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第6章
第148話
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腰まで届くほどの、美しく輝く露草色のポニーテールに、目を合わせた者を、引き込み、気持ちを和らげてしまう、露草色の瞳。
身長は、百七十センチ台の高身長。スラリと伸びている手足に、括れている腰。下半身も、輝く露草色の鱗を持つ、美しい足と大きなヒレを兼ね備えている。
顔立ちも、シュッと細い眉に、綺麗な鼻筋。そして、少し大きいつり目。海外や日本で活躍する、超一流のモデルの様な雰囲気に、溢れでるカリスマ性。こんな方が、女子校にいたら、一躍お姉さまとして、人気が出ること間違いないなしだろう。
着込んでいるのは、軽量化と女性らしさを兼ね備えた、ドレスアーマーだ。チラリと見えるインナーは、魔術的・物理的に考えても、相当な質を誇るものだ。これほどの質のものは、訪れた隠れ里以外では、初めて見る。メルジーナ国の、縫製技術の高さや、魔術知識の豊富さも伺える一品だ。
すると突然、水面から、巨大な水竜の頭が浮き上がってきた。
『シーラ。あまり慌てるなと言ったろう。今の時代の者たちを、困らせてはいかん』(ヨートス)
「分かってるわよ、ヨートス。その辺の説教は、またにしてよ」(シーラ)
『ふむ。では、何時かにしておこう』(ヨートス)
「そうね。それがいいわね」(シーラ)
『………はぁ~。まあいい。その適当さが、シーラの良き所でもある。まあ今回は、久々の地上ということもあるからな。興奮するのも理解できる。私も小言を言うのは、ここまでとしよう』(ヨートス)
ヨートス殿とシーラさんの会話で、二人の仲の良さが伝わってくる。少しマイペースで、自分の好きな様に動くシーラさん。それを細かく注意して、周囲とシーラさんを、繋ぎ合わせているヨートス殿。だが、シーラさんの様子から見るに、ヨートス殿は、大変な苦労人であることが見てとれる。
『皆さん、初めまして。水竜のヨートスと申します。以後、お見知りおきを』(ヨートス)
「私はシーラ。メルジーナ国の戦士だよ」(シーラ)
ヨートスさんの、丁寧な挨拶に、困惑をしているイーサルさんたち。それを、呆れた様にため息を吐き、シーラさんが注意する。
「今の子たちは、挨拶を返せないのかい?それとも、それが今の時代の流儀なのかい?」(シーラ)
「……いえ、失礼いたしました。私は、このユノックを治めております、領主のイーサルと申します。かの有名な、ヨートス殿やシーラ様に、お会いできて光栄です」(イーサル)
イーサルさんの言葉に、二人はまたかと、うんざりしている様にも見える。周りの皆も、その様子に困惑している。
「何か、失礼な事を申しましたでしょうか?」(イーサル)
シーラさんは、ヨートス殿と視線を合わせて、お前が答えろ、と顎で指示する。ヨートス殿は、そんなシーラさんの態度に、再びため息を吐くと、口を開く。
『イーサル殿。我々の事や、フィルの事を、どの様に聞いているか知らないが、フィルとの盟約や、シーラが指導したのも、友人であったからだ。我々としては、フィルが育てた国の末裔たちに、崇められたくはない。ただ普通に、隣人として接してくれればいい。それだけだ』(ヨートス)
ヨートス殿の説明に、イーサルさんも一定の理解を示すが、語り継がれてきた時間が、そう易々と態度を変えさせる事は出来なかった。イーサルさんは、深々と頭を下げる。
「申し訳ありません。しかし、我々としては、そう簡単に、はいそうですかと、お二人に、友人の様に接することは出来ません。どうか、時間を貰えますように願います」(イーサル)
「………まあ、いいさ。人は簡単に変われる事と、変われん事があることくらい、私らだって知ってるさ。ただ、必要以上の敬意は不要だよ。他の連中にも
そう伝えておきな」(シーラ)
「はい、了解致しました」(イーサル)
ヨートス殿もシーラさんも、まだ不満そうだが、シーラさんの言った通り、人は何かを変える際に、時間がかかるものだ。まあ逆に、直ぐに態度を変える者も、疑わしいんだがな。
ここで、ヨートス殿を監視兼守護をしてくれていた、精霊様方が戻ってきた。俺は精霊様方に、こっそりと作り置きしていた、色んな種類のハンバーガーを渡していく。
『おお、美味いな』(緑の精霊)
『これは、海老カツか?』(赤の精霊)
『こっちは、カニクリームコロッケね!!』(青の精霊)
『白身魚のフライ。外はサクサク、中はふわふわ。……美味しい』(黄の精霊)
『ありがとうございます。お代わりもありますから』
『『『『お代わり!!』』』』
『ふふふ、楽しそうですな』(ヨートス)
『はい。いつも美味しそうに食べてくれますよ』
ヨートス殿が、精霊様方と俺を見て、笑いながら話しかけてくれるので、俺も、自然に答える。すると、ヨートス殿が、少し大きな笑い声を、念話で送ってくる。
『やはり、今代の契約者、しかも、四人のお方と契約されているだけありますな。私やシーラを前にしても、全く動じることもないようですしな』(ヨートス)
『まあ、こう見えても、それなりの場数を踏んでるからな』(緑の精霊)
『それに、竜種ともやりあった事があるしね』(青の精霊)
『何と!?そうなのですか!?』(ヨートス)
驚くヨートス殿に、精霊様方が、竜人族の隠れ里での鎮魂の儀や、その後の偽竜との戦闘などを語っていく。ヨートス殿は、リアマさんとは、生前から親しかったらしく、自身が眠っている間に、亡くなった事にショックを受けていた。
だが同時に、鎮魂の儀によって、心安らかに眠りについた事に安堵している。また、竜の巫女である、アーシャさんについても、気にかけていたようで、黒山羊ホズンに拐われたり、偽竜オディウムの封印を解くために、傷を付けられた事を聞いて、心の中で怒りに震えていた。だが、その怒りを悟られない様に、表に出すような事はない。
しかし、そんなヨートス殿の些細な変化を、シーラさんは見逃さない。ヨートス殿の怒りを感じ取り、俺たちの念話に魔力の波長を合わせて、会話に混じってきた。
『あんた、ヨートスになんか生意気言ったのかい?あそこまで怒るなんて、久しぶりに見たよ。なんか言ったんなら、直ぐに謝っときな』(シーラ)
『え~とですね。ヨートス殿が怒っているのは…………』
俺が、今までの事を説明すると、シーラさんも、理解を示しつつも、多少呆れていた。それにしても、ヨートス殿も当たり前に行っているが、シーラさんも当然の様に、並列思考を行いながら、イーサルさんたちと会話をしている。
この並列思考は、どのような場面でも使えるので、大変便利だ。日常の様々な場面から戦闘中、さらには、奥さんからの追求を逃れたりと、色々な意味で便利だ。特に、奥さんの追求や、物理的にも逃げ切る時には、とても重宝しているのを、祖父や父で散々見てきた。まあ、結果も同時に見てきた。その日の夜は、一人だけ、もしくは二人とも質素な食事をさせられていた。しかも、ボコボコにされた状態で。
今話している内容は、上位の水精霊様や、人魚や魚人の戦士さんたちが、イーサルさんたちと話し合った、盟約についての確認をしている。とりあえずは、全て内容を聞いてから判断するようで、ヨートス殿も、シーラさんも、ただ黙って聞いている。イーサルさんと、上位の水精霊様が語り終わる。シーラさんは、目を閉じて考えている。
暫くの間、考え込んだのちに、シーラさんは目を開ける。ヨートス殿と念話で話していた様だが、答えが出た様だ。
「その盟約に関して、私らが言うことはないよ。そのまま進めればいい。特におかしな点も見当たらないしね」(シーラ)
シーラさんがそう言うと、イーサルさんたち、カナロア王国側に立つ人々は、ホッと胸を撫で下ろしている。
俺は、ヨートス殿に改めて念話を送る。
『ヨートス殿、申し訳ないんですが、貴方が送った鎧について、話があるんですが』
『海神セルベトの加護を受けている青年が、私の鎧を使用しているようですが、何か問題があるのですか?』(ヨートス)
『いえ、彼自身に問題があるのではなくてですね。ヨートス殿は、あの鎧とまだ魔力や魂の繋がりを断ってませんよね?』
『何ですって!?ヨートス!!あれほど言ったでしょうが!!』(シーラ)
『いや~、彼の事が心配でしてね~。しかし、それならばこの五十年ほどは………』(ヨートス)
『はい。呪の影響で、全く使用する事が出来ない状態だったと、聞いています』
『『あ~』』(ヨートス・シーラ)
『あ~、じゃありませんよ。もし、無理にでも鎧を着込んでいたら、呪に侵食されて、都市内で大暴れでしたよ』
ヨートス殿は、少し申し訳なさそうにしている。シーラさんは、今度はハッキリと呆れの感情を、ヨートス殿に向けている。
『どうすればいいかは、分かっているね?』(シーラ)
『ええ、分かっています。今すぐにでも、鎧と私の繋がりを、断たなければいけませんね。カイルさん、お手伝いいただけますか?』(ヨートス)
『ええ、大丈夫です。お手伝いします』
『すまないね。後で、何かしらのお礼をするからね』(シーラ)
俺との会話が終わり、タイミングを見て、ヨートス殿がネストールさんに対して、話しかけていく。そのまま、俺とシーラさんとで確認した流れの通りに、ヨートス殿が話を進めていく。俺も予定通りに、助手として呼ばれ、ヨートス殿、ネストールさん、ステイルさんと共に、少し離れた位置に移動する。
改めて、ヨートス殿の方から、自身と鎧に関しての説明をしてもらう。ネストールさんも、ステイルさんも、真剣な表情で説明を聞いている。
その中で、二人が気になったのが、ヨートス殿が鎧を授ける事になった、自分たちの先祖に関してだ。伝承として、記録としては残っているが、実際に先祖を知っている存在が、目の前にいるので、知りたくなって聞いているのだろう。ヨートス殿は、俺と一緒に作業しながら、二人の先祖について語っていく。
『おお、ロナスの事か?全体的な雰囲気や、顔立ちなんかは、二人ともよく似ておるよ。ただ、二人はどうか知らんが、まあロナスの奴は…………』(ヨートス)
「ご先祖様は?」(ネストール)
『筋金入りの脳筋、だったのう』(ヨートス)
「脳筋、ですか?ですが、伝承によると、見事な軍略や指揮でもって、当時の侵略してきた敵国を、初代国王と共に蹴散らしたと、伝えられています」(ステイル)
ステイルさんが、そう簡単に信じられないのか、伝承や記録の事を引き合いに出す。すると、ヨートス殿が、堪えきれないとばかりに、大笑いしてしまう。
『そうか、彼女らしい!!まあ、小さい頃から、兄たちにお小言を言う程に賢く、人間的にも、できた娘だったからな』(ヨートス)
「彼女?いったい誰の事なんです?」(ネストール)
『初代国王の妹にして、二人の先祖である、ロナスの嫁の、ネスティの事だ』(ヨートス)
「ネスティ様!!しかし、彼女は一般の女性だという記録が残っていますが……」(ステイル)
『彼女は賢い女性だったからな。後の世に火種を残さぬために、自らの存在を極力消し去ったのだろう。そもそもあの兄妹とロナスの出会いは…………』(ヨートス)
ヨートスさんの語っていく、ネスティという女性の真実に、驚きながらも、知っていけばいくほど、二人は、その未来を見通しているかのような慧眼に、興奮している。
現に、カナロア王国にも、危機的な状況が、何度か襲われた事があるそうだ。その原因が、隠し子だったり、王の兄弟の子孫による内乱寸前までいった、後継者争いだったりだそうだ。ヨートス殿の話を聞くに、ネスティさんは徹底的に、そういった要素を排除する事に、徹していた様だ。
ロナスさんとネスティさん。この二人が生涯を過ごした場所が、このユノックだ。メルジーナ国がユノックの近くにあったのも、どことなくヨートス殿やシーラさんが、このユノックを特別視しているのは、そういう事なのだろう。
『よし、完璧に繋がりを絶った。これで完全に、その鎧は独立した存在となった。今後は、私の繋がりを状態に左右される事なく、何時でも使用できる。カイル、どうだ?』(ヨートス)
「……完全に独立できています。ヨートス殿の言う通り、今後は、ヨートス殿の状態の変化による影響は、受けません」
ネストールさん、ステイルさんも、どちらもホッとしている。これから先、ユノックに迫る危機に、鎧が使えないという事態は、これで避けられたはずだ。
全員で、先程の砂浜の場所に戻る。するとそこには、精霊様たちと、ユノックの住民たち、そしてイーサルさんたち。さらにはナバーロさんたちや、人魚や魚人の人々が、親睦という名の宴会を始めていた。
ヨートス殿は、ネストールさんとステイルさん親子を、そこに混ざるように促す。俺とヨートス殿、精霊様方は、一人離れた所で、その光景を微笑ましそうに見ている、シーラさんに近づく。俺は、周りからは見えない様に、異空間から酒や食事を取り出して、シーラさんやヨートス殿に振る舞っていく。
ヨートス殿には、竜人族の隠れ里で、竜種の方々がやっていた、身体のサイズを変える方法を教えた。なので、シーラさんと同じサイズの料理を、しっかりと楽しんで、満足している。
「やはり、こういった種の垣根を越えた光景とは、良いものだ」(シーラ)
『ああ、そうだな』(ヨートス)
身長は、百七十センチ台の高身長。スラリと伸びている手足に、括れている腰。下半身も、輝く露草色の鱗を持つ、美しい足と大きなヒレを兼ね備えている。
顔立ちも、シュッと細い眉に、綺麗な鼻筋。そして、少し大きいつり目。海外や日本で活躍する、超一流のモデルの様な雰囲気に、溢れでるカリスマ性。こんな方が、女子校にいたら、一躍お姉さまとして、人気が出ること間違いないなしだろう。
着込んでいるのは、軽量化と女性らしさを兼ね備えた、ドレスアーマーだ。チラリと見えるインナーは、魔術的・物理的に考えても、相当な質を誇るものだ。これほどの質のものは、訪れた隠れ里以外では、初めて見る。メルジーナ国の、縫製技術の高さや、魔術知識の豊富さも伺える一品だ。
すると突然、水面から、巨大な水竜の頭が浮き上がってきた。
『シーラ。あまり慌てるなと言ったろう。今の時代の者たちを、困らせてはいかん』(ヨートス)
「分かってるわよ、ヨートス。その辺の説教は、またにしてよ」(シーラ)
『ふむ。では、何時かにしておこう』(ヨートス)
「そうね。それがいいわね」(シーラ)
『………はぁ~。まあいい。その適当さが、シーラの良き所でもある。まあ今回は、久々の地上ということもあるからな。興奮するのも理解できる。私も小言を言うのは、ここまでとしよう』(ヨートス)
ヨートス殿とシーラさんの会話で、二人の仲の良さが伝わってくる。少しマイペースで、自分の好きな様に動くシーラさん。それを細かく注意して、周囲とシーラさんを、繋ぎ合わせているヨートス殿。だが、シーラさんの様子から見るに、ヨートス殿は、大変な苦労人であることが見てとれる。
『皆さん、初めまして。水竜のヨートスと申します。以後、お見知りおきを』(ヨートス)
「私はシーラ。メルジーナ国の戦士だよ」(シーラ)
ヨートスさんの、丁寧な挨拶に、困惑をしているイーサルさんたち。それを、呆れた様にため息を吐き、シーラさんが注意する。
「今の子たちは、挨拶を返せないのかい?それとも、それが今の時代の流儀なのかい?」(シーラ)
「……いえ、失礼いたしました。私は、このユノックを治めております、領主のイーサルと申します。かの有名な、ヨートス殿やシーラ様に、お会いできて光栄です」(イーサル)
イーサルさんの言葉に、二人はまたかと、うんざりしている様にも見える。周りの皆も、その様子に困惑している。
「何か、失礼な事を申しましたでしょうか?」(イーサル)
シーラさんは、ヨートス殿と視線を合わせて、お前が答えろ、と顎で指示する。ヨートス殿は、そんなシーラさんの態度に、再びため息を吐くと、口を開く。
『イーサル殿。我々の事や、フィルの事を、どの様に聞いているか知らないが、フィルとの盟約や、シーラが指導したのも、友人であったからだ。我々としては、フィルが育てた国の末裔たちに、崇められたくはない。ただ普通に、隣人として接してくれればいい。それだけだ』(ヨートス)
ヨートス殿の説明に、イーサルさんも一定の理解を示すが、語り継がれてきた時間が、そう易々と態度を変えさせる事は出来なかった。イーサルさんは、深々と頭を下げる。
「申し訳ありません。しかし、我々としては、そう簡単に、はいそうですかと、お二人に、友人の様に接することは出来ません。どうか、時間を貰えますように願います」(イーサル)
「………まあ、いいさ。人は簡単に変われる事と、変われん事があることくらい、私らだって知ってるさ。ただ、必要以上の敬意は不要だよ。他の連中にも
そう伝えておきな」(シーラ)
「はい、了解致しました」(イーサル)
ヨートス殿もシーラさんも、まだ不満そうだが、シーラさんの言った通り、人は何かを変える際に、時間がかかるものだ。まあ逆に、直ぐに態度を変える者も、疑わしいんだがな。
ここで、ヨートス殿を監視兼守護をしてくれていた、精霊様方が戻ってきた。俺は精霊様方に、こっそりと作り置きしていた、色んな種類のハンバーガーを渡していく。
『おお、美味いな』(緑の精霊)
『これは、海老カツか?』(赤の精霊)
『こっちは、カニクリームコロッケね!!』(青の精霊)
『白身魚のフライ。外はサクサク、中はふわふわ。……美味しい』(黄の精霊)
『ありがとうございます。お代わりもありますから』
『『『『お代わり!!』』』』
『ふふふ、楽しそうですな』(ヨートス)
『はい。いつも美味しそうに食べてくれますよ』
ヨートス殿が、精霊様方と俺を見て、笑いながら話しかけてくれるので、俺も、自然に答える。すると、ヨートス殿が、少し大きな笑い声を、念話で送ってくる。
『やはり、今代の契約者、しかも、四人のお方と契約されているだけありますな。私やシーラを前にしても、全く動じることもないようですしな』(ヨートス)
『まあ、こう見えても、それなりの場数を踏んでるからな』(緑の精霊)
『それに、竜種ともやりあった事があるしね』(青の精霊)
『何と!?そうなのですか!?』(ヨートス)
驚くヨートス殿に、精霊様方が、竜人族の隠れ里での鎮魂の儀や、その後の偽竜との戦闘などを語っていく。ヨートス殿は、リアマさんとは、生前から親しかったらしく、自身が眠っている間に、亡くなった事にショックを受けていた。
だが同時に、鎮魂の儀によって、心安らかに眠りについた事に安堵している。また、竜の巫女である、アーシャさんについても、気にかけていたようで、黒山羊ホズンに拐われたり、偽竜オディウムの封印を解くために、傷を付けられた事を聞いて、心の中で怒りに震えていた。だが、その怒りを悟られない様に、表に出すような事はない。
しかし、そんなヨートス殿の些細な変化を、シーラさんは見逃さない。ヨートス殿の怒りを感じ取り、俺たちの念話に魔力の波長を合わせて、会話に混じってきた。
『あんた、ヨートスになんか生意気言ったのかい?あそこまで怒るなんて、久しぶりに見たよ。なんか言ったんなら、直ぐに謝っときな』(シーラ)
『え~とですね。ヨートス殿が怒っているのは…………』
俺が、今までの事を説明すると、シーラさんも、理解を示しつつも、多少呆れていた。それにしても、ヨートス殿も当たり前に行っているが、シーラさんも当然の様に、並列思考を行いながら、イーサルさんたちと会話をしている。
この並列思考は、どのような場面でも使えるので、大変便利だ。日常の様々な場面から戦闘中、さらには、奥さんからの追求を逃れたりと、色々な意味で便利だ。特に、奥さんの追求や、物理的にも逃げ切る時には、とても重宝しているのを、祖父や父で散々見てきた。まあ、結果も同時に見てきた。その日の夜は、一人だけ、もしくは二人とも質素な食事をさせられていた。しかも、ボコボコにされた状態で。
今話している内容は、上位の水精霊様や、人魚や魚人の戦士さんたちが、イーサルさんたちと話し合った、盟約についての確認をしている。とりあえずは、全て内容を聞いてから判断するようで、ヨートス殿も、シーラさんも、ただ黙って聞いている。イーサルさんと、上位の水精霊様が語り終わる。シーラさんは、目を閉じて考えている。
暫くの間、考え込んだのちに、シーラさんは目を開ける。ヨートス殿と念話で話していた様だが、答えが出た様だ。
「その盟約に関して、私らが言うことはないよ。そのまま進めればいい。特におかしな点も見当たらないしね」(シーラ)
シーラさんがそう言うと、イーサルさんたち、カナロア王国側に立つ人々は、ホッと胸を撫で下ろしている。
俺は、ヨートス殿に改めて念話を送る。
『ヨートス殿、申し訳ないんですが、貴方が送った鎧について、話があるんですが』
『海神セルベトの加護を受けている青年が、私の鎧を使用しているようですが、何か問題があるのですか?』(ヨートス)
『いえ、彼自身に問題があるのではなくてですね。ヨートス殿は、あの鎧とまだ魔力や魂の繋がりを断ってませんよね?』
『何ですって!?ヨートス!!あれほど言ったでしょうが!!』(シーラ)
『いや~、彼の事が心配でしてね~。しかし、それならばこの五十年ほどは………』(ヨートス)
『はい。呪の影響で、全く使用する事が出来ない状態だったと、聞いています』
『『あ~』』(ヨートス・シーラ)
『あ~、じゃありませんよ。もし、無理にでも鎧を着込んでいたら、呪に侵食されて、都市内で大暴れでしたよ』
ヨートス殿は、少し申し訳なさそうにしている。シーラさんは、今度はハッキリと呆れの感情を、ヨートス殿に向けている。
『どうすればいいかは、分かっているね?』(シーラ)
『ええ、分かっています。今すぐにでも、鎧と私の繋がりを、断たなければいけませんね。カイルさん、お手伝いいただけますか?』(ヨートス)
『ええ、大丈夫です。お手伝いします』
『すまないね。後で、何かしらのお礼をするからね』(シーラ)
俺との会話が終わり、タイミングを見て、ヨートス殿がネストールさんに対して、話しかけていく。そのまま、俺とシーラさんとで確認した流れの通りに、ヨートス殿が話を進めていく。俺も予定通りに、助手として呼ばれ、ヨートス殿、ネストールさん、ステイルさんと共に、少し離れた位置に移動する。
改めて、ヨートス殿の方から、自身と鎧に関しての説明をしてもらう。ネストールさんも、ステイルさんも、真剣な表情で説明を聞いている。
その中で、二人が気になったのが、ヨートス殿が鎧を授ける事になった、自分たちの先祖に関してだ。伝承として、記録としては残っているが、実際に先祖を知っている存在が、目の前にいるので、知りたくなって聞いているのだろう。ヨートス殿は、俺と一緒に作業しながら、二人の先祖について語っていく。
『おお、ロナスの事か?全体的な雰囲気や、顔立ちなんかは、二人ともよく似ておるよ。ただ、二人はどうか知らんが、まあロナスの奴は…………』(ヨートス)
「ご先祖様は?」(ネストール)
『筋金入りの脳筋、だったのう』(ヨートス)
「脳筋、ですか?ですが、伝承によると、見事な軍略や指揮でもって、当時の侵略してきた敵国を、初代国王と共に蹴散らしたと、伝えられています」(ステイル)
ステイルさんが、そう簡単に信じられないのか、伝承や記録の事を引き合いに出す。すると、ヨートス殿が、堪えきれないとばかりに、大笑いしてしまう。
『そうか、彼女らしい!!まあ、小さい頃から、兄たちにお小言を言う程に賢く、人間的にも、できた娘だったからな』(ヨートス)
「彼女?いったい誰の事なんです?」(ネストール)
『初代国王の妹にして、二人の先祖である、ロナスの嫁の、ネスティの事だ』(ヨートス)
「ネスティ様!!しかし、彼女は一般の女性だという記録が残っていますが……」(ステイル)
『彼女は賢い女性だったからな。後の世に火種を残さぬために、自らの存在を極力消し去ったのだろう。そもそもあの兄妹とロナスの出会いは…………』(ヨートス)
ヨートスさんの語っていく、ネスティという女性の真実に、驚きながらも、知っていけばいくほど、二人は、その未来を見通しているかのような慧眼に、興奮している。
現に、カナロア王国にも、危機的な状況が、何度か襲われた事があるそうだ。その原因が、隠し子だったり、王の兄弟の子孫による内乱寸前までいった、後継者争いだったりだそうだ。ヨートス殿の話を聞くに、ネスティさんは徹底的に、そういった要素を排除する事に、徹していた様だ。
ロナスさんとネスティさん。この二人が生涯を過ごした場所が、このユノックだ。メルジーナ国がユノックの近くにあったのも、どことなくヨートス殿やシーラさんが、このユノックを特別視しているのは、そういう事なのだろう。
『よし、完璧に繋がりを絶った。これで完全に、その鎧は独立した存在となった。今後は、私の繋がりを状態に左右される事なく、何時でも使用できる。カイル、どうだ?』(ヨートス)
「……完全に独立できています。ヨートス殿の言う通り、今後は、ヨートス殿の状態の変化による影響は、受けません」
ネストールさん、ステイルさんも、どちらもホッとしている。これから先、ユノックに迫る危機に、鎧が使えないという事態は、これで避けられたはずだ。
全員で、先程の砂浜の場所に戻る。するとそこには、精霊様たちと、ユノックの住民たち、そしてイーサルさんたち。さらにはナバーロさんたちや、人魚や魚人の人々が、親睦という名の宴会を始めていた。
ヨートス殿は、ネストールさんとステイルさん親子を、そこに混ざるように促す。俺とヨートス殿、精霊様方は、一人離れた所で、その光景を微笑ましそうに見ている、シーラさんに近づく。俺は、周りからは見えない様に、異空間から酒や食事を取り出して、シーラさんやヨートス殿に振る舞っていく。
ヨートス殿には、竜人族の隠れ里で、竜種の方々がやっていた、身体のサイズを変える方法を教えた。なので、シーラさんと同じサイズの料理を、しっかりと楽しんで、満足している。
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小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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