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第6章
第149話
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その後は慌ただしく、カナロア王国やユノック、その他の海沿いの都市が、騒がしく動いていった。あの宴会の二、三日後には、各都市の代表その人や、その代理。カナロア王国の王都からは、王族や、その関係者が、ゾロゾロと多くの護衛を引き連れて訪れた。
イーサルさんから書状で、訪れる者たちに、事前に知らせたが、案の定、初代国王のフィルさんや、その相棒であったロナスさんについて、シーラさんやヨートス殿に、根掘り葉掘り聞いて、不機嫌にさせていた。
イーサルさんや、ネストールさんたち親子が、必死にシーラさんたちに謝り、王族関係なく雷を落としていた。これに、不満な顔をしていた者もいたが、今回は、イーサルさんが事前に知らせていた事から、王族やその関係者が率先して謝罪した事で、事の重大さが理解できた様に、シーラさんたちに頭を下げていた。
ヨートス殿はまあいいが、シーラさんは、不機嫌なのを隠そうともしていなかったからな。イーサルさんたちが取り成さなかったら、今回の話し自体が、御破算になっていた可能性が高かった。今は、皆揃って、メルジーナ国に観光に向かっている。まあ、友人のような関係性を、とシーラさんたちから言ったとしても、挨拶もなしに、質問責めにされたら、それは不機嫌にもなるだろう。
「あれじゃあ、怒られても仕方ねぇと思うがな」(ガンダロフ)
「まあね。流石にあれは、シーラさんたちが怒るのも無理はないわ。伝説の存在に会えた事で、興奮したとしても、あんな質問責めされたら、誰でも頭にくるわよ」(シフィ)
「ヨートス殿が、上手くシーラさんの怒りを、宥めてくれたお蔭ですね。あのままシーラさんが、一気に抑えきれなくて爆発、何て事になったら、盟約に関しては、ユノック限定になりそうでしたけど」
「まあ、そうなったら、仕方ないだろう。現に失礼な事や態度を、あの二人にしたんだから」(シュナイダー)
「………何時、何時も、相手に対する礼を欠く事は、してはいけない。常に、相手に敬意をもって接しなければいけない」(ラムダ)
ガンダロフさんたちと一緒に、漁師さんたちのお子さんたちと遊びながら、今回の訪問者について、語り合っていた。この場には、俺たち以外にも、人魚や魚人の方々がいる。それに、精霊様たちも、子供たちを微笑ましそうに見たり、遊んでいる。
これは、上位の水精霊様が提案したもので、再びの交流のために、まずは漁師さんたちや、その子供たちとの交流から始めよう、という事だ。まあ大人たちに関しては、この前の宴会で、十分に交流を深めていたからな。
子供たちも、最初は人魚や魚人の方々に対して、最初は警戒や物珍しさで、遠巻きにしていた。そこで、俺が孤児院の子供たちの、心を掴んだ様々な方法を教えて、実践してもらった。
その結果は、目の前で広がる光景が、物語っている。子供たち、人魚や魚人の方々、精霊様たちの全員が、笑顔で触れあっている。その周りを、水属性の魔力から生まれた、海の生物が泳いでいる。海の魔物の驚異があるが、子供たちにとっては、興味の方が勝った様で、中には、追いかけっこまでしている子たちもいるくらいだ。
「ナバーロさんたちも、忙しそうに交渉してますね」
「まあな。魔道具に関しての、本格的な交渉をしてるからな。ガレンさんに、ギルマスと、それぞれが平等になるように、調整中だそうだ」(ガンダロフ)
「冒険者への貸し出しの部分を、重点的に調整してるみたいね。この部分を、慎重に慎重を重ねておかないと、後で問題が大きくなるからね」(シフィ)
ナバーロさんたち三人は、ここ数日の間、漁業組合の一室に、缶詰め状態で、話し合いを続けている。冒険者ギルド用に新規で、追加の魔道具を用意する事もあり、様々な所を交渉と共に、調整中なのだ。
今は、冒険者ギルドでの、魔道具の取り扱いについて、三人で知恵を出し合って、色々な状況に対応出来るように、マニュアルを作っている最中だ。これが片付くと、ナバーロさんや護衛の俺たちも、帝国に、メリオスに帰る事になる。
一旦帝国に戻ると、通信魔術の魔道具があったとしても、物理的な距離関係から、様々な所に、支障が出るのは間違いない。なので、三人とも、今出来る事をと、必死に契約内容などを何度も何度も見直している。
俺たちが、そんなナバーロさんたちを、心配しつつ遊んでいると、シーラさんと、あの宴会の時から、ずっと小さくなったままの、ヨートス殿がこちらに向かって来ていた。
「お二人とも、お疲れ様です」
「本当にね。疲れたなんてもんじゃないよ。あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。子供じゃないんだから、しっかりとしてほしかったね。それに、まだ盟約を結んでいるわけでもないのに、この魔道具はどういう仕組みやら、自分たちの興味を優先させていたね。全く、もっとイーサル殿を見習ってほしいくらいだったよ」(シーラ)
シーラさんの愚痴が止まらない。隣でフワフワ浮いているヨートス殿も、シーラさんを止める様子を見せない。ここ数日だけの付き合いとはいえ、シーラさんに、小さい事でも、お小言を言って注意をしていたのに。
『………流石に比べるのは失礼だとは思うが、昔のフィルたちと比べてしまうとな。フィルも、その友人たちも、質問が多かったが、それらは純粋で、国民の生活の為にという事が、聞かずとも伝わった。だが………』(ヨートス)
シーラさんが言っていた様に、魔道具の仕組みや、その技術をいきなり、自身の知的好奇心または、カナロア王国や自分の都市の発展のために、聞いた者がいたり、中には、メルジーナ国を何かに利用しようとしたり、人魚や魚人自体に、下に見た嫌な視線や、良くない事を考えている視線を、向けている者もいたそうだ。それはもう、隣人としてではなく、物珍しい生き物を見たような視線だった様だ。つまり、人としてではなく、ペットのような存在として見られていたという事なのだろう。
まあ、シーラさんやヨートス殿は、その辺の事に気付いていながらも、二人とも、顔にも雰囲気にも出さずに見逃した。シーラさんも観光中は、訪れた者たちを観察する事に徹していた様で、分かりやすく態度に出す事もなかったそうだ。流石に、長く生きているだけあって、そういった腹芸は得意だな。
今回の出会いは、様々な偶然の積み重ねだったが、それでも、昔と今では違うものが多かったのだろう。ヨートス殿は、少しだけ落胆を示していた。シーラさんは、イーサルさんに言っていた様に、人間は簡単に変わる事もある、といった様子で、ヨートス殿ほどは、落胆はしていない様子だ。
「盟約は結んでやるが、そこまで深い付き合いはないね。五十年という月日は、色んな意味で、人を変える。これは、人間族だけには限らない。他の種族でも、半世紀も経てば、それなりに変わるものだけどね。だが、現段階では、この国ではここ以外は、変わったと言わざるを得ないね」(シーラ)
『なので、ユノック以外とは、それなり程度の付き合いになるだろう。精霊たちも、好奇の目で見られるのは仕方ないとの事だが、明らかに、何か良からぬ事を考えている視線も、あったそうだ』(ヨートス)
「まあ、精霊信仰が、この大陸から、ほとんどなくなって大分経ちましたからね。上位の精霊どころか、下位の精励すら見たことがない人の方が、大半ですよ。それに伴って、精霊の存在を否定する人たちも、いるくらいですからね」
「そうなのか?」(シーラ)
『そういった者たちは、どうしているのだ?』(ヨートス)
「今は、神に祈ったりして信仰してますよ。まあ、俺たちの様な長命種から言わせれば、神も精霊も、姿を見せないという点では、あんまり変わらないと思いますけどね」
「私も、有り難くも海神セルベト様から、加護を授かってはいるけど、信仰はしていないよ。セルベト様からも、その必要はない、と直接言われたしね。まあ、所変わればと言うしな、信仰が必要な神が多いのだろうね」
『そうか。精霊信仰が失われてしまったのか。時の流れというものは、時に、残酷なものだな』(ヨートス)
ヨートスさんが、落ち込んでしまっている。まあ、ヨートスさんたち竜種からしてみれば、人類種より、精霊様たちの方が、付き合いが長いだろうしな。精霊様たちは、信仰されなくなったからといって、存在が消えるわけではないが、ヨートス殿にしてみると、忘れ去られていくというのが、悲しいのだろう。
そんな風に話していたが、子供たちは痺れを切らした様に、二人に向かって突撃していく。ヨートス殿も、シーラさんも、人魚や魚人の方々と同じように警戒されていた。だが、直ぐに懐かれるようになった。
シーラさんは、その豪快な性格とカリスマ性で、子供たちの心を掴んだ。今は、暇な時間にだが、武術を教えている。ヨートス殿は、子供たちの祖母や祖父の様な穏やかさと、包み込まれる様な安心感で慕われた。ヨートス殿の方は、子供たちに、簡単な魔力の扱い方から、教え始めている様だ。
「この子らは、中々筋が良い。それに、漁師の子としての、度胸もある。将来が楽しみだね」(シーラ)
『魔術師としても、同じくらい筋が良いですな。このまま鍛練を惜しまねば、漁や狩りでも、魔術を遺憾なく発揮できるでしょうな』(ヨートス)
シーラさんやヨートス殿から、べた褒めされた子供たちは、照れた様子でいる。子供たちの親である漁師のお父さんや、その奥さんが、子供たちの頭を撫でたりして、誉めている。
カナロア王国も、魔術師の育成には、騎士育成と同じくらいに、力を入れている。しかし、人を、人材を育てるには、時間とお金がいる。実際には、王都とその周辺にある都市のみで、教育が盛んに行われているのが、実態の様だ。
『まあ、五十年前や、今回の様に、何時までも、近くにいられる訳じゃないからね。その時の為にと、戦力を、若い世代から底上げていくしか、ないからね』(シーラ)
『魔術は使えなくとも、魔力の扱いを熟知しておれば、身体強化などの選択肢が増えるし、相手の魔術にも対応できる。何においても、未知というものは、恐怖を増幅させる。だが、それが既知ならば、多少は恐怖が和らぐものだ』(ヨートス)
『まあ、お二人がしたい事ならば、俺は止めませんよ。だけど……』
『何か問題があるのか?』(シーラ)
『いえ、お二人が知っているかは分からないですが、漁師さんやその子供たち、そしてユノックの住民に、ネストールさんやステイルさんが、武術を教えているらしいんですよ。なので、一旦ネストールさんたちにも、話を通しておいた方がいいと思いまして』
『なるほどな。…………ちょうど良い。今日の夜に、その親子と一緒に、メルジーナに招待する。今夜の予定は開けておけ』(シーラ)
俺は、シーラさんの顔をみた後に、ヨートス殿の顔を見る。だが、ヨートス殿が首を横に振った事で、断る事が出来ない、確定事項である事を理解する。
「……分かりました。お邪魔します」
俺はそう言って、了承する事しか出来なかった。その俺の様子に、シーラさんは、ウンウンと頷いていた。
イーサルさんから書状で、訪れる者たちに、事前に知らせたが、案の定、初代国王のフィルさんや、その相棒であったロナスさんについて、シーラさんやヨートス殿に、根掘り葉掘り聞いて、不機嫌にさせていた。
イーサルさんや、ネストールさんたち親子が、必死にシーラさんたちに謝り、王族関係なく雷を落としていた。これに、不満な顔をしていた者もいたが、今回は、イーサルさんが事前に知らせていた事から、王族やその関係者が率先して謝罪した事で、事の重大さが理解できた様に、シーラさんたちに頭を下げていた。
ヨートス殿はまあいいが、シーラさんは、不機嫌なのを隠そうともしていなかったからな。イーサルさんたちが取り成さなかったら、今回の話し自体が、御破算になっていた可能性が高かった。今は、皆揃って、メルジーナ国に観光に向かっている。まあ、友人のような関係性を、とシーラさんたちから言ったとしても、挨拶もなしに、質問責めにされたら、それは不機嫌にもなるだろう。
「あれじゃあ、怒られても仕方ねぇと思うがな」(ガンダロフ)
「まあね。流石にあれは、シーラさんたちが怒るのも無理はないわ。伝説の存在に会えた事で、興奮したとしても、あんな質問責めされたら、誰でも頭にくるわよ」(シフィ)
「ヨートス殿が、上手くシーラさんの怒りを、宥めてくれたお蔭ですね。あのままシーラさんが、一気に抑えきれなくて爆発、何て事になったら、盟約に関しては、ユノック限定になりそうでしたけど」
「まあ、そうなったら、仕方ないだろう。現に失礼な事や態度を、あの二人にしたんだから」(シュナイダー)
「………何時、何時も、相手に対する礼を欠く事は、してはいけない。常に、相手に敬意をもって接しなければいけない」(ラムダ)
ガンダロフさんたちと一緒に、漁師さんたちのお子さんたちと遊びながら、今回の訪問者について、語り合っていた。この場には、俺たち以外にも、人魚や魚人の方々がいる。それに、精霊様たちも、子供たちを微笑ましそうに見たり、遊んでいる。
これは、上位の水精霊様が提案したもので、再びの交流のために、まずは漁師さんたちや、その子供たちとの交流から始めよう、という事だ。まあ大人たちに関しては、この前の宴会で、十分に交流を深めていたからな。
子供たちも、最初は人魚や魚人の方々に対して、最初は警戒や物珍しさで、遠巻きにしていた。そこで、俺が孤児院の子供たちの、心を掴んだ様々な方法を教えて、実践してもらった。
その結果は、目の前で広がる光景が、物語っている。子供たち、人魚や魚人の方々、精霊様たちの全員が、笑顔で触れあっている。その周りを、水属性の魔力から生まれた、海の生物が泳いでいる。海の魔物の驚異があるが、子供たちにとっては、興味の方が勝った様で、中には、追いかけっこまでしている子たちもいるくらいだ。
「ナバーロさんたちも、忙しそうに交渉してますね」
「まあな。魔道具に関しての、本格的な交渉をしてるからな。ガレンさんに、ギルマスと、それぞれが平等になるように、調整中だそうだ」(ガンダロフ)
「冒険者への貸し出しの部分を、重点的に調整してるみたいね。この部分を、慎重に慎重を重ねておかないと、後で問題が大きくなるからね」(シフィ)
ナバーロさんたち三人は、ここ数日の間、漁業組合の一室に、缶詰め状態で、話し合いを続けている。冒険者ギルド用に新規で、追加の魔道具を用意する事もあり、様々な所を交渉と共に、調整中なのだ。
今は、冒険者ギルドでの、魔道具の取り扱いについて、三人で知恵を出し合って、色々な状況に対応出来るように、マニュアルを作っている最中だ。これが片付くと、ナバーロさんや護衛の俺たちも、帝国に、メリオスに帰る事になる。
一旦帝国に戻ると、通信魔術の魔道具があったとしても、物理的な距離関係から、様々な所に、支障が出るのは間違いない。なので、三人とも、今出来る事をと、必死に契約内容などを何度も何度も見直している。
俺たちが、そんなナバーロさんたちを、心配しつつ遊んでいると、シーラさんと、あの宴会の時から、ずっと小さくなったままの、ヨートス殿がこちらに向かって来ていた。
「お二人とも、お疲れ様です」
「本当にね。疲れたなんてもんじゃないよ。あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。子供じゃないんだから、しっかりとしてほしかったね。それに、まだ盟約を結んでいるわけでもないのに、この魔道具はどういう仕組みやら、自分たちの興味を優先させていたね。全く、もっとイーサル殿を見習ってほしいくらいだったよ」(シーラ)
シーラさんの愚痴が止まらない。隣でフワフワ浮いているヨートス殿も、シーラさんを止める様子を見せない。ここ数日だけの付き合いとはいえ、シーラさんに、小さい事でも、お小言を言って注意をしていたのに。
『………流石に比べるのは失礼だとは思うが、昔のフィルたちと比べてしまうとな。フィルも、その友人たちも、質問が多かったが、それらは純粋で、国民の生活の為にという事が、聞かずとも伝わった。だが………』(ヨートス)
シーラさんが言っていた様に、魔道具の仕組みや、その技術をいきなり、自身の知的好奇心または、カナロア王国や自分の都市の発展のために、聞いた者がいたり、中には、メルジーナ国を何かに利用しようとしたり、人魚や魚人自体に、下に見た嫌な視線や、良くない事を考えている視線を、向けている者もいたそうだ。それはもう、隣人としてではなく、物珍しい生き物を見たような視線だった様だ。つまり、人としてではなく、ペットのような存在として見られていたという事なのだろう。
まあ、シーラさんやヨートス殿は、その辺の事に気付いていながらも、二人とも、顔にも雰囲気にも出さずに見逃した。シーラさんも観光中は、訪れた者たちを観察する事に徹していた様で、分かりやすく態度に出す事もなかったそうだ。流石に、長く生きているだけあって、そういった腹芸は得意だな。
今回の出会いは、様々な偶然の積み重ねだったが、それでも、昔と今では違うものが多かったのだろう。ヨートス殿は、少しだけ落胆を示していた。シーラさんは、イーサルさんに言っていた様に、人間は簡単に変わる事もある、といった様子で、ヨートス殿ほどは、落胆はしていない様子だ。
「盟約は結んでやるが、そこまで深い付き合いはないね。五十年という月日は、色んな意味で、人を変える。これは、人間族だけには限らない。他の種族でも、半世紀も経てば、それなりに変わるものだけどね。だが、現段階では、この国ではここ以外は、変わったと言わざるを得ないね」(シーラ)
『なので、ユノック以外とは、それなり程度の付き合いになるだろう。精霊たちも、好奇の目で見られるのは仕方ないとの事だが、明らかに、何か良からぬ事を考えている視線も、あったそうだ』(ヨートス)
「まあ、精霊信仰が、この大陸から、ほとんどなくなって大分経ちましたからね。上位の精霊どころか、下位の精励すら見たことがない人の方が、大半ですよ。それに伴って、精霊の存在を否定する人たちも、いるくらいですからね」
「そうなのか?」(シーラ)
『そういった者たちは、どうしているのだ?』(ヨートス)
「今は、神に祈ったりして信仰してますよ。まあ、俺たちの様な長命種から言わせれば、神も精霊も、姿を見せないという点では、あんまり変わらないと思いますけどね」
「私も、有り難くも海神セルベト様から、加護を授かってはいるけど、信仰はしていないよ。セルベト様からも、その必要はない、と直接言われたしね。まあ、所変わればと言うしな、信仰が必要な神が多いのだろうね」
『そうか。精霊信仰が失われてしまったのか。時の流れというものは、時に、残酷なものだな』(ヨートス)
ヨートスさんが、落ち込んでしまっている。まあ、ヨートスさんたち竜種からしてみれば、人類種より、精霊様たちの方が、付き合いが長いだろうしな。精霊様たちは、信仰されなくなったからといって、存在が消えるわけではないが、ヨートス殿にしてみると、忘れ去られていくというのが、悲しいのだろう。
そんな風に話していたが、子供たちは痺れを切らした様に、二人に向かって突撃していく。ヨートス殿も、シーラさんも、人魚や魚人の方々と同じように警戒されていた。だが、直ぐに懐かれるようになった。
シーラさんは、その豪快な性格とカリスマ性で、子供たちの心を掴んだ。今は、暇な時間にだが、武術を教えている。ヨートス殿は、子供たちの祖母や祖父の様な穏やかさと、包み込まれる様な安心感で慕われた。ヨートス殿の方は、子供たちに、簡単な魔力の扱い方から、教え始めている様だ。
「この子らは、中々筋が良い。それに、漁師の子としての、度胸もある。将来が楽しみだね」(シーラ)
『魔術師としても、同じくらい筋が良いですな。このまま鍛練を惜しまねば、漁や狩りでも、魔術を遺憾なく発揮できるでしょうな』(ヨートス)
シーラさんやヨートス殿から、べた褒めされた子供たちは、照れた様子でいる。子供たちの親である漁師のお父さんや、その奥さんが、子供たちの頭を撫でたりして、誉めている。
カナロア王国も、魔術師の育成には、騎士育成と同じくらいに、力を入れている。しかし、人を、人材を育てるには、時間とお金がいる。実際には、王都とその周辺にある都市のみで、教育が盛んに行われているのが、実態の様だ。
『まあ、五十年前や、今回の様に、何時までも、近くにいられる訳じゃないからね。その時の為にと、戦力を、若い世代から底上げていくしか、ないからね』(シーラ)
『魔術は使えなくとも、魔力の扱いを熟知しておれば、身体強化などの選択肢が増えるし、相手の魔術にも対応できる。何においても、未知というものは、恐怖を増幅させる。だが、それが既知ならば、多少は恐怖が和らぐものだ』(ヨートス)
『まあ、お二人がしたい事ならば、俺は止めませんよ。だけど……』
『何か問題があるのか?』(シーラ)
『いえ、お二人が知っているかは分からないですが、漁師さんやその子供たち、そしてユノックの住民に、ネストールさんやステイルさんが、武術を教えているらしいんですよ。なので、一旦ネストールさんたちにも、話を通しておいた方がいいと思いまして』
『なるほどな。…………ちょうど良い。今日の夜に、その親子と一緒に、メルジーナに招待する。今夜の予定は開けておけ』(シーラ)
俺は、シーラさんの顔をみた後に、ヨートス殿の顔を見る。だが、ヨートス殿が首を横に振った事で、断る事が出来ない、確定事項である事を理解する。
「……分かりました。お邪魔します」
俺はそう言って、了承する事しか出来なかった。その俺の様子に、シーラさんは、ウンウンと頷いていた。
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