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第6章
第139話
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俺はゆっくりと、シーサーペントに向けて歩き出す。シーサーペントは、ここにきて、初めて敵対者に対して、恐怖を抱いた様だ。俺が近づくたびに、ゆっくりと後ろに下がっている。呪は、完全に剥がされた武具を、大急ぎで修復している。
『やはり、呪とシーサーペントの動きが、別々に感じてしまうんですが……』
『私も同意見よ。過去に見てきたものでも、あそこまで違った動きや思考は、見た事がないわ。もしかしたら、特殊な呪になっているのかもしれないわ(青の精霊)
俺が師匠たちから叩き込まれた、呪に関する知識から考えても、シーサーペントと呪が、それぞれ独立しすぎている。完全に侵食され、完成している呪にも関わらずにだ。
呪に完全に侵食されると、最初に身体の支配権を奪われ、徐々に、精神や思考まで奪われる。最終的には、その侵食した存在になり替わる事が出来るようになる。ただし、記憶を共有する事は出来ない。それが、呪に完全に侵食されているかどうかの、判別方法だと教わった。
シーサーペントは、術士に呪を組み込まれてから、大分時間が経っているはずだ。それに、メルジーナ国を攻め込んだのも、呪に殆ど侵食された状態での事だったはずだ。そこからさらに、五十年だぞ?どう考えたって、完全にシーサーペントの全てを、呪が奪い取れているはずだ。
『何かしらの、仕掛けがあるのかもしれません』
『そうね。そこも、慎重に見極めながら………』(青の精霊)
俺の視界が、暗闇に変わる。呪が大きな塊を分裂させ、後ろから忍び寄り、俺を包み込んだ。そのまま小さく狭くなりながらも、侵食と並行して、俺という存在を取り込もうとしてくる。
俺は、縮まり迫りくる呪に対して、無造作に左手を手刀の形で、横に振るう。それだけで、前方から迫る呪の壁が切り裂かれる。追加で、包み込んでいた呪も、高密度の魔力そのもので呪という存在を焼いて消滅させる。
呪を消滅させた俺の周囲には、ピンポン玉サイズの、凝縮された無数の呪が、俺を囲んでいる。それらが同時に、薄く細い、不可視の針を生み出して襲い掛かってくる。俺は、右手でトライデントを操り、左手を手刀の形のまま、足元から迫る呪に対しては、両脚を使って全て不可視の針に対応した。それらを全て、他の凝縮された呪に当たるように弾いていく。だが、弾かれた呪は、弾かれた先にある呪に突き刺さり、そのまま取り込まれていくだけに終わった。
『厄介ですね』
『周囲で囲んでいる、あの玉状の呪をどうにかしないと終わらないわね』(青の精霊)
今度は時間差での攻撃を仕掛けてきた。俺の方も、全てを弾くのでなく、避けられるものは避けていく。だが、呪の方も攻め方を変えてきた。不可視の針だけではなく、フェイントや視線誘導の為だけの、可視化した針を織り交ぜてきた。さらには、直線的に進む針と、途中で直角や湾曲で曲げて、追尾してきたりする針も使い始めた。
それらの全てを捌きつつも、しっかりとシーサーペントに方に向かって歩き続ける。その間にも、どんどんとピンポン玉サイズの呪が増えていくが、俺の身体に触れる事は出来ない。ここで足止めされると、シーサーペントに余裕を与えてしまうので、高純度の魔力による、自身を中心にした、三百六十度の魔力障壁を展開した。この魔力障壁によって、迫りくる全ての呪の針は、球体に沿って受け流されていく。
すると、次は剣・槍・槌などの様々な武具に姿に変えて、放ってくる。しかし、それら全ての呪も、魔力障壁に阻まれる。だが、先程の針は受け流されるだけに対して、武具を模した呪は魔力障壁にぶつかって弾かれている。魔力障壁は罅一つ入ってはいないが、受け流せないほどの威力というのは分かった。シーサーペントに近づけば近づくほど、威力と手数が増えていく。
俺が、シーサーペントの元にたどり着いた時には、既に呪の武具を纏い直した状態でいた。しかも、先程の武具よりも、高濃度・高密度・高純度の呪で構成されたものになっている。俺の周囲を囲んでいた、分離された呪が一気に俺の眼前に集結していく。集まった呪は、超巨大な球体の呪になる。その球体は徐々に縦長に形を変える。そして、一本の巨大な針になる。変化はそれで終わらない。その針の先端がゆっくりと捻じれて、巨大なドリルのような形状になる。そのドリルが勢いよく回転し、海水を巻き付け渦を作り、俺の魔力障壁とぶつかり合う。
「流石に、このレベルの呪になると、この程度の魔力障壁だと、破られますね」
『このアホみたいな魔力の障壁を破るのなら、このくらいは必要だという事ね』(青の精霊)
青の精霊様は呆れている。だが、俺は気にせずに、先程よりも早く多くの魔力を一瞬で練り上げる。それを全身に循環させ、身体強化をする。
魔力障壁に少しずつ傷が入りだし、ドリルの先端が触れている部分に罅が入り始める。そして、遂に魔力障壁が破られた。そのまま、ドリルは俺に向かって突き進む。ドリルは、正確に俺の心臓に向かってくるコースをとっている。俺は、向かってくるドリルの先端に向けて、無造作に右手を伸ばす。巻き付けた海水の渦を物ともせずに、抵抗を受けることなく、ドリルの先端を掴み取る。勢いよく、とてつもない速度で回転していたドリルが、ピタリと止まる。巻き付いていた海水の渦も、ドリルの急停止に伴って、元の海水に戻っていく。
呪のドリルは、俺の手の中で、必死に動こうとしているのが伝わってくる。それでも、動く事はない。呪のドリルは、動かない事を悟った瞬間に、俺に持たれてる部分を切り離して離脱する。呪は、一瞬でドリルから球体に再構築し、超巨大な大剣に姿を変える。さらには、切り離した部分が、俺の右手とトライデントを封じる様に、纏わりついてきた。そこに息も吐かせぬ様に、俺に何かをさせない様に、超巨大な大剣を振り下ろしてくる。
「こいつはまたデカいですね」
『そうねぇ』(青の精霊)
「でも、この程度の剣なら、数打ちにも劣りますよ。ただ剣の形をした、おもちゃみたいなものですよ」
『そうなの?』(青の精霊)
「ええ。文字通りに模しているだけで、中身はスカスカです。俺が何度、ヘクトル爺やルイス姉さんに斬られたと思ってるんです?その俺相手に、この程度ですよ?あの二人が生み出す魔力剣なんて、触れるのも恐ろしんですから」
振り下ろされた超巨大な大剣の剣身は、俺の左手で受け止められている。そんな状態であっても、受けとめた掌が斬れている事もなければ、超巨大な大剣の重みを感じることもない。やっぱり、ただの大きな剣の形をした、おもちゃだな。
呪は、俺の掌と触れている部分を切り離して、今度はロングソードの双剣となった。切り離された呪は、右手と同様に、左手を封じるように纏わりつく。
その呪の双剣を、シーサーペントの両手がそれぞれ掴む。俺の両手を塞ぎ、有利だと確信し、勝負に出てきた。その巨体を高速で移動させて、俺の正面に移動した。そして、その双剣で俺を切り刻もうと振るう。
「こりゃあ、素人ですね」
『同感ね。これじゃあ、里で剣素振りしてる子たちの方が、よっぽどマシよ』(青の精霊)
「まあ、自ら前線に出ない術士だったのなら、この程度なんじゃないですか?」
『それもそうね』(青の精霊)
振るわれる双剣を、余裕を持って避けながら、会話を続ける。シーサーペントは、ピクリと僅かに反応したが、そのまま双剣を振るい続ける。暫く避け続けていると、今度は俺の余裕を崩したいのか、両手に纏わりつき塞いでいる呪が、俺の肩を目指して、ゆっくりと蠢き始める。恐らくは、このまま両腕を呪で覆うことで、動きを制限させたいのだろう。
肘の部分までを呪が覆うと、自分の両腕が顔面を狙って、襲いかかってくる。シーサーペントが、呪を動かす事で、間接的に俺の腕を動かしているんだろう。腕だけでなく、右手に一緒にくっ付けられている、トライデントの矛先も一緒に襲ってくる。
ここまでやられると鬱陶しいので、浄化の魔力を腕に循環させて、呪を消滅させる。その一連の行動を、隙と判断したのか、呪の双剣に、水属性の魔力を纏わせ、切れ味を上げた二振りを連撃として放ってくる。
その二連撃を、その場から微動だにせず、難なくトライデントで受け流す。数十秒だけ、信じられないといった様子でシーサーペントの動きが止まる。だが、そこからは嵐のような怒涛の連撃が始まった。何十・何百と、息も吐かせぬ連撃。俺もまた、それら全ての連撃を右腕一本、トライデントとその技量のみで捌いていく。
『………何故だ!!………何故だ!!何故だ!!何故だ!!』(?)
「おっ、ようやく化けの皮が剥がれてきましたね」
『案外早かったわね』(青の精霊)
「はい。もう少し粘るなら、ちょっと考えたんですが………。手間が省けました」
『考えたって、どんな事を?』(青の精霊)
「まあ単純に、今の状態で、少し本気で魔力を籠めて、何発か殴れば表に出てくるかな~、といった感じです」
『確かに、それなら確実に出てくるわね』(青の精霊)
俺と青の精霊様は、この戦闘中に感じていた違和感が、呪にあると思って、観察を続けていた。魔力の流れや、魔術の術式の展開から発動、呪の扱い方などなど。ありとあらゆる事柄を観察し、ある結論に到達した。それは、呪を組み上げた術士が、生きているという事だった。
上位の水精霊様は、国に処刑されたといっていた。だが、もしも術士が処刑される事を、勘づいていたとしたら、話が変わってくる。呪を組み上げる事の出来る術士ならば、呪についての知識も豊富なはずだ。そういった知識の豊富な術士は、呪を組み上げる際に、複数の効果を持たせて組み上げる事が出来る。これは師匠たちから教わった事だが、呪を組み上げられる術士の中でも、複数の効果を持たせて組み上げる事の出来る実力者は、練度の高い実力者だと言い聞かされた。
呪を組み上げられる術士は、戦闘経験のない者が多い。だが、師匠たちが言い聞かせてくるほどの、練度の高い術士になると、話が変わってくる。練度の高い術士は、魔力で身体強化するかの様に、呪を肉体に取り込んで、自らの肉体を強化し、身体性能を上げることが出来る。複数の効果を組みこむ事で、ドワーフの様な怪力、エルフの様な身軽さ、獣人のような身体能力などを得ることが出来る。練度の高い術士の一握りの存在は、師匠たちの話によると、竜人族などとも渡り合えるらしい。
そして、呪を扱う練度の高い術士の中でも、使用された実例の少ない、最も難易度の高い呪の使い方がある。それが、呪を組み上げる際に自らの魂を取り込む、というものだ。成功率は極めて低く、実際に呪として発動するかも分からない。恐らくは、殺されることが分かった段階で、自らの魂を分割してでも、何としても生き残りたかったのだろう。そして、それは成功した。今、目の前にいるシーサーペントは、既にシーサーペントではなく、呪を組み上げた術士の新たな肉体になっていたようだ。
『やはり、呪とシーサーペントの動きが、別々に感じてしまうんですが……』
『私も同意見よ。過去に見てきたものでも、あそこまで違った動きや思考は、見た事がないわ。もしかしたら、特殊な呪になっているのかもしれないわ(青の精霊)
俺が師匠たちから叩き込まれた、呪に関する知識から考えても、シーサーペントと呪が、それぞれ独立しすぎている。完全に侵食され、完成している呪にも関わらずにだ。
呪に完全に侵食されると、最初に身体の支配権を奪われ、徐々に、精神や思考まで奪われる。最終的には、その侵食した存在になり替わる事が出来るようになる。ただし、記憶を共有する事は出来ない。それが、呪に完全に侵食されているかどうかの、判別方法だと教わった。
シーサーペントは、術士に呪を組み込まれてから、大分時間が経っているはずだ。それに、メルジーナ国を攻め込んだのも、呪に殆ど侵食された状態での事だったはずだ。そこからさらに、五十年だぞ?どう考えたって、完全にシーサーペントの全てを、呪が奪い取れているはずだ。
『何かしらの、仕掛けがあるのかもしれません』
『そうね。そこも、慎重に見極めながら………』(青の精霊)
俺の視界が、暗闇に変わる。呪が大きな塊を分裂させ、後ろから忍び寄り、俺を包み込んだ。そのまま小さく狭くなりながらも、侵食と並行して、俺という存在を取り込もうとしてくる。
俺は、縮まり迫りくる呪に対して、無造作に左手を手刀の形で、横に振るう。それだけで、前方から迫る呪の壁が切り裂かれる。追加で、包み込んでいた呪も、高密度の魔力そのもので呪という存在を焼いて消滅させる。
呪を消滅させた俺の周囲には、ピンポン玉サイズの、凝縮された無数の呪が、俺を囲んでいる。それらが同時に、薄く細い、不可視の針を生み出して襲い掛かってくる。俺は、右手でトライデントを操り、左手を手刀の形のまま、足元から迫る呪に対しては、両脚を使って全て不可視の針に対応した。それらを全て、他の凝縮された呪に当たるように弾いていく。だが、弾かれた呪は、弾かれた先にある呪に突き刺さり、そのまま取り込まれていくだけに終わった。
『厄介ですね』
『周囲で囲んでいる、あの玉状の呪をどうにかしないと終わらないわね』(青の精霊)
今度は時間差での攻撃を仕掛けてきた。俺の方も、全てを弾くのでなく、避けられるものは避けていく。だが、呪の方も攻め方を変えてきた。不可視の針だけではなく、フェイントや視線誘導の為だけの、可視化した針を織り交ぜてきた。さらには、直線的に進む針と、途中で直角や湾曲で曲げて、追尾してきたりする針も使い始めた。
それらの全てを捌きつつも、しっかりとシーサーペントに方に向かって歩き続ける。その間にも、どんどんとピンポン玉サイズの呪が増えていくが、俺の身体に触れる事は出来ない。ここで足止めされると、シーサーペントに余裕を与えてしまうので、高純度の魔力による、自身を中心にした、三百六十度の魔力障壁を展開した。この魔力障壁によって、迫りくる全ての呪の針は、球体に沿って受け流されていく。
すると、次は剣・槍・槌などの様々な武具に姿に変えて、放ってくる。しかし、それら全ての呪も、魔力障壁に阻まれる。だが、先程の針は受け流されるだけに対して、武具を模した呪は魔力障壁にぶつかって弾かれている。魔力障壁は罅一つ入ってはいないが、受け流せないほどの威力というのは分かった。シーサーペントに近づけば近づくほど、威力と手数が増えていく。
俺が、シーサーペントの元にたどり着いた時には、既に呪の武具を纏い直した状態でいた。しかも、先程の武具よりも、高濃度・高密度・高純度の呪で構成されたものになっている。俺の周囲を囲んでいた、分離された呪が一気に俺の眼前に集結していく。集まった呪は、超巨大な球体の呪になる。その球体は徐々に縦長に形を変える。そして、一本の巨大な針になる。変化はそれで終わらない。その針の先端がゆっくりと捻じれて、巨大なドリルのような形状になる。そのドリルが勢いよく回転し、海水を巻き付け渦を作り、俺の魔力障壁とぶつかり合う。
「流石に、このレベルの呪になると、この程度の魔力障壁だと、破られますね」
『このアホみたいな魔力の障壁を破るのなら、このくらいは必要だという事ね』(青の精霊)
青の精霊様は呆れている。だが、俺は気にせずに、先程よりも早く多くの魔力を一瞬で練り上げる。それを全身に循環させ、身体強化をする。
魔力障壁に少しずつ傷が入りだし、ドリルの先端が触れている部分に罅が入り始める。そして、遂に魔力障壁が破られた。そのまま、ドリルは俺に向かって突き進む。ドリルは、正確に俺の心臓に向かってくるコースをとっている。俺は、向かってくるドリルの先端に向けて、無造作に右手を伸ばす。巻き付けた海水の渦を物ともせずに、抵抗を受けることなく、ドリルの先端を掴み取る。勢いよく、とてつもない速度で回転していたドリルが、ピタリと止まる。巻き付いていた海水の渦も、ドリルの急停止に伴って、元の海水に戻っていく。
呪のドリルは、俺の手の中で、必死に動こうとしているのが伝わってくる。それでも、動く事はない。呪のドリルは、動かない事を悟った瞬間に、俺に持たれてる部分を切り離して離脱する。呪は、一瞬でドリルから球体に再構築し、超巨大な大剣に姿を変える。さらには、切り離した部分が、俺の右手とトライデントを封じる様に、纏わりついてきた。そこに息も吐かせぬ様に、俺に何かをさせない様に、超巨大な大剣を振り下ろしてくる。
「こいつはまたデカいですね」
『そうねぇ』(青の精霊)
「でも、この程度の剣なら、数打ちにも劣りますよ。ただ剣の形をした、おもちゃみたいなものですよ」
『そうなの?』(青の精霊)
「ええ。文字通りに模しているだけで、中身はスカスカです。俺が何度、ヘクトル爺やルイス姉さんに斬られたと思ってるんです?その俺相手に、この程度ですよ?あの二人が生み出す魔力剣なんて、触れるのも恐ろしんですから」
振り下ろされた超巨大な大剣の剣身は、俺の左手で受け止められている。そんな状態であっても、受けとめた掌が斬れている事もなければ、超巨大な大剣の重みを感じることもない。やっぱり、ただの大きな剣の形をした、おもちゃだな。
呪は、俺の掌と触れている部分を切り離して、今度はロングソードの双剣となった。切り離された呪は、右手と同様に、左手を封じるように纏わりつく。
その呪の双剣を、シーサーペントの両手がそれぞれ掴む。俺の両手を塞ぎ、有利だと確信し、勝負に出てきた。その巨体を高速で移動させて、俺の正面に移動した。そして、その双剣で俺を切り刻もうと振るう。
「こりゃあ、素人ですね」
『同感ね。これじゃあ、里で剣素振りしてる子たちの方が、よっぽどマシよ』(青の精霊)
「まあ、自ら前線に出ない術士だったのなら、この程度なんじゃないですか?」
『それもそうね』(青の精霊)
振るわれる双剣を、余裕を持って避けながら、会話を続ける。シーサーペントは、ピクリと僅かに反応したが、そのまま双剣を振るい続ける。暫く避け続けていると、今度は俺の余裕を崩したいのか、両手に纏わりつき塞いでいる呪が、俺の肩を目指して、ゆっくりと蠢き始める。恐らくは、このまま両腕を呪で覆うことで、動きを制限させたいのだろう。
肘の部分までを呪が覆うと、自分の両腕が顔面を狙って、襲いかかってくる。シーサーペントが、呪を動かす事で、間接的に俺の腕を動かしているんだろう。腕だけでなく、右手に一緒にくっ付けられている、トライデントの矛先も一緒に襲ってくる。
ここまでやられると鬱陶しいので、浄化の魔力を腕に循環させて、呪を消滅させる。その一連の行動を、隙と判断したのか、呪の双剣に、水属性の魔力を纏わせ、切れ味を上げた二振りを連撃として放ってくる。
その二連撃を、その場から微動だにせず、難なくトライデントで受け流す。数十秒だけ、信じられないといった様子でシーサーペントの動きが止まる。だが、そこからは嵐のような怒涛の連撃が始まった。何十・何百と、息も吐かせぬ連撃。俺もまた、それら全ての連撃を右腕一本、トライデントとその技量のみで捌いていく。
『………何故だ!!………何故だ!!何故だ!!何故だ!!』(?)
「おっ、ようやく化けの皮が剥がれてきましたね」
『案外早かったわね』(青の精霊)
「はい。もう少し粘るなら、ちょっと考えたんですが………。手間が省けました」
『考えたって、どんな事を?』(青の精霊)
「まあ単純に、今の状態で、少し本気で魔力を籠めて、何発か殴れば表に出てくるかな~、といった感じです」
『確かに、それなら確実に出てくるわね』(青の精霊)
俺と青の精霊様は、この戦闘中に感じていた違和感が、呪にあると思って、観察を続けていた。魔力の流れや、魔術の術式の展開から発動、呪の扱い方などなど。ありとあらゆる事柄を観察し、ある結論に到達した。それは、呪を組み上げた術士が、生きているという事だった。
上位の水精霊様は、国に処刑されたといっていた。だが、もしも術士が処刑される事を、勘づいていたとしたら、話が変わってくる。呪を組み上げる事の出来る術士ならば、呪についての知識も豊富なはずだ。そういった知識の豊富な術士は、呪を組み上げる際に、複数の効果を持たせて組み上げる事が出来る。これは師匠たちから教わった事だが、呪を組み上げられる術士の中でも、複数の効果を持たせて組み上げる事の出来る実力者は、練度の高い実力者だと言い聞かされた。
呪を組み上げられる術士は、戦闘経験のない者が多い。だが、師匠たちが言い聞かせてくるほどの、練度の高い術士になると、話が変わってくる。練度の高い術士は、魔力で身体強化するかの様に、呪を肉体に取り込んで、自らの肉体を強化し、身体性能を上げることが出来る。複数の効果を組みこむ事で、ドワーフの様な怪力、エルフの様な身軽さ、獣人のような身体能力などを得ることが出来る。練度の高い術士の一握りの存在は、師匠たちの話によると、竜人族などとも渡り合えるらしい。
そして、呪を扱う練度の高い術士の中でも、使用された実例の少ない、最も難易度の高い呪の使い方がある。それが、呪を組み上げる際に自らの魂を取り込む、というものだ。成功率は極めて低く、実際に呪として発動するかも分からない。恐らくは、殺されることが分かった段階で、自らの魂を分割してでも、何としても生き残りたかったのだろう。そして、それは成功した。今、目の前にいるシーサーペントは、既にシーサーペントではなく、呪を組み上げた術士の新たな肉体になっていたようだ。
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