣のような威圧感に、覇気を感じる。その雰囲気は、ベレタート王国の王、アルバス・ベレタートの様だ。
そのまま、大股でゆっくりと、二人に向けて歩みを進める。二人も戸惑いながらも、武器を構え、身体強化をする。ロナスさんは、そんな二人を見て、獰猛な笑顔を浮かべて、一歩を踏み込んだ。
「来るぞ!!」(ステイル)
「分かってる!!」(ネストール)
ロナスさんの動きに対応して、構えていた二人。しかし、ロナスさんの動きは、単純明快。本当に真っ正面から、突っ込んでいった。しかし、事はそう、迎え撃つだけという、単純なものでもない様だ。
突っ込んでいく速度が、尋常ではない。一歩踏み込んだだけで、もうネストールさんたちの目の前に現れた。そして、目にも止まらぬ速さで、背中の剣帯から、大剣を解き放つ。その速度は、移動速度同様に、尋常ではない速度で振るわれる。
二人は避ける間もなく、大剣を受けざるを得なくなった。だが、気付いた時には、二人とも吹き飛ばされていた。対するロナスさんは、再び加速して、ネストールさんを追撃する。まだ空中を飛んでいるネストールさんは、追撃に来たロナスさんに、少しの無理な体勢のまま、迎撃の一撃を放つ。
「そんなバカな!?」(ネストール)
ネストールさんも、ロナスさんには、避ける事の出来ないタイミングで、放ったにも関わらず、何事もなかったかのように、空間を蹴り、避けてしまった。
「あれを勘でやられたら、たまったもんじゃないですね」
「まあな。ロナスとやりあった、どの相手も、戦い終わった時には、プライドをへし折られた顔してたよ」(シーラ)
「でしょうね。あんな未来予知みたいな勘で、簡単に避けられたら、どんな奴でも、立ち直れないでしょうね」
ロナスさんの大剣が、ネストールさんに向かって、上段から振り下ろされそうになる。だが、そうはさせるかと、ステイルさんが空中に躍り出て、ロナスさんの後ろから、ショートソードを上段で振るう。
「グッ!!…………冗談だろ!?」(ステイル)
ステイルさんの上段からの一振に対して、ロナスさんはとっさに大剣を手放して、身体を回転させて、右回し蹴りを放つ。さらに、再び空間を蹴って体勢を元に戻し、大剣を手に取り、ネストールさんに振り下ろした。
ネストールさんも、落ちていきながらも、ある程度体勢を立て直していた。さらには、ロナスさん譲りの、天性の戦闘センスによって、見よう見まねで、空間を地面に見立てて踏み込み、必殺の一撃を、ロナスさんに放つ。
「ほう。流石に、ロナスの直系だけあるな。たったこれだけの時間で、無意識とはいえ、魔力で空間に干渉出来るとはな」(シーラ)
シーラさんの感動の言葉と共に、ヨートス殿の、ため息が聞こえてきた。
『ロナスの奴は、見ての通りに、自分の感性や、感覚で生きていたからな。どれだけ言葉で説明しても理解できないのに、たった一度、こうだと見せると、直ぐに扱える様になっていたな』(ヨートス)
「ああ、そんな事もあったな。そういえば、可哀想なのは、ロナスの子や孫だったな。自分は感覚や何となくで習得するが、息子や孫は違ったからな。ロナスの擬音混じりの説明での習得を諦めて、素直に、私らに頼ってきたくらいだからね」(シーラ)
『あの時は、何時でも陽気なロナスが、珍しく落ち込んでおったな。まあ、それすらも、ネスティとイチャついて、ケロッと元に戻っていたな』(ヨートス)
「あの二人は、いくつになっても、ずっと、変わらないままだったわね」(シーラ)
『そうだな。それも、良き所の一つであったな』(ヨートス)
シーラさんとヨートスさんが、昔を懐かしんでいる間にも、ネストールさんたち親子は、ロナスさんの幻想に、好き勝手やられていた。
先程の流れの時のように、正攻法や、奇襲などの、不意を突いた戦法で仕掛けても、どれこれもが、ヒラリヒラリと回避されて反撃される、というのを何度も繰り返していた。
だが次第に、ネストールさんも、ステイルさんも、動きが格段に変わり、良くなっていく。ステイルさんも、息子であるネストールさんと同じ、ロナスさんの血を受け継ぐ者。ネストールさんと同じ様に、ロナスさんの動きを、次々と習得していく。
だが、シーラさんが言った様に、それは、ロナスさんの真似事の領域を出ない。それは所詮、ロナスさんの動きの鏡合わせであり、本当の意味で、自分の力に出来ているわけではない。
ロナスさんが、自然に扱っている、自分の動きに最適な魔力量と、ネストールさんや、ステイルさんの最適な魔力量は違う。二人は、空間に魔力で干渉できるようになったとはいえ、魔力量はバラつきがある。さらには、無駄に魔力を籠めすぎた事で、加速しすぎてバランスを崩している時もある。
ネストールさん、ステイルさんも、途中途中で、ロナスさんの超人的な動きを、真似しようとして、その途中で動きを止めて止める、というのを繰り返している。
「あれは、身体強化の練度の差だな。二人とも、身体強化に関しても、かなり鍛えているが、自己流の部分が、少しだけ垣間見えるね」(シーラ)
『この国の現状は分からんが、フィルたちの苦悩が、今も解決されてはいないのだろう。彼らは、そんな中でも、自分たちで考えて、試行錯誤したのだろう』(ヨートス)
「だからこそ、鍛えがいってものがあるよ。何せ、お前の意思を継ぐ者なんだからね」(シーラ)
ネストールさんたち親子は、地面に力尽きた様子で、倒れている。俺は二人に近づき、微弱な回復魔術をかけていく。二人の容態を確認していると、シーラさんたちも近づいてきた。ロナスさんの幻想は、傍に立った状態で、動きを止めている。
シーラさんが、術式を解除しようとする。だが、周りで観戦していた、人魚や魚人の戦士たちが、懇願するような目で、シーラさんを見た事で、シーラさんが、許可を出した。戦士たちが、次々と挑んでは敗れていく。俺は、敗れた戦士たちも、同じ様に治療していく。最終的に、全員が敗れたので、シーラさんは、改めて術式を解除する。
シーラさんや、ヨートス殿が、どこか昔を思い出しながらも、身体全体が、小さい泡となって消えていく、ロナスさんを見ていた。最後の泡が消える際に、ロナスさんが、どこか二人に微笑んでいる様に見えた。それを見て、驚きつつも、シーラさんもヨートス殿も、共に笑顔になっていた。
「待たせたね。まずは、こんな時間に、御足労いただいて、感謝しているよ。ありがとう」(シーラ)
シーラさんが頭を軽く下げると、ネストールさん親子は慌てたように、頭を上げるように、お願いをしている。シーラさんが頭を上げると、二人とも、ホッと胸を撫で下ろしている。
「今回、二人に来てもらったのは、一種の鍛え直しのようなものさ。ネストールは、まだ伸び代があるし、ステイルもまだまだ第一線で活躍できる。だから、子供たちと同じ様に、私とヨートスで、鍛え直しだね」(シーラ)
「息子はまだしも、私はもう五十代です。今後も、徐々に身体が衰えていきます。とても、全線で戦っていけるような、戦士ではありません」(ステイル)
「それは、魔力の事も、魔術の事も、より深く学べていないからだ。それに、お前たちの家系は、ロナスに憧れすぎている」(シーラ)
シーラさんの言葉に、図星を突かれた様に、何も言えなくなってしまっている。確かに、タイラントクラブとの戦闘を見ていたが、使用していたのは、身体強化のみだった。
タイラントクラブ相手に、身体強化と、鍛えぬいた槍の技で事足りる、と言った様に、身体強化以外の魔力操作や、攻撃・防衛、どちらの魔術も使用してはいなかった。
その戦闘スタイルの根底にあるのが、ご先祖様への憧れだったのなら、納得がいく。少しだけ聞いた所によると、身体強化を極めた様な戦い方をする人だったらしい。
脳筋と称される様に、とにかく身体強化して突撃、が基本的な戦闘スタイルだった様だ。しかも、天性の戦闘センスの持ち主だった様で、魔術師相手にも、身体強化と大剣だけで、魔物も人も、蹂躙していたようだ。
「憧れるのはいいが、真似するのは止めておけ。特にロナスの場合は、桁違いに天然だったからな。勘で動いて勘で戦って、最終的に、全てが上手く行っている。そんなメチャクチャな奴だよ。真似なんて、同じくらいに、何かに愛された奴ではないと、絶対に無理だ。だが……」(シーラ)
「だが、何ですか?」(ネストール)
「何かロナス様に、近づける様な方法があるのですか?」(ステイル)
少しの沈黙の後に、シーラさんが口を開く。
「まあ、口でどうこう言うよりも、実際に体験した方が早いだろう。カイル、手伝ってくれ」(シーラ)
俺は未だに、何故呼ばれたのか、分かってはいないままに、シーラさんの傍に向かう。シーラさんは、態々念話で、これから行う事を説明してくれる。
『……と言う事だ。お前なら、この程度の事なら、簡単に出来るだろう?あの濃密な呪を、片手間で対処していたんだからな』(シーラ)
『やっぱり、見てたんですね』
『当然だ。もし、ヨートスに何かあれば、対処するのが私の役目だからだ。お前が、メルジーナを訪れてからの行動は、全て把握している。だから、この場にカイルも呼んだ。魔術の腕が良いのは、分かっていたからな』(シーラ)
『分かりました。お手伝いしますよ』
シーラさんは、俺の返事を待っていましたとばかりに、術式を構築し始める。俺は、物凄い早さで構築されて、組み上げられていく術式に、別のある術式を全体が崩れない様に、組み込んでいく。
ネストールさんたち親子は、ある程度の、魔術に関する知識はある様だが、ここまで高度で、複雑な術式になってしまうと、ついていけないようで、驚きながらも、黙って待っている。
「【泡沫の夢】」(シーラ)
術式を発動すると、術式から、一つの大きな泡が出現する。その泡は、意思を持った様に動き、ネストールさんたち親子の前で、フヨフヨ浮いている。
ネストールさんたち親子が、不思議そうに見ていると、その泡がパチンと弾ける。弾けた泡の中心地にあるのは、頭部以外の全身を、紺碧の鎧を身に纏った状態でいる、青髪青目の、百九十センチほどの男性だった。
ネストールさんたち親子は、その男性が身に纏う紺碧の鎧に、視線が釘付けになっている。
「今、二人の前に立っている男は、かつてロナスと呼ばれた男だ。私の魔術で、母なる海や、私やヨートスが持つ、ロナスに関する記憶・情報を元にして生み出した、幻想だ。簡単に口で真似するなと言っても、早々に納得など出来んだろう?だから、実際に体験してみるといい。その男の理不尽さを」(シーラ)
シーラさんの言葉が終わると同時に、微動だにしなかった、ロナスさんの様子が急激に変わっていく。急速に高まっていく魔力。雰囲気も、野生の獅子系や、狼系の様な、猛獣のような威圧感に、覇気を感じる。その雰囲気は、ベレタート王国の王、アルバス・ベレタートの様だ。
そのまま、大股でゆっくりと、二人に向けて歩みを進める。二人も戸惑いながらも、武器を構え、身体強化をする。ロナスさんは、そんな二人を見て、獰猛な笑顔を浮かべて、一歩を踏み込んだ。
「来るぞ!!」(ステイル)
「分かってる!!」(ネストール)
ロナスさんの動きに対応して、構えていた二人。しかし、ロナスさんの動きは、単純明快。本当に真っ正面から、突っ込んでいった。しかし、事はそう、迎え撃つだけという、単純なものでもない様だ。
突っ込んでいく速度が、尋常ではない。一歩踏み込んだだけで、もうネストールさんたちの目の前に現れた。そして、目にも止まらぬ速さで、背中の剣帯から、大剣を解き放つ。その速度は、移動速度同様に、尋常ではない速度で振るわれる。
二人は避ける間もなく、大剣を受けざるを得なくなった。だが、気付いた時には、二人とも吹き飛ばされていた。対するロナスさんは、再び加速して、ネストールさんを追撃する。まだ空中を飛んでいるネストールさんは、追撃に来たロナスさんに、少しの無理な体勢のまま、迎撃の一撃を放つ。
「そんなバカな!?」(ネストール)
ネストールさんも、ロナスさんには、避ける事の出来ないタイミングで、放ったにも関わらず、何事もなかったかのように、空間を蹴り、避けてしまった。
「あれを勘でやられたら、たまったもんじゃないですね」
「まあな。ロナスとやりあった、どの相手も、戦い終わった時には、プライドをへし折られた顔してたよ」(シーラ)
「でしょうね。あんな未来予知みたいな勘で、簡単に避けられたら、どんな奴でも、立ち直れないでしょうね」
ロナスさんの大剣が、ネストールさんに向かって、上段から振り下ろされそうになる。だが、そうはさせるかと、ステイルさんが空中に躍り出て、ロナスさんの後ろから、ショートソードを上段で振るう。
「グッ!!…………冗談だろ!?」(ステイル)
ステイルさんの上段からの一振に対して、ロナスさんはとっさに大剣を手放して、身体を回転させて、右回し蹴りを放つ。さらに、再び空間を蹴って体勢を元に戻し、大剣を手に取り、ネストールさんに振り下ろした。
ネストールさんも、落ちていきながらも、ある程度体勢を立て直していた。さらには、ロナスさん譲りの、天性の戦闘センスによって、見よう見まねで、空間を地面に見立てて踏み込み、必殺の一撃を、ロナスさんに放つ。
「ほう。流石に、ロナスの直系だけあるな。たったこれだけの時間で、無意識とはいえ、魔力で空間に干渉出来るとはな」(シーラ)
シーラさんの感動の言葉と共に、ヨートス殿の、ため息が聞こえてきた。
『ロナスの奴は、見ての通りに、自分の感性や、感覚で生きていたからな。どれだけ言葉で説明しても理解できないのに、たった一度、こうだと見せると、直ぐに扱える様になっていたな』(ヨートス)
「ああ、そんな事もあったな。そういえば、可哀想なのは、ロナスの子や孫だったな。自分は感覚や何となくで習得するが、息子や孫は違ったからな。ロナスの擬音混じりの説明での習得を諦めて、素直に、私らに頼ってきたくらいだからね」(シーラ)
『あの時は、何時でも陽気なロナスが、珍しく落ち込んでおったな。まあ、それすらも、ネスティとイチャついて、ケロッと元に戻っていたな』(ヨートス)
「あの二人は、いくつになっても、ずっと、変わらないままだったわね」(シーラ)
『そうだな。それも、良き所の一つであったな』(ヨートス)
シーラさんとヨートスさんが、昔を懐かしんでいる間にも、ネストールさんたち親子は、ロナスさんの幻想に、好き勝手やられていた。
先程の流れの時のように、正攻法や、奇襲などの、不意を突いた戦法で仕掛けても、どれこれもが、ヒラリヒラリと回避されて反撃される、というのを何度も繰り返していた。
だが次第に、ネストールさんも、ステイルさんも、動きが格段に変わり、良くなっていく。ステイルさんも、息子であるネストールさんと同じ、ロナスさんの血を受け継ぐ者。ネストールさんと同じ様に、ロナスさんの動きを、次々と習得していく。
だが、シーラさんが言った様に、それは、ロナスさんの真似事の領域を出ない。それは所詮、ロナスさんの動きの鏡合わせであり、本当の意味で、自分の力に出来ているわけではない。
ロナスさんが、自然に扱っている、自分の動きに最適な魔力量と、ネストールさんや、ステイルさんの最適な魔力量は違う。二人は、空間に魔力で干渉できるようになったとはいえ、魔力量はバラつきがある。さらには、無駄に魔力を籠めすぎた事で、加速しすぎてバランスを崩している時もある。
ネストールさん、ステイルさんも、途中途中で、ロナスさんの超人的な動きを、真似しようとして、その途中で動きを止めて止める、というのを繰り返している。
「あれは、身体強化の練度の差だな。二人とも、身体強化に関しても、かなり鍛えているが、自己流の部分が、少しだけ垣間見えるね」(シーラ)
『この国の現状は分からんが、フィルたちの苦悩が、今も解決されてはいないのだろう。彼らは、そんな中でも、自分たちで考えて、試行錯誤したのだろう』(ヨートス)
「だからこそ、鍛えがいってものがあるよ。何せ、お前の意思を継ぐ者なんだからね」(シーラ)
ネストールさんたち親子は、地面に力尽きた様子で、倒れている。俺は二人に近づき、微弱な回復魔術をかけていく。二人の容態を確認していると、シーラさんたちも近づいてきた。ロナスさんの幻想は、傍に立った状態で、動きを止めている。
シーラさんが、術式を解除しようとする。だが、周りで観戦していた、人魚や魚人の戦士たちが、懇願するような目で、シーラさんを見た事で、シーラさんが、許可を出した。戦士たちが、次々と挑んでは敗れていく。俺は、敗れた戦士たちも、同じ様に治療していく。最終的に、全員が敗れたので、シーラさんは、改めて術式を解除する。
シーラさんや、ヨートス殿が、どこか昔を思い出しながらも、身体全体が、小さい泡となって消えていく、ロナスさんを見ていた。最後の泡が消える際に、ロナスさんが、どこか二人に微笑んでいる様に見えた。それを見て、驚きつつも、シーラさんもヨートス殿も、共に笑顔になっていた。
0
お気に入りに追加
3,124
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。